第14回 コンドームvs.ペッサリー(5)

あけましておめでとうございます。
都合により連載ペースが不定期ですが、今年もよろしくご愛顧のほどお願い致します。

新年のご挨拶も済んだところで。

正月といえば「姫はじめ」である。
ヘテロ男性目線のこの概念は、ヘテロ女性にとっては、潤滑剤のはげ落ちたコンドームと同じくらい、使用するのに違和感がある(レズビアンの女性にとってはどうなのだろうか。おそらく違和感があると思われるが)。

ヘテロ女性目線(もしくはゲイ男性目線)では「殿はじめ」になるのだろうか。

多分無いだろうなと思いながら『広辞苑』を繰ったところ、なんと、載っていた。
「殿始 はじめて男を持つこと。はじめて男と接すること」
この記述だと「生涯ではじめて」という意味にとったほうが妥当で、「その年にはじめて」ということではないみたいだ。単独で新年のご挨拶に用いるのは厳密性を欠くかもしれないが、情緒あふるる、なんともたおやかな言葉。
「今年の殿はじめはもうお済ましになって?」などと、使ってみてはいかがでしょう。

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さて、本題。前回、荻野さんは「女はセックスをする以上、妊娠するべき」と考えていたのではないか、と疑ってみた。そして、それは妊娠は女への懲罰だと思っているレイピストや、人工妊娠中絶に痛痒を感じない女へいらだつ医療関係者にも共有されている考えではないか、という推察も示しておいた。

もう少し補足しておくと、ある種の人たちにとって、妊娠は出産とワンセットであり、それは女が当然するべき「義務」なのである。
あるいは「労務」と言いかえてもよいかもしれない。よく指摘されるように、「労務」に該当する英語labor は「出産」と語源を共有する。laborはwork と違って、「骨折りな辛い仕事」というニュアンスがある。
その「労務」をほっぽりだして、セックスだけ楽しんでいやがる女というのは、本当に許しがたい存在なのだ。

その「許しがたし!」の念を何百倍にも希釈した感覚を、受胎調節に従事する荻野さんも持っていたのではないか、というのが上記の疑いである。

が、前回の最後で、ちがう解釈もありうることを付言しておいた。
「女性側に予防措置をとるほうが男女平等」という発言は、字義どおりに受けとってはならず、1950年代に活躍した受胎調節指導員一流のパフォーマンスとして受けとるべきかもしれない、という解釈である。

コンドームは、男性側の「負担」によって可能になる避妊法であると同時に、する/しないを決める主導権を男性が握っている避妊法である。
そんな男まかせの危険な方法を普及させるより、女性に主導権がある避妊法「ペッサリー」を普及させたほうがよほど女性のためになる、という認識があった可能性は、十分に考えられる。

だが、「これからは女性側でできる避妊法の時代! ペッサリーを使おう!」と意気揚々まくしたてたのでは、男性に警戒心を起こさせる。
それよりは、「いえね、ペッサリーですと、男性の性感をそこねなくて済みますでしょう。コンドームよりはこちらのほうがいいと思うんですの。ウフフ」と楚々とした態度で提案するほうが、男性社会と余計なコンフリクトを生じさせなくて済む。

それに、避妊はある程度の継続性を前提とするものである。
男性の性感が損なわれる避妊法よりは、損なわれない方法のほうが、長続きする。

当時の受胎調節指導員のアピールの巧みさはこれまで見てきたとおりだ。
男性の性感を損ねなくてすむからペッサリーを、という発言は、荻野さん一流の「戦略」と捉えうる可能性を否定しない。

波風たてずにイニシアチブをとる。
これは、日本の女性が、家庭で職場で、ずっと、ずーーーっと行ってきた、古典的な処世術である。
受胎調節指導員の多くは、望まない妊娠や重過ぎる育児負担から女性を解放しようとして活動している。荻野さんだって例外ではないだろう。
だから、彼女の発言は、男性の性感を重んじるフリをして避妊の主導権を女性に握らせる、日本女性の古典的な戦術として解釈することもできるかもしれない。



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