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男は死にたがっている? 「余命宣告ファンタジー」映画特選!

映画「象の背中」に大笑いした後に深いため息をもらした女三人が送る映画トーク! ええ、シリーズ化します。このコーナー。だってこの世には語るべき映画が、たっくさんあるんですもの! 前回は、素晴らしいオススメ映画をご紹介しましたが、今回は、素晴らしきオバカ映画、コメディをご紹介。「オヤジ文化」の本音、を知りたい方、ぜひ観てね!

映画データ:「象の背中」 2007年日本映画 原作:秋元康 監督:井坂聡 出演:役所広司・今井美樹・井川遥ほか 公式HP: コチラ

北原みのり:今日の映画は「象の背中」です。みなさん、この映画の存在は知ってました?

坂井恵理:予告編で見て知ってたけど。あたしは、原作が秋元康という時点でなんとなく想像がついたので、全然見る気がなくって。

北原みのり:私はこの映画を飛行機の中で観たのよ。JALの狭いエコノミー席で観ました「象の背中」。そして仰天したよっ! 寝静まった真っ暗な飛行機の中で、立ち上がって「エコノミークラスの皆さん!大変な映画が流れてますよ!」と叫びたくなるくらいの衝撃だった。で、帰国後、とにかく凄い映画だから見て! とお二人にお願いしました。

坂井恵理:映画が千円の日じゃないと見にいきたくないなーと思って見にいったら、フーサンとばったり出会ってしまった。

高橋フミコ:見ろって言われなかったら、出会えなかったよ。

北原みのり:感謝してる?

高橋フミコ:してるしてる(笑)。衝撃的な映画だった。

北原みのり:では、その衝撃を分析してまいりましょう。まずおおまかな粗筋を。ここに一人、男がおります。役所広司です。

高橋フミコ:彼の職業は、建築会社のデベロッパー

北原みのり:海のそばにマンションをたてようとしてる。その男がある日がんを宣告されるわけだ。余命3ヶ月と。そこから男の物語が始まるんだけど。まず、余命宣告された男がしたことと言えば。治療を拒否! 理由がすごい。

坂井恵理:理由なんかあったっけ?

北原みのり:あったわよ。「オレは生きたい。オレらしく生きたい。だから治療は受けない」

坂井恵理:あ!そうだ「人間らしく」、だ。

北原みのり:「人間らしく生きて死にたい」、みたいな。

高橋フミコ:「最期まで生きる」っていうフレーズがあるね。

北原みのり:それで死ぬまでの時間に自分の人生振り返っていく旅をしていく、という物語。そんな彼は、立派な一軒家に住み、妻と娘、息子と愛人がいる。そしてこの家族というのが・・・

坂井恵理:妻の今井美紀が役所広司に敬語を使ってるんだよね。

北原みのり:「湯豆腐召し上がりますか?」みたいなね。

坂井恵理:そうそう。で、長男は、父親と距離を置く感じの大学生なんだけど、がんをきっかけに「男同士の話」もするようになって。長女はすくすく育っている感じの中学生。部活にも励んでます。

北原みのり:部活がまたすごい。

坂井恵理:チアリーディング。ふははは!

北原みのり:そして不倫相手はデザイナーの井川遥で、濃厚なセックス・・・。

坂井恵理:男の理想だ。肺がんでしょっちゅう咳き込んでるのに、セックスのときは咳き込まないのねー。

高橋フミコ:全てを手にしてる、幸せ一杯の40代の男。

北原みのり:そう、そこでお前の命はあと3ヶ月と言われた時にさぁっ! 自分の人生を振り返るというような物語なんですよ。

全員:ぎゃはははは!

北原みのり:なんでわたしたち笑ってるのでしょう!(笑) ああ、おかしくてぇ涙が出ちゃう。で、なぜ「象の背中」をオススメするかというと、これ、JALの運行を揺るがすかのような、大変な映画なんです! 

坂井恵理:ええ。

北原みのり:そしてわたしたちの生きている地球と言うものを考える、わたしたちの生きているこの大地は・・・

高橋フミコ:大地!

北原みのり:誰と共有してるのかということを考えさせられる大きなテーマでもある、深い深い映画です。ということで、まぁ、映画について話してゆきましょうか。



北原みのり:「余命宣告ファンタジー」ってあるよね。そりゃドラマだと思うのよ。いつまでにお前は死ぬ、ってさ。死に神からの宣告じゃない? でも現実にはどうなの? 余命三ヶ月ですって言われて「わかりました。ホスピス入りマス」なんてさぁ。医療の現実から考えてもあまりにも突飛じゃない?

高橋フミコ:ええ、ええ、突飛過ぎて現実感なし。まるでおとぎの国のホスピタルって感じ。だってさ、医者がさ、役所広司を診察した後に、ご苦労様でしたみたいにして、白衣着て聴診器つけたままエントランスまで出てきて見送ったりするんだ。笑える。

坂井恵理:あったー!

高橋フミコ:有り得ないでしょ。自分が提案した治療拒否する男に。

坂井恵理:入院してたわけでもないのに。

高橋フミコ:ただの外来の患者に!

坂井恵理:どんだけのVIPだよ! 

高橋フミコ:しかもその白衣の医者の後ろにはちゃんと看護師さんもついてきて・・・こう手を前に組んでおじぎしてる・・・ふははは!

北原みのり:死にゆく男を見送るって感じだったね。

高橋フミコ:普通、治療拒否って、医者の方針を無碍にしたら、じゃあほか行って下さいって話になるわけですよ。それに、あまりにも素直すぎ。一人の医者に言われただけで、そこまで頭から信じ込む人も珍しい。セカンド・オピニオンくらいとるもんだぁ、いまどき。

北原みのり:そもそも余命宣告の現状ってどうなの?

高橋フミコ:今、余命宣告ってまずしないよ。宣告っていう言い方もしない。「完治は難しいですが、QOLを高めていきましょう」とか言うわけよ。「あと何ヶ月で死にますよ」なんていうのは診断でもなんでもなく、症例の平均値でしかなく、ただのデータだし。でも患者は、「完治は難しいですね」と言われたら、「じゃあ後どれくらい生きられるんですか」って誰でも思う。

北原みのり:うん、そうだよね。

高橋フミコ:だけど、本当言って医者もわかんないものだよ。だからほとんど言わない。どうしても言う場合には、だいたいこの症例でこの場合なら「何ヶ月から何年」というでしょ。それから、「先生は一年って言ったのに半年しか生きなかった。治療が悪かったんだ」なんて後で言われないように、短めに言うって話もあるくらいだよ。

坂井恵理:そうだよね。

高橋フミコ:もっと差し迫った状況にならないと、「今月が山ですね」とかさ、そんなふうにしか言えないはずなんだよ。

北原みのり:そうでしょうね。

高橋フミコ:でもドラマの世界では、いまだにね。それはやっぱり大きなファンタジーなんだよね。

北原みのり:あなたの余命はあと三ヶ月・・・。昔の少女漫画ってそういうス トーリーがたく さんあったけど、今はオヤジがそういう物語りの主人公になりたがるわけだ
ね。何でかな?

高橋フミコ:簡単になるからじゃない? 生きてるってことが。

北原みのり:というと?

zounosenakatakahashi.jpg高橋フミコ:一本すじが通るって言うか、物語としては行く道筋ができる。やっぱり、人間の、不確かなもを、具体化していく能力には限界があるんじゃないかと思う。ある程度単純じゃないと、これだと定めたものができにくいというか。あと、欲がいろいろあるてのをそぎ落としてくれるってこともあるんじゃないの。居ながらにして美しいものになれるみたいな感じかな?そんなにもう欲張ってもだめだよって、自分にいいきかせるというか。それで言いきかせることによる、自分の人生を自分のものにできた感?主導権握ったみたいな感じかな。
あと、やっぱり感動するんじゃない。「これで、人生!」っていうかさ。「セ・ラ・ビィ!」なんちゃって。

北原みのり:でもさぁ・・・「オレ、シニマス。ホスピス、入ります。オレが オレらしくある ために」なんて人・・・今どき・・・

高橋フミコ:ははははは! かえって心配になっちゃう

北原みのり:いたら医者が必死に説得するんじゃないかと思うの。だから、「余命宣告=治療拒否=ホスピスで死ぬ」という物語りを美しいものとして描くことの罪というのもあるように思うのよね。

高橋フミコ:そうだよね、本当に害だと思うよ。実際そういう立場に置かれた時に、余計な先入観に悶えちゃうもんね。

北原みのり:現在のがん事情ってのを調べてるとは思えない。調べなくてもいいと思ってる。がんであるってことは死ぬってことが前提。80年代前半くらいのがん治療世界なんじゃないの?

坂井恵理:キャラクターの描き方も含め、全体的に昭和って感じ。

高橋フミコ:昭和って設定にすればよかったのね。

北原みのり:「母べえ」くらいの時代でやってくれたら、まだ「時代が時代だから」と笑わないで観ちゃったかも。

高橋フミコ:あ、でも、そうしたらホスピスがない。

北原みのり:ああそうなったらこの映画の前提が崩れちゃうね。過酷な治療を拒否し、最期までオレらしくたばこを吸い、家族に見守られながら死んでゆくオレ。ホスピスがなければ成立しない世界だもんね。男が男らしく死ぬための装置としてのホスピスだわね。



北原みのり:ところで、女を主人公にした余命宣告映画というと、印象に残っているのは「死ぬまでにしたい10のこと」。

高橋フミコ:イザベル・コヘット。女性の監督だよね。

北原みのり:20代の女性の末期がん。日本語のタイトルのイメージが強いけど、原題は「MyLife without Me」。私がいない私の人生。自分がいなくなった後の「私の人生」という視線がとてもせつなかったし、そして私が死んだ後にも続いていくこの時間の流れを感じさせる映画だった。オレらしく最期まで生きる、なんてことはどーでもいいことでさ。この死生観の違いは、ジェンダーというものなんでしょうか。

坂井恵理:オレの痕跡をいちいち残していく「象の背中」と、自分がいない世界をみつめていこうとする「私のいない私の人生」。

高橋フミコ:「象の背中」の役所広司がしたことは、ぜんぶオレの痕跡び再確認だよね!電柱におしっこかけてくみたいな、そんな作業だ!

坂井恵理:まさにオシッコ。まずは中学時代の初恋の相手に会いに行くよね。もう迷惑極まりないというか。初恋相手役の手塚理美は役所広司とのことなんて、何も覚えてないんだよね。でも一通り話し終えて喫茶店をでたら、役所広司に「ありがとう」と言う。有り得ねえ!

高橋フミコ:「思い出」の赤い傘さしてね。

坂井恵理:次はけんかしてた昔の男友達のところに仲直りしにいく。で、キャッチボールするんだよね。

高橋フミコ:そうそうキャッチボール!

坂井恵理:そんなベタな!

北原みのり:その時点で映画に釘付けにならなかった?

坂井恵理:あはははは!

高橋フミコ:小道具といい、台詞といい、シチュエーションといい、記号大国ニッポンの記号をちゃんと勉強できるね。

北原みのり:そうなのよぉ。そしてその後、自分の会社が倒産させた零細企の元社長の男に会いに行く。仕事人生で気がかりだった人に謝りにゆくのだ。

高橋フミコ:あれはいいシーンだった。

北原みのり:うん。雨の中で土下座する役所広司を零細企業の社長がボコボコにけっ飛ばすんだよね。あそこで道ばたに転がったまま、役所広司、死んじゃえばよかったのにね。

坂井恵理:肺炎で。

北原みのり:いいねぇ・・・。いい映画だなぁ。立場の違う男同士が暴力を振るいあいながら分かり合っていく。言葉ではなく、オトコらしい抱擁によって・・・っ! ああ興奮しちゃう。そして、雨の中、膝を抱えて死ぬオトコ・・・。完璧!

高橋フミコ:男の「凄さ」が分かる映画だよね。役所広司は病気のことをだれにも相談をしない。妻や家族は彼に反抗的なことは一切しない。もちろん役所広司も意見を聞くつもりなんてはなからない。

坂井恵理:意見聞いてるシーンなんてないもんね。オレが一方的に話すだけ。

北原みのり:家族も所詮、その男にとっては周辺の人なんだよね。「オレ、その他、以上。」みたいなね。唯一、関係性に色があるのは自分のお兄さんだったりとか、今の、ボコボコに蹴ってくれるオジサンだよね。男とのつながりのみ。それ以外は何も生きてないよね。

高橋フミコ:役所広司の父親との関係も気になるよね。役所広司の父親も、愛人がいたんだよね。父親には反発していたんだが、気づいたら同じことしてる。結局血は争えないというような点で、なんだろ、無言で認め合うかのように、オトコたちが結束している。

北原みのり:妻の存在、娘の存在、愛人の存在。女はすべて薄っぺらい。どんな人物なのかさっぱり分からない、というか、こんな女いない。

高橋フミコ:まるでインテリア、家買うとか、ほとんど椅子買うとかテーブル買うとかってかんじで家族が居る感じだよね。

坂井恵理:あー、オレの設計した家族。

北原みのり:さらに「死」まで、オレが設計。

坂井恵理:役所広司が、自分が死んだ後の貯金や保険金で、家族に残す学費や生活費を計算するシーンがあるじゃない? で、千四百万どうしても足りないから、お兄ちゃんに頼りに行くんだけど、千四百万足りないんだったら、あんな豪華なホスピスに入っちゃいけないと思うの。

北原みのり:白い砂浜が一面に広がる・・・プライベートビーチ付きのホスピスよ。

高橋フミコ:そんなうまくいくはずないよね。ホスピス入ったってさ、予定日があるわけじゃないんだからさ。死ぬなんてさ、赤ちゃんが生まれるより不確かなんだから、いくら使うかなんてわかんないし。あんだけのことをやれるのに、亭主関白っていう演出がないってのがすごいよね。

北原みのり:やさしい父親なんだよねぇ。だから余計不気味さが漂うよね。力で支配しているのではなく、オレの妄想で物語を書き換えているだけ、って感じがさ。

坂井恵理:足立区の一家心中事件、あれも結局、「オレの物語」に家族が巻き込まれたって話じゃない? 手首を切断された次男のこれからを考えるとやりきれないよ。それなのにマスコミは犯人の父親に同情的だったりしてさあ。長男だけ生き延びさせたのも、まさか、「長男だから」って理由だったりして・・。「家族を守りきれないなら殺す。でも、オレの遺伝子は残す・・」

高橋フミコ:ぎゃー!



坂井恵理:写真撮影を家族でするシーンあったじゃない。あれも娘には「もっと笑って」ってカメラマンが声かけて、役所広司が息子には「胸を張れ」って言うんだよ。

北原みのり:そこを突っこんでいったら、これほどキリがない映画は今時珍しいよ。まさに、日本文化のテキストとしては最適でしょう! だってさぁ、不倫関係の女と妻の関係もビックリじゃなかったぁ!? 本妻と妾っていう言葉が出てきそうなくらいの。

高橋フミコ:そうそうそう!

北原みのり:ホスピスに井川遥がきて、妻と愛人が対面するんだよね。で今井美紀はわざと長く部屋を空けるんだよね。

坂井恵理:浜辺でボーッと突っ立ってる。

北原みのり:今井美樹は空っぽにみえる。あの人の空っぽさっても演出なのかな? それとも女は空っぽだと思ってるのかな?

高橋フミコ:空っぽだと思ってるんじゃない?

坂井恵理:井川遥は一応キャリアウーマンなんだけど、その描き方もねえ・・。二人の最後のデートシーンで、役所広司が、「君は強く見えているけど、ほんとは弱い。そんな君を守っていきたかった」みたいなこと言うんだよ!

高橋フミコ:「でも守れなかった」ってね。そうすると井川遥が堰を切ったように込み上げてさ、「守ってよ!守って!」

坂井恵理:と言いながら、こう役所広司の胸に抱きつく・・・(井川遥の真似をする坂井さん)、箱根彫刻の森美術館で(笑)。ああーん!

高橋フミコ:狂ってるよね! 「守ってよ!」って・・・・!

坂井恵理:何して欲しいの?

北原みのり:彫刻の森で(笑)。

坂井恵理:さらに彼女、自分がかかえていたでかい仕事も断っちゃうしね・・・。役所広司のために。こういう女に対して「だから女はだめなんだ。仕事に向いていない」って言ってるやつらが結局こういう女を求めてるわけよねえ。

高橋フミコ:あとさ、息子との関係、娘との関係もいちいち都合がよすぎる。最初、余命わずかってこと、妻にも娘にも言わずに息子に言うでしょう?

北原みのり:長男だから、という理由で。

坂井恵理:長男、長男、長男、長男、うるさい映画だったね。

高橋フミコ:「男同士だからな」って台詞もあったよね

北原みのり:いっぱいあった。もう、全てのセリフが予定調和の先にある。5秒先のセリフ、だいたい分からなかった? 

高橋フミコ:わかった(笑)

北原みのり:娘と父親が二人っきりで話すシーンがあったね。お父さんは娘に対してずっと黙ってるんだよね、がんであることを。で、娘が気づいて「お父さん、何か隠してない?」って。

高橋フミコ:そうそう、「わかった、お父さん浮気してるんでしょ!」って言ったら、「ほんとのことオレが言ったら、お前もボーイフレンドがいるかどうか言うんだぞ」っ
て。そんで、「お父さんはー、浮気なんかしない、ぞ。母さん一筋だぞ。さぁ、こんどはお前の番だ」っておやじがいったら娘が「ずるーい!」ってほっぺたをプーと膨らませる・・・。

坂井恵理:「教えなーい!」みたいな。全てがどこかで見たことあるシーンの寄せ集めみたいだった。例えば役所広司が一人でお風呂入ってるときに、娘が脱衣所にいたら、「お前もいっしょに入るか」って言ってみたり。

高橋フミコ:その時の娘の反応もすごい。

坂井恵理:「おかあさーん!お父さんが変なこと言うー」って。
(・・・・・全員無言・・・・)

坂井恵理:でさ、ホスピスで家族で最後のランチを食べた後、娘はいきなりチアリーディングの衣装に着替えて、パパの「応援」をするのよね。「ゴー・ファーザー・ゴー!」って・・。私の隣に座ってた中年女性は泣いてたけど、私は笑いをこらえるのに必死だったわ。

(・・・・・全員無言・・・・)

北原みのり:あ、あとさ・・・今井美樹が、役所広司の死んでいく時に言う。「あなた、今度生まれ変わっても、わたしにプロポーズしてくださいますか?」

坂井恵理:もう話せなくなっている役所広司は手を握って、OKの返事。井川遥が見舞いに来たばかりだっていうのに。「生まれ変わってもまた愛人つくりますがよろしいでしょうか」みたいな。

高橋フミコ:で、今井美樹は喜びのあまり咽び泣くんだよね。

坂井恵理:でゅわおうおうえうう!んっごご!(今井美樹の真似をする坂井さん)

高橋フミコ:ぎゃはは!それからこんなシーンも。役所広司のお兄さん役の岸部一徳に、「オレが死んだら井川遥に遺骨をわけてやってくれ」って言うんだよ。

坂井恵理:愛人、遺骨欲しいって言ってないし、

高橋フミコ:もらっても困るだろう。

坂井恵理:「別の人と幸せになるもん」って言ってたのに。

北原みのり:強くみえるけれどほんとうは弱いキャリアウーマン女。弱くみえるけれどほんとは強い専業主婦、母ちゃん。こんな都合のいい女しか出てこないなんて。しつこいようでうが、JALの国際線。わたしはこの映画を理由に難民先生ができるのではないかと思いました。ひどい国でしょう?すごい女性差別堂々でしょう?やってらんないでしょう!?ねぇ、国際線に乗るみなさん!!「女の本懐は男に愛されること。それを信じて疑わない、愛してやる俺。先に死ぬけど、仲良くな・・・」ですか。いい加減にしていただけますか? (今井美樹風に・・・)



坂井恵理:さっき「死ぬまでにしたい10のこと」の話が出たけれど、日本にもさ、女が余命宣告されて死ぬ映画はあるよね。でも、だいたい男視点で語られてるんじゃないかな。「セカチュー(世界の中心で、愛を叫ぶ)」とか。女が主人公で、余命宣告受けてどうのって日本にある?

高橋フミコ:ちょっと思いつかない。

坂井恵理:結局男の視点でしか語られてないんだ。残される者としても、死んでゆく者としても。「東京タワー」とかもそうだもんね。

高橋フミコ:女が余命宣告受けると、手足奪われる感じがするよね。それを観たいのかな。

坂井恵理:そうそう。さらに弱くなった女を男が、

高橋フミコ:幸せにしてやるみたいな。

坂井恵理:お姫様だっこしてみたりとか。

高橋フミコ:「セカチュー」の、空港で彼女が倒れて、男が「助けて下さーい!」って叫ぶシーン、あれも衝撃的だったね。抗がん剤治療中の彼女を、無菌室から連れ出すんだよ。こんな犯罪があっていいのか!あれ重犯罪だよね、信じられない。それこそ映画館で立ち上がって、「これは犯罪です!」って言いたいよ。

坂井恵理:彼女のことなんかなんも考えてないよ。全部オレの思い出のため。最近ブームのケータイ小説では、若い女子が主人公で、彼氏が死んじゃうような話が多いらしいけど、でも必ず主人公もレイプされたり、痛い目に遭うんだよね・・。「東京タワー」や「セカチュー」の男主人公たちにはあり得ない展開だよ。

高橋フミコ:あとさ、あれは?「マコ、甘えてばかりでごめんね♪」。

坂井恵理:ああ「愛と死を見つめて」(1962年吉永小百合主演映画。2006年に広末涼子主演でテレビドラマ化)だ。あれもひどい話だよね。あたし原作読んだの。原作ひどいよ、ホントに男が勝手で、自分のことしか言ってないの。

高橋フミコ:ほんと! あれ、昔国民的大ヒットしたやつだよね。

坂井恵理:顔にガンができて闘病中の女性ミコと、その彼氏であるマコの往復書間なんだけど、ミコはそのガンをとるために、顔面をえぐる手術をするの。眼球をとって失明するような手術なのに、マコは「ミコ、早く(元の顔に戻すための)整形手術するのだ」とか言って。彼女の病気よりも顔の心配かよ。

高橋フミコ:ひゃー!少しでもきれいな君のままでいて欲しいって?

坂井恵理:うん。で、なんか自暴自棄になって酒飲んで暴れたりとか。辛いのはお前じゃないだろ!って。

高橋フミコ:しかも後日談で、彼はミコが亡くなってから早々に違う人と結婚したってことで、ずいぶん世間から非難をあびたらしいじゃん。

坂井恵理:ああ、はい。

高橋フミコ:その非難に僕は耐えたみたいな話になってるよね。

北原みのり:寒気がしてきました。



北原みのり:この映画を観ながら、私は橋下知事のことを考えてた。なんかこの男の脳天気さと真っ直ぐさがかぶるんだよねぇ。NHKに橋下知事がぶち切れていたでしょう?  挨拶がなかったとか、無礼だとかさ。あれさ、女の知事だったらあり得ないよ。ただのヒステリーで終わるよ。政治生命賭けなきゃ、メディアの前であそこまで怒り狂えない。

坂井恵理:うん、有り得ないよね

北原みのり:女の知事がどんだけ悔しい思いしてきたか。土俵に上がれなかった大阪府知事を思ったらさ、NHKに挨拶されなかったくらいで、怒れるか?

坂井恵理:でも、あの程度のイケメンと男らしさに投票しちゃう女もいるんだもんね。

北原みのり:イケメーン?

高橋フミコ:あれイケメンなの?

坂井恵理:だってそういうことになってんじゃん。あたしは全然そう思わないけど。

北原みのり:弁護士会のヨン様って言われてたっけ。

坂井恵理:ほんとはレーシック手術受けたから裸眼でも平気なんだけど、戦略としてだてメガネかけてたみたいね。そんなことが戦略として有効だなんてー。絶望するっ!

zounosenakakitahara.jpg北原みのり:サンデージャポンのレギュラーだったんでしょ? あの人。で、降りた理由にさ、「日本人の中国人買春はODAだ」って言ったのね。

坂井恵理:なんかそれ聞いたことがある!

北原みのり:そう、それで、降ろされたの、っていうか自分で降りたの、涙流しながら。

高橋フミコ:え! 泣いたの

北原みのり:泣いたの、「迷惑をかけます」とか言って。中国人には謝ってない。

高橋フミコ:はっはっはっは!

北原みのり:テレビ関係者には謝った。

高橋フミコ:あっそうか、倖田來未みたいに、怒ってる人に対して謝ったんじゃないんだ。

北原みのり:謝ってない。仲間に迷惑かけたことに謝ってる。

高橋フミコ:政治家なんかもよくそういう論法にでるけど、言ったことややったことの内容は不問にしておいて、で、迷惑かけたことに謝る。あれ意味わかんないよ。

坂井恵理:論点ずらすな。

高橋フミコ:橋下が余命宣告されたら・・・

坂井恵理:おしっこかけまくるでしょう!

北原みのり:嬉しくてたまんないんじゃない。

坂井恵理:子供また3人くらいつくるんじゃない? オレの分身を一人でも多く増やさなきゃいけない。

北原みのり:フーサン言ったけど、死ぬってわかったら、単純になるもんね生き方が、今までよりずっとシンプルになる、今までだって何の難しさもないくせに。

坂井恵理:よりいばれるって感じあるよね、がんだったらどなりちらしても許されるし。

北原みのり:そうそう、死ぬってわかったら、医者もあんなに大事にしてくれるし。

高橋フミコ:がんを権力だと思ってる。

北原みのり:印籠のようにね。ぼく、がんですって言えば、みんなに会いに行き優しく出迎えてもらえると思う。

坂井恵理:それに対して女のがん患者はいばるどころか、もっと家族に尽くす感じ。漫画「ブラックジャックによろしく」でもさ、専業主婦ががんになる話があって、一時退院中、ホントにつらそうなのに、スーパー行って買い物するんだよね。重そうなビニール袋持って。で、それに対して医者である主人公の視線は、「家族っていいなあ」的なものでしかなく、「夫が家事しろよ」ではないんだ。

高橋フミコ:実際そういう話はよくきく。特に子供が小さいと、抗がん剤中でも、熱出しながら、朝の幼稚園のお弁当作ったりしてんだよね。夫は手伝わないらしいよ。またやっちゃうんだよね、女の人のほうがやっちゃうんだよ。日頃慣れてない夫に説明するより、自分でやった方が速い。

北原みのり:動いちゃうのね、体が。

高橋フミコ:そうなんだよね、自分の存在理由がそこにあるような気持になっちゃうのかも・・・。



北原みのり:この映画をコメディ映画として観れなくなってる?

高橋フミコ:だんだん本気で怒ってきた?

坂井恵理:わたし映画館でフーサンに会ったことが嬉しかったもん。この怒りをすぐに誰かに伝えられるってことが。

北原みのり:でもさ、この映画、突き抜けているように思う。なんかいやだなっていう、イヤな感じの映画はいっぱいあるけれど、ここまで「男の本音」に貫かれた映画はかえって天晴れ。あんたら、やっぱりそう思ってたんだ、って分かりやすくてありがたい。

高橋フミコ:宣戦布告と受取る?

北原みのり:はい、しっかり受け取りました。闘わせていただきましょ。

坂井恵理:女がどれだけエラクなっても、オレたちはまだ諦めてないぞっていう男たちの宣戦布告?

北原みのり:悔しかったら同じ事、女もやってみなっていう話でしょ。一時期さ、「プロジェクトX」で、「オジサンの自信を回復」、みたいな企画が流行ったけれど、今は「可愛そうなオレを抱きしめて・・・」みたいな、オジサンを慰撫するような企画が増えていやしないか? オレ、オレ、オレ、かわいそうなオレ・・・

坂井恵理:ふは! ははははは!

北原みのり:フェミも「男も生きやすい社会を」なんてさ、遠慮がちに言う必要ないのよ。女が生きやすい社会が男にとっても生きやすい社会だなんて、やっぱりまだまだ先の話じゃないの? だって明治くらいから男の意識、変わってないって話だもん。明治憲法が復活しても、全然問題なく世の中がすすむくらいなんだなって気がする。家長って言葉、使う人いまだにいるもんね。「象の背中」も家長の匂いプンプンしたな。

高橋フミコ:産経新聞のホームページ見たら、「象の背中」がロードショウしてた10月頃の、ちょっと前の記事なんだけど、「アフター・ウエディング」っていうデンマーク映画が「象の背中」と同時期に上映されているので見比べてみてはいかが?みたいな。女性の記者の名前で紹介されていたのね。で、どんな映画かと思って「アフター・ウエディング」見てみたら、デンマークの女性の映画監督で、ちょっとね、いい感じだった。

北原みのり:どんな話なの?

高橋フミコ:やっぱり男が主人公。仕事上で知り合った男性が、昔の彼女の夫なの。でね、その家の娘の結婚式に出席するわけ。するとその娘が「本当はわたしはお父さんの娘じゃない、でも、本当の娘のように育ててくれてありがとう」ってスピーチをするんだ。「わたしはお母さんの前に付き合っていた人との子供なんです」と、その主人公が、「それはオレのこと?」って思って、どうやらそれはオレらしいんだけど、そこから4人の葛藤が始まるのね。で、がんで死ぬ話もからんできて、相手の男が「ちょっと話があるんだ」って付きまとうようなシーンがあるの。「うるさい、今は時間がないんだ」って言うと、「時間がないのはオレの方なんだ!」みたいな会話があって。で、ちょっと惨めな感じ。

北原みのり:おお、面白そう。死ぬってわかった瞬間から、何をするか。そのこと自体はやはりドラマよね。たださ、「象の背中」は・・・まともに生きようともしていないようにみえた。ただ、オレは潔く死ぬってだけで。

高橋フミコ:それね、いつからなんだろうね。延命治療をしないってことをイサギイイって思うメンタリティって、凄く恐い感じがする。

北原みのり:と思うんだよね、わたしも。それはさサムライの影響なの?

坂井恵理:抗がん剤の副作用に対する悪いイメージがあるんじゃない?「あんなにつらい思いをしても結局は助からない・・」みたいな。そういう気持ちはわからないでもない。それで東洋医学とかにすがるがん患者もいるんだろうし。

高橋フミコ:でも、役所広司はお灸の一本もうってなかったよ。化学治療がいやとかそういう話ですらないよ。

坂井恵理:そっかあ・・。で、タバコ吸ってんだよね常に。

高橋フミコ:あのタバコね、ほんと、象徴的だよ。

北原みのり:ホスピスで他の患者と二人でタバコ吸うんだよね。

高橋フミコ:タバコ友達。

北原みのり:タバコ止めろよ。

高橋フミコ:この映画さ「象の背中」なんていう意味のわからない雰囲気だけのタイトルではなく、「タバコ一本分のオレ・アイデンティティ」でどう? 燃え尽きて終わり。

北原みのり:ぎゃはは!決定!!

高橋フミコ:みっともないと思わないのかなー、がんになってまでタバコ吸ってるって。

北原みのり:そんだけさ、自分を変えないってことがどんだけ大事かってことじゃん。死ぬと分かっていても、自分の人生を変えるってことがいやなのよ。

高橋フミコ:うんうん。

北原みのり:それは凄いなって思わない? 自分の人生を変えたくないってあまりに、死ぬんだ。

坂井恵理:ほんとだよね!

高橋フミコ:そういう感覚ってさ、サムライというより特攻隊まで発想がいっちゃうんじゃないの。

北原みのり:繋がってるよね。実際に特攻隊に行っていた人ではなくて、特攻隊に憧れる精神、持っている人いるもんね。

坂井恵理:でもそんな男ばかりだったら、人類は・・・滅びるよね。

高橋フミコ:滅びるよ!こんなことしてたら。哀しい。哀しいっていうか、不毛。誰とも本当には語り合わなくて、妻とも本当に語り合わなくて、相手の本心も自分の本心も知らず、深い関係性にめぐり合うことも無く、上っ面の妄想だけで、満足して死んでいくんだからな。

北原みのり:自分が変わりたくないあまりに、タバコ一本すらやめない。一つの習慣も変えたくはない。自分であるために。自分が自分であるためにってこと考えさせられるよね。

高橋フミコ:わたしこの映画観て初めて知ったと思ったのは、男結社ってのがホントにあるんだってこと。

北原みのり:男結社!

高橋フミコ:やっぱり男尊一系にこだわるだけあるなって

北原みのり:女には理解不能な、男どうしが阿吽で分かり合える世界みたいなものかしら。ある意味、この映画は男の本音と妄想のど真ん中をついた映画かもしれないね。それは私たち、解っておいたほうがいいね。これから大きくなる皆さんも。こんな風に突然飛行機の中で見せつけられて、墜落した気分にならないためにも。



高橋フミコ:もうね、びっくりだよ、今年の日本アカデミー賞のノミネート作品。この「象の背中」と、

北原みのり:なんなの?

高橋フミコ:「東京タワー」に「眉山」、「ALWAYS 続・三丁目の夕日」。あと、「それでも僕はやってない」

北原みのり:あーーーーーーーーーー!

高橋フミコ:すごいよ!ラインナップ。役所広司は主演男優賞、第一候補だよ。

北原みのり:あら、それは良いんじゃない? だって主演男優賞ものだと思うよ。あげてほしいよ。

高橋フミコ:あはははは!

北原みのり:そう印象に残ってる。心に残ってるよ。残ってるよね、いろんなシーンの役所広司・・・。

高橋フミコ:がんばってた。12キロ痩せたしね。

北原みのり:脚本を選ばない人なんだね、役所広司さんって。日本版ハリソン・フォード?  しかし、男が元気ない元気ないと言われていたけれど、いつのまにか、元気になってたね。文句言ってないで、女も女の本音映画をつくろう! ということで、みなさん是非「象の背中」を観て下さい。、この伝説を知り、

坂井恵理:男にあきれかえって、

高橋フミコ:心おきなく笑い、

北原みのり:自分の生きる道を探りましょう!

坂井恵理:笑えるには笑える。こんなのひさびさに見たってくらい。

高橋フミコ:国際線で上映ってのはちょっと恥ずかしいね。

北原みのり:その恥ずかしさは、そんな男たちをのさばらせている私たち日本に住む女・・・という感じかしら。でもね、この映画のおかげで闘いやすくなります。ほんと、拳を上げて立ち上がりたかったあたしです。

坂井恵理:泣いてる人とかいなかった?

北原みのり:いたんじゃない? 気圧の影響とかも絡んだりして。

高橋フミコ:「母べえ」がベルリン映画祭でやったってのも、ちょっと恥ずかしいんですけど。

北原みのり:英語タイトル、「Our Mother」 。ふぅ。合掌。




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