「女子と渋谷」

「やっぱり男はロン毛っすよ!」
と、目の前の19歳女子は言いました。
「(髪は)長ければ長いほどいいっすねー」と、にやけています。

マジっすか、と、私はつられて「っす」言葉を返しました。

連休の午後、私は女子と二人で渋谷に来ていました。カフェでオムレツを食べています。その「男はロン毛」発言に、私の頭の中でチャンネルが切り替わった感じがしました。新宿二丁目では、「男は短髪(むしろ坊主)」がモテる条件です。毎日その世界にいるせいか、パッと新しい世界が現れた気がしたのです。

ここは渋谷で目の前に座っている女の子はバンド好きです。今日はこのあと、109をひやかして、夕方からは彼女の好きなバンドのライブを見に行くのです。

バンドが好きだから、長髪が好きなのかもしれません。私のイメージでは、バンドマンの長髪は、ボサボサでパーマが取れかかったような、どっちかといったら黒髪の、そんな感じです。体は痩せていて目は鋭い、みたいな。
昔、イエローモンキーというバンドのヴォーカルの人が、「男の長髪は汚くなくてはならない」と何かで言っていたことを思い出しました。そのときは、美形だったらそれでもいいけど、と思いました。

チャンネルを切り替えてそんなイメージで話を続けようとしたら、そんな感じでもないみたいでした。彼女の好きなタイプはがっちりした体格の男だそうです。軽く恋愛相談にのったあと、109へ向かいました。

109に来るのは二回目です。上京したての頃に一度見に来ました。1階から8階までギャル服のオンパレードです。基本的に必要としていないし一人だったせいもあって、そのときは駆け抜けただけでした。もう一度じっくり見てみたいと思っていたので、19歳の女子といっしょというのは好都合でした。

が、疲れました。いろいろ可愛いと思うし、色の洪水に溺れるのは嫌ではありませんでしたが、ショップたちの放つエネルギーについていけない自分を遠くから見ている感じでした。年だからなのか女子じゃないからなのか所詮地味なオカマだからかわかりません。1階から順に螺旋階段を昇るように隈なく見て回ったあと、8階でパフェを食べました。普段とは違う環境に身を置いていることだけが楽しい気分を持続しています。

フワフワヒラヒラにハートにラメに赤にピンクに刺繍に細かい花柄にパフェに、19歳の女子は心から楽しんでいるようでした。私はその様子を見ていて、当たり前ですが、自分が19歳の女子ではないことがわかりました。

そしてライブハウスへ行きました。お目当てのバンドを含む計六組が演奏するのだそうです。

私はバンド音楽にのめり込んだ経験がありません。気になったときに少しずつかいつまんで聞いてきたような関わり方です。中高の頃から、近くにはいつもバンド好きな人たちがいました。それでも、フーンいいね楽しそう、と思ったり言ったりしても、自分から舞台に駆けつけたりギターを弾き始めたりということはありませんでした。

よって、ライブハウスでバンドの演奏を見るという経験は初めてに近いのです。

30人も入れば一杯の小さなライブハウスに、一人ずつ若い客が集ってきて、ライブが始まりました。大音響です。何を歌っているのかは聞き取れません。日本語だということがわかるくらいです。申しわけないけれど私は隅のソファでお酒を飲みながら拝聴しました。三組が終わったあたりで耳がぼわーんとしていました。

お目当てのバンドが始まると、隣に座っていた女子は舞台のまん前に移動し、演奏にあわせて体を動かし始めました。やはり何を歌っているのか聞き取れませんが、バンドの子たちは楽しそうに必死に演奏しています。

「エモーショナルなところがわたしに合うんです」

と彼女が言っていたことをぼんやり思い出しました。私にはわからないメッセージを今この人は受け取っているのかしら、などと思いました。
他に、バンドのメンバーの顔ぶれや、客の装いを眺めていると、昔、京都にいた頃は、こういう人たちをよく見ていたような気がしました。
二丁目にはあまりいないタイプの人たちです。109の人たちともまた違う、お金のかかっている派手さはないけれど、ひとりずつ完結しているような顔つきと靴や服です。
私はバンドの音楽にのめり込んだことがありませんが、バンドを好きな女子や男子のことは好きだったことを思い出しました。

お目当てのバンドが終わったので残りのバンドを置いて帰ることにしました。
私は三組目のヴォーカルの男子が気になっていて、その、前髪で鼻の下まで顔を隠した風貌と、その頭部を振り乱し、声とギターが次第に狂っていくようなパフォーマンスと、髪の隙間から時々見えるひんむかれた目に興奮していたので、ちょっと変わったロン毛だけれどアレはどうかしら、と女子に言ったら、

「あれはブッてるから駄目っす」

と、醒めた批評が返ってきました。
アートスクールの学生ぶっている(気取っている)、という意味だそうです。
天然ではないから駄目だということでしょうか。

ぶる、ねぇ・・。

二丁目で毎日、短髪、ヒゲという「ゲイ・ぶる」ひとたちを見ていて、そうするとモテるから、そういうふうにブっていて、じっさいそうやって周囲のひととクローン化していくということが二丁目では当たり前のようになっているようで、しかも最近は、いっそそこに参入してみようかしら、などと血迷っていた私は、その発言に冷水を浴びさせてもらったような気分になりました。


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