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    <title>捨ててゆく私　茶屋ひろし</title>
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    <updated>2012-05-10T12:34:28Z</updated>
    <subtitle>二丁目で働く自称オカマの茶屋ひろしによるコラム。</subtitle>
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    <title>「ちっぽけなプライド」</title>
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    <published>2012-05-10T12:33:21Z</published>
    <updated>2012-05-10T12:34:28Z</updated>

    <summary>   作家の西村賢太の対談集を読み終えたあと、本屋でみかけた雑誌に、今度は、彼と...</summary>
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        <![CDATA[<p>  <br />
作家の西村賢太の対談集を読み終えたあと、本屋でみかけた雑誌に、今度は、彼とマツコ・デラックスとの対談が載っていたので、本の続きような気がして、それに読みたくもあって、手に取りました。<br />
その中で、対談の内容とはなんの脈絡もなく、すとんと落ちるように入ってきたのは、マツコさんのくだりでした。<br />
「私はよく、『男のちっぽけなプライド』みたいな言い方をしますけど、それが愛しくてたまらないし、男性であればどんな姿形であっても許せてしまうところもあるんです。」（en taxi　 vol. 35）<br />
 <br />
その「ちっぽけなプライド」がなんなのか、言語化出来ないうちに、そうか、私はそれを愛しいと思えないんだわ、と合点してしまったのです。「ちっぽけなプライド」を持っている「男」との関係性において、ほんとギリのところ、最終的に、結果、それを許せるか許せないか、という話のように思いました。<br />
 <br />
かねがね、一緒に毎日働いていて、オーラちゃんは男にやさしいな、私だったらそこは受け入れられない、と思うような対応の違いを感じています。<br />
例えばチップさんの一連の出来事でした。彼が店内で大声を出したり人を蹴ったりするのは困る、という見解は一致するのですが、その後、私はもう会いたくないわ、となり、オーラちゃんは、会うのは平気、と落ち着きます。<br />
私は何を許せなくなって、オーラちゃんは何を許せているのでしょうか。<br />
チップさんが頻繁に姿を見せていた頃、路上で、通りすがりの人にすら、「さわんじゃねえぞ」とブツブツ文句を言いながら歩いていたチップさんを見て、オーラちゃんは、「なんか可愛い、と思っちゃった」と私に言いました。<br />
それのどこをどうとったら可愛いと思えるの？！　と私は驚愕しました。<br />
 <br />
とは言え、今、チップさんは私を避けて来店しているようで、「最近は、ウリ専にも通っているみたい」なんていう情報を聞きながら、お互いに顔を合わせないことによって平穏が生まれるならそれでいいじゃない、と思っていました。それに、私がチップさんの「男」の部分を許せるか許せないかということではなくて、単に相性の問題かもしれない、とも思いました。そこはみんな他人なので、違いがあって当然だろうと。<br />
 <br />
けれど先週、チップさんが私の前に姿を現しました。オーラちゃんと一緒にレジに入っているときでした。ひえー、会いたくないよー、と応対をオーラちゃんにまかせます。オーラちゃんに話しかけながらも、ちらちら、こちらを気にしている様子が伝わります。私は目を合わせないようにして手元の作業を続けました。するとぐるりと私の正面に移ってきました。今度は私の頭越しにオーラちゃんと会話をしている格好になります。<br />
耐え切れなくなって、私は本店の方へ逃げることにしました。<br />
後でオーラちゃんと確認しあいましたが、その時のチップさんは、あきらかに私との会話を望んでいて、それも以前のような、なにもなかったかのような・・リセットされましたか、というような様子でした。<br />
なにもなかったことになんかできませんよ、と私はその場を離れたわけですが、チップさんはなかなか帰ろうとはしませんでした。十五分ほどして、そろそろ帰ったかしら、と通りで煙草を吹かしていたら、先ほどまで店内にいたお客さんが走ってきて、「いま、店で大喧嘩してますよ」と報告してくれました。<br />
 <br />
ああ、嫌だ、と思いながら店に戻ると、店の真ん中でチップさんと別のお客さんが向かい合って怒鳴りあっています。他に人はいなくなってしまって、勢い余ってつかみかかろうとせんばかりの二人の間で、オーラちゃんが双方を制止しているような状態です。けっきょくこうなるんじゃない、と私はレジに入ってその様子を見ることにしました。チップさんに怒鳴られた人は、むっとしながらも店を出て行くパターンが多いのですが、その人はまったく引きませんでした。<br />
怒鳴りあいを聞いていると、チップさんに蹴られた彼の言い分が際立ってきます。<br />
彼はチップさんにぶつかったわけではなくて、しゃがんで商品をみていたところ、「どけ」と後ろを通ろうとしたチップさんに蹴られた模様です。<br />
それは、チップさんが悪い。<br />
収まらない二人にオーラちゃんが、「表でお願いします」と店から二人を出そうとします。素直に二人はその指示に従うかに見えましたが、外に出たのは蹴られた彼だけでした。チップさんは怒鳴りながらも店から出ようとはしません。あろうことか、店の奥に向かったりします。<br />
逃げてる！　と思いました。それでも入り口から「来いよ！」と一歩も引かずに呼び続ける彼に根負けして表へ出ました。すると、怒鳴りながらもチップさんは早足でその場を去ってしまいました。<br />
確実に逃げました！<br />
 <br />
逃げるくらいなら喧嘩をふっかけるんじゃないよ、と思いました。そのあと、被害にあった彼の憤りを聞き、彼が帰ったのを見計らって戻ってきて、言い訳のように彼への悪態をつきはじめたチップさんに、オーラちゃんは、「そんなことはどうでもいい。もうこれからは怒鳴ったり人を蹴ったり、ここではしないでほしい」と釘を刺しました。<br />
 <br />
翌日チップさんは、私が一人でいるときに、ビデオを売りに来ました。笑顔で話しかけてくるチップさんに、もう、なんか怖い、と思いながら必要最小限の対応をしてしまう私です。そんな私に、チップさんは以前のようにチップをくれようとしました。私は顔も見ないまま手を振って断ります。<br />
「いりませんか」とチップさんは言います。うなずく私に、いりませんかー、ともう一度、高い声を出して店を出て行きました。<br />
いりませんよ・・。どっと疲れました。<br />
 </p>]]>
        
    </content>
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    <title>「切実な違い」</title>
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    <published>2012-04-16T02:14:13Z</published>
    <updated>2012-04-16T02:15:12Z</updated>

    <summary> 前に、このコラムを読んでくださっている方から言われたことが、なんとなくずっと胸...</summary>
    <author>
        <name>minori</name>
        
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        <![CDATA[<p><br />
前に、このコラムを読んでくださっている方から言われたことが、なんとなくずっと胸に残っています。父親の話を書いていたときでした。父が小さい規模の（余計かしら・・）出版社と書店を経営していることに、その方は驚いたそうです。<br />
その時、どう言われたかは覚えていないのですが、ニュアンスはとても強く残りました。なんだ、お金に困ることはないんじゃん、的なことです。何かあっても泣きつくところがあるじゃん、とか、だから毎日のように飲みに出て給料を使い果たして貯金しなくても余裕かましていられるんだ、とか、おそらくそういったことでした。<br />
彼の中では、私がそれこそ身一つで上京してきて、親兄弟には頼れない状況下、自分のことは自分でやって生きている、そのドキュメントを読むようにこのコラムに接していて、そこに親和性を感じていたようなニュアンスでした。<br />
そこまでは言われませんでしたが、ちょっとがっかりした、というか、萎えた、といった印象でした。<br />
私は内心焦りました。この人にとって、私の書くもののリアリティが失われてしまった・・それはもう彼には楽しめなくなってしまうということではないか・・云々です。<br />
けれど確かめることが怖くて、なんとなく核心から遠ざかったまま、今に至ります。<br />
 <br />
二月、三月と、立て続けに父と会いました。それでも一年ぶりの再会でした。毎月のように出版組合の会合で東京に来ている父ですが、なかなか私の休みと都合が合わなかったから、と言っていました。仕事を休ませてまで会うことでもないし、といった調子で、前日に突然電話をかけてきますが、無理やったらええねんぞ、ええんか？　と気を使ってくれます。<br />
私のこれからについて、これまでも色々な提案をしてきてくれた父です。自費出版のゴーストライターをやってみないかの件、盛岡の知り合いの出版社で働いてみないかの件、書店の隣で喫茶店をやってみないかの件、どれも丁重にお断りしてきましたが、今回の案件は少し様子が違いました。<br />
「俺も今年で七十になるんや。たかし（長男）が会社に入ってきたから、あと五年はやろうと思ってる。そうすると七十五までということやな。もうあまり時間がないわけや。そこでや、おまえが書店のほうを手伝ってくれたらとても助かるんや。どうや、出版のほうは兄貴にやってもらうとしてや、書店はおまえがやってくれんか。俺を助けると思って。いやいや、まあ、そういう話なんや」<br />
そう言って、なぜか私より困った様子で話を続けます。<br />
「それでおまえにはな、こっちで一年ほど、アルバイトで十分やからどこかの本屋で働いてもらって、大阪へ帰ってきてくれたら、と思ってな。お父さんは、『あゆみブックス』がええと思うわ。それでまあウチの仕事をしながら、小説でも書いたらええんちゃう？」<br />
「あゆみブックス」は私も好きな本屋さんです（早稲田店、愛しています。父親の会社との関係はありません）。それに、小説でも書いたらええんちゃう？　という言い方に笑ってしまいました。<br />
 <br />
その話をいつもの店のママに話したら、「いいお父さんじゃないのぉ〜！」と言ってくれました。「あんたを手元においておきたいのよ、戻ってきてほしいのよ。そこまで気にかけてくれる人なんてそうはいやしないものよ」だそうです。<br />
しかし、大阪に帰るということは、実家に戻るようなものです。しかもすでに兄が父の会社で働いています。茶屋（仮名です）だらけじゃないですか。それに血統主義はちょっときつい。「もっと他に経験者がいるでしょうに」と父に言ってしまいました。<br />
「何がよぉう〜」とママは詰め寄ります。ほら、だから、私はあの家にいることが苦痛になって飛び出したようなものだから・・、今は離れて暮らしているから丁度良い距離感を保てているというか・・としどろもどろになる私に、「あんたはもうニ十年前のあんたじゃないんだから、そんな若い時の理由で拒絶し続けているのもいかがなものかと思うわ」と失笑されました。<br />
 <br />
この先どうしよう、とか、将来は何になるんだろう、とか、親と会うとついそんな気分になってしまいますが、ふと我に返って、もう私はその将来を生きているんだわ、と思いなおします。親の引力が強いのか、頭のネジが緩いのか。<br />
父親の七十から七十五までの人生は、私が関与しないと完成しないような画なのか、と言うとまたママに叱られそうですが、親の気持ちなんてそんなものよ、ずーっと子どものことを心配し続けるのよ、と返されると、少しホラーな心持ちもします。<br />
父親と会うときにいつも同席してくれる編集者の人には、父親が帰った後に、「あまり気を持たせないで、はっきりと断ったほうがいいと思うよ」と忠告されました。<br />
 <br />
そんななか、田房永子さんのブログを読んでいたら、別件で回答を得たような気分になりました。彼氏ができない、という人は、モテないからというより、必死さがないからではないか、親との関係が良好で、「新しい家族をつくる必要が体にないからなんじゃないかと思う」（『むだにびっくり』　2011年12月04日より）といった内容でした（勝手に引用してしまってごめんなさい）。<br />
ほんと、そうだわ、と腑に落ちた私は、男を切らしたことがないというゲイの友人にその話をしてみました。すると、そうなのそうなの！　と田房さんの見解に大きく共感しました。「切実さの違いだったのね・・」と言うと、「ぼく、彼氏がいないと超不安定になるもん！」とのことでした。それを聞いていた別の友人も、「茶屋ちゃんなんかは、家族に恵まれたパーフェクトな人に見える」と同意してきます。<br />
パーフェクトの意味はよくわかりませんが、やはりそうでしたか。私にはなんだかんだ言って気にかけてくれている父親がいるから、彼氏を欲しいと強く思わないのか。この場合、同性の親との関係が響くのかしら、などと考えていると、母親から手編みのマフラーが届きました。<br />
お、おもい・・、としばらく押入れに突っ込んでいたら、せんだってのママにまた叱られました。これなの、と持って行って見せると、「まあ、この編み方、とても時間がかかるのよー。それにこの深みがかったグリーンも素敵じゃない。気持ちを汲んであげなさいな」と諭されました。そのあと、二週間ほど着用しました。親との確執の問題というより、私の場合は自分を気にかけてくれている人に流されやすいだけかもしれません。<br />
 </p>]]>
        
    </content>
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    <title>「ウンコと呼ばれて」</title>
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    <published>2012-03-22T08:36:56Z</published>
    <updated>2012-03-22T08:38:37Z</updated>

    <summary> キモイ、きたない、ヘンタイ、うざい、酒臭い、ウンコ、死ね。   毎日のように職...</summary>
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        <name>minori</name>
        
    </author>
    
    
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        <![CDATA[<p><br />
キモイ、きたない、ヘンタイ、うざい、酒臭い、ウンコ、死ね。<br />
 <br />
毎日のように職場のポチに言われています。出勤したとたんポチに抱きつく私に、ポチは身をよじりながら、たいてい、この中から、ニ、三個を発します。<br />
ウンコだけは・・、今まで他人に言われたことがなかったかもしれません。<br />
 <br />
「なんなんですか、もう」と嫌がるポチに、「好きなんです」と言うと、「嫌いです」と即答されるのも定番です。そのうち、私への悪口が始まります。<br />
 <br />
なまけもの、エゴイスト、金に目がない、人の足を引っ張る、悪だ悪！<br />
 <br />
その間に、ブスや短小といった言葉も挟み込まれます。<br />
 <br />
こうして言葉だけ並べると凄惨な様子ですが、それを言う時のポチは笑っていて、声を張り上げることもありません。総じてただのオッサン同士がじゃれているだけの光景です。<br />
それにしてもよくそれだけ罵詈雑言が出てくるわね、と半ば呆れますが、どうしてポチはこんなに悪口を言うようになってしまったのだろう、と他人事のように関心を持ちます。<br />
 <br />
「子どものころに言われて嫌だったことを並べて私にぶつけているの？」と尋ねると、「こんなこと言われたことはないですよ」と否定しました。<br />
「え、気持ち悪いって言われたことないの？」と驚きました。<br />
私にとってポチが気持ち悪いわけではありません（むしろその逆です）。<br />
なんだか、人として生きてきて他人から「気持ち悪い」と言われることくらいあるだろう、という認識から出た驚きでした。<br />
「じゃあ、自分が言われたら嫌だな、とか、傷付いちゃうかも、とか思われる言葉をたくさん言っているの？」と訊くと、「そうです。嫌いですから」と簡潔にまとまりました。<br />
じゃあ、ブスや短小はコンプレックスの裏返しでもあるのかしら、とこっそり思います。<br />
 <br />
そんな様子を間近で見させられている「姉さん」は、「茶屋ちゃんがかまいすぎるから、嫌がっているんじゃないの？」と初めはポチに同情していましたが、ここ最近では、「あれがポチの本性なのかしらね。だってあんなことを言ったり、人（茶屋）を叩いたりするような人じゃなかったもの」と分析するようになりました。もちろん、叩くといってもじゃれている範囲内で、それは痛くない手加減された「タッチ」のような行為です。<br />
 <br />
オーラちゃんは、「茶屋ちゃんがポチの人格を変えてしまったんじゃない？」と言います。「昔から静かで大人しい人だったし、今でも茶屋ちゃんが休みの日はそんな感じだよ。それが茶屋ちゃんの話をしただけで、『奴は悪です、ウンコです、嫌いです』ってそこだけ力強くなるよ」と笑いながら教えてくれます。「ウンコ、とか言うような人じゃなかったもん」<br />
「そうよねぇ、ウンコだもんねぇ」と相槌を打ちます。<br />
 <br />
そうか、私のせいかもしれないわ、と思いました。チップさんのことも思い出しました。<br />
私は相手の何かを大きくしてしまって、そのせいでその人が今までになかったような言動をするようになり、最終的に「それっておかしくない？」と私が言ってしまって、嫌われる・・、裏切りに近いようなことをしているのかもしれません。<br />
チップさんは今も私を避けて、店に来ているようです。チップさんが心を許している相手はポチとオーラちゃんだけになりました。二人ともやさしいからね、と思います。そういえばチップさんとの顛末に、オーラちゃんには「茶屋ちゃんは男嫌いだから」とまとめられて、ポチには「ダイッキライになった、って言っていましたよ」ととても嬉しそうに報告されました。ポチから「茶屋は敵だ」と拒絶されるのもあながち間違いではないような気もします。<br />
男が好きな男嫌い・・ややこしい、いびつで歪んでいる私かもしれません。<br />
 <br />
真っ当な人間になってください。心を入れ替えてください。しゃんとしてください。<br />
 <br />
というようなことも日々ポチから言われ続けています。<br />
 <br />
ごめんなさい。無理です。ご迷惑をおかけしてすみません。いつもありがとう。<br />
 <br />
とのらりくらりと交わしていたら、ひさしぶりに社長に叱られました。「最近、茶屋がだれている！」というメッセージです。<br />
「十二時にオープンの店なのに一分前に出勤して、どうして十二時に開けることができるんですか！　忍者じゃあるまいし！」<br />
深夜のうちにタイムカードをチェックされてしまいました。問題の出勤時刻の下に赤線が幾つか引かれています。<br />
ふと現金な私は、三十分以下は切り捨てでお金にならないから、と屁理屈を思いつきましたが、さすがに口にするのは憚られました。これまで勤めたどんな職場でも、十分前に出勤するのは当然だと思っていたことを思い出しました。<br />
ゲイバーのママが、「そうよ、それはお金にならない時間じゃなくて、お金には替えられない時間なのよ。そこで信用が生まれていくことがあるのだから」と変換してくれました。<br />
「まあ、長く勤めているとだれてきたりするからね。ちゃんと叱ってくれて良かったじゃない、アンタ。社長に感謝しなさいよ」と普段から私のことを「ブス」呼ばわりするママの話を聞きながら、ポチはずっと「見たまま」の私を表現し続けているだけなのかもしれない、と思い当たりました。なんだ、けっきょくウンコでした。<br />
 </p>]]>
        
    </content>
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    <title>「マギエさん」</title>
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    <published>2012-02-06T08:53:42Z</published>
    <updated>2012-02-06T08:54:04Z</updated>

    <summary> 去年の今頃は何をしていたんだろうと思い返していたら、そういえば、一月に中島みゆ...</summary>
    <author>
        <name>minori</name>
        
    </author>
    
    
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        <![CDATA[<p><br />
去年の今頃は何をしていたんだろうと思い返していたら、そういえば、一月に中島みゆき、そして二月には斉藤由貴のコンサートに行ったのでした。<br />
どちらもチケットをとって誘ってくれたのは、マギエさんという四十代前半のゲイの人です。共通の友人を介して知り合いました。中島みゆきのコンサート会場のフォーラムAで初対面、斉藤由貴の渋谷のパルコ劇場で二回目でした。<br />
斉藤由貴のあと、渋谷で軽く食事をしながら、マギエさんのキャラクターを存分に楽しませていただいた私は、このコラムでアナタのことを書いていいかしら、と承諾を得ました。<br />
ところが翌月、震災と原発事故が起こって、刑務所から男の子がやってきて、もうひとつ人には言えない出来事にまきこまれ、そうこうしているうちにチップさんがめまぐるしい展開を見せ始めたため、コラムのネタにしようと思っていたマギエさんがどこかへ行ってしまっていました。<br />
年末にひさしぶりにお会いしたとき、「ずっと読ませていただいているんだけど、いっこうにアタシが登場しないのは、なぜ？」と心待ちにされていたご様子で、「そういえば・・」と思い出した次第です。書かないでくれ、という人が大半のなか、稀有な人です。<br />
 <br />
パルコ劇場のロビーで待ち合わせをしました。一足先に着いた私は、マギエさんを待つ間、ロビーの隅にドリンクバーを発見して、少し迷いました。軽くビールでも飲みながら時間を過ごしたいものだけれど、開演前にビールなんて飲んだら、絶対すぐにトイレに行きたくなるはず・・、でもなんだか飲みたい気分・・と吸い寄せられるようにカウンターに近づき、なんのあいだを取ったのか、ZIMA　という発泡性のリキュールを飲むことにしました。ゆっくり飲んで煙草を一本吸い終わったところで、マギエさんがやって来ました。仕事帰りのマギエさんはスーツ姿です。腕にコートをかけてパンパンに膨らんだ黒いビジネスバッグを提げています。眼鏡の奥では人なつこい目が笑っていて、職業そのまま、学校の先生のような風貌です。<br />
「アタシも一服させて」と煙草を取り出したマギエさんと少し話して、私は、一度トイレに行きました。大丈夫かな、と膀胱の辺りを気にしますが、次の波はすぐやってきそうな気配です。端っこの席ならいいな、と思いましたが、二人の席は中心の真ん中でした。座って両隣に四、五人が着席しました。トイレに行く時は、前を失礼しなければなりません。<br />
案の定、コンサートが始まって二曲目で、もうトイレに行きたくなりました。早すぎます。曲はしっとりとしたバラードで、その雰囲気もまた行きにくいものでした。<br />
なんとか三曲目が終わるまで我慢して、次の曲が始まる前を見計らって、私は腰を浮かせました。どうしたの？　と小声で訊いてきたマギエさんに、トイレ、と言うと、まあ、とびっくりされました。<br />
 <br />
トイレのなかで、スピーカーから流れてくる斉藤さんの歌を聴きながら、あと二回は行きたくなるな、と私は確信していました。けれどこれ以上出たり入ったりするのは、周囲に座っている人に気兼ねします。会場に戻った私は、出口に近い通路の階段に座って舞台を見ながら、第三派が来るのを待つことにしました。それはもれなくやってきました。再びトイレに行って、通路に座った私に、見かねたスタッフの女性が、空いている席に座ってください、と後方の席を案内してくれました。たぶん、あと一回行けばもう最後まで大丈夫だと思う、と私は最後の波がくるのを、ゆったりとした気分で待つことにしました。<br />
誰にも迷惑をかけずにいつでもトイレに行くことが出来て、コンサートも楽しめて、いい場所です。<br />
 <br />
すると、コンサートのメインイベント、ゲストミュージシャン（その日は武部聡志でした）とのセッションが終わったあと、前方下の通路をマギエさんが腰をかがめてそそくさと横切って行く姿が見えました。あら、マギエさんもトイレ・・となんとなく見送った後、出てすぐに戻ってきたマギエさんはスタッフの女性に私の方を指差されて、まあ、とまた驚かれました。<br />
鈍感にコンサートを楽しんでいた私も、さすがに異変を察しました。<br />
しばらくして（最後のトイレを終えて）マギエさんの隣に戻った私に、マギエさんは「ぜんぜん戻ってこないからトイレで倒れているんじゃないかしらって気になっちゃって」と小声の早口で説明しました。「ごめんなさい」と私もこっそり謝りました。<br />
 <br />
コンサートが終わって、マギエさんは溜めていた思いを一気に吐き出しました。<br />
「それでスタッフの方に聞いたのよ。トイレに行った男性はどうされているかご存知ですか、って。そしたら、まあ、あそこに座っています、って言うじゃない。アタシもうびっくりしちゃって。本当に心配したんだから。それどころか、連れの人（私のこと）が席を離れたきり戻ってこないことをアタシの後ろの席の人たちが気にしていて、アタシがそのことを気にしていないんじゃないか、なんて思いやりがないやつだとか思われているんじゃないかしら、って気になり始めるわ・・、そのうち、あなたが本当はテロリストで、ほら、荷物を椅子の下に置いたままだったでしょう、そこに爆弾が仕掛けられていてこの会場ごと爆破するつもりで、とっくにあなたは逃げ出していてここから遠く離れた場所にいるんじゃないかしらって、怖くなってきちゃって。それで意を決して、様子を見に行くことにしたのよ！」<br />
途中から、いえ、最初から笑って聞いてしまいました。最後のほうは妄想がエンターテイメントに昇華しています。<br />
「冗談じゃないのよ、そのせいで斉藤由貴の世界に入り込めなかったあの四十分間をアタシに返してちょうだい！」と怒るマギエさんも、すでに笑っていました。<br />
 <br />
しばらくして、マギエさんは職場でもそんな話し方なの？　と聞くと、「ええ、そうよ。周りからはオネエのマギエ、って呼ばれている。でも、アタシがゲイだってことはバレていないのよ」と得意げに答えました。<br />
・・・。<br />
失われた四十分間のお詫びに、ツッコミは封印することにしました。</p>]]>
        
    </content>
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    <title>「さよなら、チップさん（の、ようなもの）」 </title>
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    <published>2012-01-05T13:31:56Z</published>
    <updated>2012-01-05T14:18:52Z</updated>

    <summary>  さて、チップさんの話です。ビデオを買って売ってくれる、週に何度も来てくれる、...</summary>
    <author>
        <name>minori</name>
        
    </author>
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.lovepiececlub.com/suteru/">
        <![CDATA[<p> <br />
さて、チップさんの話です。ビデオを買って売ってくれる、週に何度も来てくれる、 さらにお菓子やお金もくれる・・それだけだと夢のようなお客さんだったチップさんですが、人と接触することをなにより嫌がり、段々、他のお客さんの肩や鞄が軽く触れただけで激怒して、怒鳴って蹴るようになっていったチップさんです。 <br />
 <br />
来て早々、入り口付近で、というときもあります。そのまま、ぷいっ、と出て行ってそのまま帰ってこない日には、あの人今日はなにしに来たんだろう、と首をかしげてしまいます。 <br />
 <br />
とはいえ、首をかしげている場合でもなくて、なんとかしないと、他のお客さんたちにも迷惑だし、なにより、それを見ている私が嫌です。オーラちゃんと協議を重ねます。 <br />
 <br />
オーラちゃんは、「そうならないようにしている」と言って、チップさんの背後を人が通る時には交通整理よろしく、「はい、人が通ります！」とそのつど警告して、本人が話に熱中して反応が鈍い時は、体ごとレジ側に引き込む、という荒業をやってのけているそうです。ただしチップさんがいる間はずっとそれをやらなければいけません。他の仕事が出来ません。私も「後ろ、通ります」くらいは言うようになっていましたが、よけたつもりがよろけてあたって怒鳴る、みたいな本末転倒も見てきているので、それは万能策ではなくて、「やらないよりやったほうがまし」策のような気がしていました。 <br />
 <br />
「ああ、面倒臭い、もう、はっきりと言うわ！」と言うと、「なんて？」とオーラちゃんが訊くので、「だから店内で大声を出したり人を蹴ったりしないでください、って」と答えると、「それで？」と来るので、「・・だから、どうしてもそれをしてしまうのなら、もう来ないでください、ってことになるかしら」 <br />
 <br />
オーラちゃんは、「僕は、もう来ないで、とまで言う必要はないと思うよ」と慎重に答えます。「あと、強い口調で言うのもやめたほうがいいと思う」 <br />
 <br />
・・見透かされています。難しい課題です。  <br />
 <br />
もうそういうことやめて、しないで、なんで蹴るようになっちゃったの？　怒鳴り声きらいうるさいうっとうしい、あなたなんかおかしい、もう出て行って！　 <br />
 <br />
頭にあふれ出すのはそういう類の言葉たちです。オーラちゃんが心配しているのは、そういうことを言いたい放題言ったら、たしかにチップさんは来なくなると思うけど、憎まれてしまうよ、ということでした。 <br />
 <br />
たしかに、散々お菓子やお金をもらっておいて、ある一点において、手のひらを返したように私の態度が変われば、平和的な解決には至らなさそうです。 <br />
 <br />
けれど、お願いしてみたところでこちらの気持ちを汲み取ってもらえる可能性は薄い。 <br />
 <br />
チップさんは自分の聞いてもらいたい話しかできません。感情が激化しているときはなおさらでしょう。 <br />
 <br />
わかりました。決定的な一打は打たないように話してみます。 <br />
 <br />
翌日、来店したチップさんは、まずお菓子セットをくれました。そして近況をいつものように話し出そうとした瞬間、後ろを通った若い子が当たってしまいました。早い展開です。チップさんが怒鳴ると相手はメンチを切って出て行きました。興奮冷めやらぬチップさんは出たり入ったりして、ぶつぶつ文句を言いながら、私の前に戻ってきました。「あんにゃろう、ねえ、おかしいでしょう。当たらなくても通れるんだか ら。ちょっと一言言えばすむのにぶつかってきやがって。許せねえ」と私に同意を求めます。 <br />
 <br />
実際、わき目も振らずいろんなものにぶつかっても気にしない人たちも少なくありません。そういう人たちをおかしいと私も思うけれど、あなたの反応も過剰だと思う。そしていまや、針が振り切れてしまっていて、伝わるものも伝わらなくなって、空回りしておかしくなってしまっている。それをもう止めて欲しい。 <br />
 <br />
同じことを五分間に十回くらい言うチップさんに、私は「それはわかるんだけど、ここで大声を出されるとびっくりしちゃう」「人を蹴るのはやめてほしい」「なんか困っちゃう」と言い続けました。最後の方は、びっくりしちゃう、と、困っちゃう、を繰り返すだけの壊れた山本リンダのようになっていました。途中、「俺は困らない！」と反応したチップさんでしたが、やがて「帰る」とチップさんは話をやめました。そして「あげたもの返して」と先ほど渡したお菓子セットの返還を要求しました。「はい」とレジ下に入れたお菓子セットを渡しました。 <br />
 <br />
それきり私がいるときには来なくなりましたが、他の人がいるときに姿を現して、私の文句を言うようになりました。 <br />
 <br />
「大っ嫌いになった」「あんにゃろう、金も当然のような顔して受け取るんだ」「今まであげた金を返してもらいたいくらいだ」 <br />
 <br />
大好きだったのね・・、当然のようには心外だけれど四時間付き合った報酬だとは思っていたわ・・（それを当然と言う）、返してもらう？　それは無理よ、ぜんぶお酒に使ってしまいました。ごめんなさい。今までありがとう。さようなら。 <br />
 <br />
チップさんの来なくなった年末年始の店内で、人が込み合ってすれ違っても喧嘩の起きない日常に戻ったことにほっとしながら、かつて楽しそうに話していたチップさんの顔を思い出すと、やるせない気分に襲われます。 <br />
 <br />
私は弱者を排除してしまったのか、はたまたチンピラ風情をお断りしただけなのか、彼が気に入って大嫌いになってしまった私はどういうものだったんだろう、というようなことをずっと考えています。卑近で詮ない話です。 </p>]]>
        
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    <title>「続　チップさん」</title>
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    <published>2011-12-16T12:08:25Z</published>
    <updated>2011-12-16T12:10:09Z</updated>

    <summary>  先月、父方の祖母が亡くなったので、ひさしぶりに大阪へ帰りました。享年百歳の大...</summary>
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        <![CDATA[<p> <br />
先月、父方の祖母が亡くなったので、ひさしぶりに大阪へ帰りました。享年百歳の大往生でした。秋ごろに一度倒れてまた意識を取り戻しましたが、いつ死んでもおかしくないと医者に言われて、病院で療養していました。<br />
生きているうちに会いにおいでよ、と家族から言われていましたが、今月はテレビを買ってお金がないから来月にでも、などと先延ばしにしていたせいで間に合いませんでした。薄情な孫です。<br />
お通夜に葬儀の二日間、祖母の家にいましたが、大阪に住んでいる親戚の人たちの中には、普段からちょこちょこ会いに行ったり、じっさいに介護をしていた人たちもいたりして、十数年会っていなかった私とはあきらかに温度差がありました。<br />
伯母たちからいろいろな話を聞いたあと、やっぱり生きているうちに会っておけばよかった、と少し後悔しながら実家に帰ると、叔父が二年前に撮ったという祖母の動画がＤＶＤであったので見ることにしました。<br />
座卓で食事をしている様子と、食後に横になっている様子とを、それぞれ定点から十五分くらいずつ映したものです。<br />
祖母は薬のせいかかなり体がむくんでいて、歩くことはままならなかったようです。それでも座って食事をして、トイレには歩伏前進で行き一人ですませて、会話も出来るようでした。<br />
画面の中では、ずっと「あ、こら、え、こら」と言っています。それがたまに、「ああ、えらい。ああ、しんど」に変わって、何度も繰り返します。「えらい」は「大変」、「しんど」は「疲れた」という意味です。そう言いながら、布団に横になった祖母は雑然と物があふれている枕もとの棚に手を伸ばして何か取ろうとしています。手探りで探し当てたのは巻物状になっている何枚かの白い画用紙でした。広げようとしてもすぐに丸くなる画用紙をなんとか広げながら、祖母は大きな声で歌い始めました。<br />
 <br />
「包丁一本、晒しに巻いて、旅に出るのも、板場の修業」<br />
 <br />
「月の法善寺横町」です。音程もしっかりしていて、何より声に張りがあります。<br />
そのＤＶＤを一緒に見ていた私の姉が、「ヘルパーさんに好きな歌の歌詞を書いてもらって、ああやって歌ってたんやって。手書きやないとあかん、いうて」と教えてくれました。二曲目の「銀座の恋物語」あたりから、だんだん浪々とした読経のようになっていき、そのうち、「ああ、しんど。もう、ええわ」と、勝手に丸くなった画用紙を棚に戻しました。<br />
体はしんどいけれど、歌うのは楽しい、楽しいけれどしんどい・・、そうか、そうでしたか、とその映像が心に残りました。<br />
 <br />
さて、前々回に書いたチップさんですが、ひと月ほどして復活しました。ナイーブで気性の激しいチップさん、帰り際にチップをくれるからチップさん、コンビニの前で無視をしてしまったからか、寄り付かなくなってしまっていたチップさんです。<br />
またビデオを買いに来てくれるようになりました。<br />
滞在時間も延びていき、長いときは三時間ほど、出たり入ったりを繰り返しながらではありますが、いるようになりました。ビデオを選ぶことはもちろんですが、そのあいだにおしゃべりをしたり、ジュースやコンビニの焼き鳥などを買ってきてくれて一緒に食べたりしながら過ごします。<br />
 <br />
普段の私は、ほとんどお客と口を効きません。昼間のビデオ屋で店員の私とお喋りを楽しみたい人には高齢の方が多いのですが、年々面倒臭くなってきて、最近では紋切り型にあしらってしまうことが多くなりました。一人で勝手に東京砂漠です。<br />
店内での飲食もお断りします。缶ビールを飲みながら、アイスクリームを食べながら、携帯電話で話しながら入ってきた人には、「外でお願いします」とあまり間をおかずにスパンと言ってしまいます。<br />
ところがどういうことでしょう。チップさんの話に延々と笑顔で相槌を打ち、フランクフルトとか一緒に食べている私です。現金の力ってすごい。お金をもらえるだけでこうも人が変わるのか。いえ、もとから貧乏臭い私でした。<br />
さらに、いい人だなー、と本当はよく知らない人なのに、チップさんの人格まで全肯定しようとしていました。<br />
 <br />
ところが、タダではないですが美味しい話ばかりでもなく、チップさんの性質みたいなものが、どんどん激化していきました。<br />
他人と接触することを何より嫌う人です。狭い店で背後を通った人の鞄や肩が当たるだけで、心底嫌そうな顔をして、「さわんじゃねーぞ、けっとばしてやろうか」と舌打ちをして、人が増えると店を出てしまいます。<br />
以前はそこまででした。ひとり言のようにも聞こえ、チップさんと接触した人が気づかないほどでした。それが、ある日、台詞の音量が跳ね上り、同時に相手の二の腕にパンチしてしまいました。見ている限りそれは猫パンチくらいの威力だと思われましたが、「おい、こら、わかってんのか。なめてんじゃねーぞ、おい」と何度も二の腕を小突きます。<br />
チップさんの背中に自分のリュックが触れたことに気がつかなかったその人は、驚いて苦笑しながら頭を軽く下げました。その態度がさらに気に入らないチップさんは、興奮した状態が続いてしまって、大声と猫パンチが止まらなくなってきました。<br />
「もう、その辺で」と私はチップさんの体を腕で止めます。知っている人には触られるのは平気なのです。そういう意味ではなく、私の態度も気に入らなくなってしまって、「おまえは黙っとけ。これは俺の問題なんだ」とますます興奮します。叩かれた人は奥へと逃げて、チップさんはさらに追いかけようとします。それをまた止めようとする私をじっとにらみつけ、しばらく無言の状態が続いたあと、ぷいっと店を出て行きました。<br />
 <br />
ああ、びっくりした。本当に叩いたよ。この先、またこんなことがあるなら、それは良くないことだわと、私は呆然としつつ、けれど、これでまたしばらく姿を見せないかも、と思いました。<br />
ところが、一週間後に復帰しました。スパンが短くなっています。そして、相変らず穏やかなときはお菓子もお金もくれますが、他人の接触だけには感情を抑えることが出来なくなっていき、立て続けに二人ほど叩いたり蹴ったりしてしまいました。<br />
「警察沙汰にはしたくないからやめてほしい」とお願いしてみましたが、「俺は悪くない」の一点張りで、まあ、そうでしょうけど・・と、お互いに気持ちは一方通行です。<br />
 <br />
お金やものをもらっていなかったら、それこそ「外でやってちょうだい」とすんなり言えたかもしれません。原発誘致か、と自分を突っ込んだあと、なぜか祖母の歌っていた姿を思い出しました。</p>]]>
        
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    <title>「去年とは違う秋の空」</title>
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    <published>2011-11-04T01:40:19Z</published>
    <updated>2011-11-04T01:43:10Z</updated>

    <summary>  先日、仕事を終えていつもの店で飲んでいたら隣の席の初対面の人に、「彼氏、いる...</summary>
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        <name>minori</name>
        
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        <![CDATA[<p> <br />
先日、仕事を終えていつもの店で飲んでいたら隣の席の初対面の人に、「彼氏、いるんですか」と訊かれたので「いません」と答えたら、「でしょうね」と言われて驚きました。「なにが見えたんですか」と質問してしまいました。すると笑って口を濁されたので、私も笑ってその場を流しました。いい滑り出しです。カウンターの中のママが最近よくする、私と出会った時の第一印象の話をし始めます。<br />
 <br />
「僕はこのオンナ（私のこと）を初めて見たときに、一生口を聞くことがないだろう、と思ったのよ。住んでいる世界も話している言語も違う、なんか気持ち悪い人にしか見えなかったわ」と彼に説明しています。「でしょうね」とはさすがに言われませんでしたが、彼は「それがまたどうして話せるようになったんですか」とママに聞きました。「なんか、話しているうちに共感できる部分があることがわかって、それから平気になったのよ」ということだそうです。当初、そんな風に思われていたとは知らなかった私には面白い話です。<br />
そういえば職場のビデオ屋で、変なお客さんに変な絡まれ方をしてなんとか交わした後に、同僚のオーラちゃんはその場にいた他のお客さんから「大変ですね」とよく慰められるらしいのですが、私はそんなことを言われたことは一度もない、という話をしたら、ママは、そらみたことか、といった顔をして、「だから、僕が初対面であんたのことを気持ち悪いと思った感覚と同じものを持っている人のほうが多くて、変な人に絡まれているあんたも変な人だから、誰も声をかけないんじゃないかしら」とまとめられました。いろいろな世界があります。<br />
 <br />
そんな私も日々のニュースで、玄海原発再稼動、ベトナムへ輸出・・などの政府の動きを知るたびに、この人たちは私とは違う国の人なのかしらと、近頃は怒りというよりなんだかポカンとしてしまいます。それは、国会だけが三月十一日に地震も津波も原発事故も起きなかったパラレルワールドに突入しているかのような現実感のなさです。<br />
オーラちゃんに選んでもらったデジタルテレビのおかげで、すっかりテレビっ子に戻ってしまった私に、「なぜテレビは大元の悪（東電）を追求しないの」とか、「原発事故のことは触れても一瞬」、「夜光塗料とかラジウムとか福島原発に関係ない証拠があがるのだけ、早すぎない？」と毎日疑問を投げかけてくるオーラちゃんです。<br />
「じゃあ、誰かがラジウムの瓶を仕込んだのかな・・、本当は都内各所に結構な量が落ちているとか」と返すと、「そういうことじゃなくて」と不満気です。<br />
 <br />
「大手メディアが東電を追及しないのは、スポンサーだからしないというより、これまで原発について考えてこなかった（ほとんど知らなかった）ため対応の仕方が分からないからではないか」となにかの雑誌で読んだり、夜光塗料の瓶が埋まっていたことが本当だとして、今回の事故がきっかけで市民が放射線量を計測するようになったから発見に至ったという話で、見つからないままでいるよりは当然良かった、ということなんだろうけど、だからまったく「いい話」とも思えないわ・・、と思ったりしているうちに、漠然とした不安に襲われた三月下旬から、私の精神状態が変わっていないことに気がつきました。<br />
 <br />
最近飲み屋で出会った女の子は母親の呪縛（価値観？）から逃れられないと悩んでいます。月に一度会う女友達は、ヒーラーに「あなたは蓑虫のようだ。自分でつくった繭に全身を縛られていて顔だけ出ている」と言われたと話して、五年ぶりに会った男の子は「電車に乗ることが出来なくなった」とたくさん歩いて二丁目にやってきて、「なんかわさわさするんです。俺、どん詰まりですよ」と嘆きました。<br />
今一番の問題は、自分が直面している自分のことである人たちが点のように幾人か現れます。そこでは原発の話は出ません。けれどオーラちゃんと原発について話しているうちに、なぜか私にとって原発が、点在する彼らの「自分問題」と同じように個人的なことに思われて、ふいに黙り込むことが多くなってきました。<br />
 <br />
数年前に、「私、医者に病気だって言われましたー」と酔っ払ってケラケラ笑いながら電話をかけてきた女の子がいました。そのあと症状は悪化して、「今、手首を切っています」とか「切っていました」とか、「起きたら血だらけで」「病院行った方がいいですか」「なんで生きてるんですか、私」と、夜中に泣きながら電話してくる二年間が始まりました。すぐには行けない場所なので、そのつど近くに住んでいる彼女の友達に相談しながら対応してもらい、私は電話で彼女が泣き疲れて眠くなるまで付き合うだけでした。<br />
二回ほど会いに行きました。<br />
そのうち出会い系サイトで知り合ったという男と付き合い始めて、その三人目あたりで症状が回復しはじめました。「もう、薬を飲まなくても大丈夫みたいです」と言って、仕事も毎日行けるようになって、昼間の吐き気もおさまり始めた頃、真夜中の電話はなくなりました。<br />
 <br />
一年後、ひさしぶりに会った彼女はガリガリではなくなっていて顔色もよく、「茶屋さんにはいろいろとご迷惑をおかけしたと思うんですが、正直、私、あの二年間のことをほとんど覚えていないんですよねー」と朗らかに笑いました。人って強い、と思いました。<br />
「男が効いたみたい」と彼女を知らない別の女の子に話したら、「彼女、美人なんでしょう」と言われて、「うん、あの女優に似ていた」と言うと、「だから男もすぐできて、抜けだせたんじゃないの」と、少し腹立たしいといった調子の返事が返ってきました。<br />
 <br />
人と比べてもしょうがない、ということが「自分問題」のとっかかりになるとは思いますが、「原発問題」は、よく知らなかった私、ほとんど何もできない私、せめてこれからは核エネルギーに加担しないようにしたい、と思う私がいるだけで、そこがとても個人的なところだとは思いますが、はなから比べる対象もなかったくらいの渦中にいるような気もします。<br />
スーパーのお刺身は食べてしまいますが、突き抜ける秋の空に深呼吸を途中で止めてしまいます。</p>]]>
        
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    <title>チップさん</title>
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    <published>2011-10-05T07:13:47Z</published>
    <updated>2011-10-05T07:18:14Z</updated>

    <summary>地デジ化に乗り遅れて二ヶ月が過ぎました。二十歳で家を出たときに買った１９型のブラ...</summary>
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        <![CDATA[<p>地デジ化に乗り遅れて二ヶ月が過ぎました。二十歳で家を出たときに買った１９型のブラウン管テレビは砂嵐を映すだけになりました。一年ほど前に急にアナログの電波も入りにくくなって、見られるチャンネルが三つくらいになったとき、私の住んでいるビルのアンテナがデジタルに切り替わったのかしら、と思いました。大家に確認はしていません。フェイドアウトのようにテレビが見られなくなっていき、今年の、しかも私の誕生日に、まったく映らなくなりました。 <br />
 <br />
こうなることはもちろんわかっていたのですが、なんとなく手を打つ気にもなれませんでした。お告げなのか、流れなのか、怠惰なのか、貧乏なのか、これまでテレビがない生活をしたことがなかったので、してもいいかも、とラジオと新聞、たまにインターネットで世の中を知る生活が始まりました。けれど、ひとつきも過ぎたころ、それにも飽きてきました。テレビが見たい。 <br />
 <br />
夏の終わりに臨時収入があり、これで新しいテレビを買おうと思いました。チュ― ナーを買えばブラウン管でも見られるだの、ケーブルテレビに加入している人はそのまま見ることができているだの、デジタルテレビを買うなら３２型くらいの大きさはないと、など、いろいろな情報を人づてに聞きながら、職場のオーラちゃんにそのお金を託して、「テレビを買ってください」とお願いしました。 <br />
 <br />
オーラちゃんはオーディオ通なのです。時々、電気屋に勤めているのではないかしら、と思うほど、商品の流れを説明してくれます。九月から十月はちょうどセールの合間だから一つ前の型のなんとかというなんとかがこんなに安く買えるはずだよ、みたいなことでしょうか。ふんふんと聞きながら、左から右へ抜けていく一方なので、一任することにしました。 <br />
 <br />
ところが秋の初めに思わぬ出費が重なり、その月の生活に危機を覚えた私は、オーラちゃんに託して一週間で、「お金を一時、回収させてください」と頭を下げることになりました。テレビを一台買うことが、こんなに生活を逼迫させるとは思いませんでした。数回飲みに出ることを我慢すればいいだけの話なのですが、それは出来ない相談です。けれど、なるべくそのお金は使わないでひと月を乗り切ろうと、封筒に入れたまま、ない神棚にそなえる気持ちで、本棚の隙間に放置しました。 <br />
 <br />
そんななか、ひさしぶりにチップさんがお店に現れました。一年ほど姿を見せていなかったわ、と思い出したら入院していたそうです。七十歳を越えているでしょうか、昔からのお客さんです。ビデオを買ってくれたあと、別途にお金をくれるチップさんです。 <br />
 <br />
いやいやいや、けっこうです、と断っても、ん、んっ、とお札を手渡そうとされます。 <br />
 <br />
受け取って、ありがとうございます、と頭を下げると、にっこりと笑います。いろいろな人に秘密にしておきたい出来事です。 <br />
 <br />
チップさんは来店し始めると、毎日のように来てくれます。昨日買ったビデオを今日売って、またビデオを買ってくれます。一週間もすると、チップさんが好きなジャンルのビデオはたいてい見尽くしたことになってしまいます。そうすると、今度は一度見たものを、再び購入されます。線路は続くよ、どこまでもです。 <br />
 <br />
ビデオを選びながら、チップさんはいろんなことをしゃべります。 <br />
 <br />
「昨日も三時間しか眠れなかった」「ずーっとビデオを見ていて、さっきまで見てい たんだ、何か見ていないと寂しくって」「あせもができた」「ぶどうがいちばん好き。大きいのじゃなくて小さい粒の」・・。一人暮らしで、「お金には困ってねぇ」そうです。地デジ化は済んでいますが、テレビはプロレス以外見ないそうです。 <br />
 <br />
チップさんは人ごみが苦手です。狭い店内にお客さんが増えると、一時的に店を出て行きます。空いた頃にまた戻ってきます。狭い通路で、背後に人が通ると、大きく肩をすくませて触れないように背伸びをします。少しでも相手が触れると、ちっ、とか、けっ、と心から嫌そうな顔をして、相手が出て行った後に、「ぶん殴ってやろうか」と恐ろしいことを言います。嫌いな奴は嫌い、とはっきりと言って、こないだま <br />
で通っていた他の店の店員が、気に入らないことを言った、もう二度と行かない、とそこのポイントカードを、私の前で破り捨てたこともありました。 <br />
 <br />
ナイーブで気性が激しい面があります。これが江戸っ子なのかしら・・、と私は気をそらしてみますが、いつ、私を嫌いになるかわからないわね・・、と緊張もします。 <br />
 <br />
ともあれチップさんのくれるチップで飲みに行くことができて、気持ち神棚に置いた封筒のお金に触れることなく、ひと月を終えることができそうでした。よく考えたら、チップさんのチップを使わずに貯めておけば、もうとっくに買えたかもしれないテレビですが、なぜそうしなかったのかは自分でもわかりません。 <br />
 <br />
ある雨の夜、仕事を終えた私は、今日はチップさんも来なかったし、お金もないし、真っすぐ帰らなければ、と思って、でも本当に財布の中身がなかったので、職場の近くのコンビニのＡＴＭでお金をおろしました。店を出てビニール傘を開いたちょうどそのとき、チップさんが目の前を通り過ぎました。顔は合わせていません。スタスタと通り過ぎたチップさんの手にはいつものウチの店のビニール袋が提げられています。 <br />
 <br />
声をかけそびれました。後姿を見送って、でも方向がいっしょだわ、とあとをついていく形になってしまいました。チップさんは思わぬ動きをしました。急に角を曲がったかと思うと細い路地に入り駐車場に出てしまって、ただまっすぐ歩いていた私のほうを見て首をかしげました。横に十メートルくらい離れていたでしょうか。私は気づかなかったふりをしてしまい、そちらに傘を少し傾けて歩き続けました。 <br />
 <br />
しまった、しまった、と直後に後悔が襲いました。もう、あの人は店に来ないかもしれない、と思いました。それから一週間たち、二週間がたった今も、チップさんは姿を見せていません。 <br />
 <br />
オーラちゃんは、テレビを注文してくれました。 </p>]]>
        
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    <title>「すれちがいの生活　７」</title>
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    <published>2011-09-02T11:52:40Z</published>
    <updated>2011-09-02T11:53:01Z</updated>

    <summary>  ある日、いっしょに被災地の様子をテレビで見ていると、オーシマが「俺も被災者っ...</summary>
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        <![CDATA[<p> <br />
ある日、いっしょに被災地の様子をテレビで見ていると、オーシマが「俺も被災者っすよね、盛岡（の刑務所）にいたから」と笑うので、「あんたはただの犯罪者だよ」と突っ込みました。<br />
盛岡で相当揺れたと言う、地震のあった日の様子を聞くと、お腹が痛くなって二日ほどまともに食べられなかった、と言いました（ちなみに私は、翌日やけにセックスがしたくなりました。しませんでしたが）。<br />
 <br />
オーシマに何か食べさせようと、カレーも二回ほどつくりました。ずっとオーシマの話を聞いてくれていたバーのマスターは、「あんまり『お母さん』して居心地良くしてしまうと、出て行かなくなっちゃうんじゃない？」と心配してくれていました。<br />
「大丈夫。カレーも思いついたらつくるくらいだし、部屋汚いし、私、いつも飲んで帰って酒臭いし、そのうち襲うかもしれない、って脅しているし、シラフの時は面と向かって、人と住むのは疲れるわ・・、って愚痴をこぼしているから！」<br />
最低です。<br />
 <br />
襲うとまではいきませんでしたが、ひどく酔っ払って帰ったある夜、私は寝ていたオーシマの顔をべたべた触ったそうです。翌朝、起きるとオーシマはいなくて、お尻がやけに痛みます。どこかにぶつけたようです。階段から落ちたか、と思いましたが、出勤して酒がぬけていくうちに、もしかして、オーシマに手を出して蹴られたんじゃないか、という気がしてきました。記憶はありません。それでついに逃げたか、とまで思いました。<br />
 <br />
家に帰ってオーシマに昨夜のことをたずねると、蹴ってませんっ！　と手をぶんぶん振って否定されて、その酔っ払いの様子を教えてくれました。<br />
「ひろし君、にやにやしながら俺の顔を触ってくるんですよ、いやぁ、怖かったっす。俺、こうやって、隅っこのほうで布団かぶって固まってしまって、ていうか、ひろし君、帰る前に吐きました？　なんか息がゲロくさかったっすよ。そんで、なかなか寝てくれなくて、参ったすよ。やっと寝たかな、と思ったら、服着たまんまじゃないっすか、ズボン脱がしたのは俺っすよ」<br />
 <br />
ああ、ひどい。<br />
ごめんなさい、と謝りました。吐いてはいませんが、ゲロ臭かった・・、ああ、ひどい。<br />
オーシマに対するエロは完全には消えていなかったようです。私は酔うと好きな男の顔を触る癖があるからです。<br />
 <br />
酔った私に被害を受けつつ、カレーも食べながら、一週間ほど働かない日々を続けた後、オーシマはネットカフェのバイトを決めてきました。すでに私は、無一文のオーシマに、毎日、千五百円を渡していました。<br />
ひと月は働いてまとまった給料を手に入れようね、それまでは貸してあげるから、と、ノートにつけながら、なぜ新橋のネットカフェを選んだの、交通費とか考えないのかしら馬鹿、とは思っていました。<br />
心では、早く出て行って、と思いながら、表面上は、ひと月の計画を一緒に立てていました。まだしばらくはこの生活が続くのか・・と、どこかで覚悟していました。<br />
 <br />
 <br />
オーシマが働き出して五日を越えた月末の夜、私は大雨の中、帰りにスーパーによって、肉じゃがでもつくろうかしら、と野菜と肉をカゴに入れて、ああ、納豆と卵も切れていたんだ、ふりかけも買っとくか、とオーシマに食べさせるあれこれを買い込んで、家に帰りました。<br />
 <br />
鍵を開けると閉まりました。開いていた様子です。あれおかしいね、と暗い部屋に入りました。オーシマは深夜出勤なので、部屋にいないのはわかっています。電気をつけると机のうえに渡していた合鍵が置かれていました。<br />
「家のカギ、忘れているよ」と、オーシマにそうメールを打って、私は缶ビールを飲みながら冷蔵庫に残っていた材料で焼きそばをつくり始めました。肉もオーシマのために半分残します。出来上がった焼きそばを食べながらテレビを見ていて、やっと気がつきました。<br />
 <br />
オーシマの服がなくなっている・・！　あれ、出て行った？　と見渡すと、ヘアスプレーにシェイバーにヘアアイロンにメイク用品もありません。最初に私物を入れて持ってきた紙袋には、ドクロの帽子とイチゴ飴が・・そして私があげた服がふたつと、今朝、ドンキホーテで買ってきたといって、私に見せた黒いキャミソールが未開封のまま入っていました。商品についている表面の写真には、女の子のモデルがそれを着て片足を上げて笑っています。<br />
 <br />
これは・・、もう戻ってこない、貸したお金も返ってこない、連絡もつかない、ないないない、と立ち上がって部屋をグルグル回ったあと、私は最後の会話を思い出していました。<br />
 <br />
ネットカフェの給料が月末締めの十日払いだから、この数日分の給料が入ったら、あとひと月の生活費はそこから念出して、もう一回、七月十日に次の分をもらうまでがんばろうか、というような会話が最後ではなくて、そのあと、「俺、今日、コレ、百円だったんで買っちゃいました」と、その黒いキャミソールを私に見せて、「ああ、オーシマが着たいの？」と訊くと、「着ないっすよ、こういうのが似合う子がいるんであげようかと思って」と言って、ウキャッ、と猿みたいに布団に転がったのが最後でした。<br />
 <br />
残されたキャミソールを手にとって、ほんとにどうでもいいものを残していって・・と脱力しました。それが置き土産で、「似合う子」は私だったのかしら・・、まさか。<br />
あの小さな革のバッグには、入りきらなかっただけだと思われます。<br />
 <br />
それきり、オーシマに電話しようとは思いませんでした。<br />
 <br />
（長い話を最後まで読んでくださってありがとうございました）<br />
 </p>]]>
        
    </content>
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    <title>「すれちがいの生活　６」</title>
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    <published>2011-08-26T02:34:40Z</published>
    <updated>2011-09-02T11:56:55Z</updated>

    <summary> そうかー、キミは「男の娘（オトコノコ）」だったのか、だから私の所へ来たのか、と...</summary>
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        <name>minori</name>
        
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    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.lovepiececlub.com/suteru/">
        <![CDATA[<p><br />
そうかー、キミは「男の娘（オトコノコ）」だったのか、だから私の所へ来たのか、と十日ほどもやもやしていたエロが、しゅるるるーポン、となくなっていくのを味わいました。<br />
「じゃあ、男の娘版メイド喫茶みたいなところで働ければいいね」と、適当にまとめて寝てしまいました。<br />
 <br />
「男の娘」・・前にここで書かせてもらったことがあります。女装する男（Not ＧＡＹ）です。女装していないときは異性愛者で、女装をしているときは男と性的な関係を持つこともあるようです。そのときの相手も100％ヘテロ（異性愛）というわけでもないようで、むしろ女より女装した男に興奮するという人たちのようです。<br />
男同士で成り立っている関係ですが、同性愛ではありません。まだ名前がついていないような、けれど遠い昔からあったような風俗かもしれません。<br />
 <br />
オーシマが二丁目のウリセンに興味を持ったのは、自分がゲイだからではなくて、女装して男とセックスできるかもしれない、と思ったからなのでしょう。店を間違えてしまったようです。女装してレズビアンバーで働けないか、と訊いてきたこともありました。「男の娘」と「レズビアン」はもっともかけ離れた存在かと思われますが、どうでしょうか。<br />
 <br />
翌朝、パソコンから鳴り響くけたたましい音楽で飛び起きました。オーシマが見ていたのは「ひげガール」（歌舞伎町にある老舗のニューハーフバー、行ったことはありません）のホームぺージです。<br />
「ああ、いいんじゃない、ひげガール。いろいろとお姉さんたちが教えてくれるよ」と寝ぼけ眼で言うと、「怖いっすよ、無理っす」と首を横に振りながら、なにやら開放された笑顔です。そのあと、大好きだと言うインディーズのヴィジュアルバンドのボーカルの写真を見せられました。かつてのイザムより数倍可愛いメイクをした男子がそこに映っていました。<br />
 <br />
「俺、男でも女でもどっちでもいいんで、可愛いくなりたいんすよ。可愛いって人に言われたいんすよ」<br />
力説されます。「そ、そうなんだ・・」<br />
まあ、可愛いよ、あんたは。美形じゃないけど、ほれ、森三中の大島さんの可愛いさだから、三枚目の愛嬌っていうの？<br />
と心でぼやきながら、米炊くか、と台所に立ちました。<br />
 <br />
オーシマは、いくら言っても、包丁に手をつけませんでした。自炊にご無沙汰だった私も、オーシマに何か食べさせようと、ひさしぶりにちょこちょこご飯をつくるようになっていました。野菜や肉を冷蔵庫に常備するようになりました。上京して初めて、炊飯器のスイッチを入れました。<br />
オーシマがウリセンで働いて得たニ、三万は、先の尖った靴に、革のバッグに、胸の空いた黒いシャツに、ファンデーションに消えてしまいました。食べるものを買う余裕がなくなって、カリカリ梅を食べています。<br />
掃除と洗濯をしてもらっているぶん、まあ、つくるか、という気持ちもありました。<br />
 <br />
食べさせている合間に、携帯電話で誰かと話し始めます。<br />
札幌で働いている妹さんに無理を言って手に入れたウィルコムです。電話をしながら味噌汁を飲もうとしています。<br />
「食べている時は電話をしない」と注意をして、電話の相手がウリセンのときに知り合った女の子の客だと聞きます<br />
食べ終わってさっそく携帯電話で話し始めるオーシマの、その会話の内容を聞くとはなしに聞いていて、なんだかイライラしてきました。<br />
 <br />
「俺は付き合うと決めた子としかエッチはしない主義だから」「え、なんで信じてくれないの？」「いいよ、エッチしたくなかったらしなくても」「デートで手をつなぐってことはエッチするってことだから」「え？　手はつなぎたいけどエッチは嫌なの？」<br />
そこでオーシマは電話を離して、通話口を親指で押さえながら、「まじ、めんどくせー、この女！」と叫んで、私の顔をみてにやけます。<br />
 <br />
「オーシマ、電話、外でしてきてくれない？」と私は追い出しました。<br />
二時間ほどして戻ってきたオーシマに、「あのさ、私がいるときは、電話しないで、メールにして」とさらに畳み掛けてしまう始末です。<br />
「あ、はい」とオーシマは素直に聞き入れ、そのあとは、ぱちぱちぱちぱち、ひっきりなしにメールを打ち続けましたが、さすがにそれは我慢しようと思いました。<br />
 <br />
電話している相手が三人いると聞いて、その中に好きな子はいるの？　と訊くと、「いないっすよ」と答えます。「つーか、ルームシェアって、誰かと住めれば金も安上がりで済むかなと思って、その候補っすよ」と自慢気です。<br />
ああ、そうね、誰でもいいから、一緒に住む人みつけて、早く出て行ってほしいと、思いました。けれど、彼女たちは、オーシマとそこまで考えているようすはなく、一向に話は進まず、オーシマはイライラしています。当然か、と彼女たちに同意しました。<br />
 <br />
「俺、さみしがりのお子ちゃまなんで、誰かと一緒に住むほうがいいんすよ」と椅子を回転させながら、本当に中学生のようです。<br />
そもそも、自立する気なんてなかったのです。誰かに依存して、適当にバイトして、お金は服や髪型に使って、そこにいられなくなったら、職場も寝ていた場所も出てしまう、それでまた次に面倒をみてくれそうな人を探す・・、それが彼の生きる道でした。<br />
加えて「男の娘」なので、したい仕事も限られてきます。日に焼けたくない、筋肉を落として細くなりたい、可愛くなりたい・・。<br />
 <br />
なんとなく私は、以前テレビで「ほっしゃん」がしていた深海魚の話を思い出していました。<br />
その雄は雌の体の十分の一の大きさで、一生を雌の腹にくっついて過ごします。産卵の時期に精子をふりかけると、雄はそのまま雌の体内に吸収されて養分となってその生涯を終えるそうです。精子をふりかけるためだけに生まれてきた雄・・。<br />
 <br />
私はオーシマと出会って、「あんた男でしょう、しゃんとしなさい！」と実は、何度言いかけたかわかりません。そういう「男らしさ」がもう使えないものとして、別の「おとこ」たちが生まれてきていることはわかっていたつもりでした。<br />
ピンクのゼブラが好きでいいね、女の子みたいになりたいノンケなの、それもいいわね・・、と受容しようとしてきましたが、ここまで依存しかできない人間になっちゃうの・・、というか、もう出て行って！　と思うようになりました。<br />
私の養分にも、なりそうにありません。<br />
（あと一回で終わります）</p>]]>
        
    </content>
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    <title>「すれ違いの生活　５」</title>
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    <published>2011-08-12T03:10:24Z</published>
    <updated>2011-08-12T03:14:16Z</updated>

    <summary> 翌朝、施設や法務省に電話して必要な手続きを聞いたあと、じゃあ、来週の私の休日に...</summary>
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        <name>minori</name>
        
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        <![CDATA[<p><br />
翌朝、施設や法務省に電話して必要な手続きを聞いたあと、じゃあ、来週の私の休日に一緒に出かけようか、と落ち着きました。まあその間に日払いのバイトでも見つけて働くのもいいんじゃない？　などと言いながら。<br />
 <br />
その晩、家に帰ってくると、オーシマはボクサーブリーフ一枚の姿で鏡に向かって二重まぶたを描いていました。肌の白いその手足を眺めていて、毛がなくなっていることに気がつきました。「剃ったの？」と訊くと、「はい、自分、毛、嫌いなんで」とツルツルになった腋も見せました。<br />
気がつくと、巨大なヘアスプレーに、ブラシにカチューシャ、ファンデーション、シェイバーにヘアアイロン（！・・高額）、が増えています。<br />
 <br />
なぜ、働いていないくせに金を使う、と思いましたが、外に出ていくときに、（自分にとっての）最低限の身だしなみを整えておきたい二十三歳男子・・、と納得しようとしました。<br />
 <br />
ウチにやってきて五日目、身だしなみのために、とうとう手持ちの二万七千円を使い果たしたオーシマでした。<br />
どうするんだろう、あの子、と他人事のように思っていると、二丁目のウリセンの仕事をみつけてきました。日払いで、客がつかなくても十時間拘束で最低二千円もらえるそうです。<br />
 <br />
「あれ、ゲイなの？」と、訊きました。「いやぁ、自分でもよくわかんないっすけど、バイっすか？」と笑っています。「オナニーするときは、女と男のどっちを思うの？」と訊きなおすと、「女っすね」と即答します。<br />
そうなんだ、と、時々ぼろりとゴミ箱から出てくるティッシュを大きく丸めたものを思い出します。<br />
「へー、でもウリセンだったら男の相手がメインでしょう。相手のチンコを舐めることは出来るんだ」と訊くと、「金になるんだったら平気っす。でも金にならないんだったら絶対、嫌です」と答えます。<br />
 <br />
ちょっと、ムラっとしました。職場のオーラちゃんに「茶屋ちゃんは、彼に対してエロい気持ちにならないの？」と訊かれて、「ちょっとある」と答えていたことを思い出しました。身なりをかまわない男子ではなく、その真逆を行く子で、自分の住みやすいように掃除をして、私のパンツや靴下をやけにクルクル丸めて収納して、体の毛を全部剃ってしまうオーシマです。<br />
毎晩飲んで帰って、家でも飲んでいる私のゴミ溜めのような部屋に、若い新鮮な空気がすーっと入ったような爽やかさも感じていました。<br />
 <br />
「ひろし君、老けましたね」と言われました。二年前に面会で出会った頃に比べて、という意味です。白髪を染めていない、あごヒゲがまばら、服の色がグレーに傾いている、そんなヴィジュアルと、汚い部屋と酒臭さがそう思わせたのだと思います。<br />
 <br />
「というか、ひろし君って怒らないですよね。言いたいことを言わないでいるんじゃないですか？」と妙に怯えられもしましたが、あ、それはエロい気持ちを隠しているからだわ、と自覚があったので、「ううん、言いたいことはそのつど言っている」と答えてみました。<br />
 <br />
お言葉に甘えて、「じゃあちょっと、チンコ見せてみな」とか言ってみようかしら・・、でもそれを言っちゃあおしまいよね・・、保護者にも友達にも恋人にもなれない若い男って、エロを肥大化させるようです。それとも私がただの人でなしなのかしら。<br />
 <br />
施設を見に行く日が来ると、布団をかぶったまま「お腹痛いんで、今日無理っぽいです」と拒否られました。子どもか・・！　と思って、「施設入りますって言ったけど、本当は入りたくないんじゃないの？」と突っ込むと、お腹をさすって頷きます。「じゃあ、入らなくていいんじゃない？　ウリセンの仕事続けてお金貯めてから出て行ったら」と言うと、ホッとした顔になりました。<br />
そして翌日には、ウリセンの仕事を辞めてきました。「マネージャーが酔っ払ってばかりで、ちゃんと給料を計算してくれないんすよ」とぼやきましたが、五日って、早すぎませんか。というか、やっぱり客のチンコを舐めるのが嫌だったんじゃないの、と思いました。<br />
 <br />
その夜、ひさしぶりに私が酔わないで、布団を並べて眠ろうとすると、修学旅行の夜のように会話が続きます。<br />
「俺、女装したいんすよね」<br />
とつぜんのカミングアウトです。「あれ、そうなの？」と訊き返すと、「やばいっすか、ヘンタイっすか」と聞き返してきます。<br />
「オッパイが欲しいと思ったことはあるの？」と、ヘンタイかどうかはどうでもいい私は直球です。「ありますね・・」「じゃあ、チンコを取ろうと思ったことは？」「そこまではないっす。あの、俺、前に女装しておっさんとエッチしたことあるんすよ。そんときに唇が色っぽいって言われて、そんで俺、女になっているときって、自分でもエロいな、と思うほどのあえぎ声が出るんすよ」<br />
止まらなくなってきました。私も応じていきます。<br />
「ねえ、じゃあ女になったオーシマは自分のことをなんて言うの？　俺、じゃないでしょう」<br />
「あ、そうっすね・・俺、女の自分に名前が付いていて、アスカっていうんですよ、だから、明日香わぁ〜、って感じっすかね」<br />
楽しそうで嬉しそうです。<br />
アスカ、と聞いて私の中ではこの漢字になりました。飛鳥だと奈良だしな。<br />
（続きます）</p>]]>
        
    </content>
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    <title>「すれ違いの生活　４」</title>
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    <published>2011-08-02T05:09:26Z</published>
    <updated>2011-08-02T05:11:06Z</updated>

    <summary> 職場のオーラちゃんが茶化したのは、もっと日常の話でした。 「そんなに気に病まな...</summary>
    <author>
        <name>minori</name>
        
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        <![CDATA[<p><br />
職場のオーラちゃんが茶化したのは、もっと日常の話でした。<br />
「そんなに気に病まなくても、すぐに出て行くんじゃない？　だって、リピーターのない家なんでしょう？」<br />
 <br />
そうです・・狭くて汚くて。<br />
 <br />
「新宿でひとり暮らしをしているんだー（マンションかしら）、今度出張でそっちに行くから泊めてくれない？（ホテル代浮くし）」<br />
と、私が「ウチは狭いし汚いよ」と前置きをしているにもかかわらず、なぜかそれを謙遜と受けとめ、私の事情をかいかぶってしまう友人たちを、一度泊めると、それ以来「泊めて」依頼がこなくなる私の家です。唯一二回、泊まりにきた二十歳の女子は、三度目の上京の際に、「もう働いていて大人になったので、今回はホテルに部屋をとりました！」とすみやかに報告してきました。<br />
 <br />
オーシマが来る前に、それでも片付けはしました。地震のときにあらゆる棚から滑り落ちてきた本やＣＤを、もとに戻してもまた崩れると面倒だし寝ているときに顔に落ちてきたら嫌だから、とかで二ヶ月くらい放置していました。それ以前に、床には物がいろいろと落ちていたので、それがクッションとなってＣＤやガラス物が何も割れなかったことは幸いでしたが、足の踏み場がない床が層になってしまったことは憂鬱でした。<br />
 <br />
これを機にブックオフに売ってしまおう、と思い立ちました。人一人が来るということで空間を広げたいし、しばらくは多少の生活費も援助しなければいけないだろうからお金もあってこしたことはありません。一日かけてダンボールで八箱分をまとめました。あれ、引越しするのかしら？　と途中で勘違いしてしまうような作業でした。<br />
続けて部屋を掃除して、布団をもう一組押入れから出して、風呂場とトイレを少し掃除して、もういいわ、これくらいで、とオーシマを迎えたのでした。<br />
そういえばオーシマも刑務所からの手紙で、「もしかしてマンションですか？　すごいですね！」と、私は何も言っていないのにかいかぶっていました。勝手に期待されることにくたびれていた私は、それを放って置きました。<br />
 <br />
「汚いでしょう？」とオーシマに言うと、「いやー、男の一人暮らしなんてこんなもんじゃないっすか」と否定されませんでした。<br />
オーシマがやってきたのはゴールデンウィークの真最中で、「施設」にコンタクトするにしても、日雇いの仕事を探すにしても、連休明けかしらね、といった状態でした。出所してきたばかりで、羽を伸ばしたい気持ちもわかり、けれど使えるお金もそんなになく、一週間ほど、べたーとウチにいる具合になりました。<br />
私は連休中も毎日働きに出かけていました。ある日は、出掛けに洗濯をお願いすると、「掃除もしていいっすか？」と訊かれました。「ええ、お願い」と当然のようにすましながら、内心は、やっぱり汚いのね・・、と申し訳なく思いました。<br />
 <br />
雑巾や洗剤や掃除機を出して後をまかせました。その日は、なんだかんだ褒めてやらないといけないような気がして、まっすぐ帰宅しました。<br />
トイレの便座に新しくカバーがかかっていて、それはピンクのゼブラでした。<br />
便器を洗うブラシ、洗剤、ビニール手袋、雑巾・・、風呂場に買ったばかりのものがあふれています。<br />
・・だから、あるものでなんとかしなさいよ、なんで、すぐにお金を使っちゃうの、と思いましたが、汚かった風呂場と便器が綺麗になっているのは事実で、というより、私が使っていた（否、あまり使っていなかった）掃除用具に触れることさえ嫌だったのかも、と引け目もあり、私の口から出てきた第一声は、「ピンクになってる〜！」という阿呆な歓声でした。<br />
「ひろしくん、ピンクが好きなんだと思って」と笑うオーシマにつられて視線を辿ると、たしかに私の色々なピンクのシャツがハンガーに干してありました。<br />
「幾らくらいしたの？　お金出すよ」<br />
と、財布を取り出すと、「いいっすよ、ていうか、もともとひろし君のお金だし」と断られました。ああ、刑務所に送った時の金か、と財布をしまいました。ちなみに刑務所内での作業で得られるお金は月にニ、三千円とのこと。私が送ったお金は使わずに貯めていて、それはもし、私の家を宿にできなかった場合の予算にするつもりだったようです。まだ、二万円くらいはあるとのこと、それ、仕事がみつかるまでの食費だね、と思いましたが、その認識はすぐにくつ返されることになりました。<br />
 <br />
その翌日は家に帰って来ませんでした。携帯電話を持っていないこともありますが、連絡もありません。三日でプチ家出？　と展開の速さに驚きましたが、一人になりたいのかしら、とたいして心配もしませんでした。朝になっても帰ってこなくて、合鍵は渡しているので、私はそのまま出勤しました。その晩帰るとオーシマはいて、昨夜は池袋（なぜ？）のカラオケボックスに一晩中いたこと、たくさん歌ったあと、一人で考えていたら眠くなって寝たこと、を報告しました。その結論はこうでした。<br />
 <br />
「ひろし君、俺、施設に入ります！」<br />
「あ、そうなの？　じゃあ、明日は平日だから、いろいろなところに電話して聞いてみようか」と答えました。<br />
 <br />
そのあと、また住み込みでホストやるよりも、まずは地味でも昼間の仕事をコツコツこなして、アパート借りて自立するほうがいいんじゃない？　というようなことを言いました。「はい」「はい」と神妙に聞くオーシマです。<br />
嫌になったらすぐに仕事を辞めて、お金が入ったらすぐに使い果たして、あとに続かないことを繰り返して、そんなことを続けていてもしょうがないんじゃない？　というようなことを言いながら、あんまり人のことは言えたもんじゃないけど・・、と自分に返ってくるようでした。<br />
 <br />
てっきり私は、オーシマが同じ画を描こうとしていると思い込んでいましたが、後になってそうじゃなかったことがわかりました。施設になんか入りたくないし、コツコツと働くなんて意味がわからない・・、ただオーシマは宿主の私に話を合わせようと必死だったようです。<br />
（続きます）<br />
 <br />
 </p>]]>
        
    </content>
</entry>

<entry>
    <title>「すれ違いの生活　３」</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.lovepiececlub.com/suteru/2011/07/post-172.html" />
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    <published>2011-07-08T12:35:51Z</published>
    <updated>2011-07-08T12:36:14Z</updated>

    <summary> 「オーシマ、この先、どうするつもりなの？」 ビールを一口飲んで、横柄に結論を急...</summary>
    <author>
        <name>minori</name>
        
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    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.lovepiececlub.com/suteru/">
        <![CDATA[<p><br />
「オーシマ、この先、どうするつもりなの？」<br />
ビールを一口飲んで、横柄に結論を急ぐ私です。まったく余裕がありません。<br />
「あ、はい、えっと、ひろし君の家にしばらくいさせてもらいながら仕事探そうかな・・って」<br />
「うんうん、そうだね。それで？」<br />
「えっ、いや、・・それで？」<br />
会話が成り立つはずもありません。インタビューに切り替えます。<br />
 <br />
「オーシマのお母さんとお父さんって、どうしているんだっけ」<br />
「どう、って？　あ、それは、手紙にも書いたんですけど・・」<br />
「あ、そっか、ごめん、そうだよね。ちゃんと覚えていなくて。もう一回聞かせて」<br />
「いやぁ、それが自分で言うのもなんなんですが、複雑な家庭環境で」<br />
とオーシマは目を輝かせて話し始めました。<br />
 <br />
出身は北海道の小さな町で、中学生のときに両親が離婚、もともとは母親の連れ子だった四つ上の姉は母親の元に、オーシマと二つ下の妹は父親の元へ引き取られました。その後、父が再婚します。その再婚相手と「合わなかった」オーシマは、高校にほとんど行かず、地元の友達と自販機を壊したりして、少年院に入ったりします。そのあと一人で札幌に出て、十八から二十歳くらいまで、鳶に、カラオケボックスの店員、そしてホストと、職を転々としてから、東京を夢見て、上京してきました。そのあと歌舞伎町でホストをしますが、長続きせず、人の財布から金を盗んで、逮捕、そして東北の刑務所へ・・短い間に、行ったり来たりの人生です。<br />
 <br />
現在、母親は地元の町で生活保護を受けながら単身で暮らし、姉は一度結婚したものの離婚して三歳の子どもと母子寮に入って生活保護を受けながら暮らしていて、妹は高校を卒業後、札幌に出て、働きながら生活しているということでした。<br />
父親は再婚した家族と生活しているそうです。<br />
母親と父親に向けて、刑務所から手紙を何度も出したオーシマですが、母親は送金出来ないとの返事で、父親からは一切返事が返ってこなかったそうです。<br />
 <br />
親に対する感情も複雑のようで、憎んだり恨んだりしているかと思えば、こういうところが好きだった、と二転三転します。「俺、親の愛情を満足に受けてないんすよ」と笑います。ほだされるなよ、俺、と、私も「俺」になって冷静を努めます。<br />
 <br />
中学生のときに、再婚する前の父親と暮らしていたときの様子を語ります。<br />
「フルボッコ、っすよ。すぐ俺を殴るんですよ。俺が悪いことをしたときはしょうがないんすけど、仕事から帰ってきて機嫌がわるいときも殴るんですよ。最悪っす。小遣いはもらえなくて、靴が欲しい、って言うとお父さんが自分で選んで買ってくるんですよ。だから自分で選んだ服や靴を着たりはいたりしたことないんですよ。そのせいか、自分で稼げるようになったら、すぐ服に金使ってしまうんですよ」<br />
「もっと最悪なのは、昔、姉ちゃんをレイプしてたんすよ。親が離婚したのはそれが原因っす。姉ちゃんはお父さんのこと許してないし、俺もその話聞いてから、許せなくなった部分もあって、どうしていいのかわかんないですよ。姉ちゃんは俺にすごくやさしくて、俺大好きなんですよ。姉ちゃんはヴィジュアル系が好きだったから俺も影響を受けて、それで、ホストになりたい、って思ったんですよ。かっこいいじゃないっすか、田舎町だからダサい格好しか出来なくて、それで札幌行って、東京に出てきたんすよ」<br />
 <br />
父親の再婚相手のことについても話します。<br />
「口うるさくて最悪でした。もう、毎日口喧嘩っすよ、それが嫌で、家に帰らないで悪さばっかりしてたらカンベツ行きになっちゃったんすよ。差し入れとかはしてくれましたけど、出たら出たで、やっぱりガミガミ言うから、それで一人で札幌に行ったんです」<br />
 <br />
話が錯綜しますが、だから結局、この子は私に、「殴らないで叱らないで、やさしく保護してほしい、そのあいだ、適当に働いてオシャレを楽しみたいの」と全身で訴えているのでした。・・無理だよ、と気が遠くなりました。<br />
 <br />
「更正保護施設」の話を持ち出すと、それまで気が緩んでたくさん話していた顔に緊張が走りました。「知ってる？」と聞くと、うなずきます。施設の件は、出所する前に、刑務所で提示されたそうです。<br />
「いや、でも、俺は、ひろし君の家に行くことが決まっていたから、施設は断わったんですよ・・。うわ、まいったな、ひろし君がそこまで考えているとは思わなかった」<br />
 <br />
「そうなんだよね。本当は、出所前に手続きするものらしいけど、出所後も適応できるかもしれない、と思って」と、ネットで調べたことと、現実的なサポートの話をしてみました。「まあ、そういう方向も考えてみてよ。ウチにしばらくいて自立できるようになるんだったらいいけど」と私自身、先のことが見えないまま、提案してみました。<br />
 <br />
翌日職場のオーラちゃんに、オーシマの半生を話すと、「うーん、嘘かもね」と軽くいなされました。ええー！　とのけぞる私です。もうだまされているの、俺。「嘘、わかんない」とオーラちゃんは笑いました。<br />
今にして思えば、オーラちゃんは茶化していたわけではなくて、冷静に事にあたっていると自分では思いながら実は大きく状況に流されて興奮している私の粗熱を、そっと取り除こうとしてくれていたような気がします。<br />
（まだ続きます・・）<br />
 <br />
 <br />
 <br />
 <br />
 </p>]]>
        
    </content>
</entry>

<entry>
    <title>「すれ違いの生活　２」</title>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.lovepiececlub.com/suteru/2011/06/post-171.html" />
    <id>tag:www.lovepiececlub.com,2011:/suteru//31.3172</id>

    <published>2011-06-17T10:37:34Z</published>
    <updated>2011-06-17T10:37:55Z</updated>

    <summary> 先日、いつものように自転車で帰宅していて、家の近くの交差点で止まったとき、横断...</summary>
    <author>
        <name>minori</name>
        
    </author>
    
    
    <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://www.lovepiececlub.com/suteru/">
        <![CDATA[<p><br />
先日、いつものように自転車で帰宅していて、家の近くの交差点で止まったとき、横断歩道に頭をはみ出したかたちで、大きな体の男性がうつぶせで倒れていました。短くてまばらな白髪頭をあげて、大きな目で私を見上げています。大きなガマ蛙（失礼な）に睨まれているような錯覚に陥りました。が、その目は懇願している様子でした。<br />
 <br />
思わず、「どうしたんですか？」と訊いてしまいます。倒れているんです、しか、その答えはありません。<br />
足元には杖が倒れています。あらあら、と私は自転車から降りて、側に寄りました。そのときちょうど、向こうから二人組みの女性たちが、後ろからは学生風のひょろっとした男の子が、近づいてきました。「大丈夫ですか？」「どうされました？」とみな親切に気遣い、女性たちと男子はそれぞれ、おじいさんの両脇に腕を挟んで起こそうとします。私は杖を拾いました。<br />
身長も幅もあって、なかなかの重さのようです。みな踏ん張ってその体を支えようとしますが、肝心の両足がぐにゃぐにゃで、力が入らず立てない様子です。酔っ払っているのね、とわかりました。まだ夜の八時くらいです。私は杖をつかせようと手元に持っていってみましたが、力が入らないのは足だけではないようで、デッキを持てません。<br />
 <br />
意識はハッキリしていて、元気は元気で、ずっとしゃべっています。「おかしいなー、昔はもっと強かったのになぁ、こんな弱くなっちまってなぁ」「ありがとーうございます！　こうしてみなさんに支えられて生きて参りました！」、みんなで、なんとなく笑いながら困った感じになったところで、前の食堂から若い女将さんが出てきました。すると、とつぜんじいさんは叫びます。「見たことのある娘じゃ。そうか、お前は、俺の娘じゃないか！　ノブエだろう。おー、なにしとる、もっとこっちへ来んかぁ」<br />
 <br />
娘じゃねーだろ、と思わず突っ込んでしまいます。女将さんはいったんお店に引っ込みました。そこへ、先ほどまで飲んでいたと思われる居酒屋の主人がかけつけてきて、「今、家族に電話したから、迎えにくるそうだから」とみなに伝えました。<br />
女子も男子も、おじいさんの両脇に腕をつっこんで、立つのも座るのもままならない巨体を中途半端に持ち上げた状態が続いています。そこへ、先ほどの女将が、大将といっしょに店の椅子を持ち出してきました。<br />
 <br />
そこへ通りかかった三十代のスーツ姿の男性が、上から覗き込もうとして、「どうしたんですか、大丈夫ですか、なんですか」とせわしなく訊いてきました。みんな、おじいさんを椅子に座らせようと必死で、誰も答えません。仕方がないので私が、「酔って転んだみたい」と答えてあげました。「本当に、大丈夫なんですか」とそれでも言うので、知らないわよ、うるさいね、と思いながら、うなずいてやると、どこかへ行きました。<br />
状況を見て自分で判断しなさいよ・・、自分が安心したいだけなの？　それともいい人に思われたいだけ？　・・まったく、人命救助では足を引っ張るタイプね、と思いましたが、私は私で、杖を拾って、持たせようとして失敗してガードレールに立てかけた、くらいのことしかしていません。<br />
「それでは、お先に失礼しまーす」と、私は自転車に乗って、その場をあとにしました。<br />
親切な人がたくさんいてよかったわぁ、と思いながら、爽やかな帰宅になりました。<br />
 <br />
 <br />
刑務所から出てきた男子を一時的とはいえ、家に住まわすことに、私はなんの覚悟も出来ていませんでした。まあ、いきなり漫喫ってわけにもいかないでしょうから、三日くらい泊まってけばいいんじゃない？　と許容量が極端に狭くなったり、けれどひと月働いてお給料をもらうまでは、と伸びたり、脳内でじたばたしていました。<br />
家に来る日が迫ってきた頃、私はそのじたばたを落ち着かせようと、ネットで出所者のための社会復帰をうながす施設を調べていました。「更生保護施設」といって、法務省の管轄で運営されている、宿泊無料の施設です。食事も朝晩つきます。主に身寄りのない人や未成年の出所者を対象としているようです。仕事と部屋をみつけるまでいることが出来ます。早くて一月未満、遅くて三ヶ月で、社会復帰が出来るようです。<br />
 <br />
前科持ち、ということで、私も彼に、どうやって就職や賃貸を借りるときのサポートをしてあげたらいいのかわかりません。身分証や保険などもどうしたらいいのか、ここは公的機関に委ねるのがいいかもしれない、という現実感と、やっぱりなんだかんだ言って知らない男と長期間住むことには耐えられないかもしれない、という防衛心に押されての案でした。<br />
 <br />
私の家に来たその夜、飲まないで帰った私は、玄関に出てきた彼に、「お帰りなさい」と自分の家に迎え入れられました。かつて私が留置所（近所の警察でした）に差し入れたジャージを履いています。新品だったそれは、二年のあいだにくたくたになって、すっかり彼の体型に馴染んでいました。<br />
「さてと・・」となにから話していけばいいものやら、と私は彼を座らせて自分も座りましたが、落ち着きません。ほぼ初対面の相手と話すときに、自分の部屋って・・私の色が濃すぎます。彼は私が口火を切るのを、ぽかんと口を開けて待っています。<br />
「・・外で話そうか」と私は、近所の居酒屋に連れて行くことにしました。<br />
 <br />
ビールを注文すると、彼はお酒が飲めないと言って、オレンジジュースを注文しました。「俺、お子様なんで」と笑います。その笑顔、誰かに似ています。その時はわかりませんでしたが、数日後、森三中の大島さんだと気づきました。大島さんを三周くらいコンパクトにした体型ですが、顔は大島さんです。呼び名がないのも不便なので、オーシマにしておきます。じっさいは、彼を下の名前で呼んでいました。（続きます・・最初の小咄が長いせいです、すみません・・）<br />
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    <title>「すれ違いの生活　１」</title>
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    <published>2011-06-03T08:15:33Z</published>
    <updated>2011-06-03T08:16:10Z</updated>

    <summary> 職場の近くに東京電力の営業所があります。ある日の午後、職場のオーラちゃんがその...</summary>
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        <![CDATA[<p><br />
職場の近くに東京電力の営業所があります。ある日の午後、職場のオーラちゃんがその前を通りかかろうとしたときの話です。向こうから腰の曲がったおばあさんが歩いて来て、営業所からは、ＩＤカードを首から提げたスーツ姿の男性が、携帯電話で話しながら出てきたそうです。<br />
三人がちょうど重なろうとしたとき、とつぜん、おばあさんは立ち止まり、曲がった腰をシャンと伸ばして、その携帯電話の男性に向かって、「放射能を止めろぉぉぉ！」と怒鳴りつけたそうです。オーラちゃんは驚いて立ち止まりました。スーツ姿の男性も携帯電話を耳から放して、呆気にとられているようでした。<br />
おばあさんは、腰をもとに戻すと、なにごともなかったかのように、そのまま通り過ぎて行ったそうです。<br />
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なにそれ、かっこいい・・、ひとりデモ？　ピンポイント？　しかも省エネ！　と笑う私に、「茶屋ちゃん、笑えるんだー、ぼくは、なんか、怖かったよ」と戸惑うオーラちゃんです。<br />
 <br />
たしかに、瞬間的な非日常の出現は、怖いことかもしれません。しかし、放射線量を測ることがすでに日常化している現在です。各地で行なわれている反原発デモの様子を一切取り上げないテレビのニュースと、（おそらく）、そんなテレビを日々見ながら覚えている危機感を一発でパフォーマンスにしてしまう、おばあさんの意識とのすれ違いを、垣間見たような出来事でした。<br />
  <br />
さて、先月は私の家に居候がやってきました。二十三歳の男子です。二日の日に、刑務所から出てきました。知り合ったきっかけは省きますが、彼が服役していた二年間、ずっと手紙のやりとりをしてきました。身よりも友達もいない、という言葉に流されて、三回ほどお金を送りました。合計すると、三万円くらいです。寒くなってきたから毛布を買いたい、とか、下着やシャンプーを買いたいから、とか、そういう要求でした。<br />
出所日が近づくにつれて、出所したらしばらく私の家に住まわせてもらえないか、と言う内容になってきました。半年前からです。<br />
それに私はなかなか返事を書けずにいました。<br />
周囲の人に相談すると、十人中十人に、「やめといたほうがいいんじゃない」と言われました。<br />
彼とは二回しか会ったことがなく（しかも人に頼まれて留置所に差し入れに行った時に）、手紙のやりとりを続けているとはいえ、まだよく知らない部分がたくさんあります。恋人でも友達でもない、よく知らない男（そしてノンケ）を、六畳一間に受け入れて一緒に生活するなんてできるだろうか、ということと、捕まった容疑が窃盗だったこともさらに不安を煽りました。<br />
 <br />
面倒を見られないのに引き受けることは返って良くない結果になるのではないか、私の家が二部屋以上あったら、金銭的に余裕があれば、彼を更正させる意識があるのなら・・、ないない、と、居候を断る理由はいくつも思い浮かぶのに、私は、でもやっぱり見てみたい、彼がどんな人なのか、どういうふうに私と関わるのか、という欲にとらわれていました。<br />
 <br />
一度会った時点で、嫌なものを感じていたら、断っていると思うの、とか、必要とされている感じを手放せないのかもしれない、とか、出所してきてマンガ喫茶に泊まりながら仕事を探すのって荒むような気がする、とか、言い訳のようなことも思い始めて、保留にしているうちに、地震が起きて、あっというまに（って、そんなことはありませんが・・）出所日間近になっていました。<br />
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しょうがない、実際に会って話して、今後のことを決めたらいいか、と、とりあえず家に入れることにしました。<br />
 <br />
当日、大き目の紙袋に私物を全部入れて、職場のビデオ屋に現れた彼は、記憶にあった姿より小さい人で、ほっとしました。もっと、ぱつんとしていて、よくものを食べていそうな人だった気がしていたからです。留置所で面会していたときのイメージをそのまま伝えると、「あのころは、食べることしかすることがなかったから、太ってたんですよ、そのあと十キロはやせました」と笑いました。<br />
黒いPLAYBOYのパーカーに、ドクロがプリントされたキャップつきの帽子を斜めにかぶっています。なんだか、「ドンキホーテ」です。<br />
けれど、刑務所で髪を切ってもらったのか、真っ黒な髪が博多人形のように短いおかっぱになっていて、そこだけ違和感があって面白い。<br />
「中ではずっと坊主なんですけど、出所日の半年くらい前から髪を伸ばしてもいいんですよ」と説明してくれました。<br />
色が白く、眉毛がなく、目は細く、肩幅もなく、あとで聞けば、身長は百六十センチで体重が五十キロ、服は上下とも、レディースのＭサイズがちょうどいい、ということでした。<br />
 <br />
若い男といっしょに住むことで、初めに私が気にしたのは、その威圧感でした。同年代の女の子が部屋にいるのと、それはずいぶん違うのではないかしら、ゲイの男の子ならまだしも、気のつかいようも、立てる物音も、自然に荒かったら嫌だわ・・、と思っていました。けれど、私より小さいその姿を見たとき、その辺りは、例えそうだとしても、なんとかなりそうだわ、と払拭されました。<br />
 <br />
私は仕事中で付き添えないから、一人で私の家に行ってもらえる？　と合鍵と家までの地図を渡しました。歩いて三十分の距離です。<br />
東北の刑務所から、開通したばかりの新幹線で出てきたそうです。バスじゃないんだ・・、と少しひっかかりました。「今、幾ら持っているの？」と所持金を訊くと、「二万七千円です」と答えました。それは私が送ったお金だと言います。あれ、毛布買わなかったの？　他にもアテがあった？　刑務所での作業で幾らか支給された分もあったのかしら・・、いろいろあとで確かめないと・・、「とにかく今は仕事中だから、帰ったら話そうね、疲れているだろうけど、あと少しだから」と送り出そうとしたら、「タクシー使ったら、幾らくらいっすか？」と訊いてきました。「歩きなさいよ。そんなことでお金使っていたら、あっというまになくなるよ」と即答してしまいました。<br />
先が思いやられるスタートです。（続きます・・すみません）</p>]]>
        
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