『恋するベーカリー』なんてぬるい題名じゃ、見逃すとこだったわ

2010年7月 7日

歌舞伎好きが、季節にいちばん合った着物を着て歌舞伎座に出かけたように、映画を見に行くのにおしゃれをして出かけるのも素敵なもの。いま、見に行く人々がいちばんおしゃれに気合を入れて見に行く映画といえば、『セックス・アンド・ザ・シティ2』になるかしら。そういえば2年ほど前、パート1が公開されたとき、六本木ヒルズの映画館に集まるお客さんの気合密度の高さが大変なことになっていると聞いたわ。集まったお客さんからすれば、六本木ヒルズこそがマンハッタン、ってとこだったんでしょうね(最近の六本木ヒルズはゴーストタウンと化しているけれど)。

アタシ? アタシは逆張りが好きなので、「みなさんがマンハッタンでこの映画を見るのなら、アタシはミランダの住処・ブルックリンでこの映画を見るべきね。そう、イースト・リバーを越えるのよ!」と、隅田川を越えて錦糸町のシネコンでパート1を見たりして。うふふ。

 先日、パート2を見てきたのだけれど、今回は、日本のマンハッタン・六本木ヒルズでも、日本のブルックリン・錦糸町でもなく、日本のチェルシー(つまりオカマの園)・新宿のバルト9で鑑賞を。

●「プレゼントが液晶テレビ!? ジュエリーじゃないの?」の名言を吐くわ、キスひとつで大騒ぎするわ、もはや名人芸の域に達したキャリーのウザさ、
●まったくブレのない(そして数多のオカマがシンパシーを抱かざるを得ない)サマンサのヤリマンっぷり(ローレンス・オブ・ラビア!)、
●戦うときには戦い、いたわるときにはいたわる度量でさらに株を上げつつも、あと一押しで誰よりもヤリマンへと開花しそうなポテンシャルを見せつけるミランダ、
●保守本道を突き進みながらも、「このスカート、ヴァレンティノのヴィンテージよ!」と、ところどころでいい感じのエグゼクティブビッチっぷりが露呈するシャーロット、

 と、安心して見られるゴージャスムービーではあったけれど……、『セックス・アンド・ザ・シティ』の「セックス」の部分を、サマンサひとりに全部押しつけてしまっているのがどうにもこうにも不満だわ。もしパート3が作られたら、「セックス」の分量はますます減ってしまうのかしら……。

 と、そんな感想を漏らしていたアタシに、友人がある映画を教えてくれました。それがメリル・ストリープ主演の『恋するベーカリー』。タイトルだけで「ほんわか&ちょっとおしゃれな、ぬるいラブコメかしら」と敬遠していたのだけれど、これがなかなか。原題は『It’s Complicated』(「込み入ってんのよ」って感じ)だから、このタイトルのほうが先に情報として入ってきていたら、食わず嫌いすることもなかったのに、とちょっと悔しい思いもしたわ。

 絵に描いたようなダメ男(しかも熊のようなメタボ)なのに、なぜかフェロモンだけは人一倍の元ダンナと、うっかり焼けぼっくいに火がついてしまう50代のベーカリー経営者(メリル・ストリープ。メリル本人は61歳)が、バツイチの建築家ともアフェアを繰り広げる……という話。シリアスに描こうと思ったらいくらでも描けし、また、メロドラマにしようと思ったらどこまでもソープオペラ調にできるテーマなのに、仕上がりはとってもポップ。アタシはかなり好みだったわ。

 メリルとオンナ友達、4人で繰り広げられるババアトークは、すでに本家『セックス・アンド・ザ・シティ』以上のあけすけっぷり&愛らしさ。日本じゃ絶対に“アウト”なモノを使って、メリルと元ダン、建築家、そしてメリルと元ダンの娘ムコまでがはっちゃけるシーンにも思わず頬が緩んじゃった。“アウトなもの”をどう捉えるかで、人それぞれ印象が変わるシーンだけど、アタシは、“この年ではっちゃけること”の楽しさ、貴重さを重要視したいのよね。

 垂れ下がってきたまぶた、ドレスの下のリアルすぎるブラ、「立った状態で裸になるのは、肉がつきすぎているのが見えるからイヤ」という、アタシにとってもリアルすぎるセリフなど、「もう、決定的に若くない」という現実をたくさん散りばめながら、それでもポジティブでいることができる……という映画だった。

 アタシにとって、「ババアがアバンチュールを楽しむ映画」のナンバーワンは、ジャンヌ・モロー主演の『厚化粧の女』。自分にフラフラと寄ってきた20代のジゴロに「強い酒でも飲みなさい。シラフじゃ抱けないでしょ」と言い放つ、とてつもなくカッコいいババアをジャンヌ・モローが演じていたの。あまりにカッコよすぎて、「死ぬまでに、ここまでのババアになれるかしら……」とも思っていたのだけれど、「その域に達する前に、もう一段、行っていい場所があるのね、それもさしたる難しさもなく……」と、教えてくれるのが『恋するベーカリー』だったわけ。メリル・ストリープは40代から、ライトな(いい意味でね)映画で素晴らしい持ち味を発揮しているわね。ちょうどDVDも発売(レンタル開始)されたから、「ババアのセックス」に何かしらのカンフルを与えたいと思っている方がいらしたら、レンタル屋さんに入ったときに思い出してみてはいかがかしら。

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高山 真(たかやま まこと)プロフィール

高山 真高山 真(たかやま まこと)プロフィール

編集者・ライター
高山さんへのメールは taka52you@hotmail.comまで。
初の著書『こんなオトコの子の落としかた、アナタ知らなかったでしょ』 を、LPCでは直筆サイン&メッセージカードつきで発売中。
本人似顔絵イラスト by わた


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