『笑顔の行方』なんて、アタシの知った話じゃありません!
2010年3月10日
悲しいことに、世の中は自分の好きなものばかりで満たされているわけではありません。アタシもたいがい好き嫌いの多い人間なので、嫌いなものに腹を立てたりうんざりしているだけでは身がもたなかったりします。嫌いなものに出会ったときの対処法のバリエーションを増やしていくのは、オンナとオカマが生きていくうえでの必須条件かもしれないわね。例えば、そうねえ、1冊目の本に書いたように、
「相田みつをの作品と、みつをの作品に泣く人たちの精神性が嫌いなら、いっそ相田みつを美術館に行くことを罰ゲームのひとつにして楽しむ」
といったような感じね。
さて、もうすぐ4月。新入社員が働き出す時期です。バラエティ系のテレビ番組に、新人アナウンサーがお披露目よろしく挨拶出演するのもそろそろかしら。となると、またアタシ(とアタシの周りの友人知人)が大嫌いな、あのフレーズが連発されるのね……。
「笑顔でみなさんを元気にしたいです!」
「笑顔で不況の日本を元気にしたいです!」
ひいいぃぃっ! このフレーズからあふれ出す無自覚の傲慢さが、もう腸イヤ。この種の言葉を本気で口に出せる人たちに向かって、
「アナタの仕事は“笑うこと”ではなく“原稿を正確に読むこと”でしょうが」とか、
「ある特定の他者から“アナタが笑うと、僕(私)まで元気になれる”と言われるのと、“僕(私)は、笑顔で誰も彼をも元気にできる”という自意識を持つことの間には、広くて深い河が横たわっていましてね……」とか、
「笑顔ひとつで国ごと救う気?」とか、アタシたちにとっては至極まっとうな意見を言ったとしても、遠くの星に石を投げるがごとくその言葉が届かないことが容易に想像できるだけに、ますますもって腸イヤ。
まあ、そうは言っても、「相田みつを原理主義者」たちがいなくならないのと同様、「“私の笑顔で元気になって”原理主義者」たちもいなくならないのは仕方のないこと。こういう人たち、「傷つきやすい」という自己申告とは裏腹に、実は異常なまでに生命力強いからさ。そう諦めたアタシたちは、自分たちの考えをこう落ち着けることで一応の決着を見ました。
「ならばいっそ、“相田みつを体験”を罰ゲームにしてなんとか昇華したように、この種の言い草も生活に取り込んでしまいましょう。イラッとさせられ続けるよりは、精神衛生上はるかによろしいわ」
例えば、友達の顔色が悪いとき。あるいは、ケチな恋もどきが終わって落ち込んでいたりするとき。すかさず、大仰に(つまり、確実に人の癇に障るように)驚き、これ見よがしに顔を曇らせながら、こう言うの。
「どうしたの? 元気ないよ。すごく心配。だから私の笑顔で元気になってよ」
すごいわよ。相手の顔色2秒で元通り。そしていつもの声のトーンになって、「いやー! ムカツくこのオンナ! っていうかいい加減にしてクソババア!」という罵詈雑言が返ってくるの。うふふふ。
「ペラい励まし言葉は、ショック療法としては腸有効」という処方箋は、みつをに限らず世の中のさまざまなクサい歌詞なども立証してくれていますが、「笑顔でみんなを元気に」は、過去に世の中を席巻した数々の処方箋に勝るとも劣らない効能があるはずよ。世の中のペラさ加減にどうにも居心地の悪い思いをなさっている方々、よかったら参考にしてみてちょうだい。
PS
最近聞いた話だと、2011年に就職する学生たちの就職活動で、この種の言い回しが事故アピールの場で大流行してるらしいわ。そう、「仕事を通じて、笑顔でみんなを元気にしたい」とか、本気で言ってるんですって。アタシが面接官だったら落とすわね。うふふ。
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高山 真(たかやま まこと)プロフィール
高山 真(たかやま まこと)プロフィール
編集者・ライター
高山さんへのメールは taka52you@hotmail.comまで。
初の著書『こんなオトコの子の落としかた、アナタ知らなかったでしょ』 を、LPCでは直筆サイン&メッセージカードつきで発売中。
本人似顔絵イラスト by わた
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