『Toi et Moi』はどこまでいっても別の形だけれど……

 この間、金融関係の仕事をしているある友人とお茶をしているとき、「アンタって、どうして書き続けているの?」と訊かれ、一瞬答えに詰まってしまったの。物書き志望の子に「何を書いたら本を出せるの?」と問われれば、「そんなことはこんな隙間エッセイストに訊くもんじゃないわ。だいたいアタシ、はじめは10話か12話限定で消えていく予定のお笑いライターだったんだから。って言うか、お笑いライターなのはいまでも変わらないわね」と即座に答えることがお約束と化しているアタシなのだけれど、この種の根源的な質問を、ものを書く仕事などに興味を示したことがまったくない人から受けたのは初めてだったから、ちょっと驚いてしまったのね。

「書いたものが評価される」のはものすごく嬉しいけれど、アタシは、「文筆活動を通じて“自分”を売りたい」という野望がとことん希薄な人間よ。『Moura』の対談でマツコ デラックスにからかわれたように、アタシは顔写真を一切公開していない。それは、会社勤めの人間であることと、自分の顔を自分で見ることに対して羞恥の気持ちが圧倒的に大きいことに加え、「有名になる」ということにメリットよりもデメリットのほうを多く見ているからなの。書いたものをどう批評されようが、それは批評する側の自由だから、まったく気にしていないけれど(批評する側も、その批評文のレベルが厳粛に判定されるというリスクを当然しょっていらっしゃるわけだから)、会ったことのない人に自分のビジュアルを認識されてしまうのって煩わしくないかしら。アタシはけっこう小心な人間なので、新宿伊勢丹やそこかしこのホテルやレストランで、非人道的スレスレのお転婆を繰り広げることに必ず躊躇が生まれてしまうような気がするし。そういう意味で、芸能人(と芸能人になりたい人たち)って、皮肉でもなんでもなく「すごいわねぇ」と思うわ。「自分のビジュアルも賞賛されたい」ということに衒いがない人たちって、アタシにとってはやっぱり別人種だもの。

最初は「業が深くて意地悪で、でもどこか“姐さん”なオカマが、美形のノンケをどのように歯牙にかけているか」だけを書いて終わるはずだった高山真のキャリアが、こうして形が変わっても書いているのは、やはり、読者の方々からいただいたメールの存在が大きいわ。正直言って、ノンケ落とし以外のことを書き始めるようになってから、「10代のころに一生分の自己否定を味わった反動で、困難や面倒を底意地の悪い笑いでぶち破るようになったオカマの体験記」に、多くのオンナたちがご意見を寄せてくださったことに本当に驚いたのよ。アタシは、自分と自分の周りの人たちのことだけを考えて生きてきたところがあった(いまでもそういう部分はたっぷり残っているわ)から、「オトコ」の中でも少数派な「ゲイ」の、そのまた少数派な「ババア志向の強い、業の深いオカマ」の戯言に反応してくださるオンナたちの存在がとっても新鮮だったのね。

そんな新鮮な驚きを通過して思ったのは、?「ガーリーな生き方と女子のラブ体質を賞賛することで、女子からの人気を集めるゲイもいるけれど、アタシに何かしらの共感を寄せてくださるオンナたちは、アタシなりの“反作用”の力を評価してくださっているのかもしれない」 ? ということだったの。 ??? 社会がそう強制するからなのか、同時に、社会の価値観に洗脳されてしまうからなのか(まあ、その両方でしょうが)、オンナとオカマは、どうしても自己否定と無縁ではいられない。「俺は男だ」と自分で自分に履かせるものにせよ、「○○は男だから」みたいに親や学校が履かせてくれるものにせよ、オンナはゲタなんてそうそう履かせちゃもらえないわよね。ゲイは、履かせてもらったゲタを「これは本来、自分の足にはまるものではない」と放り投げたくなるものだし。アタシの場合は、「オトコのくせに、オトコが好きになるなんて」「この先、結婚する相手はもちろん、誰に対しても、一生、本当の姿を見せて生きていくことはできない」と悩み始めたのが、ゲタどころか自分の身長を削る勢いで沈み込んだ“暗黒の10代”の幕開けで、対して、アタシの書くものに反応してくださったオンナたちは、「男子よりも高いところに上っていく女子より、男子に選ばれる女子のあり方こそが正道」というテーゼの中で、「自分の跳躍力を自分で削らなくてはいけないのかも」という思いに苦しんできた方が多かったの。まあ、オトコたちにはオトコたちで、「履かせられたゲタがあまりにも自分の身の丈に合わなくて苦しむ」という、違った形の困難はあるんだけどね。

加えて、アタシはいまでも「“性愛”のカテゴリーでいちばん好きな人とずっと一緒に生きていくことが、人生の最重要項目だ」とは、どうしても思えないの。「結果としてそうなったら楽しいかもね」とは思うけど、アタシも彼も、好きな相手が変わる可能性は当然あるし、だいたい友愛を差し置いて性愛を最重要指定することなんてアタシにはできっこないから(何度も書いているように、いまの彼に向けている感情も、彼のお母様に対して抱いている性愛とはまったく別の感情を抜きにしては成立しないわ)。 ??? 世の中に流通している「当たり前」のいくつかが、どうしても自分にはそぐわないものであると気づいたとき、アタシはときに強引極まりないやり方も駆使して『マイルール』を作り上げてきた。そんなアタシの方法論は、どこまでいってもアタシの方法論でしかないので、すべての人の身の丈にピッタリ収まるようなものであるはずがない。でも、アタシのやり方の一部を参考にするのであれ、反面教師にするのであれ、オンナたち(そして、ごく一部のオトコたち)が、その人なりのマイルールを作ったり考えたりする、何かしらのきっかけになってくれれば、こんなに嬉しいことはない。アタシが書き続ける理由って、結局それしかないのかもしれないわ。

そんなアタシの考えをまとめた本を、9月に出すことになりました。そして10月には、まだ本決まりではないけれど、何人かの読者の方にお目にかかってお話ができれば……と思っています。それが、アナタが自分自身のことを考える、何かのきっかけになることを、強く願っています。今後とも、どうぞよろしく。


INDEX
[2008/12/06]
『ALONE』を充実させるために必要なもの
[2008/11/05]
『One Year After』で得たものは痛みだけではないの
[2008/10/05]
『アグリっ娘』で「uglyっ子」。うっかり共感しちゃいそう…
[2008/09/01]
『少女ファイト』も素敵だけれど「ババアファイト」も素晴らしいわ
[2008/08/04]
『自由の代償』って、人によっては残酷なものなのかもしれないけれど
[2008/07/01]
『酒とバラの日々』の裏側にあるもの
[2008/06/06]
『冷たくしないで』が今のアタシのテーマかしら
[2008/05/01]
『はじめての出来事』を何度も繰り返すアタシも、けっこう好きよ
[2008/04/07]
『平坦な戦場でぼくらが生き延びること』って至難の業なんだけどね
[2008/03/03]
『ロ・ロ・ロ・ロシアンルーレット』をセックスで試すなんて……
高山真さんの著書はLPCショップで販売してます。サイン付きよ!

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