『セクシーボイスアンドロボ』で4年ぶりにドラマっ子になってしまったわ

なんとなくタイミングを失ってしまい、いままで書くことができなかったのだけれど、この4月から6月まで、アタシは、あの名作ドラマ『すいか』以来、本当に久しぶりに「見逃してはならないわ」と思うドラマに出会えていたの。『セクシーボイスアンドロボ』というマンガを原作にした、松山ケンイチと大後寿々花が主演する同名作がそれ。

正直言って、タイトルだけで判断していたら、アタシはまずこのドラマをチェックしていなかったと思う。だって、サラリと考えたら、中学生役の大後寿々花が「セクシー」または「セクシーボイス」、20代のオタク男子役の松山ケンイチが「ロボ」ってことでしょ。アタシの食わず嫌い感をこれ以上ないくらいに刺激してくれるセンスだもの。同じように感じていた20代以上のオンナたちも多かったんじゃないかしら。いえね、大後寿々花と松山ケンイチそのものは、アタシは好きでも嫌いでもなかったのよ。と言うか、好き嫌いを判断できるほど、アタシはふたりの出演作を見ていないしね。

ただ、この作品は、脚本に『すいか』の木皿泉、物語のキーパーソンに浅丘ルリ子を配していたから、その部分に賭けて第1回目をチェックしてみたの。で、こちらの期待をはるかに上回る仕上がりに、改めて木皿泉の底力を見た思いだったわ。

ショートボブのウィッグをつけたルリ子は、どことなく『黒衣の花嫁』のジャンヌ・モローを連想させるビジュアル。第1話で、信号機の上にあるロボットのフィギュアをパチンコで打ち落とす様子も、映画の中で弓矢を引くジャンヌ・モローを思い起こさせるものだった。まあ、ジャンヌ・モローの狙いはロボットではなく人だったのだけれどね。

このドラマのメインは、ニコ(大後寿々花)の成長の物語。学校や家でも、周りとの軋轢を避けるため、人と深く関わることがなかったニコが、オタク青年のロボ(松山ケンイチ)をはじめ、さまざまな人たちと関わっていくことで成長していく話なの。その要所要所で浅丘ルリ子演じる謎の骨董屋の主人・マキが、ニコ(および他の登場人物)に何かしらの箴言を与えていく。その箴言がまた含蓄に富んでいて、ドラマに深みを与えることに成功しているわ。

生きることは、社会と「どうしようもなーく関わっている」(マキのセリフより)こと。“自分らしさ”とは、いやなことをしないことではなく、いやなことでも自分のやり方でやり遂げること。家族とは、知らないもの同士が出会って、時間が経てばバラバラになるもの(これを悲観的に響かせないのはさすが)。人は変わっていくものであり、ずっと同じなんてありえないのなら、人と別れることを怖がっていてはダメ。別れないと次の出会いはない。出会いは、必ずある。etc……。

さまざまな経験とマキの与えるアドバイスで成長していくニコ。第1話の終わりの、「私は、はじめて、生きるのって怖いと思って、泣いた」というニコのモノローグは、最終話の「私はずっと私の味方でいようと思う。私を救えるのは、宇宙で私だけだから」という美しく力強い決意に昇華するの。

ロボに淡い恋心を抱いていたニコは、成長していくに従って、その代償として「ケンカしたわけでも、引っ越したわけでもない」「いつでも会えると思っていた」(ニコのモノローグより)のに、ロボと離れてしまうことを受け入れる。それをただ悲しむのではなく、「もしかしたら、何十年後に、ロボと“次の出会い”をするかもしれない」という、子どもの時代には想像しづらい“希望”を匂わせて、ドラマは終わる。

『すいか』が20代以上のオンナたちに向けた“愛”ならば、『セクシーボイスアンドロボ』は10代中盤から20代前半の人たちにこそ届いてほしい“愛”だったような気がするわ。閉じられた自分の世界から、痛みを引き受けてでも一歩を踏み出す勇気。自分を変え、成長させていくのは、恋する相手でも家族でも友人でもなく自分自身であることを覚悟する勇気。このふたつの勇気を、しっかりと練り込まれた「物語」の中にたっぷり詰め込んだ、素晴らしい出来栄えのドラマだと思ったわ。単にセリフだけで伝えたいことを説明しようとする、安易なドラマが多い時代に、本当に貴重な作品だったと思うの。

誰の頭にもわかりやすい話の筋立てで見せるタイプのドラマではなく、セリフの深みやシーンごとの作り込みで見せるタイプのこのドラマは、もしかしたら、10代中盤から後半の、本来ならもっともこういうドラマを見てほしい層には届かなかったかもしれない。リリシズムと涙と笑いが、ほんの1時間の間に目まぐるしく転換していくような、あまりにも複雑で繊細な作りだったから。その3つを一度を見せようとする、あまりにも野心的な場面も多かったしね。ロボと母親(白石加代子!)が別れるシーンで、わざわざロボに韓流スターの扮装(カツラ)をつけさせるあたりはその頂点ね。アタシが10代のころだったら、こうした演出を、むしろ感動の足を引っ張るものとして認識したかもしれないので、少し心配だわ……。

ドラマが伝えるメッセージのすべてに共感する必要はない。アタシだって、マキの「許せないことや怒りは、日々のことにまぎれてどうでもよくなる。それもひとつの方法」という部分にはうなずけないしね。でも、こういうクオリティのドラマが作られたこと自体が、素直に嬉しいわ。

いまでも『すいか』をDVDで見るたびに、何かしらの新しい発見があるので、『セクシーボイスアンドロボ』も、一度見ただけでは気づかなかった何かがたくさん隠れているはず。だから、DVDになったらすぐに購入するつもりよ。もし、食わず嫌いで見ていない人がいらしたら、DVDでぜひご覧になってほしいわ。10代でなくても、いいドラマを見る喜びはきっと感じられるはずよ。


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