1冊目の本『こんなオトコの子の落としかた、……』でも書いた記憶があるし、『愛は毒か 毒が愛か』に入れたマツコ・デラックスとの対談でも少し話したけれど、アタシが生き抜く覚悟を決めたのは、母親が死んだ14歳のとき。それ以来アタシは、「自分の大きな秘密を誰にも明かせなくても、いずれ強くなって明かせたところで誰も共感してくれなくても、生きていかなきゃいけない。母親は間違いなく、姉はきっと、もっと生きたいと思い続けて死んでいったから」と念じ続けて、自分なりに戦ってここまで生きてきた、と思っているの。
ただ、これも『愛は毒か 毒が愛か』に書いたように、アタシの戦いは、大学を卒業するまでは父親に経済的に守られた状態での戦いで、それがどんなに恵まれたものであったのか気づいたのは、恥ずかしながらごくごく最近になってのことだった。情けないことなのか当たり前のことなのかはよく分からないけれど、「自分がある程度ラクに呼吸ができるようになるまでは自分のことしか見えない」というのは正解だと思う。少なくとも、アタシにとっては正解中の大正解だわ。
マツコ・デラックスは、TBSの『ピンポン!』の中で、「生きるのは、涙すること」と話したことがある。「人生はつらいことがほとんどで、いいことはほんの少し。私もテレビでこんなことやっているけど、家では毎日泣いている。でも、それが人生」と。マツコの性格を知っている人間からすれば、マツコが実際に家で泣いていることは容易に想像がつくし、マツコにとって日々が生き難いものであるがゆえに、その「反動の表現」としての「女装」があそこまでアグレシッブになるのも本当によく分かるの。
14歳で「戦おう」と決めてから、アタシが喜び以外の涙を流した回数はそれほど多くないと思う。妹と従兄弟のひとりにカミングアウトをした瞬間から受け入れてもらったときに爆発した安堵の涙。母親の仏前や墓前に手を合わせながら、いまだに「アナタの望むような生き方を、たぶん私はしていません。ごめんなさい。でも、こう生きていくしかないんです」と念じていることを、ある人の前で語ったときに危うく流れそうになった涙。そして、大切な人を見送りながら、死が近づいている大切な人の手をさすりながら流した涙……それくらいかしら。
大切な人との別れの中で流す涙は、その人のために流しているのと同時に、自分を癒すためにも流していると思っているけれど、いま、アタシは、まだ生きている人のために涙を流している。
交際しているオトコの子と、彼の家族の生活が、劇的に変化することになった。それを聞いたとき、自分の力の足りなさに、彼の前で初めて涙を流してしまった。それを見た彼が「マコトさんには泣かないでほしい。いままでだってどんなに助けられたかわからないのに」と言って、アタシの肩をさすった。そのままの体勢でしばらく話をして、「これからもできる限りのことはするから」とようやく伝えて、いま、アタシはこうして仕事をしている。
何度も書いているけれど、アタシは「聖人君子」なんてキャラとは似ても似つかない、強欲極まりないオンナだ。ここまでのことを聞いてもなお、アタシはこれからも、(量は減るとはいえ)ドルガバのお洋服も買い続けるだろう。「美味しいものが食べたい」と思えば、すぐにお気に入りのレストランに予約の電話を入れるだろう。友人とバカ話にも興じるだろう。それらもアタシを形作ってきた極めて重要な一部だし、それらをすべて消し去って新しい自分になどなれるはずがないことを知っているから。
でも、同時にアタシは、ぼんやりとした想像ではなく、痛みとともに知ってしまった。アタシにアタシだけの戦いの歴史があったように、彼には彼の、彼のお母様には彼のお母様の戦いの歴史があったことを。そして、まだ会ったことのないすべての人たちが、それぞれに戦いの歴史を抱えているだろうことも。
アタシはもっとたくさんのことを知らなければならない。もっとたくさんの人のことを知らなければならない。一部の為政者の享楽と放蕩と搾取の下で想像を絶する生活をしている外国の人々のことはもちろん、すぐ近くにいるはずの、戦っているたくさんの人々のことも。
知ったうえで、「アタシにできることは本当に少ない」と、自らの至らなさに涙を流すときがこれから何度もやってきたとしても、アタシが誰かを全的に救えるなどと考えること自体が非現実的で新興宗教的であるならば、その涙は自分が引き受けるべき痛みとして、その痛みとともに生きていかなくてはいけない。いま、なんとなくだけれど、そんなことを考えているわ。
追記
日記を始めてみました。日々の生活の中で堪能した映画や音楽、本のうち、『無敵の女力』で零れ落ちてしまったもの。また、「ラブピースクラブさんのイベント以外では、どこそこに顔を出す」など雑多な情報などは、こちらに書いていけたらと思っております。推定5人の読者の皆様、よろしければご一読ください。
http://d.hatena.ne.jp/makototakayama/