『Don't leave me alone』のために、いくら払わなくちゃいけないのかしら

突然ですが、みなさんは、携帯のメールの絵文字を多用します? アタシの場合は、ものすごく少ないの。絵文字を入れないメールのほうがはるかに多いわね。

もともとアタシは、携帯のメール機能を使うようになったのが3年半前と非常に遅く、それまでは「液晶見ながら親指ピコピコ動かしている様など人に見られたら、その場で舌を噛み切るわ!」とまで言っていたほど。だから、まあ自業自得とは言え、携帯メールをやり始めたときの友人知人の「それ見たことか」の大合唱の凄まじさたるや、それはもう……。

ただ、使ってみてはじめて分かることだけれど、携帯のメールって便利なのね。夜明け前後の非常識な時間帯を除けば、いつ送っても「都合のつく時に見てくれればいいわ」と思えるの。「ちょうど忙しいタイミングにかけてしまったら悪いわね」と、どうしても思ってしまう電話に比べて、精神的なハードルが低くてすむのよね。って、そんな至極当たり前のことに気づいたのが2004年の夏というのも、いかにも90歳(自己認識年齢)のアタシらしいのだけれど。

さて、話は昨年の終わりのこと。もう10年以上のお付き合いになる、あるノンケのオトコの子ちゃんと久しぶりに会うことになったの。待ち合わせの前に髪を切る予約を入れていたので、「少し遅れるかも。サロンを出たらメールするわ」と連絡を入れたアタシ。ほどなくして返ってきたオトコの子ちゃんの「待ち合わせ時間には○○の前で待ってるよ」という絵文字入りのメールに「了解」とだけ返事して、髪をカットしてもらい、待ち合わせ場所に向かったの。

久しぶりに会うその子は、相変わらずたいそうな美形偏差値。加えて、「ケッ」と思った子と何度も会う趣味など持ち合わせていないアタシが10年もお付き合いしているように、性格もとてもいいのよ。人の話をちゃんと聞いて、自分の考えを、その相手の考えに添うような形でちゃんと表明し、時おり放つ冗談は下卑ていない。むしろ自分をネタにするようなものばかり。そんな一歩間違えれば「そつがなさすぎる」と言われかねない自己表現に、急にキスをしてくる油断ならなさまでが絶妙にブレンドされてるの。まあ当然のごとくモテるわよ、異常なくらいに。

待ち合わせ場所に少し遅れて着き、会わなかった1年と少しの間の積もる話に花を咲かせ、彼がボトルを1本空けたのは1時間後。さすがに心配になって、「ちょっとペース早すぎるんじゃないの?」と尋ねると、彼が意外なことを口にしたの。

「ねえ、マコトさんさぁ、オレのことウザいって思ってない?」

……あまりにも想像の外にあることを見聞きしてしまうと、こちらの意見を表明する前に相手を根掘り葉掘り取材したくならない? 少なくともアタシはそう。だから「ウザいオトコと酒の席でおしゃべりなんかしないわよ」という答えは言わず(鬼)、そこからは質問攻めよ。
「なんでウザがられてるって思ったの?」
「うーん……(長い沈黙)、メールの返事がそっけない。絵文字を入れるのも“だりい”のかなって」
「あ、もしかして●●(オトコの子ちゃん)が絵文字を入れるのは、“俺、このメールを楽しんで送ってるよ”っていう意思表示?」
「うん。それもある。てか、それが大きい」
「なるほどね。でも、逆に“絵文字入れすぎるとキモいかな”とか思うこともあるんじゃない?」
「あるよー。もうメール送るときは、いつでも自分的に“これくらいかな”ってバランスとるの考えるよ」
「へえ。でも、それを人には知られたくないわよね。友達にメール打つときでさえ、自分がウザいかどうかってことを心配してるなんて」
「そう。だからこんなこと人に言うの、初めて。“こんなことにビクビクしてるって人に言ったら、聞かされたほうがウザくなるかな”って思ったら、絶対言えない」
「ああ、じゃあ●●はいま、“俺ってただでさえウザいのに、こんなこと話してさらにウザくなってね?”ってことを心配してるわけね」
「そうだよ……。うわ……言うんじゃなかった。全部忘れて」
「無理よ。アタシお酒飲んでないから酔ってないし、もともと記憶力だけは異常にいいんだもの。歌手じゃないのに歌詞見ないで歌えるカラオケの曲が200曲以上はあるのよ。今の話も、少なくともむこう10年、一字一句忘れないわ」
「やめてよ……」
「ところで、アタシの答え、まだだったわね。ウザがってるかどうか」
「もう聞きたくない。つかお願いだから言わないで」
「ウザいというより、可愛いわ。もっと早くに言ってくれればよかったのに」
「マジで?」
「アタシがメールの絵文字を打たないのは、単に機械に弱い面倒くさがり屋だから、ってだけよ。プライベートで何度も会う人は好きな人だけだもんアタシ」
「……マコトさーん!」

そこからオトコの子ちゃんは酔いにまかせ、ハグとキスの嵐をアタシに浴びせる浴びせる。「むしろこの行動のほうがウザいわよ」とは言わなかったけれどね。まあ、わからなくもないし。「こんなことを人に話したら拒絶されるに決まってる」と思っていたことを、拍子ぬけするくらいにあっさり受け入れてくれた人に、はちきれんばかりの感謝と尊敬と愛情を持つ経験、アタシも自分のこととして知っているし。

それにしても、「見目麗しい顔立ちにとそつがなさすぎるくらいの性格に、油断ならなさがブレンドされた最強のモテオトコ」の裏側に、そこまでの「見捨てられ不安」があったとは。物語の世界として想像するのは簡単だけど、いざ目の当たりにすると驚きもひとしおね。「愛され、求められること」に喜びを感じること自体を決して否定するつもりはないけれど、その代償として払う精神的な締め付けの厳しさに改めて思いを馳せたというか。それがモテオトコの中にもきっちり根をおろしている現実は、アタシにとって本当に興味深かったわ。

「愛され道」って、地獄道でもあるのね。


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[2008/07/01]
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[2008/06/06]
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[2008/05/01]
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[2008/04/07]
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[2008/03/03]
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『Don't leave me alone』のために、いくら払わなくちゃいけないのかしら
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『残されたもの』が手にしなければいけない「意味」を考えて
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