『酒とバラの日々』の裏側にあるもの

 誰の人生においても生きてりゃいろいろあるのは当然で、普段「ひとり圧力団体」だの「慇懃無礼が人の形をして歩いている」だの「鬼がドルガバでやってくる」(故・ハナ肇先生『馬鹿が戦車でやってくる』リスペクト)だの散々な言われようのアタシも、この8ヶ月間は少々キツい期間を過ごしておりました。「完全に立ち直ったか」と問われると、答えを返す前にしばらく思案に暮れてしまうけれど、仕事して食事して、寝て……という、アタシにとってのごく基本的な生活を必死でこなしていただけの日々からは脱出できたかしら。「必死でこなしている」というニュアンスだけは抜けた、という感じかもね。まあ、仕事のスピードは異様に遅くなり、日常でもまだまだ行きつ戻りつを繰り返しているから、完全に戻ったとは言い難いけれど、そこらへん、焦りは禁物だわね。

 8ヶ月間という時間が長いのか短いのかはよく判らないけれど、基本的な生活を意識せずとも送れるようになったのは、友人たちが、量といい質といい、四十路前のまっとうな人間に与えたら間違いなくその人をスポイルするほどの「甘やかし」をアタシに与えてくれたからだと思うわ。

 ペン入れがアップするたびにアタシを晩ご飯に誘ってくれ、どこで食事をしようと決してアタシに財布を出させなかった漫画家や、誕生日前にアタシをあるセレクトショップに連れていき「好きなだけ選びなよ。プレゼントするから」と言ってくれた会社経営者や(なのにアタシはドルガバのTシャツを2枚買っただけ。弱ってたわね)、いつもの自分を取り戻すため当社比10倍くらいになっていたはずのアタシのドSツッコミを笑って許容してくれていた各界のハンサムちゃん&カラダ自慢ちゃんや、夜を徹してのガールトークに何度も付き合ってくれたオンナ友達や、ゲイの友人たちが折にふれプレゼントしてくれた、いかにもゲイらしいカンフルや……。老若男女問わず、お友達には本当にお世話になりっぱなしだったわ。

 ガツンと明るく過ごした日の夜、疲れきってベッドから動けない日もあるけれど、それは何度も経験していること。「疲れきった」が「疲れた」になり、「ちょっとやりすぎたわね」になるまで、もう少し、みんなからの甘やかしをむさぼらせてもらいましょう。そのかわりと言ってはなんだけど、「今度やつらに何かあったときは、アタシがきちんとお返しをしなくてはいけない」という気持ちはしっかり芽生えてきているから。そして、心温まるメールを下さった方々にも厚く御礼申し上げます。お返事が遅れてしまっていて、本当にごめんなさいね。

 誰かがアタシの何かを肩代わりしてくれるとは思っていないし、アタシが誰かの荷物を肩代わりできるとは思っていない。誰かの悲しみとかつらさとかを、全部理解できると思い込むのは僭越だとも思っている。その思いはいまでも変わらないけれど、さまざまな人の気持ちや言葉や行動が、アタシの肩にかかっている負荷をふっと軽くしてくれた瞬間は何度もあったし、今後アタシが何かするときにも、目指すべき点はそこにあるよう気がするの。そのために、アタシはこれからも自分自身の器をなるべく正確に見極めようと努めなくてはいけないな、と。そういうことを日常的に思える程度には復活したということなのでしょう。

 8ヶ月前のある別れ以来、月に1度程度、アタシなどより間違いなくつらい状況にいるお身内のもとをたずねて、いろんな話をするようになった。5年前にある人と別れたときにもやっていたことだ。まだ生々しい悲しみに切り込まないよう、その周辺に点在するとりとめもない思い出話だけを注意深く拾い続けるような会話を繰り返すうちに、いつしかなんのためらいもなくその人に関することをなんでも話せるようになる日がくることを、アタシはすでに経験として知っている。だから、もう少し。


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[2008/07/01]
『酒とバラの日々』の裏側にあるもの
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