『自由の代償』って、人によっては残酷なものなのかもしれないけれど

『Lの世界』をご覧になりながら、「オンナであることの喜び」の芳醇さを満喫していらっしゃる推定6人のアタシの読者の皆様、お元気ですか。え? アタシ? アタシは……、

「落ち込んだりもしたけれど、私は元気です」

 と、『魔女の宅急便』を気取ってご挨拶してみようかとも思ったものの、あんな思わせぶりな小娘のマネをしてみたところで91歳(自己認識上)のババアにはメリットのカケラもないことに気づき、慌てて『千と千尋の神隠し』の湯婆婆のセリフから使えそうなフレーズを探してみようとしたり。相変わらず間違った時間の使い方を心ゆくまで楽しんでいるわ。

 このところ、1年でもっとも忙しい時期だったのだけれど、それも一段落ついたので、先ほどまで、『Lの世界』に対抗すべく、お友達が貸してくれた『Gの世界』を扱った作品を見ていたの。ええ、LoveでLibertyでLuxeなLesbianなLadyたちの世界に対抗した、下品で強情で傲慢で疑心暗鬼で外道なゲイの世界って感じかしら。なんか形容詞が全部日本語なうえ、どれをとっても掛け値なしにトホホなものばかりなんですが。うふふ。

 いえね、「GorgeousでGlamorousでGlitterな」なんて形容詞が思い浮かばないこともないんだけど、そんな単語に似合う『Gの世界』というと、そうねぇ、ヴィスコンティあたりになってしまうでしょ。お友達が貸してくれたのは、ファスビンダーの『自由の代償』だったから。

 不勉強にもアタシったら、ファスビンダーの作品でちゃんと見たことがあるのはジャンヌ・モロー目当てだった『ケレル』だけだったのだけれど、いやもう、『自由の代償』、ホントにスゴかった。美しいオトコたちの悲恋やらセックスやらに感激の涙を流す腐女子のみなさんが、別の意味で号泣するのは間違いないインパクトに満ち満ちていたわ。

ストーリーをものすごくかいつまんで言うと、貧乏でブスな主人公・フランツが、ハッテントイレで金持ちに拾われ、同時期にたまたま手にした宝くじの大当たり金をバックにハイソサエティに潜り込むも、物心ともに搾取されまくって虫けらのように死んでいく……というもの。あ、「かいつまんで」じゃなかったわ。これがストーリーのすべてよ。

この映画のポイントはストーリーではないの。階段を30段くらい飛ばしてハイソサエティに入ってしまった人間が、それまでの日常にポジティブなものを何ひとつ見出せなかった反動で湯水のように金を使っていく悲しさとか、上流階級が成り上がり&成金に容赦なく浴びせる軽蔑の視線に侵食されていく様とか(このあたりの上流階級の視線のいやったらしさの描写も絶妙)、いいように利用されることを愛だと勘違いしていく様だとか、そういった「残酷な現実」を徹底的にリアルに描くことにすべての力を注いでいる感じなの。救いとか情とか希望とか、そんなものはもう清々しいくらいに存在していません。ノンケかゲイかの区別なく、日本でも、何かの間違いで(って言い方もひどいけど)大金つかんじゃった人の中には、フランツと同じ道をたどりつつある人も相当数いるんじゃないかしら。

そんな特殊な立場の人のことを出さずとも、この映画全体を濃厚に支配する、「外れ者を小バカにしたり疎外する」ゲームめいた酷薄さに焦点を当てれば、加害者的な立場であれ被害者的な立場であれ、その只中に身を置いた人も多いのではないかと思うわ。いろんな意味でこの映画って、どこまでも「現実」だと思うのよ。

 ただ、こんな映画を見た後でも、不思議とアタシは「100%どんより」にはならなかったのよね。アタシの基本的な性格が、「周りの大事な人たちといい関係であれば、あとはたいした問題じゃない」と思っているような酷薄極まりないものであること、そして、周りの大事な人たちの中にもともと銀の匙をくわえて生まれてきたような人たちがいないことも大きく関係しているとは思うけれど、なんて言うのかしら……、アタシにとっては、「持たざる者が、人とつながっていくための手段を持つ可能性」を改めて考えさせてくれた映画だったのよ。それはもしかしたら、針の穴を通すような可能性でしかないのかもしれないけれど(ファスビンダーは「針の穴のような可能性すらない」と言いたかったのかもしれないけれど)、アタシは、「現時点でまだ存在していないのなら、自分で作ってしまえ」と思えた、というかね。

 万人が見て「素晴らしい」と評価するような作品とはとても言えないけれど、もし、レンタル屋さんで見かけたら、一度ご覧になってはいかがかしら。アタシも夏休みに入ったら、ファスビンダーのほかの作品を見てみるつもりよ。


INDEX
[2008/12/06]
『ALONE』を充実させるために必要なもの
[2008/11/05]
『One Year After』で得たものは痛みだけではないの
[2008/10/05]
『アグリっ娘』で「uglyっ子」。うっかり共感しちゃいそう…
[2008/09/01]
『少女ファイト』も素敵だけれど「ババアファイト」も素晴らしいわ
[2008/08/04]
『自由の代償』って、人によっては残酷なものなのかもしれないけれど
[2008/07/01]
『酒とバラの日々』の裏側にあるもの
[2008/06/06]
『冷たくしないで』が今のアタシのテーマかしら
[2008/05/01]
『はじめての出来事』を何度も繰り返すアタシも、けっこう好きよ
[2008/04/07]
『平坦な戦場でぼくらが生き延びること』って至難の業なんだけどね
[2008/03/03]
『ロ・ロ・ロ・ロシアンルーレット』をセックスで試すなんて……
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