『ダブルマザー』もシングルマザーも幸福になれば……

2010年8月13日

 ラブピースクラブで不定期に開催している、読者の方々とのおしゃべり会『サロン・ド・タカヤマ』で、以前、参加してくださった方とこんな話をしたの。

「親友と、ひとつ決めていることがあります。『私たちのどちらかが、あるいはどちらともが子どもを生んだら、子どもを2人体制で育てよう』と。運よく私たちは仕事の時間帯がずれている。『預け(預けあい)、お互いの子も自分の子として育てよう』と」
「ということは、生まれてくる子たちは、自動的に『母親が2人いる』ということになるの?」
「そうです」
「それから、この単語を使ったら怒られるかもしれないけれど……、あなたたちの『負担』も……」
「そうです、軽くなるかな、って。仕事以外にも、風邪ひいて寝込んだときとか……」
「言葉で説明できないけれど、なんかどうにもつらいときとか……」
「そうです。そういうとき、お互いを頼れる先にしておこう、と。互助会みたいなものですね」

 アタシが「なんて素敵なの!」と叫び声をあげたのは言うまでもないでしょう。

 彼女たちは「シングルマザーになる」と決めているわけではないの。アタシにそのことを話してくれた読者の方は既婚者だしね。でも、「ダンナがいても、育児がハンパない大仕事であり、ときにとんでもないストレスになることは変わりない」ということを彼女たちが知っていて、「長屋感覚で(しかも信頼できる人と長屋感覚を作り上げて)、共同で子どもを育てるのもアリよね。自分が生んだ子でなくても『母』として対するのもアリでしょ」ということをすでに肌で感じていることの素晴らしさに、アタシは打たれたの。

「何かを知っていること」「知っている者同士で、手を差し伸べあう約束をしておくこと」、この2つは「安心」につながると思います。「ゲイであることは異常でもなんでもない。同じセクシュアリティに属している人はたくさんいる」と知ることができ、「その知識を共有できる人たちとつながってきた」から、アタシは生きのびてきたわけです。その2つがもたらす安心感があるかないか、が、どれだけ大きなことなのか、アタシは自分のこととして知っています。

……大阪で、子ども2人をネグレクトで死なせたシングルマザーが逮捕されたニュースを聞いて、アタシは「彼女にも、そのふたつがあれば、もしかしたら事態は違ったことになったかもしれない」と強く思ったの。

もちろん、子ども2人を死なせてしまった以上、彼女は法で裁かれるべきだと思う。でも、社会の中そのものに、こういった事件を誘発させてしまう要因というか状況があるのなら、それは指摘されるべきだし、考えなくてはいけない問題だと思うの。

社会心理学に「Fundamental attribution error」という言葉があります。ウィキペディアを引用すると、「個人の行動を説明するにあたって、気質的または個性的な面を重視しすぎて、状況的な面を軽視しすぎる傾向をいう」というもの。特に日本では、人を裁こうとするとき、この傾向が強いと思う。ウィキペディアには逆の概念も説明されていて、「人は自身の行動については逆の見方をする傾向がある」そう。なんでもかんでも「100%個人の問題」「社会のせいではなく、100%この母親の資質の問題」で片付けてしまうのは、このあとも同じような事件が起こることを黙認しているのと同じことのような気がするのよね……。

「母というものは、どんなときでも絶対無償の愛を持っている存在」という、異常なほど美化された考えの異常なほどの浸透っぷり。「頼れる者は自分だけ。それが大人というものだ」という価値観。そのふたつががっちりかみ合って美しく機能していくのは、湯水のように金を使える立場の人だけだと思う。平均年収が二百万を少し超える程度のシングルマザーたちにとって、それを機能させていくことがどれだけ難しい「社会」なのか、考えるまでもないでしょう。
(平均が二百万円を少し超える程度、ということは、それよりはるかに少ない額で暮らさざるをえない人たちが山のようにいる、ということでもあります)。

 彼女は離婚後、風俗店に勤めて、生活費を稼いでいた。「身内のために体を売り続けることがお前にはできるのか」と問われたら、正直アタシは「イエス」と答えられない。仮に「どうしてもやんなきゃいけない」という状況に置かれたとき、自分がどこまでのストレスを抱えることになるか、わからない。「稼いだ金を、身内のためだけに使い続ける『滅私』を十年以上は続けるんだ」という意思を持てるかどうか自信がない。彼女が「育児をほったらかしにしてホストクラブに通っていた」という報道もあったけれど、「人間は、極めて困難な状況に置かれたとき、ぬくぬくとした状況にいるときよりも、はるかに極端な行動に走りやすい」というのは、ちょっと見回せばいくらでも具体例が見つかるものだし。そして世の中には、そんなギリギリの状況で生きているシングルマザーたちが、おそらくはアタシが想像しているよりはるかに多いのだろう、とも思うの。

 彼女にとって、「お金」のほかにも、「自分の置かれた状況が非常に難しいものである」という知識と、「その知識を共有したうえで、つながりあえる人たちの存在」があれば……と本当に思う。そして、ギリギリの状況で生きている人たちに、その2つがもっと浸透しやすい世の中であれば、と願わずにいられない。

PS
「身内のために体を売り続けること」に対して、アタシが過剰なまでに「自分がその立場だったら」と思ってしまうには、理由があります。9月上旬に発売する小説に、そのことを書きました。自分の身に起こったこと、自分の身の周りに起こったことを書いたものですが、フィクションの形にしなければ書き上げることができなかったのは、「すでに会えなくなった人たちのプライバシーを守る」という意味以上に、自分の弱さのせいかもしれません。8月の終わりにはブログのほうで告知ができると思います。

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高山 真(たかやま まこと)プロフィール

高山 真高山 真(たかやま まこと)プロフィール

編集者・ライター
高山さんへのメールは taka52you@hotmail.comまで。
初の著書『こんなオトコの子の落としかた、アナタ知らなかったでしょ』 を、LPCでは直筆サイン&メッセージカードつきで発売中。
本人似顔絵イラスト by わた


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