●第23回 セックスなんて早く飽きてしまいたい

仲良くしているひとがいる、と言うと、ほぼ決まって次の質問は、「そのかたとはどれくらい続いているんですか?」というものだ。

そこでたとえばわたくしが、「えーと、もうすぐ5年ですかね」などと答えると、今度はこう返ってくる。「すごいですね! 長続きのコツはなんですか?」

知るかんなもん、である。こちとらギネスに挑戦じゃあるまいし、長続きさせることを念頭に置いて仲良くしているわけではない。

しかし、お付き合いするからには、なるべく長く、できれば半永久的にひとりの相手と仲睦まじくすごしたい――それが常人の感覚らしい。へそ曲がりのわたくしなどは、「けっ、長けりゃいいってもんでもなかろうに」と、ついつい心のうちで毒づいてしまうのだが。

誤解を招かないよう記しておくが、親密な他者との関係において適度なメンテナンスが必須なのは言うまでもない。だが、どのようなメンテナンスも関係の長続きを必ずしも保証するものではない。メンテナンスを入れながらある程度長期のパートナー関係を継続していても、仲が決裂するときはするのである。むしろ、付き合いが長期にわたるほど、パートナー間で起こるトラブルは深刻ともいえる。深い信頼と安心感を寄せているだけに、意見の不一致や無理解が生じるショックは大きいからだ。「こんなに長く付き合っているのに、いまになってどうして?!」というわけである。

ここにも常人の対人関係に関する、「付き合いが長いほどお互いへの理解が深まるはずだ」という素朴な思い込みが見られる。確かに、パートナーの言動の癖や傾向などはある程度把握できるだろう。だが、それらのデータはすべて過去に属するものだ。未来においては、当人にすら予測不可能な態度や行動を示したり、思ってもみなかった状況に置かれることは充分考えられる。

パートナー間のメンテナンスが関係の継続に効果的であるとすれば、それはきっと、パートナーや自分自身に対して抱いていた過去の思い込みを払拭して、お互いを見知らぬ他人として未来に向けてリセットしなおす作業なのではないだろうか。

と、ここまでは前振り。今回のお題は、ロングタイム・パートナーシップにおけるセックス問題である(ここでのセックスとは、性器的接触を含む性行為という意味で用いる)。これについて定石の話題は、付き合いが長くなるとセックスレスになる、というものである。もちろん、パートナーのいずれもがセックスなしでOKならばなんの問題もないが、一方はセックスしたいのにもう一方がまったくその気なしの場合や、お互いセックスそのものへの欲望はあってもパートナーに対しては欲望しないなどの場合には、ちょっと厄介なことになりそうである。

わたくしの結論から言うと、特定の相手とのセックスは、当初はどんなに肉体的な相性がよかろうとも、遅かれ早かれ飽きるものである。アメリカの自然人類学者ヘレン・E・フィッシャーが「恋愛4年周期説」という仮説を立てている。偶然の一致にすぎないかもしれないが、わたくしの実感からも4年がいいところ。なぜと問われても答えられない。過去データの暫定的な分析結果でしかない。

というか、わたくしはなるべく早く特定の相手とのセックスに飽きてしまいたい、とすら思っている。セックスを通じてお互いや自分自身を知ったり、センシティブなやり取りをしたり、安心感や満足感、充実感、悦びを得ることはもちろん重要だと思っている。しかし、それらはなにもセックスを通じなければ絶対に得られないというわけでもない。むしろ、セックスを経ずにそのような境地に達するときが早く来てほしいのである。「もうこのひととはセックスしたいと思わないからさようなら」ではなく、「このひととはもうセックスをしなくても大丈夫。安心して一緒にいられる」と思えるようになりたいのである。

わたくしは決してセックスが嫌いなわけではない。どちらかというと、したい相手とはしたいときに遠慮も気兼ねもなくセックスに打ち興じるほうだ。けれども、自分がしたいからしていると思っているつもりでも、セックスするのが苦しい時期もある。それでもやめられないという一種のセクサホリック(セックス依存症)状態に陥る。

特定の相手と反復的にセックスしたくなるのは、性欲からというよりも喪失の不安からだと思う。いましなければ、手を伸ばして捕まえておかなければ永遠に離れていってしまうのではないかという焦燥感から逃れたい一心で相手を求める。それを愛情と言っていいのかどうか、わたくしにはわからない。いくら水を飲んでも喉が渇いてしかたがない状態だ。それがしんどくて、早くこの状態から抜け出したいと願うのだが、多くの場合、飽きて次のステージに移行する前に別れがやってくる。ああ。

自分史上もっとも長続きしたお付き合いは7年。そのときのパートナーとセックスをしなくなった4年目から、恋人関係を解消するまでの3年間は、本当に気持ちが楽で幸せだった。セックスをしなくても平穏でいられる日々をすごせて本当にハッピーだった。つまり、セックス以外にパートナーと仲良くする手段が充実していったのが嬉しかったのだ。

けれどもじつは、お互いの見解が不一致だったことを後から知った。相手のほうは、パートナー関係にある限り、セックスはずっと定期的に継続していくものだと思っていたので、わたくしとのセックスがなくなってから、「自分はもう愛されていないのではないか?」と、かなり不安に陥っていたようなのだ。たいへん申し訳ないことをしてしまった。

それにしても、わたくしにとっては不安解消としてのセックスが、相手にとっては愛情表現としてのセックスだったわけだから、すれ違いにもほどがある。あの7年はなんだったのか、あの幸福な日々はわたくしのエゴを押し通しただけのかりそめの日々だったのかと思うと、急に気が滅入ってくる。

性愛の両義性は、わたくしを乗せて疾走するジェットコースターのようだ。天国のようなプラトー(高原)状態にたゆたっていたかと思うと、いきなり地獄に突き落とされる。油断も隙もあったもんじゃない。

*お知らせその1*
2008年11月3日(月・祝)に都内で『ヴァギナ・ダイアローグ』というワークショップを行います。詳細はこちらをどうぞ。みなさまのお越しを心よりお待ちしております。

*お知らせその2*
ラブピースクラブとの共同特別企画「ラブピのセックストイを使ってミヤマと遊ぼう!」のレポート(前編)をこちらに掲載しています。ぜひご覧ください。

【タフまんワールド・用語解説】
▼「恋愛4年周期説」

ヘレン・E・フィッシャー著『愛はなぜ終わるのか――結婚・不倫・離婚の自然史』(1993、草思社)より。国連『人口統計年鑑』を用いて、世界62の国・地域・民族グループにおける「離婚時の結婚年数」を40年以上にわたって調査したところ、ほとんどのグループで結婚4年目の離婚が多いことを発見。フィッシャーはこの周期を種族保存本能から説明可能としたが、当然のことながら生殖をセックスの目的としないカップルのケースは想定されていない。


INDEX
[2009/01/06]
第35回 口臭とまん臭のビミョウな関係
[2008/12/31]
第34回 まんこ座談会(2)
[2008/12/25]
第33回 まんこ座談会(1)
[2008/12/17]
第32回 ひどい言われよう
[2008/12/10]
第31回 性を語る困難
[2008/12/03]
第30回 潮吹きは謎でも神秘でもない
[2008/11/26]
第29回 マニアでフェティッシュ?
[2008/11/19]
第28回 挿入するなら指がいい
[2008/11/13]
第27回 オナニーの効用
[2008/11/05]
第26回 「付き合う」ってなんだろね?
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