知人Aは、パートナーのBと付き合いはじめてからわりとすぐに同居して15年ほどになる。いつもは明るく快活なAが、あるときこれ見よがしにため息を連発していたので、(ああ、なんか聞いてほしいことがあるんだろうなぁ)と察したわたくしは、しかたなくため息のわけを訊いてみた。
A「(はぁー)いまね……すごく好きなひとがいるんだ」(Aの好きな相手をCとしておく)
わたくし「へー。で、あなたはCさんとどうにかなりたいの?」
A「なりたいけど無理。だって、Bがいるし、もしCに気持ちを伝えたとしてもうまくいかないと思う(はぁー)」
わたくし「えーと、そもそもBとはうまくいってないわけ?」
Aいわく、Bとは付き合いはじめた当初こそお盛んだったが、同居してしばらくすると、もうすでに性の不一致が如実になった。性欲満々でいつでもセックスしたいAに対し、Bは淡白というか、基本的に虚弱系で疲れやすい体質であるうえ、仕事がひじょうに忙しく、帰宅したらセックスするより寝て体力を回復したいひとなのであった。
「自分が満たされていないことをBに話したことはあるのか?」と問うと、「ない」と遠慮がちにAは答えた。わたくしはビックリした。
わたくしの知っているAは、かなり露悪的というか偽悪的なキャラで、ところかまわずウンゲロチンマン話に花を咲かせるし、飲みの席で数人集まれば、それぞれから「オナニーのネタ(妄想)はなにか?」を聞き出すエロバカ大将なのだが、肝心のパートナーとセックスに関する交渉はまるでできていないと知れば、わたくしでなくとも驚くだろう。
わたくしはAの矛盾をつくことはしなかった。これまで矛盾含みのまま15年もパートナーシップを継続してきたのだから、いまさらその矛盾を指摘したところで、解消されるものでもなさそうだと踏んだからである。
もしかして、Bとのあいだでアサーティブにコミュニケートできない欲求不満を、仲間内の下ネタ話を盛り上げることで多少なりとも昇華しようとしてきたのだろうか。そしてAはいまもまさに、Bと満足いくセックスができないフラストレーションを、Cに恋慕するエネルギーに転換しているのだろう。
(おえええええ。は、吐きそう)
エネルギーがストレートに発揮されず、回りくどくロスの多い転換をされ、Aのなかで不健康にくすぶっているのかと思うと、吐き気がした。が、そんな素振りは一切見せず、わたくしはこう続けた。
「あなたにもだれにでも、セックスで悦びを得る権利はあるよ。Bがそれを満たすことができないなら、あなたの権利を守るためにアウトソーシングしたっていいんじゃないの? そういう交渉してみたら?」
するとAは、これまでよりも深刻な面持ちをして、「できないよ……」とうなだれるばかり。「そんなこと言ったら、Bを責めることになる。Bが可哀想だよ……」。
(げえええええ。う、うぜぇ)
燃焼されないエネルギーがついにAを内部から蝕み、お門違いの悲劇の主人公モード発動である。き、キモい。だが、わたくしはバカみたいにさらに食い下がる。
わたくし「可哀想なのはあなたのほうだよ。Bに遠慮して我慢して欲求不満溜め込んじゃってさ。話してみたら案外あっさりとアウトソーシングOKしてくれるかもよ」
A「無理。Bは独占欲も嫉妬心も人一倍強いから、そんなこと言ったら殺される」
わたくし「(あれ、さっきは可哀想って言ってなかった?)っていうか、そうわかってるんだったらBとの交渉は抜きでCに直接アプローチすれば?」
A「それも無理。どうせフラれるもん」
マジうぜぇ。お前はいったいどうしたいんだよ。
わたくしがAの立場なら、パートナーとのセックスの不満はどうにかして解消する。もしも、パートナーがわたくしとのセックスに応じず、さらにわたくしがセックスをアウトソーシングすることに反対するとなれば、そんなパートナーシップはわたくしにとってはすでにジ・エンドである。終了して結構だ。だが、Aは自分がそこまで不利な立場に置かれてもBとの関係を壊したくないという。
わたくし「だったらBに黙ってアウトソーシングしたら?」
A「無理だよ。私ぜんぜんモテないもん」
唖然。つまるところ、Aは夢想好きなただの怠け者なのだ。自分が何らかのアクションを起こして失敗するくらいなら、成功の可能性は一切捨てて現状維持に徹する派なのだ。それならそれでかまわないけれども、だったらうだうだと往生際の悪いことを言うなよ。
「モテない」「フラれる」とすねるのも怠惰なヤツの言う科白。宝くじを買いもしないで「どうせ当たるわけがない」と毒づくようなものだ。アポなし営業だって100社回れば1社くらいは興味をもってくれる取引先が出てくるものなのに、怠け者は1社目から契約がとれる確証がないと動かない(そんな確証どこにもないってば)。プロ野球の打率だって良くて3割だというのに、しかもトレーニングもなにもしないで、最初から10割打者になれないならやめておきます、みたいな。何様のつもりだか。
セックスレスの原因も、A側の言い分とB側の言い分は、じつはぜんぜん違うのかもしれない。ま、よそのカップルのことなんてどーでもいいけど、そう思いながらも根掘り葉掘り聞かされて、心の荷物ならぬ心のゴミ袋を背負わされ、気持ちが悪くなってうんざりしているわたくしがAよりもBよりもずっと可哀想だよ。
Aのような不衛生な精神状態でロングタイム・パートナーシップを継続するくらいなら、わたくしは健康的なシモユル・シングルライフを選びますよ。というか、現状を維持するならなおのこと関係性の更新や細かいメンテナンスが必要だと思うのだが、怠け者はそれが面倒くさくて惰性的にズルズルと関係を続けるのだろうか。いやはやいやはや。
*注:
もちろん、世の中にはAと違って健康的にロングタイム・パートナーシップを結んでいるカップルもたくさんいらっしゃることと思う。が、長い付き合いのカップルからミヤマが学ぶことなんてなにひとつないので「私もああなりたい!」という成功例より「絶対にああはなりたくない!」という失敗例から学ぶことのほうがミヤマ的にはずっと有益なので、上記カップル例を取り上げてみた。
【タフまんワールド・用語解説】
▼ウンゲロチンマン
うんこ、ゲロ、ちんこ、まんこの総称。要するに下世話で下品なシモの話。
▼アウトソーシング(outsourcing)
Out=外部 Sourcing=資源活用。広義には、自社が業務上必要とする資源やサービスを外部から調達すること。狭義には、自社の業務過程の一部を外部に委託すること。アウトソーシングを委託する側は自社の中心業務に集中し、それ以外の業務や専門分野に関してはアウトソーシングするのが有効(ここまではwikipedia参考)。本文では、パートナー以外の相手とセックスするという意味で使用している。
▼シモユル
シモがユルいこと。要するに、ヤリたい相手とはばんばんセックスする、性的に活発な様子。