あたしが相手と気が合うか合わないかを測る物差しの一つに、「伊藤織恵ちゃんを知っているかどうか」というのがある。伊藤織恵ちゃん…、初期の大食いブームは彼女が打ち立てたと言っても過言ではない、大食い界の伝説の人なのだ。…って、また大食いの話かよ。と思ったアナタ、あたしとは気が合いそうにありません。狭量でごめんなさい。つい最近、「大食い入門」というお宝本(大食い好きにとっての)を手に入れてしまったので、また自分の中で大食いブームが来ちゃったんですよ。
赤阪尊子さんはともかく、伊藤織恵ちゃんとなると、古くからの大食いファンでなければまずその名前を知らない。彼女は、「TVチャンピオン」の前身、「日曜ビッグスペシャル 全国大食い選手権」時代(89〜92年)から活躍していた人なのだ。まず、初めて出場した女性大会で優勝。身長155センチ、体重48キロの小柄な女子大生だった。これまでの大食い選手権の傾向から、必ずしも大柄な選手が有利でないことは知っていた。それでも、彼女には他の選手とは違う何かを感じたことを覚えている。
次に彼女が出場したのは「グランドチャンピオン大会」。歴代の男性優勝者に混じっての参戦である。誰もが勝てないと思った。「女は眼中にない」とまで言い切る選手もいた(こういうこと言う奴に限って初戦で負けるんだけどね〜)。スタッフの間でも、ハンディを付けた方がいいのではという提案もあったそうだ。しかし、織恵ちゃんはそれを拒んだ。そして、優勝した。「女だからって負けたくなかった」と、後に彼女は語っている。
あたしはたちまち彼女のファンになった。もちろん、小柄な女の子が男を負かしたことに対する純粋な驚きもあった。だけど、あたしは、織恵ちゃんのクールな立ち振る舞いに痺れていたのだ。ショートカットに、ダボッとしたシャツとパンツ。顔立ちはかなり可愛いが、化粧っ気は全くない。女性大会の決勝、ウエディングケーキ対決で、ドレスを着るのがイヤでしょうがなかったそうだ。「女に負けるか!」と、気合いたっぷりに汗まみれで飯をかき込むデブ男を意識することもなく、織恵ちゃんはいつでもマイペースに、一定の速度で食べ続けた。いつも、どんぶりの中のごはんを、一粒も残さずきれいに食べていた。
伊藤織恵ちゃんは大食い界のアイドルだった。マスコミへの露出も増えた。そんな中、彼女は語学留学のため、大食い界(どんな界じゃ)から引退することを決意した。その、引き際も美しかった。あたしは当時、フェミニズムなんて知らなかった。織恵ちゃんもたぶんそうだと思う。それでもあたしは織恵ちゃんに憧れ、彼女をかっこいいと思った。織恵ちゃんが番組で食べていた量は、後年の赤阪さんや、小林尊くん、白田信幸くんら若い男子にはとてもおよばない。せいぜい3キロという所だ(それでもすごいんだけど)。しかし、あたしにとって伊藤織恵ちゃんは、永遠の大食いアイドルなのである。
「大食い入門」のインタビューを読むと、殆どの女性選手(赤阪さんも含む)が、スタイルを気にして絶食に近いダイエットをしたり、恋人の前で少食なフリをした経験を持つ。もちろんそれに耐えられなくなったから、みんな大食い選手権に出場を果たしているわけだが、女ジェンダーに振り回されない女がたくさんいたら、大食い界で女性ももっともっと活躍できたんじゃないだろうか。(ただし、拒食症経験によって、満腹中枢がイカれたという可能性もないわけではないことを、一応付け加えておく)
風谷康宏さんという、これまたいいキャラの大食いさんがいるのだが、彼が織恵ちゃんに負けた回が放映された次の日、彼の勤める区役所に、男が怒鳴り込んできたそうだ。「女に負けた奴はどこだ!」…困ったもんである。世の中に、どんなジャンルでも女に負けたことのない男など、存在するんだろうか(「イヤハヤ、女性にはやっぱりかないませんなあ〜」っつーのはナシで)。逆に、女にも男にも負けっぱなしの人生を歩んでいる奴だからこそ、こういうことが言えちゃうんだろうなあ。「男」っていう共通項だけで、風谷さんと自分を重ねないでよ。風谷さんに失礼だわ。
話は変わりますが、今年の「24時間テレビ」100キロマラソン、杉田かおるのゴールは感動しづらくてよかった。「感動」とは、「分かりやすい記号」によって作られるものなのだねと、つくづく納得。去年の西村知美のように、泣きながら「主人」に抱えられることもなく、時折へらへらと笑みも浮かべながら、杉田かおる、一人きりで余裕のゴール。エンディングが「サライ」じゃなく、「鳥の歌」だったらもっとよかったのに。「24時間テレビ」のパロディであるべきフジの「27時間テレビ」の100キロマラソンで、「お笑い」に持って行くはずが、加藤浩二の妻が泣きながら応援したせいで(イヤ別に泣くのはいいんですが、そこを放送するかはテレビ局の判断でしょう)、感動してしまった視聴者も多くいたと思う。でも、加藤浩二が真剣に荒川河川敷を走ってる最中に、「金八先生」のオープニングを無理矢理再現したのは個人的にウケた。
それにしても今年の「24時間テレビ」のテーマ、「あなたの夢はみんなの夢」って、ジャイアンの「お前のものは俺のもの」を思い出しちゃいました。
わかりやすい「感動」とか「笑い」だけじゃなくて、初期の大食い選手権のように、「まぬけだけど感動」とか、「真剣なのに笑える」とか、そういう番組をあたしはもっと見たいのであるが。