超大型の台風がまたまた近付いているそうである。もともと明日は家で一日仕事をする予定だ。食料も二日分くらいはあるから、暴風雨の中、外出しないですみそうだ。こんな時、あたしは自由業の自由さを噛み締めるのである。
子どもの頃から絵が上手だった。別に誰に習ったわけでもない。あたしには、「才能」があったのだ。自分で言っておいてなんだが、こんなことを書くのは非常に恥ずかしい。「自惚れんな!」とのお叱りはもっともである。あたしは、小さなグループの中ではダントツの能力を持っていても、広い「マンガ業界」に入れば、ずぶずぶと埋もれてしまうほどの無名マンガ家だ。しかし、それでも、会社員にならずに済む程度の「才能」は、確かにあったのだ。そして、それがあったからこそ、台風の中、自宅でぬくぬくと、こんな好き勝手なことを書けているのかもしれない。
小学校の頃、文集作りがあると、さかいさんはモテモテであった。自分の担当ページには、文章だけを書けばよいわけではなく、たいてい余白を埋めるために絵などを描くものである。絵が下手、もしくは文集なんてうざい、というクラスメイトが、大挙してあたしのもとに「恵理ちゃん、絵、描いて〜」と、押し寄せるのである。しかし、あたしもあたしで、自分以外のページのイラストは、かなり雑に描いていた記憶がある。我ながら性格が悪い。しかし、小学生相手に代価を要求するわけにもいかず、「友達だから」という甘えの上でタダ働きさせられていたのだから、今でもあまり罪悪感はない。
中学生になると、まわりのジョシから「オタク(当時はこの言葉はまだなかったが)」扱いされているのを薄々感じたりもした。それでも、文化祭や運動会の看板描きなどに、あたしは必要な人間だったから、かわいこぶった中途半端なブスよりも、居場所は確かにあったのだ。
特に男子が苦手という意識はなかったが、高校は女子高しか受験しなかった。しかし、入学したのは私立の女子高で、そこそこ金持ちのお子さんが多かった。いくら制服があっても、貧富の差は持っている文房具や、整った髪型などでわかるものだ。みじめな思いをしたこともあるが、「マンガ部」に入部したおかげで、居場所が出来た。この頃は小遣いのほとんどを書籍(マンガ含む)に費やしており、家に帰ると、セーラー服の襟を外し、下はジーンズに履き替えるだけという「ジョシコウセイ」とは思えぬダサっぷりだった(その格好で外出はしませんけどね)。何しろ私服を殆ど持っていなかったのだ。
先日、ananの車内広告で、「母性的な女」という文字を目にした時、ああ、またこんな特集してるよ。そういや高山さんも、「最近のananはおかしい」って言ってたもんなあ。と、心の中でつぶやき、気付いた。あたしは、「昔のanan」を、知らない。フェミ的にオッケーだった頃(というのがあるのかも知らんが)すら、読んでいなかった。少女マンガ以外の女性誌は、あたしにとって、「金のムダ」だったのだ。「オシャレ」というものを楽しめるようになったのはようやく最近。自由に使える金が増えてからだ。
結婚願望の強い後輩に、こんなことを言われたことがある。「いいなあ。坂井さんは才能があって。」彼女の言葉に続くものはなんだったのだろう。「あたしにも何か才能があれば、就職活動なんてしないのに。」「あたしも何か才能があれば、男になんか媚びないのに。」「あたしにも何か才能があれば、結婚なんてしないのに。」…なわけはないか。本当に彼女に「何の才能もない」のかは、あたしにはわからないし。彼女が無意識にそれを手放してしまったのかもしれないのだから。
もちろんあたしだって、すべての仕事を一人きりで出来るわけではない。担当編集者というものがいる。たいてい男である。なぜこの人があたしのマンガを評価してくれるんだろう?と、不思議なくらい話が合わない相手もいる。それでも、担当編集とマンガ家の関係は(表面上)上下関係ではないので、「載せてやるからやらせろ」などの、あからさまなセクハラなどはされたことがない。男だらけの企業に勤めている女性から、「セクハラ?いちいち怒ってもキリないですよ〜」などと言われたら、あたしはきっと、何も言い返せない。なんだかんだ言っても、担当者とのだまし合い(打ち合わせとも言う)さえ終われば、後は一人で原稿を埋めればよい。これは確かに恵まれている方だろう。
フェミマンガ家として、あたしが出来ることは、女たちが心から面白いと思うマンガを描くことくらいだ。しかし、一体どこの媒体ならば、あたしが誰にも媚びずに描いたマンガを載せてくれるのか、見当も付かない(しかも、これはあたしのマンガがつまらないために弾かれるのか、それともフェミだから弾かれるのか、区別が付きそうで付かない)。同人誌を出せばよいのか? しかし、インテリマンガオタクにしか評価されないマンガは苦手だ。お金持ちにもなりたい。セックスの欲望を肯定することがフェミならば、それ以外の欲望も肯定してほしい。おいしいものが食べたいし、快適な住まいが欲しいし、物欲も満たしたい。一応、一発当てたら(小当たりでもよい)、後は好きなマンガだけ細々と描いて行こう、という計画なんですけどね。なかなかうまくいきませんわ。
とはいえ、若くて可愛いオンナノコをヒロインに設定する時点で、あたしのマンガはフェミとは相容れないのかもしれん。これはジェンダーと同じで、影響を受けたマンガたちに刷り込まれた悪癖なのかも。あたしのマンガオタク史についてはまた今度。