前回の続きであるが、「電車男」をまったくご存じでない方のために、まず、その説明を。
「電車男」とは、インターネットの巨大掲示板2ちゃんねるの、あるスレッドの一部をまとめ、書籍化したものである。「アキバ系童貞2ちゃねらー」である電車男が、偶然酔っ払いから助けた「お嬢様で顔も性格も良い今時のOL」エルメスに恋したものの、デートなどしたこともない彼は、2ちゃんねるの住人に、助けを求める。そして、服装や誘い方など、住人たちからあらゆるアドバイスを受け、デートを重ね、エルメスとキスするまでが描かれる。悪評高い2ちゃんねるの良心として、また、純愛ブームも手伝って、幅広い層に受け入れられた…らしい。この二人の不釣り合いさに世間は驚愕し、賞賛を送った…らしい。しかし、あたしは、電車男よりも、エルメスの「寒さ、イタさ」に、込み上げる笑いをこらえきれ…いや、実在する一般人に、そんなこと言ったら失礼ですよね〜…。だがしかし。
推定年齢二十代半ばのエルメスが、ツインテールで現れるなど、細かい所を突っ込んだらキリがないのだが、ここでは彼女の恋愛テクに的を絞ろう。エルメスは、電車男よりも年上で、さすがに童貞よりは積極的である。
こじゃれ居酒屋へ向かう道すがら、「すごい人込みですね」という電車男に、エルメスは「つかまってるから大丈夫です!」と、「さりげなく」電車男の手を握る。
電車男は、少し酔ったエルメスを駅まで送る。「家まで送ろうか?」と言う電車男にエルメスは「いい」と答える。そして電車は彼女の最寄り駅に到着。ドアの外と中でさよならを言う二人。ドアが閉まる直前、エルメスは電車男の手を引き、電車から降ろす。「やっぱり…送って…」
その後、二人はメールのやり取りをするようになるが、お互いの気持ちはもうバレバレなのに、「好き」だの「付き合って」だの「やりたい」だのの言葉は最後まで使わず、じらし合う。そして決戦の日。告白場所を夜の公園に決めた電車男であるが、緊張して、なかなか言葉が出ない。エルメスは、そんな電車男の手をそっと握り、彼の目を見つめて、一言。「がんばって!」
きゃあ〜〜〜★恥〜ず〜か〜し〜い〜☆ あたしにはとてもこんなことは出〜来〜な〜い〜…。しかし、このエルメスのキャラクター故、女だけでなく、男からも、「電車男自作自演説」「エルメス妄想説」等が出ているという。曰く、「こんな男にとって都合のイイ女性、いない。」と。年上で、経験もあるので、童貞をリードしてくれるが、肝心な時は、男を立てる。結局、この、「肝心な時は男を立てる」つーのが、肝心なわけね。だから、エルメスは電車男よりも明らかに優秀で、高収入で、年上なのに、「これからはお前が彼女を守ってやれよ!」なんて書き込む他の童貞がいるわけだ。なんとまあ図々しい。
あたしは、こういう女が実在しない。とは思わない。男より優秀でも、男を立てる。これくらいの計算、今時の女なら、いくらでもするでしょう。「アンアン」にもそう書いてあったらしいし。そんなことより、未だに男たちが、そういう女を「理想の女性」とか言ってることに、誰も異論を挟まないことの方が恐い。そりゃ、「ハウルの動く城」のソフィーについて、「おばあさんが恋したっていいじゃない」なんて、的外れな言葉も出てくるわけだよなあ。そっくりじゃん。エルメスとソフィーのキャラって。お母さんで、恋人。
しかし、「ハウル」の唯一の救いは、宮崎駿は電車男たちほど、素直じゃないことだ。
ハウルは、ソフィーに恋し、「やっと、守りたいものが出来た。ソフィーだ。」と言い残し、戦争へ向かう。このシーンは予告編にも使われていて、あたしから劇場に行く気を削いだのだが、このシーンには続きがある。ソフィーはそれを喜ばず、「(ハウルは)弱いからいいのよ」と、憤るのである。ハウルのこのセリフを予告に使う広報に問題があるよな。決めセリフっぽく見えちゃうじゃん。
そしてラスト、ソフィーに付きまとっていたカカシが、実は王子様で、彼女のキスによって呪いが解けるシーン。もちろん王子はソフィーに恋しているのだが、ソフィーはハウルとラブラブなので、王子はふられてしまうのだ。なんだかトートツなエピソードだが、ディズニーの王道の展開をパロディにすることで、「ディズニー的なもの」を否定しているようにも見えないか? でもどうせなら、その辺もうちょっと、わかりやすく描いてほしかったですけどね。戦争描写ともども。
そして、今、「ハウル」より、「電車男」より、あたしをげんなりさせているのが、あきらかに「電車男」の二匹目のどじょうを狙った、「今週、妻が浮気します」である。こちらは、2ちゃねらーよりも、「良識がある」とされた人々が集うgooコミュニティのQ&Aを本にしたものである。妻の浮気を阻止したい夫の質問から始まり、それに対する一般人のアドバイスで構成されている。こういう言い方はしたくないが、回答者の半分以上は、専業主婦と思われる。
…恐い。「電車男」は笑えるが、こっちはハッキリ言って、笑えない(あ、感動するべき?)。仕事も家事もこなし、不倫もこなす女への恨み。それが、冷静さを装って、感情的に綴られている。相談者の男も、フェミぶって家事育児分担してるけど、絶対に妻より上でないと気が済まない典型的インテリで。この人たち、ちゃねらーなんかより、ある意味全然、恐いよ。しかし、「夫の浮気に悩む妻」の相談の方が圧倒的に多いはずなのに、なんでこれを本にしようとするかなあ。もう、突っ込みどころが多くてどうしてよいかわからないよ。細木数子が流行るわけだ。