少し前の話で申し訳ないが、とある少女マンガ家が、自分の作品の中で、とある超有名マンガ家の作品の一部をトレースしていたのが問題になり、その少女マンガ家の単行本がすべて絶版になる。という事件(というほどのもんではないが)が、あった。あたしは最近少女マンガをほとんど読まないので、その作家の名前も知らず、もちろん作品を読んだこともなかった。それでもあたしの周辺のマンガ関係者(マンガ家や編集者)と会うと、自然にその話題が出る。そしてみんな、口を揃えてこう言うのだった。「トレースは良くないけど、絶版は過剰反応だよねえ。」
…だよねえ。あたしだって、トレースはしないまでも、難しいポーズだったりすると、グラビア写真などを見ながら絵を描くことがある。人間の体を何も見ないで描くのは難しいんだよっ!と、開き直るつもりは全くないが、みんな、そのぐらいはやっているはずだ。
みんながやっているから、その少女マンガ家をかばおうというのではない。やっぱ、他人の作品をトレースしたのは、まずかったと思う。でも、ここまで大ごとにするほどのことか? あたしはそれよりも、これをここまで大ごとにしたネットの世界が恐くて、気持ち悪いと思ったのだ。ためしに、その作家の名前をネットで検索してみる。すると、すぐに彼女の盗作疑惑を検証しているサイトにたどり着いた。そのサイトでは、彼女の作品と、元ネタの作品を重ねあわせ、トレースしたと思われる箇所をご丁寧に赤い線で示していた。それを見れば、トレースしたのは素人目にも明らかだ。事実、作家自身もそれを認めている。この検証サイトの管理人は、一応、「正義」のつもりで検証しているのだろうと思う。しかし、その周りにぐじゃぐじゃうようよと、それをただ「面白がって」「楽しんでいる」人間が見えてしまう。…気分が悪い。
「あげ足取り」は、確かに楽しい。あたしも性格がいい方ではないから、ツッこみどころ満載なものには鼻が利くしね。ただ、その検証サイトの管理人や、その周辺の傍観者の、作家に対する粘着質な叩き方は、その作家の盗作行為よりも、よほど異常ではないのか。彼女は、自分の作品の中のバスケシーンを、他のバスケマンガをトレースして描いていた。でも、自分の想像だけでバスケシーンを描いた場合、それはそれでバスケ経験者に「この絵はオカシイ」って、言われるに決まってるのだ。
あたしは、ネットはすばらしい発明だと思うし、かなり利用している方だと思う。でも、何かを調べるのには使っても、自分が匿名で発言することはほとんどない。なにも2ちゃんねるのような場所でなくとも、ゆる〜く、あたたか〜い、ネットのルールもマナーもきちんと守った掲示板も、それはそれで気持ち悪く、入って行けないのだ。ただ、相手が知人だとわかっている場合は別だけどね。どうも、面識がない相手とやり取りをするのは苦手である。なので、このLPCの掲示板もほとんど目を通していない。たま〜にこのコラムの感想が書き込まれると、北原さんが教えてくれるので、そういう時は見に行くけど(でも毎回パスワードを忘れている)。
ただ、あたしは「2ちゃんねる的」なものを全て否定しようとは思わない。やっぱ、マスコミってきれいごとしか言わないもんねえ。世の中もそうだしねえ。フラストレーションたまるよ。…それでも、だ。あたしはこのコラムのような「公の場」で他人に対して文句をたれる時、「これは、嫉妬から出た感情ではないのか?」と、必ず確認することにしている。嫉妬から出た文句は、たとえ批評のフリしたって、単なるいちゃもんだもんね。それから、「あたしは、自己顕示欲を満足させたいだけではないのか?」と、自分に問うことも忘れないようにしたい。あたしはマンガ家になるような人間である。自己顕示欲は人一倍だ。しかし、他人を見下すような行為で一時的な優越感に浸れても、それはあたしにとって根本的な解決にならない。あたしは自分の描くマンガによって、成功したいのだ。まあ、中村うさぎさんを見ていると、人間の欲望は果てしないのかも。と思わなくもないが。
あたしは、本当に嫌いなものは、視界にすら入れない。たとえば、細木数子の番組は一切見ない。もし、ギャラが発生するテレビコラムを書けと言われたら、仕事としていい加減なことは書きたくないので、きっちり見るけどね。マンガ盗作検証サイトの管理人は、いったいどんな仕事をしている人なんだろうなあ。全く自分の得にならないことに、どうしてあんなに情熱を傾けられるのだろう。
「正義のため」と言うなら、他にもやることあるだろうに。
見ず知らずの有名人を、ど〜でもいいネタで執拗に攻撃する人に問いたい。あんた、本当はその攻撃対象みたいになりたいんじゃないの?と。それでも、「そんなことはない!」と言うならご自由に。ちなみにあたしは自分の名前で検索かけたり一切しないから、罵詈雑言、好きなだけどうぞ。って、あたしそんなに有名じゃないか。