ウンコ11本目  「お前らのせいだ」

佐世保の事件があった時、あたしは京都にいて、京都のお家ではテレビが見られないので、事件のことは、二日後、近所の健康ランドの新聞で知った。だから幸か不幸か、事件直後の報道を殆ど見ていない。

しかし、一週間ほどで東京に帰って来てテレビを付ければ、ワイドショーでも報道番組でも謎解き合戦が続いていた。大人たちの混乱が一通り過ぎ去った後にお決まりの、「犯人がかつて書いた(描いた)もの」から人物像を勝手に推理するというアレだ。今回の材料は被害女児を含む同級生とやっていたという交換日記だ。そこに描かれたイラストのタッチが、去年と最近とで、まるで違うということから、「専門家」と呼ばれるオヤジたちがいろいろ解説してゆく。

「以前は目が大きめに描かれ、色使いも派手だったのに、このころから目が小さくなり、色も、黒の分量が多くなって来る」

これが、彼女の心が徐々に「普通」ではなくなっていった象徴であるということらしい。かつて、マンガ家を夢見ていたオタク寄り女子小学生だったあたしの経験から言わせてもらおう。

「絵のタッチの変化は、単に、好きなマンガが変わったからである。そこに意味はない」

あたしは最近のマンガやアニメに明るくないからわからないが、本物の「オタク」な人ならば、彼女が影響を受けた作品をイラストごとに全て分析してみせるだろう。これに対して、「好きなマンガが明るい少女マンガから、お耽美ファンタジーに移行すること自体が問題」と言うことも出来るだろうが、恋とオシャレがメインテーマの少女マンガだったら、嫌いになるくらいの方が健全とは言えないか。

あたしの子ども時代と、今の子どもたちの違いは、たしかにネット環境の有無ということもあるだろうが、「ディズニー(的価値観)」の有無というのもあると思う。あたしの家にビデオデッキが来たのは小4の時で、まだレンタルビデオ店は少なく、値段も高かった。あたしはテレビ放送から録画した「風の谷のナウシカ」を、セリフが暗記するほどくりかえし見た覚えがある。それしかソフトがなかったからだ。ディズニーアニメは、あたしの親世代にとっては、映画館で見る、唯一の娯楽であったようだが、その子ども世代では、ディズニーアニメは映画館でやらないし、ビデオの普及もまだだったせいで、殆ど見ていないのである。あたしがディズニーの「シンデレラ」を見たのは、20歳を超えてからだった。ディズニーランドの開園は小学校高学年の頃だったが、開園当初はとにかく混んでいるという話で、親はなかなか連れていってくれなかった。あたしが初めてディズニーランドに行ったのは、中3の卒業記念の時だった。

もちろん「シンデレラ」や「白雪姫」の物語は、絵本などで知ってはいたが、それらは「日本むかし話」などと同列の価値しかなく、あたしは「シンデレラ」よりも、「屁ひり女房」の方が好きだった。「おひめさまもの」は、たくさんある物語のうちの一つでしかなく、それを選びとるかどうかは子どもたちに委ねられていたのだ。しかし、今、あたしと同世代の親たちが、子どもに与えることが出来るソフトは、ディズニーと宮崎駿だけなのである。

日本が不況になって、世の中はとにかく売れるものしか目指さなくなった。「ひらけ! ポンキッキ」は、「ポンキッキーズ」となり、「あいうえおほしさま」などの教育的な歌は流されず、ポニーキャニオンのCDや、タレントのプロモーションの場になった。少子化で、「まんがはじめて物語」のようなアニメは視聴率が取れないから、DVDやグッズの売り上げが見込めるオタク向けアニメばかりが製作されるようになった。おじいちゃんの年金目当てに、子ども向けのブランド服、化粧品ブームは加熱し続ける。未来への影響は、見ないフリだ。

本当は、「専門家」も、「コメンテーター」も、気付いているんじゃないか。女子小学生までもが醜形恐怖を持つようになった世の中の間違いを。しかし、テレビも雑誌も美容業界がスポンサーになっている限り、そして、女を美醜で判断する特権を手放したくない男たちが社会を作っている限り、女の子たちはダイエットをやめさせてもらえない。

あたしが小学生の頃だって、女子は美醜で差別されていた。けれど、今ほどダイエットに励む子どもなど、いなかったと思う。あたしには、犯行をおかした子どもの気持ちはわからない。だけど、弁護士のオヤジ、あれだけはどうにかならなかったのか。宅八郎みたいなオヤジに交換日記勝手に読まれて、「思春期」を想像されたくないだろうなあ。ここにも、女を仲間はずれにして来たことのツケが来てるのだ。

最近さんざん、「血が好き」だのなんだのと言っていたものとして、一応断っておくけど、あたしは、本気で誰かを殺したいと思ったことは一度もない。「頼むから早く死んでくれ」と思ったことは何度もあるが。「虚構」と「現実」の区別が付かないのは、子どもたちだけじゃない。「2時間ドラマ」と「現実」の区別が付かない大人が犯人像の謎解きに躍起になり、「ハリウッド映画」と「現実」の区別が付かない大人が、戦争している世の中なんだから。ね。



INDEX
[2004/06/29]
「久々にテレビの話」
[2004/06/15]
「お前らのせいだ」
[2004/06/01]
「個性」というプレッシャー
[2004/05/18]
「血が好き」
[2004/04/27]
「少女マンガが描けない」
[2004/04/14]
「命の重さ?」
[2004/03/30]
「ひきこもりと私」
[2004/03/16]
「過剰なもの」
[2004/03/02]
「キムタクにしてください」
[2004/02/17]
「君は、yoshiを知っているか?」
[2004/02/03]
「ハロプロ!」
[2004/01/20]
「ウンコ、出てますか?」
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