イチゴ事件その44

Tは玄関でいつまでも私の背中から手を離さなかった。
「今更なんだよ!」
「会いたかった!」
「なにかあったの?!」
「やっぱりTしかいない!」
「これ以上私に構うな!」
言いたい言葉は山ほどあるのに、口に出せる言葉が見当たらない。私は腕をダランと伸ばしたまま、黙って突っ立っているしかなかった。

T「アンティル私...」
どの位の時間が経ったときだろう。Tが私の顔をうかがうよう顔を上げた。
ア「何?」
平静を装う精一杯の一言だった。

久しぶりに会ったTは髪型も化粧も服装も変わっていた。私もあの時のまま変わっていないと思われるのがしゃくで、覚えたての煙草に火をつけた。
ア「コーヒーでいい?」
T「うん。」
目がチカチカするのを我慢してくわえ煙草で私はコーヒーを入れた。

T「私ね。新しい友達がいっぱいできたの。アンティルに話したいことがたくさんあるの。この前なんか、アンティルが好きな自動販売機が3つも並んでいる所みつけて、すぐ電話したかったの」

“自動販売機”。思わずその言葉に反応しそうになって慌てて言葉を飲み込んだ。

T「はい。砂糖ないけど。」
私はありあまるほど持っているスティクシュガーをないものにした。クールな大人はブラックコーヒー。私にできることはみえみえの背伸びとTと目を合わさないことだけだった。
T「それでねA子がね・・・すごい面白い子なの。あとC子も・・・・」

苦くて飲めないコーヒーがカップの中でくるくる回っている。
T「それでね。アンティル。ねぇアンティル。」
ア「聞いてるよ。楽しそうだね。」

そう言いながらTの目を見てしまった瞬間、Tは私に抱きついてきた。その手を拒むことはもうできなかった。遠くで鳴り続けるサイレンがどんどん私の耳から遠ざかっていく。私はTの声と自分の声しかしない世界へと押し出されていった。

T「私ね。アンティルがいなきゃ駄目なの。」
答えちゃいけない答えに私は答えてしまった。私はTの首もとに自分の顔を埋めた。
ア「でも、Kとはどうなってる・・・・」
私の背中に回したTの指がその答えを何より物語っていた。
私の部屋にまたサイレンが鳴り響いた。


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[2008/11/14]
イチゴ事件その51 処女
[2008/10/01]
イチゴ事件その50 ラブホテルそれはセックスをする所
[2008/09/17]
イチゴ事件その49 ホテルつぐない
[2008/09/04]
イチゴ事件その48 逃れられない月
[2008/07/11]
イチゴ事件その47 震える歯
[2008/07/02]
イチゴ事件その46 絶望の谷
[2008/06/27]
イチゴ事件その45 Tとのセックス
[2008/06/12]
イチゴ事件その44
[2008/05/29]
イチゴ事件その43 再開
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