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<寄稿>田房永子さん「コロラドにて」

田房永子2014.03.07

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セックスカウンセラーという仕事をしている男性に取材したことがあった。指定された信濃町の「コロラド」という喫茶店にいると、腰まである髪を一つに束ねサングラスをしている、いかにもな風貌の40代男性がやって来た。二人きりで話を聞いていると、主に女体開発を得意とするカウンセラーだと言う。淡々とした口調で話しながら、「セックスでイケないとか、悩み事はありませんか」と聞かれた。悩み事があってもなくても、この男性に話すのは抵抗があった。それより私は聞きたいことがあった。
 当時私は男性向けのエロ本で記事を書く仕事をしていて、男性たちの望むエロを毎日のように目にしていた。「女が新しい靴を新調してきたらそれはやりたがっているサイン」とか「女が首をゆっくり振っていたらそれは本当にイッている証拠」だとか果てしなく無根拠な情報で埋め尽くされる。
 中でも私は「男性たちの『潮吹き』への熱い願望」について強い疑問を持っていた。性的行為に自信があると言う人ほど、「ボクは潮が吹かせられますよ」という点をアピールしてくる。そういう人は「女性が潮を吹く」ということを普通では考えられないほどの性的絶頂へ達した証しだと思っているから、それが出来るということは、「俺のセックステクニックがハンパねえ」ということだと思っている。
 私は、潮なんてGスポットを的確に刺激すれば出るものだと思っている。スポンジに例えてみたい。したたるほどの水が含まれているスポンジは指で少し押すだけで水はあふれ出す。少しの水しか含んでいないスポンジでも、ギューっと押せば少しの水は出てくる。「潮が吹かせられる」という人は、その“押し方”を知っているというだけだ。吹いているほうとしては、体内に普通にある「潮」を絞り出されても、はあ、そうですか、という感じである。女体の中の液体のようなものが「興奮」によって増えるとすれば、それを「出す」ことよりも「増やす」という作業ができるほうが「上手い」ということだと思う。むしろ「潮を吹かせられます」男は、いざ潮が吹けばそれだけで「俺OK」と満足し、あとは全部俺がイクためのタイムに変換させるきらいがあり、「上手い」とは程遠い存在とも言える。
 話はセックスカウンセラーの男性に戻るが、私は「潮吹きって、どう思いますか」と男性に訊ねた。女のイケない悩みとかについて日々考えていらっしゃると言うし、男たちの潮吹き願望にウンザリしてる女の気持ちも分かってるかもと思った。「あれはね、エクスタシーとは関係がないんだよ。男性の幻想です」と答えてくれれば、話がはずみそうだと期待した。
 しかし男性は「潮? うん、僕、吹かせられますよ」と顔を紅潮させて待ってましたとばかりに言った。しかも潮が吹かせられるどころか「遠隔操作で女性をイカすことができる」と言う。
 意味が分からないので訊ねると、「体に触れなくても、女を視覚だけでイカせられる」と言う。「試しにコーヒーカップの取っ手の穴を女性器と見立てて指マンをするから見ていてください。これを見ているだけで濡れてくるはずです」と、男性は己の長い人差し指と中指でカップの取っ手を“愛撫”し始めた。取っ手が女性器だとしたら、クリトリスがあるらへんをチョンチョンとつついたり、ソッと軽く中に指を差し入れ出し入れしたりしている。「ほら、どうですか…?」長髪を後ろにしばったサングラス男が、コーヒーカップと私の顔を交互に見ながら、ねっとりとコーヒーカップの取っ手を指で撫でている。「コロラド」の店員に見られることなんてお構いなしに、今度はガガガガガ!と勢いよく“指マン”し始めた。コーヒーカップはカチカチカチカチ! と揺れてコーヒーがジャバッとこぼれ出し、男性のゴールドフィンガーにぶっかかる。男性は二本の指を小刻みに揺らすために全身をもけいれんさせながら見開いた目で私を見つめる。その視線の鋭さは突き刺さりそうなほどだった。
「ほら、ほら…!(カチカチカチ!)」
 私は申し訳程度にコーヒーカップを見るが、「えっと…あの…そうですか」と言って目を逸らし、もう入ってないアイスティーのストローに口をつけるしかなかった。カップ指マンに自身が興奮してきてしまったのか、男性は完全に欲情した顔になり、額に汗までにじませていた。
 「あ、ちょっと私まだ、遠隔では操作できないみたいですね~」と言うと、男性はコーヒーが染み込んだ己の手を拭きながら、「自宅だともっと本格的にカウンセリングができる」と何度も何度も言ってきた。行くわけがない。カップ指マンなんかでヤレると思うんじゃねえよ、と思った。
 しかし実は、私は少しカップ指マンに興奮しかけていた。愛撫の様子を集中してジーッと見ていたら、そしてそれに自分が興奮することを自分が許していたら、確実に耳まで真っ赤になってしまいそうだった。だけど、「ほら、そうでしょう(僕の勝ちでしょう)」という空気になるのが耐えられないから目をそらした。あの男性に「遠隔操作で女をイカせされる能力」があるということにしたくなかった。ああいった“愛撫”を見たらエロい気持ちになるのは、私としては普通のことだし、もしあの男性に他の男にはない能力があるとしたら「喫茶店で恥ずかしがらずにカップ指マンできる能力」のほうである。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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