ラブピースクラブはフェミニズムの視点でセックスグッズを売り始めた日本で最初のトーイショップです。

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ずっとひっかかっている。
 
 
もう一月以上も前のことになるけれど、大阪府の橋下知事が30才以下の職員を集めて朝礼を行った。「民間企業のように」もっと働け! と叱咤激励する橋下知事の発言に、会議中、30才の女性が立ち上がり抗議した。
 
 
「どれだけサービス残業をやっていると思っているんですか! あなたがやっていることは、現場の労働者をバラバラにすることですよ!」
 
マスコミが大きくとりあげたこの「事件」。もちろん、私はこの女子をカッコイーッ! と思ったさ。瞬発力がある女子には共感するさ。迷いなく突き進める女子には心から敬意をはらうさ。しかも相手は橋下だ。いつ何時キレルかわからない男の前で、この暴れ方はなかなかできない。あっぱれだ! 作業服を着たこの職員に私はためらうことなく拍手をおくったものだった。
 
 
しかし。その数日後、私は衝撃的な動画を目にした。会議後、彼女の周りに集まったインタビュアーが「今、サービス残業は月にどのくらいやっているんですか?」と聞いた時の様子がネットで流れていた。それまでカメラの前で橋下知事批判をしていたこの職員は急に目が泳ぎ、こう言ったのだった。
「そ・・それは・・・私はしていません!」
あまりにも驚いたので、「このビデオは橋下知事に逆らう女をおもしろく思わない人々がねつ造したものではないか」と一瞬思ったほどである。
 
 
彼女のうろたえた顔から、この人が潔癖な正しさをもっている人なのだと想像する。それまでの橋下府政批判を一瞬にしてゼロ、もしくはマイナスにしてしまうような不利な証言であっても正直に答える潔癖で真摯な人だ、と。そしてその真面目さ、その潔癖さも含めて、私は自分でもちょっと驚くほどの衝撃を受けた。それは最も見たくないものを見てしまったようなショックなのだと思う。
これは彼女だけの問題じゃない、そんな風に感じたのだと思う。
こういう人を、私はたくさん知っている。こういう人をたくさんみてきて、私は、何かがすごく嫌いになっている。
 
 
自分のことではなく、全体のことを語る人。全体のことを語って、自分のことを語った気になっている人。
大阪府の職員のその人が”そういう人”と断定するのは乱暴かもしれない。でも、自分がしていない「サービス残業」を、橋下知事を批判するために「どれだけやっていると思っているんですか」と怒ることができる神経は、私には、さもしい怒り、にみえる。
怒りのための怒り。運動のための怒り。高揚感だけの怒り。
それは、”中国が嫌い”だからと、聖火リレーを便乗して妨害する右翼ととても似ているようにすら、思う。
 
 
「運動」には、それが”正義”であればあるほど、自分に向き合わずにすむような仲間との一体感、それに伴う高揚感がうまれやすい。そして“小さな”嘘がうまれやすい。
彼女は終始、自分やその他職員のことを「労働者」と呼び、「労働者VS企業」としての闘いの論理を自分の状況にあてはめて抗議していた。とても流暢に、迷いなく。
もちろん、「労働者が手当のつかない残業をしていることを、あなたはどう考えるのか!?“組織の長”としてどうなのか!」という怒りは、まっとうなものである。もしそれが本当に彼女の労働実態に即したものであるとしたら。
 
 
こういの・・・・もっと卑近な例でいえば。「セイファーセックス」の運動をしている女友だちが、「でも、本当はナマがいい」とペロと舌を出してることは本当によくある。男社会を雄弁に批判しながら、目の前の男との関係がドロドロで切っても切っても切れないなフェミだって本当にたくさんいる。そういうの、矛盾だっ! と意地悪く突く資格もないほど私も矛盾が多い女ではあるけれど、でも、じゃぁ「性差別反対!」「コンドームつけろ!」と声を大きくあげるのは、いったい誰のためなのか。それは、矛盾とかそういうことではない。なんというか、「成熟した運動」が放つ、どこか欺瞞で、どこか嘘くさい、運動に共通する本質的な限界なのだろうか。
 
 
大阪のこの職員に対して、ねとうよ達が盛り上がっている。本名をさらし彼女の思想的なことを面白可笑しくかきつらね、下卑た笑いで彼女を貶めている。さらに、大阪府には、橋下知事始まって以来の抗議がきたそうだ。橋下知事にではない。「上司をあんた呼ばわりした女」に対する抗議である。
 
 
私も彼女に抗議するよ、強く抗議するよ。
でもそれは、もしかしたら「仲間」だったかもしれない女として。エライ男に大きな口をたたく同じ女として、激しく落胆する。バカ! と怒りたい。大きな口を叩くなら、自分の言葉で怒れよ、と自分のことのように悔しく思う。運動の言葉を意気揚々と語りたおした分だけ、恥ずかしさで身が痛い。自分のことのように痛い。
 
 
声をあげることは、怖いこと。それは、とても怖いこと。自分より「社会的地位」が高く「守られている人」に声をあげるのは、とても怖いこと。テレビカメラの前で発言するのはとても怖いこと。
「声をあげたこと」で、女にスティグマを背負わせるような社会だから、それは、怖いことだ。
でもその怖さのために、口をつぐむ必要はない。自分の痛みで、自分が心から信じることで怒るのであれば、声をあげなければいけない。それを、あなたが本気で声に出すのなら、私はあなたを守るから。あなたを私は必死で守るから。
そうじゃないの? それが、仲間だよね。それが運動だよね。
 
 
そんなことを考えながら、私はずっとこの「事件」のことを考えている。「運動」のことを考えている。いろんな女の顔を思い浮かべながら、考えている。闘うのは難しいよ。声をあげるのも難しいよ。だけれども、と。
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北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めて、女性だけで経営するセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を始める。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)など。佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・最新刊は香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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