ラブピースクラブはフェミニズムの視点でセックスグッズを売り始めた日本で最初のトーイショップです。

インターFMで放送予定だった番組について。

北原みのり2009.08.10

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 「インターFM」というラジオ局で女性のためのセックス情報番組が8月1日にスタートします! と、二週間前にラブピースクラブのニュースコーナーや、婆星HPでアナウンスしたのですが、放送が中止になりました。
 
 
 すでに第一回目の放送は収録済みでしたが、放送前日に本来予定されていたものとは違うCM原稿が収録されていたことが発覚し、ステーション側が「制作体勢の不備」を訴えて、このようなことになってしまいました。完全に、制作側のミスです。楽しみにしていた方には本当に申し訳ない思いです。メールで問い合わせを何通かいただいておりましたのに、返信もできない状況でした。本当に申し訳ありません。また関わって下さった全員にお詫び申し上げます。
 
 
 さて。ここからは、この放送のためにほぼ半年間時間をかけてきた私が考える、今回の「事件」についてです。私は一出演者として、そしてまたセックス産業の方々の協賛をお願いする立場として、ほぼ半年間、この番組のために動いてきました。だから、今回、ディレクターがおかしたポカミス(原稿の差し違え)には、正直、なんでそんなことをしてくれちゃったの!? という怒りと、仕事のツメが甘い人たちに巻き込まれてしまったという悔しさで、先週は気が狂いそうでした。
 もちろん、ミスをしたディレクターは自分がおかしたことの責任の重さに、声がでなくなっちゃうほどのダメージを受け、苦しみました。みんながそれぞれ、大変に苦しんでしまった結果になりました。
 
 
 で。今、ようやく色んなことを、少しだけ距離をもってみられるようになった今、思うのは、もしこれが「ペット」の番組だったら? これが「ガーデニング」の番組だったら? という仮説。考えてもしかたないとは充分に承知ですが・・・考えちゃうんです。
 今回の番組が放送中止になった直接の原因はディレクターのミスによるものではあるけれど、そもそも放送事故になってはおらず、修正可能な状況であったのに放送中止が強行されたのは、この番組が「セックス」を扱う番組だったから、に他なりません。「セックス」を扱う番組なのに、制作側の態勢が万全でなければ、この番組自体がリスキーだろう、とインターFMが考えたからです。まぁ、当然といえば、当然ですが、そもそも前提の「セックスはなぜリスキーなのか」ということを、やはり考えざるを得ない思いなんです。
 
 
 ラジオ番組では、セックスのことを、女性を主体にした話口で情報として伝えていきたいと思っていました。女性が主体的に自分のしたいセックスを楽しむ。そのことの大切さを、いつも感じているから。
 たとえば毎日のようにメディアから伝わってくる性暴力のニュース。被害者女性に対する「あなたも楽しんでいたのではないか?」「あなたそんな夜にそこにいたんだよね?」という、女性を責めるような視線に、私たちはどこかボンヤリとなれてしまっています。(余談ですが、先日のノリピーが逮捕されたときに、ワイドショーで、「たぶん、執行猶予がつくだろう」というコメントの後「痴漢でさえ実刑なのにおかしい」というような反応をしていた男性コメンテイターがいました。”痴漢でさえ”、だって。痴漢代表がテレビでしゃべってるのかと思って、ビックリしたものです。そういうことがスルーされちゃう、この空気って何? っていつもこのことでは怒り続けて40年だわね) そういう「慣れてしまっているいろいろな気持ち悪いこと」の対極にある言葉を少しずつ積み重ねていく、というような仕事がしたかったのです。
 
 
 で。どうやら、私のそういう「話」は、そうとう「リスキー」なのだそうです。
 繰り返しますが、ラジオ局の今回の判断は、ラジオは誰がどう聞くかわからない怖さがある、だからこそセックスの番組は慎重にやらねばならない、それなのにこんな簡単なミスをするような制作会社には任せられない、ということでした。それは確かに一理ある、とは理解しているんです。
 でも一方で、では、じゃぁ、「セックス」の情報番組の「リスク」とはいったいなんなんだろう、という質問には、実は誰も答えられないのでした。繰り返し言われたのは、「前例がない」ということと、「子供が聞いたらどうするんだ」ということと(深夜二時の放送でしたが)、「この番組を聞いた人が出会い系のサイトにいき、何か事件が起きたらどう責任を」ということでした。これは、考えるべき「リスク」の範疇なんでしょうか? 今もつけっぱなしにしているテレビからはオトコの芸人のシモネタがどんどん耳に入ってきています。明日、私は、ラブピにやってくる佐川急便のお兄さんにセクハラしちゃうかもしれません。リスキーなシモネタです。
 
 
 私はしゃべりのプロじゃないし、初回の放送でバタバタの制作状況では、本当に伝えるべきものの100分の1も言えていないんだな、という思いはあります。でも、今回のミスを機に、という感じで、局側はトーク内容についてもいろいろと意見を出してきました。その中に、私は直接聞いていないのですが、聞いたスタッフが言うには、
「性器を目の前にグロテスクに差し出されたような内容だった」
というものがあったそうです。
 第一回では産婦人科医の早乙女智子先生をゲストにお迎えし、「自分の性器を知る」ことの大切さを話していたのでした。女の性器は、男性からみたら「グロテスク」にみえるのでしょうか。オトコの性器が私には「とんま」に見えるのと同じことかもしれません。
 
 
 ところで。今、MXテレビで日曜日23時に放送の「松嶋×町山の未公開映画を観るTV」が面白いです。日本未公開のアメリカのドキュメンタリー映画を観るという番組なのですが、今週は、アメリカの検閲についてのドキュメンタリー映画「This Film is not yet rated」が紹介されていました。いわゆる、R指定、というのを誰が決めるのか、というもの。
 
 
 例えば、映画「ボーイズドントクライ」は、NC-17という規制を受けました。17歳以下は観られない映画になるので興行側としては非常に厳しいレイティングなわけです。問題になったシーンは、FTMの主人公が恋人の女性の性器を舐めた後に口をぬぐうシーンと、女性がオーラルセックスでオーガズムを得ているシーン。ここを削ればNC-17をはずす、という指示があったそうです。でも一方で、FT
Mの主人公が、男たちに殴られレイプされるシーン(あまりにも残酷なシーンでした・・・)には全く指摘を受けなかったとか・・・。
 また、”まじめ”なコメディタッチのレズビアン映画が、NC-17指定に。女子高校生が指でオナニーをするシーンが問題になったのですが、同時期に公開されたコメディ映画の中で、男がアップルパイの中にチンコをつきたててオナニーする映画はNC-17には指定されなかったそうです。
 暴力はOKだけど、同性愛はNG。大量殺人はOKだけど、オーラルセックスはNG。ヘテロセクシュアルなオトコがいくらオナニーしてもOKだけど、レズビアンが一人でオナニーしているとNG。それが、アメリカの検閲システム。そして、その「基準」というものの曖昧さは、日本社会でもそのまま通じるような、規制のように、映画をみながら感じていました。
 
 
 今回のこと。いろんなことがかみ合わなかったことの背景を考えます。賢くならねば。もっと用心深くならねば。もっともっと慎重にならねば。女ですもの。と、前向きになるパワーはまだ残っています。一緒に仕事をして気持ちいい人たちと、前向きに、理解を互いに持ちながら、セックスを恐れずに仕事をしようと、猫を抱きながら決意します。
 さて。ラジオ番組、すぐに放送、というのは厳しい状況ですが(こういう理解のない局でこのまま続けることも一つのリスクだ、と広告代理店会社も判断したので、インターFMでの継続は完全に白紙撤回をしました)、この経緯をふまえ、もっとパワフルな形で、もっと面白いものをつくっていけるようにすでに準備に取り掛かりはじめました。新しいご報告がまた皆さんにできればいいな、と思っています。
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北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めて、女性だけで経営するセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を始める。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)など。佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・最新刊は香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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