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「猫カフェ~女たちの蒸れ場~」

田房永子2011.02.09

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猫カフェへ行った。雑居ビルの7階のワンフロア、玄関は厳重な二重扉で封鎖されていた。靴を脱ぎ入店すると、店員の説明が始まる。
「ミルクちゃんは神経質なのでなるべく触らないであげてください。触るとひっかかれたり噛まれたりします」高貴な顔の猫の写真を見せられ、ミルクちゃんを記憶させられた。手ぴかジェルコーナーへ誘導され、手を消毒させられながら、たくさんのルールを早口で一気に説明される。
 猫好きの友人と一緒に行ったので、ここで猫を見ながらご飯を食べる予定だったのだが、座席に座ってお茶を飲んだり食事をしている人は一人もいなかった。10人いる客は全員、じゅうたんの床に四つんばいになって座り込み、一心不乱に猫じゃらしを振っていた。一人だけスーツを着た男性がいて、あとは全員が30代位の女性。
 20匹ほどいる猫の半分以上は寝ているので、ウロウロ歩いている猫は少ない。1匹の猫に群がる3人の人間。こっちを向いてもらいたい! 私のじゃらしに反応してほしい! ギラギラオーラが全身から出ちゃって目が血走り気味だった。単独で来ている客ばかりらしく、同じ猫に群がるライバルに対し気を使い、自制している様子も見受けられた。猫を触りまくって甘えられまくって可愛がりまくりたい!! という溢れ出しそうなほどの欲望を抑えまくっている女たちの静かなる迫力も相当なものがあった。猫でも犬でもなく鳥派の私は怖気づき、猫を飼っている友人はシラケ気味だった。
 人間たちが紅潮した苦悶顔で見つめる横を猫は無表情で素通りし、目の前にチラチラされたじゃらしを無視して歩いていく。気まぐれで猫がじゃらしにパンチすると、反応を受けた人間からはモワッ! と何か、奮起による見えない蒸気が一瞬上がる。
04_20110208_issa.jpg DA PUMPのコンサートでISSAがピストンダンス(エア立ちバック)をしたり、投げキッスすると、観客が一斉に欲情し「ギィヤァ~~ッ!!!」と大絶叫するけど、猫カフェにはあの開放感のある発情ともまた違う、ムッツリとした熱い空気が充満していた。

 お金を入れなくてもボタンを押せば出てくるジュースの自動販売機は、コース料金を払えば飲み放題だ。友人と紙コップで乾杯し、とりあえず近くの猫にじゃらしを振ってみることにした。完全に無視される私のじゃらし。他の人のじゃらしには猫が飛び跳ねて反応している。
 そうやって人間の輪に入ってみると、「猫にじゃれてもらえる率がダントツに高い人」がいることが分かり、その人は常連客同士の中でも一目置かれていることが、店内の気配で分かるようになってくる。
 そのじゃれられ率NO.1の女性客(見た目地味系)による、無駄のないじゃらしの動きにロシアンブルーのラブちゃんも、スコティッシュフォールドのローズちゃんも夢中で飛びついている。彼女のじゃらし使いは何かが違う。
 私も、NO.1の手つきをマネしてみた。どの猫もシカトだったが、唯一、雑種と思しき模様のまろんちゃんだけ、7秒くらい私のじゃらしに猫パンチしてくれた。感激。まろんちゃん最高。天にも昇るような気持ちがし、まろんちゃんが急に一番可愛く見え始め、まろんちゃんにもっと気に入られたい、と思った。まろんちゃんは高級キャバクラに一人だけいる素朴な田舎っ子キャラのような存在だ。私のような客をたくさん抱えているに違いない。
 その時、猫ベッドで寝ていた猫が、起きて歩き始めた。すると人間たちは「オオ~…」と静かにどよめき、「ミルクちゃん…」「起きた…」と口々につぶやく。あれがミルクちゃんか…。誰も触ることの出来ない高貴な猫。他の客もミルクちゃんが通るとじゃらしを差し出すことはせず、その優雅な歩みをホレボレと見つめる。
 しかしNO.1は違った。なんと、ミルクちゃんを手に持ち、抱っこして膝の上に乗せた。それまで客同士の会話はなかったのに、「抱っこだなんて凄い…」「私なんてじゃれてももらえないのに」「けっこう通ってるんですか?」とNO.1へ問いかけを始める。04_20110208_nekojump.jpg
 ここまでなついてもらうまでに、かなりひっかかれた、とミルクちゃんの頭を撫でながら語るNO.1。週4回は来ているという。その風格に、ホーッとため息する群衆。私もその一人だった。
 最後までこのノリにノらなかった友人は、テンションが低かった。猫を飼っているから、猫カフェの楽しさにあまり興味を持たなかったようだ。確かに、ISSA本人と付き合ってて毎日ニャンニャンしていたら、わざわざISSAのピストンダンスでギャーギャー騒ぐことはないかもしれない。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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