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女性向け風俗店についての男の反応

田房永子2011.03.10

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駅ビルのトイレに入り便器に座ると壁に「非常ベル」があり、「非常ベル」という意味の英語と中国語と韓国語が手書きで足されていた。それを見てなんとなく、10年前に通っていた中国語教室で開催されたバーベキューパーティーでのことを思い出した。
 いろんな外国人がいる中、日本人は私一人で、韓国人の女の子たちに話しかけられた。「日本人はズルいよ! 私たちは漢字を必死で勉強してるのに、『そんな難しい漢字、日本人でもちゃんと書けないよ』ってよく日本人に言われる。なんで自分の国の字なのに書けないの!」
 韓国人の人はスキンシップが多くて、初対面の私にも「ズルイヨ~ニホンジン!」とか腕を握ってきたりして、楽しげにからかってきた。私はそのノリがとても楽しかったし、日本人が普段使わない、難しいから書かなくても済んでいるような漢字を、韓国人の人たちは書き順までちゃんと習っているということが微笑ましいと思った。彼女達が一生懸命勉強しないと習得できない言葉が母国語であるという優越感、みたいなものも感じた。それは私が韓国語を勉強してたら逆転するような他愛もないことだし、別に威張るものでもないけど、日本人であることが誇らしいような、羨ましがられてる感じがして、今までに刺激されたことのない部分を優しく撫でられたような、どこか気持ちのよい時間だった。
 そのことを、駅ビルのトイレでケツ丸出しの状態で思い出してボンヤリしたんだけど、次第に最近の自分とそれが結びついて、愕然とした。
 私は25歳頃から28歳くらいまで男性向けの風俗店に潜入する仕事をしていて、それを通して、「どうしてこんなに男の性欲・射精は社会的に認知され、保証されているのか」ということばかり思った。
 男はやりたくて仕方ない時があって当たり前だ、ということになっている。それを主張するもの(風俗店、「男は浮気する生き物」等の慣用句)があふれていることは、「女にはやりたくて仕方ないという時はない」という暗示も同時にしている。そういうもんだ、と生きてきた女は、自分がやりたくて仕方なくなったとき、すごく戸惑う。女がセックスできる場所として、出会い系、ハプニングバー、テレクラ、出張ホスト、性感マッサージ等があるが、得体が知れなくて突然飛び込める場所じゃない。友人知人の男性にセックスをおたの申すしかない、だけどそれが一番むずかしい。低リスクで、パパッと性処理して明日へ向かいたい。しかし発散できる場所はどこにもなくて、そんなことばかり考える自分は性欲過多で異常なんじゃないか、と一人で悩むようになる。
 もし利用しなくても、「安心で安全な女性向け風俗店」がある、ということは、「困ったらあそこに行けばよい」という意味で自分の心に多大なるゆとりをもたらすはずだ。「どこにもない」という今の現実のほうが、「女性向け風俗店へ普通に女性が通うようになる時代」の到来よりも、信じられないと私は思う。
 この「女性向け風俗店がないことが女を追いつめる時がある」という話をすると、男性から必ず返ってくるのが「昔、福岡に女性用風俗があった」という話と、「女の人もオナニーすればいいんじゃないですか」という意見。
 「福岡に女性用風俗があった」というのは有名で、女は風俗嬢として一日何人も相手にできるが、男は1日にできる射精の数に限りがあるので、客がたくさん来ても対応できない、物理的に運営が不可能になってつぶれた、という都市伝説みたいな話である。それを「実はね、あったんですよ。だから女性向け風俗も、需要があることはある。だけど運営が難しいんですよ、田房さん」という説得の雰囲気で話される。福岡の話は知ってるし、需要があるかどうかなんて話はどうでもいいんだけどな、と思いながら「そうじゃなくて」と切り返す力がなくなっていく。
 私の意見を真面目に聞いてくれる男性は数に限りがある上、同じ返答なのである。女が「女向け風俗」について語るには、まずオナニーの話、女の性欲の説明からしなければいけない。私は「女も男と一緒でやりたい時があるんだよ!」という話をしているつもりなのに、男たちは頑なに「男と女は違う」と言って話を終わらせようとする。「女向け風俗」の話をすると、必ずあの二つの返答が返ってくるのは一体なんなんだろう? と、いつも思っていた。
 そして日本語の話に戻るんだけど、私が韓国人の子たちに感じたあの優越感。「日本人、ズルイッ!」と肘で小突かれて、エヘへッ!とうれしくて笑ってしまう感じ。あれが、私の中で、一つのことに繋がった。
 もしかして、女が「自分の性欲」について語り、「自分達が行ける風俗がない」ということに怒り、「男ばっかりズルイ!」という主張をすることは、?男性?に、優越感を与えるのではないか???
 韓国人の子を「ヘへへっ かわいいな。精一杯、我が母国語を励めよ」と思うのは、もう絶対に私は日本人であり、日本語でこの人たちに抜かれることがない(学力で抜かれることはあってもDNA的には絶対に日本人である)、つまり闘う相手ではないからこそ、「ウヘへ、かわいいもんだな」と思う。
 男性からすると、女性はそういうものなのじゃないか、と思った。私が思っているよりも、もっともっと、男は女を別の生き物だと認識していて、自分達の性欲なんかには女の性欲なんて届くものじゃない、と思っている、ということなのかもしれない、と思った。返答してくれる男性達からどこかしら?余裕?が漂っているような気はしていた。
 男性に「女性向け風俗店」の話をするのは当分やめよう、と思った。
「女性向け風俗店」
女向け商品度★★★★★
男に言っても仕方ない度★★★★★
なんでそれに気付かなかったんだろう度★★★★★

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田房永子

田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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