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倖田來未と「不謹慎」

田房永子2011.03.24

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 「2月22日に収録されたものです」というテロップと共に倖田來未が歌い出した。
 倖田來未の、股間をおもいきり顔にこすりつけてくるような圧迫感のある歌い方が苦手だった。
「女の子もええでぇ~~!! クーミンのココ見てや~~~!!!」な感じ。「アナタもこういう気持ち(男の人に股間押し付けたくなる夜)あるやろ~~~!!! 隠さんでええねんでぇ~~~!!!!!」な感じ。全力で「こっちおいでやぁ~~!!!楽しいでぇえ~~!!!」と腕を引っ張られると、頑なに動きたくなくなる。倖田來未のある一定の女を惹きつける力は、同時にその他の女を硬直させる。
 倖田來未は見るたび自分の年齢の話をしている。「こんなに年とってしまってどうしましょう。今、アラサーまっしぐらですよ」と言ってるのを見て、カチンときたことがあった。倖田來未が自分の年齢を自虐的に話すとき、その目は彼女よりも年下の人たちだけを見ている。まるで彼女が「女」の中で一番先頭で歳をとっていってるという前提が彼女自身の中にあるかのようだ。倖田來未より4歳年上で30越してる自分はなんなんだ、この人より年上というだけで「女」じゃないのか、という気持ちになる。倖田來未が自分より年上だったらたぶん気にならない。それでもたぶん、ハラハラすると思う。
 女同士で年齢の話をする時、たいてい同年代でするし、別年代の人が混ざってたら、その相手の歳になることを否定的に話すのは控えるという暗黙のルールがある。だけど倖田來未はそんなルールは守らない。敢えて破っているわけではなく、ルールの存在自体を知らないっていう感じがする。
 3月11日以降初めて、そんな倖田來未を見た。ものすごい鋭角な肩パットの衣装にSMの女王様しか履かないような細長いヒールの靴を着用し、網タイツに包まれた太ももをさらけ出して踊りまくり、好きな男を想う歌を歌っていた。後ろにいる6人のダンサー達も、ブラジャーだけとかコルセット一丁とか、半裸同然で踊っている。その下着風衣装のオッパイ部分にはバッテン印がついていて、ダンサーの中にオネエっぽい男性とかなり太った女性がいて、威圧感のあるダンスを全力で披露している。その世界には「カワイイ」という要素がなかった。熱狂し泣きながらステージの上の倖田來未へ手を伸ばす、観客の女たち。
 倖田來未を初めてカッコイイと思った。私は、倖田來未のことを「男のことばっかり考えてる女」であり、アーティストというよりは「男が喜ぶ仕草研究家」だと思っていた。その関心は常に男へ向いていて、後ろにいる女達のことを見るときは45度だけ振り返る人、と思っていた。でも、そうじゃなくて完全に女へ向いているんだと分かった。女達と交流することを主としていて、その共通主題として「男」の話をしている人なんだ、と「POP DIVA」を歌っている倖田來未を見て思った。男が求める女っぽさやモテ文化に屈してしまう自己を破壊しながら、女が暮らしやすい未来を夢見ている。
 震災が起こってから1週間、日常が戻りつつある東京には、「被災地の人たちを思えばこんなことぐらい文句は言えない」という、目に見えない意識が生まれた。東京や日本だけじゃなくて、人間には、自分よりも悲惨な状況にいる者を引き合いにして自分を励ますクセがあるんだ、と痛烈に思う。いま、「不謹慎」と非難される言動は無数にあるけど、「仕事に行くのだるい。でも被災地のことを思えばそんなこと言ってられないね。がんばろう」とか、「あの人に比べたら私は恵まれているから云々」という言い回しは非難されない。これは「自分や自分よりも被害の少ない人」へ自分の気持ちを伝える時のセリフであって「あの人」の立場の人へはしない発言だというルールがあるから成立している。私もきっと、西日本の人と話したら、つい言ってしまうと思う。
 そうしているうちに、テレビや情報の中で、被災地は穢れのない人しか存在しない土地のようになっていく。想像できない状況にいる人のことを、やたら神聖化するクセも、人間にはあると思う。

 そんなことをずっと考えていたから、自分の年齢より上の女への配慮なんかなくて悪気なく「羊水腐る」発言をしてしまった“不謹慎”な倖田來未がとてもクリーンに思えた。ルールを意識しすぎず、徹底的に自分の気持ちに固執する彼女の世界観には、差別がない。私は倖田來未みたいになれないけど、彼女が支持されていることに熱く感動した。
「倖田來未」
女向け商品度★★★☆☆(好き嫌い分かれる)
悪い男に騙されたらアカンでぇ~度★★★★★
悪い男に泣かされるのも女の甲斐性やでぇ~度★★★★★
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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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