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ないことにしたがる男たち

田房永子2011.04.08

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 震災直後から、「非常事態には性犯罪が増えるから気をつけて!」という注意喚起をネットでよく見た。それと同じくらい、「どうして男の人は『非常事態に性犯罪が増えるなんていうのはデマだ、都市伝説だ』って言うの?! 本当にあるんだよ!」という書き込みも多かった。
 痴漢被害のことを話すと、「本当にそんなことあるのか」と言う男が多い。あるんだと説明すると、「それは女が自衛するしかない!被害届を出すしかない!」と興奮気味に言う。電車内痴漢において被害届がいかに非合理的なものか、を説明しても、「そんなこと言っても被害届を出さなければそれは自分で犯人をお咎め無しにしたんだから、もう無罪ということ! それ以上ゴチャゴチャ言うのは冤罪になる!」とかキレ気味になる男もいる。
 私は、「『私たちの頃から痴漢はあった。あなたも狙われるから自衛しなさい』と大人から言われて育ち、実際に痴漢にあっていた。このまま何も取り組まずに次の世代へ同じことを言いたくない」という主張がある。ただそれだけなのに、何故かその主張は「痴漢のない社会を作れって言われても現実的に無理なんだよ!」という怒りを男たちに沸かせてしまう。
 男たちでどうにかしろとか、助けろとか、言ってるつもりない(そもそも思ってない)のに、どうしてそうなるんだろう?
 それは、彼ら自身が「女は男が守るもの!」って強く思ってるからじゃないのかなと思う。私の意見や考え方に反論してるんじゃなくて、「自分の知らない所で男が女を痛めつけている事実がある」ってことに対しての怒りと、「それに対して何もできない非力な自分」を責められている感、を強く感じて、そこに反応しているように思った。「実は性犯罪なんてそんな事実ありません」と言ってもらえれば、彼らの本来自分が背負うべきでない苦しみは即座に解消される。だからまず最初に「本当にそんなことあるの?」「デマじゃないの?」と確認したくなるんじゃないだろうか。

 その「女は男が守るもの!」という刷り込まれた観念には、「だけど、守りきれない俺」っていう現実への罪悪感も表裏一体で存在してる。「甘えたこと言ってんじゃねえ! お前もしっかりしろ!」と叱咤と一緒に「お前たち女を守りきれない、こんな俺を許して欲しい!」という魂の叫びが含まれていて、話をすればするほど、どんどん論点がズレていく。私に対しての怒りなら対応できるが、全く違うことに相手がものすごくイライラしてる感じが、だんだん怖くなってくる。
 火のついた男は言いくるめ方が凄いし、メンタルも自分が正しいと言い切る力も圧倒的に強すぎて、かなわない。インターネット越しの討論でも怖いのに、実際に目の前で知らない男から「自衛しろ!(守れない俺を許せよ!)」「ロジカルに話せ!(俺らが明日から早速行動できる痴漢対策を納得いくように解説してくれよぉ)」と言葉で責められたら、頭が真っ白になって、「痴漢です!」とか「襲われました!」とか口走りそうって思った。
 「痴漢や冤罪がなくなればいいね」っていう話をしている場で、「男に追いつめられた時、女が勝つには冤罪しかないのかも…」と思うなんて、ものすごい皮肉だ。
 じゃあ、私(女)はどうしていたら、(こういうタイプの)男を無闇に怒らせることなく、自分の考えを伝えきることができるのかな? と考えた。
 まず男に『俺は女を守ってあげることができている』と思ってもらうことが大事。あと、『守れない俺』への罪悪感を感じさせないことも必要だ。
 でも、痴漢や性犯罪について何も知らないくせに正義感いっぱいで話を聞こうとしてくれる男っていうのは、けっこう「傷ついてる女子」好きでもあるんじゃないかなーと思った。「傷ついてる女子を助けたい」って思ってて、でもその女子が「男に傷つけられた! 絶対許せない! 男最低!!」とか言い続けたり、またはものすごく冷静に「現実的に考えて男性側の教育を見直す必要があると考えております」とトンガリメガネを指で上げながら論文を発表されるのは、なんか許せないんだろうな、と思った。
2011_04_06_ayanamirei.jpg つまり、「傷ついてるけど、アタシ、だいじょぶだよ。」と、腕に巻かれた包帯をそっと手で隠して力なく微笑む、みたいな女の子が好きな人たちなんじゃないかな、と思った。そういう女の子に「だいじょぶかよ?!」って駆け寄りたいんじゃないかな、と思った。「だいじょぶ。」とか言って、包帯から血がツーッって出てくる女の子、が好きなんじゃないかな、と思った。
「血、出てんぞ?!」
「だいじょぶ。」
「守ってやれない! 俺、ダメなヤツだな!!」(ポカスカ、自分の頭を殴る)
「だいじょぶ。私が、守るから。」
「えっ?!」
「君は私が、守るから。シンパイ、いらないよ。」
「そんな…」
「だいじょぶ。この地球は、アタシが、守るから。」
 みたいな、かよわく傷つきながらも大地の如くの大きな母性を持っている女、女はみんなそうでいて欲しい、という願望を心の奥底に持っているんじゃないかな? と思う。
 そこを汲みながら怒りを持たせずに痴漢対策に協力してもらうくらいなら、被害者や女たちだけで取り組んだほうが早い。
ないことにしたがる男たち
女向け商品度☆☆☆☆☆
超めんどくせー度★★★★★
彼らの綾波レイ好き度★★★★★

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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