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【女印良品 第15回 お受験と原発】

田房永子2011.05.12

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 私立中学受験を控えた子どもを持つ親のための『お受験雑誌』が何冊も発行されている。中でも特に「プレジデントファミリー」はその名の通り“プレジデント意識”の高い読者を刺激するパンチの効いた特集が多く組まれている。「年収300万で東大生を育てた家を大解剖<賢い母とバカな母の七つの違い>」特集では、「両親はどんな夫婦関係か」「親の低学歴のハンディをどう乗り越えたか」「妻は夫を立てていたか」等、細かすぎるデータを徹底発表。
“東大生が育った家庭環境”を丸ごと再現したい読者のニーズに応えまくっている。
 今月号の「プレジデントファミリー」の特集は『わが子が危ない』。やっぱりプレジデント層も、水道水や野菜への放射能の影響が気になるのだな(一体どんなプレジデントな対策を?)。ページをめくると、「公立中学校の英語教育は低レベル! 私立中学へ進学させないとビジネス界で必要な英語力は身に付かない!」と書いてある。『わが子が危ない』というのは、「公立中学へ進学させたら子どもがいい大学にも行けずいい就職もできない!」という警告なのだった。
どうして自分の子どもが「いい就職」をしなければいけないのか? そんな根本的なことは書いてない。「海外に興味がないわが子はどうすれば英語好きになるか?」(答え:親も外国好きになる)など、親の思い通りの子どもになってもらうための情報のみが載っている。
 小学生の頃、私は母に私立中学受験を勝手に決められた。周りの女子たちと遊びたいのにどうして私だけ中学受験をしなきゃならないのか? と聞いても「お前は黙って言うこと聞いてりゃいいんだ!」と一喝される。納得いかないままとりあえず塾へ通い、私立中学に入学した。学校生活は楽しく過ごしたものの、受験「させられた」理不尽への怒りと疑念は心にずっと重たく存在し続けた。円形脱毛症になってまで娘を私立中学に入れようとした母の心理の謎を解きたくて、
私は『お受験雑誌』を読み始めた。すると、そうしたほうが母にとっては、ラクだったんだ、ということが分かってきた。
 例えば、何かの入門教室みたいなところには、必ず「なんでもかんでも質問する女」がいる。明らかに自分で何も考えないでとりあえず浮かんだことを口に出して聞く、みたいな人。私も税務署などへ行くと、面倒だから一旦アタマの中を真っ白にして、イチから質問しまくって係りの人を独り占めすることがある。
 私の母は、これからどうやって一人娘を育てればいいのかを悩んだ時、「中学受験をさせる」を“とりあえず”決めたんだと思う。環境などの土台作りは親の仕事、あとは本人の能力、という、その線引きが私の母にとっては「中学受験」だった。母の目は毎日血走っていたが、頭の中は真っ白だったと思う。これさえ終われば、自分は子育ての苦しみから解放される、そんな幻想を持ってしまったのだろう。何故受験をしなきゃならないのか。その答えを娘本人にすらしっかり伝えられないのは当然のことだったんだ、と32歳の私は理解し、ずっと蓄積されたままの理不尽の闇を解消することができた。
 お受験雑誌には、この“頭を一旦真っ白”思想が根底にある。「これを選ぶ理由や意義を考えるのはあとにして、とにかく今はこの学校・会社に入ることだけを頑張る」という目標主体の考え方。学歴社会でのエリートを自覚する人の生き方そのものであると私は思う。私が出会った自覚エリートの人たちは、「辛すぎず、安定していて聞こえがよい就職先」を優先して選んでいた。その為に彼らは10代の頃チンチンもマンコも触らずそれこそ頭を真っ白にして必死に勉強をしていたんだから当然だ。
 福島原発事故が起こってテレビに枝野氏や保安院の人や東電の人が映っているのを見た時、「お受験エリートの人たちだ」と思った。特に保安院のおじさん3人組のモゴモゴと何を言ってるか分からないけどやけに堂々としている感じがその印象を強めた。彼らには、目標に向かってものすごい努力をする、そして必ず勝ち取る能力、静かなパワフルさがみなぎっている。自らに課した(それかママに課せられた)課題を着実にこなして生きてきた者しか持てない威風堂々さ。だけど、どうしてそれをやるんですか? と聞くと「…そのほうがいいからだよ」という答えしか出てこない中身の真っ白さ。骨組みがむき出しになって白い煙が上がる今の福島原発は、彼らお受験エリートが勝ち取ったものを最大に象徴していると思った。
《そして》
 4月27日、ラブピースクラブ主催「原発事故を話す会」で岩波書店「世界」編集部の中本直子さんの話を聞いた。反対派の意見に対し、「そんなこと考えていたら作れない」と「見切り発車」で原発が作られたという話。私は首の上下運動(うなずき)が止まらなかった。「頭を真っ白にしてとりあえず決めた目標を追い求める」、その心理の渦が津波に耐えられない原発を建てた。「何かあったとき自分達の子孫はどうなるんだろう?」と考えまくったら、できないと思う。だけど、とりあえず頭を真っ白にして突き進んでいればそんな心配事を感じる苦しみがなくてラクである。
 私は単に、「自分の子どもには中学受験をさせない」と思っていた。でも、罪なのは中学受験ではなくて、エリートではなくて、“ラクをする”ことなんだ、と思った。そう思えるのは、子どもを持っていない今だけかもしれないけど、そう思った。
雑誌「プレジデントファミリー」
女向け商品度★★★☆☆(お父さんにも大人気!)
東大生を育てた家庭の「両親は週何回SEXしていたか」「夫は妻をしっかり濡らしてから挿入していたか」「東大生を受精した際の体位は正常位だったか」とか、ソッチの事情
が書いてあってもおかしくないほどの熱気度★★★★★
東大に行ける脳づくりから始めよう「プレジデントベイビー」も発売中度★★★★★
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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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