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 『イクメン』って聞くだけでなぜか愉快な気分になって、アハハッと笑ってしまいそうになる。「イケメン」と「育児」をもじって、「育児する男=イケている(育児を手伝わない男=イケてない)」と暗示がかけられてるのが面白いし、異様なほど明るいイメージを持たないと、男は精子を出した張本人でありながら育児に参加しづらい・させづらい、という日本の本来持つ暗い部分がモロに表現されてしまっている、コッケイ度が高い言葉だと思う。
 短大の学園祭、サークルのみんなで焼きそば屋をやった。出店の申請、設置、価格設定や買出し、毎日キリキリ舞いで頑張った。やっと迎えた当日、お店へやってきたサークルのOBが「焼きそばを焼く係」を突如やり出したのだった。それぞれの係や時間分担も決めていたので、いきなり焼きそばを焼かれても困る。だが、当人は「らっしゃーい!!」と焼いているし、楽しいお祭りなので「焼きそばを焼かないでもらえますか」と、誰も何も言えなかった。更にOBは「ニンジンが足りないよぉ!」と、こちとら手が離せネエんだ、てやんでぃ! な口調で指示してくる。明るくてノリのいい女子は、いつの間にか呼び込みや会計などおいしいポジションを獲得していた。買出しに行くのは、出遅れた私たち地味女軍団。ブーブー言いながらニンジンを買いに行った。
 「イクメン」と聞くと、あのOBを思い出す。きっと育児には「おむつ替え」や「ミルク飲ませ」以外にも、目に見えない、説明しにくい“やらなきゃいけないこと”がたくさんあるんじゃないかと思う。私の中で「イクメン」のイメージは『日曜日、育児家事で身も心もボロボロになった奥さんを連れ出し、テラテラ笑いながら子供を肩車してる夫』である。そうじゃない人もたくさんいるかもしれないけど、「イクメン」という言葉は、世の「日曜肩車夫」に更なる満足感を与えてもしまっているような気がする。
 4月中旬、男性ファッション誌は何故か「イクメン特集」だらけだった(が、妊娠・出産雑誌コーナーに男性向け育児雑誌はない)。「メンズ・リー」という雑誌では、家庭を気遣い、オシャレにも気を配れるイクメンが着るものとして『やさしげシャツ』(綿やリネンなどナチュラル素材の一枚16000円とかするシャツ)を紹介している。『やさしげシャツ』を身にまとい、同じような格好をした妻や子供たちと並んでやさしげに笑っている誌面上のイクメンたち。見てるとどうしても「ハンッ(しゃらくせぇ)」と鼻から息が出てしまう。
 だが、山崎大地のインタビューページだけは空気が違った。山崎大地は宇宙飛行士・山崎直子の夫で、妻の夢を叶えるため、自分の夢をあきらめ泣く泣く専業主夫になった人物だ。妻が宇宙飛行士ということで「あなたが家庭を支えるのが当然」という態度を周りから常にされ続けた大地氏。「赤ちゃんがなかなか泣き止まないと、『やっぱりママがいないとダメねぇ~』と言われ悲しくなったり、『おかあさんといっしょ』を見てると、どうしておかあさん限定にするんだろうと思うようになったりした」という。社会的地位や価値、稼ぐ額というモノで、パートナーよりも自分が「劣っている」とされることの辛さ。それに加えて男が育児をしにくい世の中の問題が書かれていた。「数年前の公共の男性トイレにはおむつ交換台もなかった。女性トイレに設置する際になぜ同時に男性トイレにもつけないのか? そうやって女性のほうしか改善しない不平等が、“子育てはお母さんのもの”という壁を作っている」。今の男性トイレにはおむつ交換台がちゃんと設置されてるんだ…と驚いた。“子育てはお母さんのもの”というのが、私自身の体にも染み込みまくっている。「男女とも、仕事と家庭の両方が充実できる日本になるためには、男性がこれまでの女性の苦労と努力を理解するとともに、家庭に入りづらく辞めたら会社に戻れない現代の男性の状況を女性も理解する必要がある」。なんだか、こんなことまで思える人は私のイメージする『イクメン』じゃないと思った。やっぱり山崎大地のページにだけは、「イクメン」という言葉が一箇所も出てこなかったのだった。
「イクメン」
女向け商品度★★☆☆☆
山崎大地著「宇宙主夫日記」。夢が諦めきれなくて大暴れする大地が面白いのでオススメ度★★★★★
それでも「宇宙主夫日記」のネットレビューでは「宇宙飛行士と結婚したんだからガタガタ言わずに主夫するのが当たり前」と酷評されてる度★★★★★
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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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