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車内で股間を富士山にしていた男

田房永子2011.06.23

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 夜19時の、席は埋まってるけど全然混んでない井の頭線で、下北沢から乗って来た男が私の隣に立っている女の子の後ろにスーッと近寄った。男は薄いスウェットみたいな生地のズボンの上から自分の股間をきゅきゅっと揉んだ。男が手を離したソコは、横になった富士山のように盛り上がっていた。男の右手の甲が不自然に女の子のケツのほうへじりじり寄っていく。男は鋭いのに溶けそうな目つきで女の子の後ろ姿を見ていた。男の顔は決してブサイクではなく、背も175位はあるしスラッとしている。ただ、10代かと思ったがよく見ると30代にも見え、普段何をしてる人か、目の前にいるのに何故か想像がつかなかった。彼の印象はとても不安定で、社会のどこにも属し(せ)ていない人、という感じがした。
 女の子は全く気付いていなかった。私は、触るまで待って警察に突き出すよりも、へんな目つきをして股間に富士山をたたえているこの男へ、何か“いつくしみ”みたいなものを投げることによって、男の富士山をおさめさせる方法をとろうと思った。男の顔をじーーっと見ると、男も私の顔を見た。私は、自分の表情によって、いつくしみの投げかけができるはずだ、と思った。瀬戸内寂聴のような微笑みがいいかな、と思ったけどそれじゃちょっと圧力的な気がした。睨むのも、驚いた顔も、「やめなよ!」みたいなキリッとした顔も、ちがうと思った。
 少しの微笑み、優しさ、を表現した顔で、男性の顔をじーっと見た。男性も私の顔を見た。男性はさっきのへんな目とは違う目で私の顔を見ていて、単に「なんだろうコイツ」という感じだったと思う。
 こういった類いの話題になると、「女が露出の高い服を着ているせい」と「満員電車のせい」という2つの「原因」が必ず出てくる。だが私は、その2つを「原因」としてこういった問題に取り組むのはあまりにも見当ハズレだと感じていた。自分が触られたり、触られているのを見た時、どちらも当てはまらないことがほとんどだったからだ。そして実際にそれを証明する光景が目の前で起こった。この現場を写真に撮っておきたいと思い、私は携帯を取り出した。最早「せっかくの機会だから」的な気持ちだった。私の位置は「女性の履いているデニムの長めのスカート」と「男性の富士山状態の股間」が一緒に撮れる絶好のスポットだった。空いている車内のショットもおさめておきたい。しかし、やっぱ撮るのは勇気がいるな~と思って、結局撮らなかった。
 しかし私が携帯をカバンから取り出すと、男は途端に両腕で顔を隠すように、両手を挙げて手すりにつかまった。とりあえずこの女の子のケツへ手を伸ばすことはやめたようだった。女の子は、まったく何も気付いていなかった。私が彼女の顔を見ていることすら気付いていなかった。
 そして渋谷へ到着(下北=渋谷間、急行5分の出来事)。井の頭線の渋谷は終点で、大きな改札へたくさんの人が歩き始める。男も歩く。だが男は改札からは出ず、当然のように反対車両の吉祥寺行きへ乗り込んだ。私は、自分のケツを触った男が、点々と車両を替え、行き先が反対の車両に乗るのを何度も見た。「そうなっている」状態の彼らは、電車の到着地に用はない。電車の中に用がある。私はやっぱり、ああいうのを見て、救うべきは「被害に遭った女性」じゃなくて、「そういうふうになってる男性」だと確信した。もちろん、「被害に遭った女性」を救うことも大事だけど、「かわいそう」で「弱弱しくて」、「儚くて」「頼りなげ」で「助けてほしがってて」「かまってもらいたがってる」のは、あの男のほうである。
 私が一番いいんじゃないかと思うのは、“ああいう状態になっている男”をいち早く見つけるのが男で、“そうなっている男”を見つけたら男たちが「よっ!」と声をかけて、「飲み、行くか? 話聞くぜ?」みたいな車内になるのが、一番いいなって思う。果てしない、理想だけど。
 《ああいう男を、社会がどう構ってあげればいいのか。そんなことを私は考えていたんだけど、この後また、“車内でそうなる男達”の一面を見て、愕然とさせられるのだった。次回へつづく…》
hujisanotoko_20110622.jpg

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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