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妊娠後期の性欲

田房永子2011.12.26

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妊娠してつわりがおさまったあたりから、性欲の噴出がすごかった。日常を過ごしているあいだ、常にほんのりムラムラしているし、だからAVとか見てしまうし、一人でしてしまう。スーパーマーケットへ買い物へ行った帰り道、勃起した男性器の映像が脳内に浮かんだ。すると自分のクリトリスがビシーッと勃ち上がったのが分かった。その時の私の体は、「おちんちん…ムラムラ…モジモジ…」ではなく、「陰核、直立(ちょくりーーつ)!!」という、すがすがしい感じだった。その時の私のクリトリスは確実に敬礼していた。歩いている時に陰核が敬礼したことなどないし、あったとしても気付いたことがない。しかし、明らかにグッ! と、体の中央で背筋を伸ばして存在していて、歩くとその頭がパンツにコスれる。履いているのは妊婦用の巨大パンティ、ゆるゆるの布である。それにコスれるってどんだけ最敬礼して(でかくなって)いるのか? っていうか私のってそこまで届くほどでかかったっけ?! と、ビシッと勃たせて歩きながら、しばらく考えた。
 女の性欲が高まるのは、満月の日とか排卵の前とか、「子供を欲する時」ってことになっている。私はそれを「生殖欲=性欲」と認識していた。だから妊娠したら性欲はさっぱりなくなるのかと思っていたが、劇的に増えた。妊娠する前、「子供が欲しい!」とハッキリ思ったので、それが生殖欲だとすれば、それと性欲はまったく別物なんだと、確信した。私みたいに増える人と、まったくなくなる人と、変わらない人がいるらしい。
 ずっと劇的アップしたままだった性欲が、安定期から後期に入るあたりからめっきりなくなってしまった。ムラムラするという感覚がいつのまにか消滅していた。おなかが一気に大きくなって、動くのがしんどくなってきて、「分娩欲」みたいな意識が高まっているのか、性欲に関するものがサッパリ消え去ってしまった。ムラムラしながらテレビに映る北川景子の太ももをジットリ眺めたりまでしてたのに、どういうことだろう…と思い、無理矢理AVを見てみることにした。妊娠してからAVサイトを徘徊しているうちに大堀香奈というAV女優を知り、エッチでいいな~と思いファンになったので、大堀香奈のAVを見た。
 するとどうだろう、私の陰核レーダーは、ピクリとも動かない! 大堀香奈関係なく、どのAVを見ても劣情が湧かないのである。「アタシ、どうしちゃったの?!」
 分析してみると、やはり「セーブしてる感」を体の中に感じた。性欲を感じる時に生じるリスクや罪悪感を負うのがめんどくさい、「今それ必要ない」という判断を、脳が下している感じがした。でも、抑圧して我慢しているというストレスもない。
 女の人たちがまんこにずぼずぼとちんこ(又はそれを模した製品)を挿入して気持ち良さそうにしてる様子を見ていて、ちんこというものが本当に小さいものに思えた。ここ最近、私は安産のためのワークショップに足繁く通っていて、分娩情報ばっかり仕入れている。分娩というのは「アソコからドデカイものが出てくる」ということであり、「アソコからドデカイものが出てくる=超痛い=なるべくラクに出しましょう」という考えが、意識に染み渡っている。「まんこは大きいものを出すところ」。いつのまにか頭の中の「まんこ」の基本がそれになっていて、「そういえばちんこみたいな細くて小さいものをアソコの入り口で出し入れすると気持ちよかったなぁ」と、思い出す、感じだった。私はそれが一番楽しいことだったのに、1ヶ月間ほど忘れてたなんて信じられない。
 AVで改めて見てみた、男女の結合シーン。あんなちいさくて細いものをズボズボ出し入れすることはあんなに気持ちがいいのに、中から出てくるのは激痛、ってどういうことなんだろう? その「感触」に差がありすぎる。
 よく、妊婦向け情報として、「母性が強くなると性欲がなくなる」という表現がある。でも私は、自分の「性欲のなくなり加減」、そして「ちんぽ挿入への心の高まりの激減少」を感じてみて、「赤ちゃんのことが大切だから」とか「何よりも赤ちゃんのことに集中したいから」とかそういう感情が、「ちんぽ挿入への心の高まり」を減らしているとは思えなかった。そんな理性的な感じではなく、自分の体が「ちんぽ挿入よりももっと気持ちいいことを知っている」という感じがした。「性的快楽」は、それ以上の「性的快楽」によってしか、更新されないのではないかと思う。簡単に言うと、クソヘタなセックスは極上のセックスによって記憶から消し去られるが、その逆はないのと同じことである。つまり、「分娩はセックスより極上に気持ちがいい」のではないか、と思った。

 イメージの問題かもしれない。母親として生みの苦しみを最大に味わうべし、みたいな社会認識が、出産を痛いものにしている。セックスで女がよがると男は楽しいわけだから、女に「セックス=気持ちいい」というイメージを持ってもらわないと男が困る。「俺を生むとき、母親がよがった」というのは気持ち悪すぎるという男の意識が、女達から出産の快楽を奪っているのではないか、「セックスは気持ちいい、出産は激痛」は優位中毒な男社会が生み出した願望の権化なのではないか。だとしたら、絶対に私は出産で気持ちよくなりたい。
 「出産で超感じちゃった」なんてなかなか言えるもんじゃないから、体験した人も表て立って言わないだけなのでは?! と思い、ネットを見た。「表立って言えないこと」はネットに全部書いてある。「出産 オーガズム」で検索すると、まんまとたくさん出てきた。「出産は最高のエクスタシー」とおおっぴらに言ってるのはアメリカ人ばかりであったが、匿名掲示板には「陣痛は痛かったけど、出てくる時はエッチより気持ちよかった」「思い出してオナニーする時がある」と、にわかには信じられない情報がたくさん書いてあった。一番驚いたのは「双子を生んで、一人目のへその緒がクリトリスをこすって気持ちよくて声を出してしまった」という記述だった。おぞましさを通り越して神聖性すら感じるこのエピソード、そのリアリティは私を納得させた。もうこの書き込みが嘘であろうとなかろうと、「超気持ちいいらしい」と思い込んで出産に望みたい、と思った。
 それくらい私は痛いのが怖いのかもしれない、恐怖で頭がおかしくなっているのかもしれない。さっぱり未知なることだから誰かにご指南願いたいが、助産師さんに聞いたりしたらなんか怒られそうで勇気がない。「痛みの回避の仕方」は教えてくれるけど、「オーガズムの感じ方」までいくと「ふざけないで!」って言われそうだ。個人的にいろいろ研究してみたい。
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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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