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「まんこの洗い方」問題

田房永子2012.08.22

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 Nちゃんのまんこを初めて見たとき、美しさに息を飲んだ。出産して数時間後、入院先の病室で初めてNちゃんのオムツを替えた時のことだった。鶏がらみたいな体の中央に、厚いふたつのふくらみがピタッと閉じてわれめになっている。大事なものって感じがした。
 オムツを替える時、われめを拭くとその中が見える。われめの中はなんだか見ちゃいけないところって感じがして、怖かった。中についているカスは胎脂という赤ちゃんの皮膚をまもるものらしいのだが、その時は知らなかった。「中もキレイにするんですか?」助産師さんに聞いた。助産師さんは「うん、ついてたら拭けばいいからね」とササッと言う。赤ちゃんのわれめの中にはうんちがつくこともある。だからうんちがついてたら拭くのか、それとも中のカスを全部拭き取るのかわからない。でも、それ以上聞けなかった。他のことは1から10まで教えてくれる助産師さんたちが、まんこの現場になると、1から2くらいまで説明してあとは「…」と黙ってる感じがある。自分のまんこ(会陰を縫ったばかり)のことについてはまだ聞ける。助産師さんのほうからも聞いてくれるし。だけど赤ちゃんのまんこについて質問しようとすると「ウッ…」と声が出なくなってしまう。「女なんだからわかるでしょ、自分のと同じにすればいいよ」っていう空気を感じるのである。
 だけどまんこの正しい洗い方って、そういえば習ったことがない。「中まで洗いなさい」的なことは言われたことがある気がするけど、実際、小陰唇やクリトリスの入り組んだ構造を完全にキレイにするには鏡が必要な気がする。でも「洗うときには鏡を使いましょう」とか聞いたことがない。「まんこの洗い方」について、まんこを持ってる人と情報を共有したことが一度もない、ということにその時気付いた。
 スタンダードな「正しい洗い方」があれば、聞いたり教えたりしやすいと思う。私は事務のバイトでお茶を淹れるとき、茶筒から急須に直接茶葉を入れたらお嬢様系の人にビックリされた。「茶筒のフタに一旦、茶葉を入れるんだよ」と教えられ、「ああ、確かオバアちゃんに教えてもらったことあるなあ」と思ってバイト先ではフタを使うことにした。
 「まんこの洗い方」はそういうスタンダードがない。だから聞いても、「いやいや、それはアナタのやり方でどうぞ」みたいな空気になる。まんこ持ち同士、お互いに「洗い方」を詳しく言わない。「エエッあなた、まんこをそんな風に洗ってるんですか?」みたいな空気になることを恐れ、リスクを回避し合っているとしか思えない。あまりにも語られることがなさすぎて、タブーになっていると思う。
 妊娠中に行った母親学級でも曖昧だった。リアルな赤ちゃんの人形を使ってオムツ替えの練習をみんなでするのだが、まず女の子の人形のまんこはスパッとした「切れ目」があるだけで、割れ目が尻まで繋がってなくて「エッ? 赤ちゃんのまんこってこんななの?」って感じだった。思わず、隣にいる見知らぬ妊婦に「ちょ…これ…こんななんですかね?」と聞いたら聞こえないフリをされた。今思い出しても実際の赤ちゃんのまんこと全然違う人形のまんこ。どうして女の子の人形だけあんなに実物と違うものを作るのか意味が分からない。オムツ替えレッスンの先生である保健師さんはちんちんについては明るく笑顔で「タマの裏にもうんちがつくので、拭いてあげて下さいね~! ホラホラ、恥ずかしがらないで!」と具体的に説明するのに、まんこに関しては尋ねても「うん、いつもどおりでいいからね」と抽象的なことを後ろ向きで言う感じ。
 実際、Nちゃんのまんこに対面しても、われめの中はしっかり向き合うのが怖かった。助産師さんがオムツを替えたあともカスはついてるからとらなくていいんだ、と思った。
 退院して1ヵ月半後、予防接種のために小児科へ行くと、Nちゃんの身体チェックをしたお医者さんが言った。「お母さん、これね、胎脂はとらないとだんだん入り口がふさがってきちゃうんですよ」。見ると本当に膣の入り口が下からチャックを上げたみたいに、透明の膜でくっついていた。「放っておくと上まで全部閉じちゃってね、手術で切らないといけなくなるから」という。背筋が凍って震え上がった。新生児にはよくある症状らしい。「お風呂の時に指で洗えば、汚れはとれるし、閉じてるのも自然に治るからね」。質問しまくって、小陰唇やクリトリスの周りを泡を使って手で触って洗って大丈夫、ということを確認した。どうして今まで誰にも聞けなかったんだろう。結局、男のお医者さんから教えてもらったのだった。
 家に帰って涙目でNちゃんのまんこを洗った。それまでなんか怖くて凝視できなかったNちゃんのわれめの中をちゃんと見て、汚れている箇所をしっかり拭き取った。その時、私のわれめの中への固定概念も洗い流されたように思う。見ちゃいけない、怖い場所なんかじゃない。やはり、われめの中だってちゃんと洗わなければいけない。しっかりみんながスタンダードな洗い方を共有するべきだと思う。そのことに、一体なんの問題があるというのだろう。その後、お医者さんに言われた通り1ヵ月後には治ったのだった。
 ちんちんに比べ、まんこがないがしろにされている感が否めない。育児雑誌の「ひよこクラブ」の「アソコの洗い方特集」でも、ちんちんは皮のむき方から図入りで「亀頭が見えたらそこでストップ」とか「洗った皮は元に戻しておく」とか細かく説明しているのに、まんこは「開いて拭く」の1工程しかなかった。今月号の「ひよこクラブ」では「おちんちんのトリセツ」というおちんちんについての特集が組まれていて、まんこは存在自体がなくなっていた。
 以前読んだ、北村邦夫(Dr.北村)の「専門医が伝える40代の幸せセックス」(中央公論新社刊)という本を思い出す。婦人科医であるDr.北村は、「自分の性器を見た事も触れたこともない女性が多い」ことを嘆いている。「自分の性器をきちんと観察することもないままに、セックスを経験することの愚かさを恥じるべきです」とまで言う。Dr.北村の診察では、患者に鏡を持たせ性器の名称や役割を説明し、洗い方についても教えることがあるという。Dr.北村はさらにこう言う。「学校教育ではこのような指導はできないでしょうし、さりとて親から娘への助言もままならないのですから、学ぶ機会を奪われた彼女らを責めることはできませんが、『こんなに不潔にしておいてセックスするなんて信じられない。男性からの指摘はないのだろうか』と心の中でつぶやくことがしばしばです」。
 私はこれを読んだ時、憤慨した。大きなお世話だと。婦人科医がそんなこと言ってひどいじゃないかと。Dr.北村の世界観が気に入らなかった。Dr.北村の著書を全て集め、「ったく、ジジイが…うるせんだよ…」とブツブツ言いながら読むのが趣味になっていた。
 しかし、今は思う。「『性器を洗うこと』に関してだけは、Dr.北村の言う通りだ」と…。確かに、学校で習わないし、親から娘への助言もままなっていないと思う。その証拠とも言わんばかりにネット上では「みなさんどうやって洗っていますか?」と、「正しいまんこの洗い方」についての情報を欲する大人の女たちの書き込みが多発している。「タブーな感じ」だけが脈々と受け継がれ、ちんちんの情報だけが多いに語られ、まんこは適当な扱いを受け、結果的に医者のオッサンからその扱い方を習う始末。こんなことでいいのだろうか。
 まず、助産師さんや保健師さんなど「初めてのまんこ」を扱う場面にいる人たちが、タブー感を漂わせずに「まんこもちゃんと洗いましょう、お母さん、ホラ恥ずかしがらないで!」と先陣切ってほしい。「おまた」とか「木の葉」とか「コーヒー豆」とか行く先々で変わるまんこの名称も、ちゃんと統一してほしい。呼び方がとっちらかっていることも、タブー感を増長する大きな原因の一つだ。一体どっからどこまでを指すのか分かりにくい大陰唇と小陰唇、性的イメージの強すぎるクリトリスという名称、それらの捉え方や名前を新しく作ってでもいいから、各病院や保健所が徹底して使うことで同じ呼び方を定着させてほしい。他力本願かもしれないが、本当にそう思う。そして私自身もNちゃんへ「まんこの洗い方」の教え方を今後、模索していこうと思う。
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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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