ラブピースクラブはフェミニズムの視点でセックスグッズを売り始めた日本で最初のトーイショップです。

となりのオッサン

田房永子2013.10.23

Loading...

 先日、テレビに「となりのトトロ」のワンシーンが映ったら、うちの子(1歳半)が「うあわあわあわ!!」って言いながら体を揺らして驚いていた。「あ、あれ見て…あんなやつがおる…」って感じで指をさしてこっちを見てきたので「トトロだよ」と教えた。
 「となりのトトロ」のDVDを借りてきて、見ることにした。しょっちゅうテレビでやっているから見ている気になっていたけど、最初からしっかり観たら、初めてトトロを見た12歳くらいの時の感覚をありありと思い出した。
 トトロを見つけるメイという少女の姉のサツキが、12歳の私は鼻について仕方なかった。サツキは大人の言うことを聞き、大人にかわいがられ、しかも妙に子供っぽくはしゃいだりもする。当時、ドラマや映画などで描かれる「子供」は、子供の私から見てリアリティが全くなく、「大人が望む子供」であることに非常に違和感を感じていたが、サツキはその最たる存在だった。
 それを思い出しながら34歳の目で見てみると、確かにサツキは「えっ?」と思う言動をする。サツキの家は、母親が病気で長期入院しており、父子家庭である。その為か、長女のサツキが何かと「母」的な「妻」的な振る舞いをするのだが、特に「はあ?」と思ったのは、父親が寝坊した際、ものすごい慣れた手つきで弁当をこしらえていたシーン。バツが悪そうにする父親を気の利く言葉でねぎらいながら、慌ただしくおたまで味噌汁をくるくるかき混ぜていた。こんな小学4年生いるか? もしかしたら現実にもどこかにいるのかもしれないが、いなくていいと思った。小学4年生はこんなことやらなくていい。
 高校時代の友人Aを思い出した。Aは母親が働いているため、父親の夕飯の支度をしなければならなかった。その為にいつもみんなより早く帰る。彼女は中学から高校まで、ずっとそういう生活を送っていて、仲が良かった私は長く遊びたいのにつまらなかった。
 ある日、学校帰りにAの家に寄ったことがあった。仕事から定時に帰宅していたAの父親は、居間で複数のチワワと楽しそうに戯れながらテレビを見ていた。Aはずっと台所で夕飯の準備をしていて、居間でチワワにキッスする父親の横で私はどうしたらいいかわからず、1時間ほど非常に気まずかった。
 Aが作った夕飯は小さいおかずがたくさん並んでいて完璧だった。「暴力をふるって家具を壊したりしてお母さんや弟を怖がらせるお父さんが嫌い」と言っている彼女が、反抗せず、どうしてここまでするのか、当時の私には分からなかった。(よく考えてみたら今も分からない)。明らかだったのは、彼女は決して、サツキのように父親に元気に声掛けしながら楽しそうに料理をしているわけじゃないということ。憮然とした表情で、一人で黙々と食卓へお皿を運んでいた。それは諦めと憤りと、更に冷静さが混ざった、複雑な表情だった。
 ものすごく聞き分けのよい子供が家事を本格的に日常的に担う(そのために家事スキルが大人以上になっている)場合、ああいった表情になるのが、“正しい”と思う。
 友人のその表情を見たのは高校1年生の頃で、私が「となりのトトロ」を初めて見た時から数年経っていたが、今になって、サツキに対しての違和感と、友人のあの表情がつながるのだった。
 そしてさらに私は12歳の頃に「となりのトトロ」に感じた最大の違和感を思い出した。トトロは4歳のメイに対しては無表情でそっけないのだが、小学4年生のサツキ(同級生の男子も一目惚れするほどの美少女)に対しては、顔を赤らめて照れたりする。そういったトトロがサツキを「女の子」として扱っている描写があって、それがすごいヤダ! と12歳の私は思っていたのだが、34歳の私もトトロめちゃくちゃキめぇ! と思った。
 私は、自分はトトロが好きだと思っていた。かわいい、愛らしい奴だ、森の主だなんて、私も会いたいなと思ってた。12歳の時にトトロに感じた「不平等さ」なんてサッパリ忘れていた。だけど、急にトトロがキモいおっさんに見えてきた。
 私は大人から異常に嫌われる女児だった。大人びていて媚びを売りながらも、急に大人たちの不正を暴くような詰問を始めたりする子供だったからだと思う。つまり、大人の世界を理解しながらも時に妙に子供っぽい、という点で、サツキと同じタイプだった。
 そんな私も、小学校1年生の頃は「担任の先生は田房さん(と他特定の女子)だけひいきしている」と言われた。自分ではよく分からなかったが、何べんも言われるし、そうなのかなあ、と思った。みんなに優しいおじさん先生だと思っていたかったのに、悲しかった。お気に入りの女子の手だけよく触る、と噂もあった。確かに先生は私の手をよく握った。
 「となりのトトロ」に出てくるサツキの周りの大人たちは、すごく“オトナ”で物わかりがよく、平等で、子供の夢を絶対につぶさない。私はサツキにではなく、サツキの環境に嫉妬していたんだなあ、と思った。
 だが、トトロだけはキモい。トトロだけは、現実のおっさんの女を見た目や年齢で判別し態度を変化させる不平等さを所有している。

 先日、とあるワークショップを受けに行ったら講師のおっさんが小奇麗なお洒落オヤジだった。小奇麗にお洒落にしているオヤジは大抵そうなのだが、無意識な感じで若い女の子をジーッと見たりする。この講師も例外ではなかった。「あっ! じゃあ若い人がいるから聞いてみようかな!」と、若さは全く関係のない場面で「若い人」を指名したりしていた。30代の主婦みたいな女に対しての無表情と、20代の学生風の女へ向ける楽しげな表情に明らかに差がある。その差が、トトロによるサツキとメイに対する態度の違いと完全にかぶった。森の主のくせに、おっさん。何故…。
 私が「トトロきもい」「どうして人間のおっさんのよくある特徴がトトロにだけ入っているんだ」「トトロよりもこの村の人たちのほうが、現実離れした不思議な生き物だ」と、一緒に「となりのトトロ」を見ている夫に言うのだが、「何を言っているのか分からない」と言う。夫はジブリに思い入れがあるわけではなく、トトロも今回初めて見たという。しかし私の「トトロはキモイおっさん」という感覚は分かち合ってはもらえなかった。
 私はきっとずっと、トトロから見たサツキとメイ、その両方の立場に勝手に置かれてきたんだと思う。女の子だからと先生から手を握られ、大人びた子どもとして煙たがられ、中学生で制服を着ているだけで毎日のように見知らぬ男から性的な嫌がらせを受け、20歳になった途端に痴漢に遭わなくなり、30歳を過ぎればワークショップの講師に無視される。私は何も変わらなくても、周りのトトロたちは勝手に私をサツキ扱いしたり、メイ扱いしたりする。
 男である夫も、若い時と今では、いろいろ違ったりもするだろうけど、その違いは「女の子」ほどではないのではないだろうか。

Loading...

田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP