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「南くんの恋人」を読んで

田房永子2015.12.10

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 内田春菊さんの漫画「南くんの恋人」を 初めて読んだのは高校2年生の時。ドラマはあまり熱心に見てなかったけど、漫画は何度も何度も読んだ。
 ちよみの、率直に南くんへ愛を伝える様子が可愛くて、セックスを“いいもの”として捉える感覚は、同じ高校生としてすごく大人っぽくて憧れてた。そしてラストはもちろん泣いた。
 そんな「南くんの恋人」(青林工藝舎)の新装版がまた今年の11月、出版された。15年ぶりに読んで、ビックリした。序盤から何度も目頭が熱くなった。

 南くんは、10センチくらいに小さくなったちよみの衣食住の世話をしている。小さくなったことは誰にも知られてはいけない。ちよみは一人では何もできないので、南くんが修学旅行に行く際、一緒に連れて行くしかない。しかし修学旅行中に南くん一人でちよみの世話をするのは無理だから、二人は話し合う。
 南くんは「いっそのこと だれかに話しちゃって 協力してもらうとか」と提案するが、ちよみは「困るのはトイレとかおフロでしょ 南くん以外の人になんて 頼めないよぉ そんなの恥ずかしいもん・・・」と困惑する。
 南くんはハッとして「しまった 俺、ついネコや犬のせわみたいなつもりでちよみのせわのこと考えていた」と反省する。

 箱の中にちよみの部屋を作り、その箱ごとカバンに入れて修学旅行に連れて行くという案を二人は試すことにした。しかし南くんが階段を上ったりバスに乗ったりするたびに、カバンの中のちよみの部屋はひっくり返り、やはり修学旅行に一緒に行くのは無理だ、ということになった。
 最終的に、南くんは修学旅行に行くことをあきらめる。
「だって オレだって この部屋の半分くらいのとこに とじこめられたまま 何時間もゆすられたら ぜったい気が狂うと思うもん いいんだもう しょうがないよな とオレは自分に いいきかせるのだった」
 この回を初めて読んだ高校生の時は、「修学旅行に行かないなんて悲惨すぎる!」と思った。どうにか行けないのか、とか、ちよみを置いてでも行ったほうがいいのでは、とかモンモンとしたことを覚えている。

 だけどいま読むと、南くんという男子高校生のとてつもない柔軟さに驚かされる。
 南くんはちよみに対し“強者”の立場であり、強者であるからこそのニブさ、雑さ、デリカシーのなさ、を持っている。そこにちよみが自分の気持ちを伝えることで、南くんはその度に気付き反省する。さらに態度を改めたり、事態を変化させる。ちよみのことを人間だと思ってない自分にハッとしたりもする。別の、体が小さくなっていない女子にムラムラしたり浮気もしながら、つまり自分の欲望を認識しながら、罪悪感を感じながら、迷いながら、でも堂々と南くんは小さい体になったちよみと向き合う。
 理想的。ものすごい理想郷。害なのは、罪なのは、悪なのは、自分より弱い立場に対して乱雑な行動をとったり、テキトーな言動をしてしまうことそのものではない。男の性欲そのものでもない。
 「そういうものだから仕方がない」と思考停止したままいることである。「そういうものだから」にのっとって、弱い立場からの訴えを無視し続けること、「仕方がないだろう!」と怒りまくってもみ消すことである。完璧に変えられないことが罪なんじゃなくて、受け入れて「変えなければいけないのかもしれない」とすら思わないこと、思う余裕が持てないことが害なのである。
 
 それにしても、「南くんの恋人」を初めて読んだ時の私は男の子と付き合ったことがなかったし、女子校に通っていたし、男の子はこの「南くん」みたいな感覚を持っているのが普通だと思っていた。普通の男子の心理をリアルに描写してるんだと思ってたから、男の子と付き合ったら、必然的にちよみと南くんみたいな会話ができるんだと思ってたのである。

 だけど、その1年後に付き合うことになった男子高校生は、東京タワーの展望台でスナック菓子を食べ始めた私に「なんでそういうことするの」と怒りものすごく不機嫌になったり、「ちゃんと化粧しろ」とか、「そういうバッグは持つな」とか、「俺の前でミッフィーみたいな子どもっぽいものを『可愛い』とか言うな」とか、私のやることなすことに指示を出し、従わないと不機嫌になった。「彼氏の部屋に来たら女は掃除をするのが当たり前」という謎の方式を強要しわざと靴下とかを脱ぎ散らかしてあったりもした。
 別にヤンキーとかチーマーとかではなく、サラリーマンとカントリー家具に凝っている主婦を両親に持ち私立高校に通う、J-POPとめちゃイケが好きな一般的な男子だった。
 私は彼氏ができたら、ちよみみたいに「○○くん、あいしてるようん」って言ってみたかった(当時は本気!)けど、相手は自分の願望通りの女ではない点にダメ出しすることばかり必死で、私もそれに応えるのにいっぱいいっぱいで、私が男の子と付き合ったらやってみたいことを主張できる隙はなかったし、向こうも「俺の願望かなえてもらったから君のも言ってよ」なんてもちろん言うわけなかった。

 私だけじゃなくて、周りもそんな感じだったから、特別あの男子がおかしいとかそういうわけじゃないと思う。男はまず、ホモソーシャルの中での勝ち組にならなきゃいけないから、女を人間として扱うなんて弱者男みたいな真似はできないのかもしれない。女の子と付き合うことについて初心者の時は、どれだけ対等に楽しい時間を過ごせるかというよりも、いかに自分に従順な女であるか、が彼らにとって重要な基準であり、そこのクリアこそが彼らの“健全な成長”をあらわす項目なんじゃないか、とさえ思う。
 現実の男子高校生が、南くんのような柔軟性を持ち合わせることはとても稀だと思う。30代40代になっていろいろあってから少数の男がやっと南くん的男性になる、その他多くは一生ならないまま死ぬ、のが普通だと思う。

10代の時に読んだ懐かしい作品を、30代でまた新たな感覚で楽しめて、すっごく楽しかったのでした。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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