ラブピースクラブはフェミニズムの視点でセックスグッズを売り始めた日本で最初のトーイショップです。

本来は、即終わるべき悪ふざけ

田房永子2015.12.22

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※このコラムは、「おっぱい募金」自体の説明は一切省いて進行します。

 10年前、2005年の夏、男性向けエロ本で記事を書く仕事をしていた26歳の私は、ケーブルテレビのエロチャンネルのイベント「エロは地球を救う」の取材のために新宿3丁目のビルのスタジオへ向かった。
 入り口から入ると2~3人いた男性スタッフに「おっぱい募金してください」と言われた。目の前に黄色いTシャツを着た当時有名なAV女優が一人座っていて、彼女の前のテーブルに募金箱が置いてある。私は100円玉を一枚入れてまた通り過ぎようとすると、またスタッフに「あー! おっぱい触っていってください」と呼び止められた。「え?」と思っていると、そのAV女優がTシャツをまくりあげておっぱいをポロンと出した。「おっぱい募金なんで、触って下さい」と言う。「え? え?」と言いながら、私は伸ばした右手のひらを女優さんのおっぱいに置いた。

 女優さんのおっぱいから手を離しながら私は「超すごい!」と言った。「え? 何がすごいんですか?」と男性スタッフに聞かれ、「おっぱいって、素晴らしいですね!!」と、周りにいる男性スタッフのほうを見て言った。男性スタッフたちは「ははは」と笑い、「素晴らしいだって。アハハ」と繰り返して笑った。私は「いやあ、すごいなあ、おっぱいって素晴らしいんだなあ」とぶつぶつ言いながら、メイン会場のスタジオに移った。
 スタジオでは有名人が番組を進行していたが、誰だったのか、どんなコーナーをやっていたのか、ぜんぜん覚えてない。でもスタッフの人たちも出演者たちもハツラツと張り切っていたのは覚えている。世の中の裏側にいるエロ業の人たちの年に一度のお祭りを成功させようとしてる気迫が伝わってきた。

 確かおっぱい募金をやっているスペースに、別の募金コーナーと布とか紙とか手作りで作られた神社みたいなものも設置されていたなーと思い出した。ネットで検索してみたら、女性向けの「玉もみ募金」というのがあったけど、募金する人がほとんどいなくて廃止になったとある。神社みたいなものは「手コキ神社」というもので、同じように募金するとAV女優による性的サービスが受けられたが、これも諸事情によりなくなったらしい。
 私が見た時は、手コキブースと玉もみブースには客もスタッフも誰もいなかった。そのスペースの飾り付けは文化祭っぽかった。ひとけもなく、おっぱい募金のAV女優一人と、男性スタッフ2~3人、と私しかいなかった。とてもしょぼかった。でもそのしょぼさは、エロのくだらない企画として当たり前の風景だった。

 ネットで2015年の「おっぱい募金」の様子を見て、こんなすごい規模になったんだなと思った。AV女優がずらっと並んで、お客さんもずらっと並んで、アイドルの握手会みたい。こんな光景をツイッターで見せられた人がギョッとするのは当たり前だし、拒否反応したり抗議したり反対するのは当然である。完全に、「当然」としか言いようがない。なにこれ、キモい、おかしい、という反応が出てくるのが当たり前で、そもそもそういう普通の人の反応が前提になっているからこそ、「エロ」がバカで面白いっていうのが成立してたはずだった。

 やっぱり、エロには「しょぼさ」が必要なんだと思う。エロは、権力を持ってはいけないんだと思う。豪華になったらぜんぜん面白くないっていうか、最初からおっぱい募金は面白くないんだけど、やっぱりこんなにきらびやかになってしまうのは間違っていると私は思う。エロが力を持つと、脅威になってしまう。
 
 私の勝手な印象だけど、エロ本に記事を書く仕事をしていた時、エロ本を作っている男の人たちって謙虚な人が多いなーと思っていた。「俺たち日陰の身」が前提で、世の中から外れている、疎まれているというのを分かった上で「エロ」を仕事にしているという感じだった。逆に、普通の企業のサラリーマンとかそこに入ろうとしている学生とかのほうが、ひどいセクハラ思考を持っているくせに面と向かって露骨にエロ本の仕事をしている人をバカにする横暴で無礼なやつが多かった。
 私にとっては、今思い返してみても、エロ本の編集者の男性たちはモラルのある人が多かったと思う。それは、女の人をいやな気持ちにさせないという、普通の人間としてのモラルである。女の体や性を男が搾取して成立する業界ではあるんだけど、そこをわきまえているデリカシーのある人が案外いた。もちろんそうじゃないバカもたくさんいたが、個人的に比べたら、当時の自分のほうが分かってなかったと思う人が何人も浮かぶ。

 おっぱい募金はもともと「どこかから怒られたらやめます」ってスタンスのものだったんじゃないかと思う。今はどうか分からないけど、10年前の時点では。
「どう~です~、バカでしょお?」っていうノリが全面に出てた。「女性団体から怒られて廃止になったおっぱい募金」ってなったらむしろ面白い、そんな結果を待ってる部分もあったんじゃないだろうか。怒られたら「当たり前だろバカ野郎」ってスタッフたちがお互いをどつきながら撤収する、そういうビートたけし的悪ノリみたいなものに見えた。
 
 2015年のおっぱい募金は内状がどういうものか分からないけど、表から見て、しょぼさや「怒られたら即撤収感」がぜんぜんない。見栄えはもう本格的なチャリティー臭のほうが強い。さらにツイッターというエロ界と普通の世界がシームレス化している場所に、なんのオブラートにも包まない状態で流れ出てしまい、全く関係のない多くの人の目に触れ、恐怖や大きな違和感を与えてしまうことになった。
 もしかしたら、「意外と怒られないもんだね、あれ? じゃあこうする?」みたいな感じであれよあれよとこんなに大規模になってしまったのかもしれない。こんな風になってしまうと、怒られた側も「怒られたから即撤収」できなくなってしまうと思う。
 だからエロには、しょぼさ、大きくなりすぎない、権力を持たない、作ってる側の「そういうのは違うよね」感、つまりモラルの共有がとても重要だと思う。誰かの提案に誰かが引く感覚。「ダメなものはダメ!」と言われたらその場で「ですよね、撤収しま~す」と終わるべき悪ふざけが、正義を獲得してしまってはやはりいけなかったのではないだろうか。

 10年前、おっぱい募金した時のことに話は戻る。
 AV女優さんのおっぱいに触った時、手のひらにひろがるふわふわと、その中にあるポッチに、本当にビックリした。他人のおっぱいを触ったことがない、ということにその時気付いた。おっぱいって、こうやって触るとすごいな!!! と思った。その時思ったのは、「癒やしとエロスが同時に伝わってきてすごい」みたいなことだった。
 私は「すごい! おっぱいは素晴らしい!」と、男性スタッフに言った。女のおっぱいを触って受けた衝撃の感想を、男に言ったのである。
 もしかしたら、その女優さんのおっぱいが、見たことないくらい大きくて、私が何度もいろんなおっぱいに触ったことがあって、その女優さんのおっぱいを触って何かに驚いていたら、その女優さんに「あなたのおっぱいすごいですね!」って言っていたかもしれない。だけど、「おっぱいって、いいものなんですね」という感想を私は、男にしか伝えられなかった。
 そのAV女優さんからは、「何言ってんの」というシラけた雰囲気が漂っていた。目の奥は乾いてるような表情と低めのテンション、でもそれに違和感はなかった。私だってもし逆の立場だったら、自分のおっぱいを触ってギャーギャー騒いでる女がいたらシラーッとした気持ちになるし、「だよねえ、おっぱいっていいよね」なんて気持ちにもならないし、そもそもおっぱい募金って何って感じだ。
 もしあの時の女優さんが、すごく明るかったとする。だとしても私がいまここに書いた昔のことと今のこと、それにまつわる意見は、何も変わらない。

◎おまけ◎
 今年最後なので、2015年を振り返り、個人的ベストCM、ワーストCMを発表したいと思います。

 ベストCM!
 「Xperia A4『コンパクト』篇」
 2歳くらいの子どもを抱っこしてるママが片手でスマホを操作してるCM。「小さい子どもがいるので、片方の手でメールの返信ができたり操作ができたりするのがありがたいです」とナレーションが流れる。
 子どもが0歳~2歳の時、「スマホを見ながら育児をするな」というメッセージをいろんなところで見たり感じていて、ほんとに息苦しかったからこのCMを見た時、思わず「おおおー!!! ブラボーー!!」って叫んでしまいました。
 ママが子ども片手に堂々とスマホをいじってる映像って、CMで見たことなかった。あったのかな? とにかくなんか、ざまーみろ!っていうことをすごく思いました。スッキリした大好きなCMです。だいたいなんで、小さい子がいるからってスマホを見ることを他人からとやかく言われなきゃいけないんだ。

 ワーストCMは、「ワイモバイル」の猫のシリーズ。
 登場するのは猫(ふてニャン)だが、中年男性の声がアテレコしてあるCM。シリーズ全てじゃないけど、ふてニャンが人間の男性の心理を象徴する言動をするのがものすごく気持ち悪いのでワースト入りしました。
 廃品回収のアナウンスをしながらトラックを運転しているふてニャンが、前から歩いてきた女子高生に気をとられて、アナウンスが中断する。人間の女性整体師に体を揉んでもらっている時、その整体師の胸の谷間が見えてふてニャンが見る。警官に扮したふてニャンが女子高生に出会い「結婚して下さい」と言うものなどがある。
 最新シリーズは、新幹線の販売乗務員(売ってるのはケータイ)になったふてニャンが、女子高生風の女の子に「お弁当ください」と言われ「ありませ・・・探してみます」と答え、その隣のサラリーマンが「弁当ください」と言うと「はあ~?」と冷たく返すというもの。
 これを猫じゃなくて人間の男がやってたらただの不快な映像なだけなのに、姿を猫にして誤魔化しているところが、すっごい気持ち悪いなーと思う。別に猫好きってわけではない私でも、猫に勝手に自分たちの欲望を演じさせて失礼だろ! 全猫に謝れ! と言いたくなるくらいな感じのCMである。

◎最後に宣伝です!
この「女印良品」が、書籍化しました!
「母乳がいいって絶対ですか?」(朝日新聞出版)というタイトルです。
加筆修正しまくりましたし、イラストも全部書き下ろしです。ぜひとも、お手にとって読んでいただきたいです!
 
◎さらに宣伝!
ラブピースクラブの福袋の季節到来です! パートナーに対して「このグッズを買った」と言いづらい場合、オススメの技があります。ガチで使ってみたいグッズと一緒に、ラブピの福袋を買うんです。「福袋に入ってた」と言えば、いいんです。YES。とにかくラブピの福袋は楽しくてオススメ。私は過去、福袋狂(並んだりして転売とかするわけじゃなくて、売れ残りの1000円とか3000円の福袋を見つけると買わずにいられない。結果、年始からゴミを集めるという事態になる)だったのですが、それを卒業した今。ラブピの福袋は今年も買おうと思います。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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