ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

ajumabooks

他人にキレてしまう人

田房永子2018.09.03

Loading...


 キレるのはほんとに迷惑な行為であるので、本人がやめるようにがんばるべきことだと思う。
 でも、キレることについての研究が浸透されていないから、「もともとの性格」だってことで片づけられることが多い。キレる本人も「キレさせる相手が悪い」とか「自分は誰にでもキレるわけじゃないし」とかって対策をとらず放置しがち。実は自分でなんとかできる可能性があることである。キレない生活は本当に快適。長年キレ続けてそれが苦しかった私は本当にキレなくなって日々の幸福感が倍増した。
 ※くわしくは私が自分一人でキレるをなんとかしてどうにかなった実録漫画「キレる私をやめたい~夫をグーで殴る妻をやめるまで~」(竹書房)をぜひ読んでほしい

 他人にキレてしまうことで悩んでる人は、自分の「キレる」行為に罪悪感を持っていると思う。キレても、それに悩んでない人は今回の対象には入らない。自分で悩んでやめたい、と思っている人は、自分のキレる行動を「過剰な自己防衛」だと考える視点を持つべきだと思います。
 「キレる」というのは、怒鳴る・暴れる・奇声をあげる・罵る・何かを投げる・相手に掴みかかる・殴るというアクションに加えて、駆け引きも含まれる。
 例えばこちらのブチギレる言動に相手がウンザリしてその場を去ろうとした時、今度は「出ていくなら○○(金返せ等の代償)しろ」と条件を出したり、「こうなってもいいなら出ていけ」と脅したりすることがある。こういった一方的な駆け引きのこと。

 キレる人は、キレている時、相手に対して「私の目の前からいなくなれ」というメッセージを発しつつ実際に相手が去ろうとすると「私を置いていくな」ということを遠回しな表現で投げつけて強烈にすがりつくという行動をよくやる。私もよくやっていた。

 夏、道路にひっくり返っているセミがいる。死んでいると思って横を通ると、こちらの気配に反応して突然セミがブブブブブブブブブブブ!!!!!!と暴れる。瀕死のセミにとっては「気配」が自分にとどめを刺しにくるぶっとい銃口みたいに思えるんだと思う。セミは最後の力を振り絞り、「俺に近寄るんじゃねええええ!!!!!!」と固い羽を死ぬほど動かしてこっちに突進してくる。

 悲鳴を上げてそいつから身を避けた時、あ、キレてる時の私そのものだ! と思った。

 夫にキレまくってしまう私は、心の底の部分は過去の嫌なことつらいことによって傷ついてボロボロのままだった。健康で元気に日常生活を送っているのに、心の底では自分のことを「今すぐ地球上からいなくなっても誰にも気づかれない無価値な人間」だと思っている。そうは見えないし、意識では「自分は普通に生きているし生きていける」と分かっているけど、心の底にはそれが固まっている。

 だから夫がちょっと言ったイヤミとかが、「君にはもうウンザリだ、出て行ってくれ、顔も見たくない」みたいに言われてるように感じてしまって、「私をこれ以上追い詰めるなんて、私のことがもういらないのか! 捨てるのか! 殺す気か!」とパニックになる。私は夫にキレている時、怒ってもいるけど、悲しい寂しい捨てないで、許せない、助けて、といろんな感情を訴えている、ということが分かった。

 つまり「キレている時」は怒っているというよりパニック状態と呼んだほうが正しい。キレてる人はだいたいこのように支離滅裂な事を言ったりやったりする。この人が一体何に怒っているのかよく分からないのに、めっちゃ怒ってるように見える。

 どうしてパニックになるのか、は、キレる本人が自分で分析すると効果的だし、本人がやるべき仕事だと思う。

 この問題で一番重要なのは、キレてる人が自分でそれを悩んでいたり「やめたい」と思っていなかったら、周りの他人はもう何もできない、ということである。もし、「キレるところさえなかったらずっと一緒にいたいのに」と思っていたら、それを本人に伝えるしかない。「もうキレられるのに耐えられない」という気持ちを伝える。それか、関係を断つ。

 いつも特定の人にブチギレまくって脅しまくり振り回しまくり、対人関係に大きな影響を及ぼしていて周りから見たら「とんでもねえな」「大変そうだな」「ていうかもう哀れですらあるな」という印象の人でも、その本人はぜんぜん悩んでなかったり「悩んでない」と言い張ったり、自分がキレる人であると自覚もない場合もある。たいていの場合、そういう人に「キレやすいのは何かがあるから病院とかカウンセリングに行ってみてほしい」と言うとブチギレられる。

 キレるのをやめるには「怒り」を「コントロール」する、という考え方が一般的だ。
 だけど私の考えは違う。私は自分のキレる行為に向き合った結果、「パニック」がなぜ起こるのか自分は何を伝えたいのか「自分に寄り添う」のが効果的だった。
 「パニック」を「怒り」(たった一つの感情)だと誤認して「コントロール」しようするのは逆効果である。

 キレる人がなんでキレる(パニックを起こす)のか、その中の一つの理由に、「分かってほしがっている」というのがある。
 キレる人というのは、その自分の心の底の「瀕死」状態に気づいてない。例えば、過去に親や学校や何かから傷つけられた部分がそのままになっていて、複雑骨折して破裂状態のぐっちゃぐちゃにになってて本当はめっちゃくちゃ痛いのに、「そんな傷はない」「痛くない」「私はまとも」という頭のほうが大きくなっていて、頭が心の底に向かって「黙れ」という麻酔薬を発信している。
 長年、麻酔薬を送り続けているし、送り始めた記憶もないので、自分の脳が自分の心の底に送っていることすら自分でも知らない。

 だけどぐっちゃぐちゃの傷自体は存在しているので消えることはないし、むしろ年をとるほど化膿しまくってぐっちゃぐちゃ加減はひどくなっていく。傷を抱えた「心の底」を治療できるのは「自分」しかいないのに、その「自分」から「黙れ麻酔」を打たれ続けているので、その「自分」が自分の味方をしてくれないという理不尽に対して「心の底」はいいようのないマグマのような「怒り」を発生させる。

 黙れ麻酔を打ってくる自分に絶望している「心の底」は、近しい人、自分に好意を持ってくれる人、慕ってくれる人に向かって、「こいつ(自分)はぜんぜん分かってくれない! だからお前がなんとかしてくれ!!」というメッセージを込めて、ブチギレまくるのである。

 ブチギレる人がこちらに向かって言っていることが、「え? それあなたのことじゃない?」という時が多々ある。それは、その通り、キレる人は「自分」の話をしているのである。ブチギレる人が「お前はクズだ! 誰にも愛されない無価値な人間だ!」と叫んでいる時、キレる人の「心の底」が分かってくれない治療してくれない黙れ麻酔をかけ続けてくる自分に向かって「こいつ(自分)はクズだ! 誰にも愛されない無価値な人間だ!」と罵っているのである。

でも「心の底」と「自分」は繋がっていないので、その声が目の前の人を通して漏れているだけなのである。キレる人が言っていることが支離滅裂なのはそのせいだ。

 しかしキレる本人にとっては、「キレる」によって、生き延びることができた、という面もある。傷を与えてくる相手と一緒にいなければいけない状況や、学生時代など生きていく力がまだ不十分な時は、その「黙れ麻酔」のおかげによって「まともな私」を保っていられる。
 だが、大人になって「ある程度安全・安心な環境」に身を置けてからも「黙れ麻酔」を流し続けていると、今度は自分が「もういいよ、いい加減にしろよ!」と自分に対して怒り出すのである。

 キレる人の心を理解してあげてくれ、という主張ではない。漫画「キレる私をやめたい」の事や、キレる理由などについて書くと、「キレる事を正当化するな」とブチギレてくる人がたまにいる。

 私が漫画に描いたのは、キレる人本人が行うメソッドであり、それはキレられて困っている人にも役に立つとは思うけど、「キレる人はこうだから許してね」という主張では全くない。むしろ、一刻も早く逃げるべきと思う。

 私も、小中高生時代、もうとんでもない理不尽でめちゃくちゃで支離滅裂なキレ方を母親からずっとされてきて、本当に嫌で嫌でこっちの気が狂いそうだった。

 次回へ続く
2018090302.jpg

Loading...
田房永子

田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

RANKING人気コラム

  • OLIVE
  • LOVE PIECE CLUB WOMENʼS SEX TOY STORE
  • femistation
  • bababoshi

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOPへ