セックスについてのハウツー本というと、これまで、シスジェンダーでヘテロセクシュアルを対象にした恋愛至上主義的なものが多く、「女としての喜びとは確たるもの」とか「男としての役割は」云々・・・ジェンダーやセクシャリティを決めつけるような表現が多かったように思います。
こんな時にどうすればいんだろう、どうやったらもっと楽しめるんだろう、そんな、実際的なハウツーは知りたいけど、そこに貫かれた土台の価値観の部分が共有できず、この類の本は敬遠していた、という方も少なくないのではないでしょうか。
フランスで今、大ベストセラーになっている書籍「あなたのセックスによろしく~快楽へ導く挿入以外の140の技法ガイド~」は、「セックスは他者同士が体で行う最も親密な行為。だから、相手の心と体に敬意を持たなくてはならない」という基本姿勢のもとで書かれた、自分とパートナーの体とこころをもっと深く知るためのガイドブックです。
フェミニズムの視点から、老若男女、ジェンダー、セクシャリティ問わず、すべての人を対象にしたセックスの考え方とコツを伝えています。

もともとは、イラストレーターの著者が、Instagramで「ジュイサンス・クラブ」というアカウントを始めたことが本書の誕生のきっかけ。
このアカウントでは、性器の構造や触り方などを著者のイラストでわかりやすく発信されています。
実は、フランスでも意外なことに性教育はあまり進んでいないそうで、性器の構造を理解していない人も多いのだとか。このアカウントを通して、ようやく理解できた、初めてオーガスムが得られた、自分の抱えている問題を初めて表現することができた、さらにそれをパートナーと話し合うことができというたくさんの声が寄せられているといいます。
そんな、「ジュイサンス・クラブ」の発信から生まれた本書では、解剖学の講義を楽しくわかりやすく学ぶような感覚で、セックスや性器について豊富なイラストと解説がされています。
特に挿入を伴わないセックスについて、詳しく書かれています。それは、「挿入がなくてはならないもの」としてセクシャリティの中心にされていることで、セックスの幅を狭め、狭い定義と抑圧的なセックスの基準で多くの人を排除してしまうから。
「射精しなくてはいけない」
「オーガズムを感じなくてはいけない」
「挿入しなくてはいけない」
まずは、この3つの思い込みをやめることから始めよう、と著者は呼びかけます。
「私のフェミニズムは、誰のことも排除しない。ジェンダーも性的指向も身体能力も銀行口座の残額も国籍も健康保険の番号もほとんど価値を持たない。敬意こそが、受けるべき基本的な権利だ。」
ステイトメントの通り、本書に貫かれているのは相手とのコミュニケーションを重要視すること。そして、そこには「女性」「男性」という言葉も一切出てきません。セックスをより深く楽しむために読んだはずのハウツー本でかつて抑圧的に気持ちになってしまった・・・という方にも是非読んでいただきたいセックスポジティブな一冊です。
1目次
序文
ジュイサンス・クラブへようこそ
あなたのセックスによろしく
CHAPTER 1. ヴァルヴァの秘密
CHAPTER 2. ペニスの秘密
さあ、セックスしましょう
CHAPTER 1. ヴァルヴァを持つ人の性感帯
CHAPTER 2. ペニスを持つ人の性感帯
CHAPTER 3. ユニセックス
おわりに
参考サイト・SOS 窓口 リンク集
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著者
JÜNE PLÃ
ジュン・プラ
マルセイユ出身。オンラインゲームのキャラクターデザイナーをしている。何よりも好きなものはセックスと2000 年代R&B。問題は、ずいぶん前からセックスが単調になっていたことと、「♯MeToo」運動のさなか、R.ケリー*にひどく失望させられたこと。これを解決するにはどうすればいい? R & B については、まだデスティニーズ・チャイルド* がいるから大丈夫。でも、セックスに関しては、挿入だけが人生ではないことをパートナーたちにわからせるには、絵を描くほかに手段がなかった。そこで、イラスト付きの考察をインスタグラムに投稿したところ、これが大変な人気を呼んだ。1年半で、インスタグラム“ジュイサンス・クラブ” が獲得したフォロワーはなんと30 万人! つまり、みんなが悩んでいたということ?
翻訳者
吉田良子/よしだ・よしこ
1959 年生まれ、早稲田大学第一文学部卒、仏文翻訳家。主な訳書に、シャン・サ『女帝 わが名は則天武后』(草思社)、アレクサンドル・デュマ『ボルジア家風雲録』(イースト・プレス)、ジャン= ガブリエル・コース『色の力』(CCC メディアハウス)、ロジェ・ゲスネリ他『世界一深い100 のQ』、ミレーヌ・デクロー『大人が自分らしく生きるためにずっと知りたかったこと』(ともにダイヤモンド社)など。
監修者
高橋幸子/たかはし・さちこ
埼玉医科大学医療人育成支援センター・地域医学推進センター/産婦人科医。日本家族計画協会クリニック非常勤医師。彩の国思春期研究会西部支部会長。年間120 回以上、全国の小学校・中学校・高等学校にて性教育の講演を行っている。NHK「あさイチ」、「ハートネットT V 」、「夏休み! ラジオ保健室~10 代の性 悩み相談~」に出演、AbemaT Vドラマ「17.3 about a sex」、ピル情報の総合サイト「ピルにゃん」、家庭でできる性教育サイト「命育」を監修するなど、性教育の普及や啓発に尽力する。書籍では著書とし
て『答えは本の中に隠れている』(岩波ジュニア新書)、『サッコ先生と! からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』(リトル・モア)、監修書として『世界中の女子が読んだ! からだと性の教科書』(NHK 出版)がある。