夫婦を越えていきたい!この国の「結婚」は、何故こんなに不自由なんだろう。選択的夫婦別姓のこと。インタビュー弁護士 打越さく良
2016.12.22
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「結婚する=名字を変える」のが当たり前のことのようになっているニホン。実は、絶対に夫婦一つの姓じゃなくちゃダメ! と強制するのは、世界中を見渡しても物凄く特殊な状況です。しかも、婚姻届を出す夫婦の96%以上が男の姓を名乗る現実。これっていったい、なにを意味しているんでしょう?

ニホンの結婚観、現実はどんどん動き、色んな結婚のスタイルがあるはずなのに、法律はいつまでもオッサン側の視点から一歩も動かない。そういう中、選択的夫婦別姓を求めて闘ってきた女性たちがいます。
なぜ、選択的夫婦別姓を求めるのか。そしてこの選択的夫婦別姓の権利すら認めようとしない判決が2015年に最高裁で出てしまいましたが、その背景になにがあるのか。
最も苦しんできた女性に常によりそうように闘ってきた弁護士の打越さく良さんに、お話を伺いました! 



■最高裁で闘った理由とは? 〜闘った女性たちが味わってきた思い〜

 私は普段、DV被害者、離婚、あるいはセクハラの被害者、そういった事件を扱っています。
 選択的夫婦別姓については、これまで国会での法整備を働きかけてきましたが、なかなか国会では変わらないために、裁判所に期待しようと今回訴訟を起こしたのです。

 裁判の経緯を説明します。
 民主党(現民進党)は野党時代にずっと、選択的夫婦別姓の法案を出していたんです。ですから、民主党政権が誕生したときに私たちは盛り上がりました。
 選択的夫婦別姓を良しとしていた千葉景子さんが法務大臣になり、福島みずほさんが男女共同参画の担当になった、「これはやった!!!」と喜んでいたら、なんと、「政府としては法案を提出しない」と言い出した。
 これはもう、国会には期待できない、司法の判断を仰ぐしかないと考えました。今から考えると、私たちは裁判所に対して楽観的でした。
 私の夫が刑事弁護士(村木一郎弁護士)なんですけど、裁判所には悲観的なんです。「裁判官は、悪い裁判官とものすごい悪い裁判官しかいない」と言うわけですよ(笑)。やはり日ごろから国を相手にしてると違いますね。

 原告は3人の女性です。
 そのうちのお一人は、今80代の女性です。50年以上も別姓を切実に望んでこられました。結婚してから日本国憲法は男女平等ではないの? おかしいんじゃないの? でも、子どもが婚外子になるのはどうかな? などと悩まれながら、婚姻届出して離婚して、を繰り返しやってきた。だけど第3子を生んだ後に、夫のほうから、もうペーパー離婚するのはいやだと言われ、それからは通称を使用してたのですが、職場でなかなか認めてもらえなかった。通称使用をしようとしても戸籍姓で呼んでくる人とかいてね。精神的に厳しい状況になった。
 彼女だけじゃなくて、このようなストレスで鬱になった人はいっぱいいるんです。例えば、通称使用している人が、運転免許を見せるような場面で、「本当の名前(・・・・・)はこれなんですね」と言われたり、職場で通称使われると不便なんだよね、とか嫌みを言われたり、保険証の名前で呼ばれるのがイヤだから病院に行けないとか、いろんな事がおきているんです。そのような話を、陳述書として最高裁に提出したんですが、最高裁は血も涙もない・・・ということが結果的に分かるわけなんですが。


■「塩漬けされた」選択的夫婦別姓案。いったい誰のための夫婦同氏なの? 

 民法750条では、
 「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」

 となっている。夫または妻のどっちかでいいでしょ、という感じですよね。かつ「定めるところに従い」とあるので、婚姻してから決まることなのかな? とも取れるのだけど、戸籍法74条によって

 「戸籍法74条 婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。 一 夫婦が称する氏」

 となる。つまり、届け出する時にどっちかの氏にしなくてはならないんです。結局は、夫婦同姓は婚姻の要件になっている。

 1996年に法制審でこの問題を審議しました。法制審は、日弁連、最高裁、法務省事務方、学識経験者とかすっごくいろんな権威のある方たちが集まるんです。その場で、氏に関して民法改正案要綱が出されました。

 「民法改正案要綱 第3 夫婦の氏 」
 「1  夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。」

 と入れてくれた訳ですよ。ところが、2項ですね。

 「2  夫婦が各自の婚姻前の氏を称する旨の定めをするときは、夫婦は、婚姻の際に、夫又は妻の氏を子が称する氏として定めなければならないものとする。」

 子どもがうまれる都度に子どもの姓は夫婦が協議して決めればいいんじゃないの? と思いますが、国会議員の反対をクールダウンするために、妥協的に、婚姻の時に統一して子どもたちの氏を統一して提出すると。夫の氏にします、妻の氏にします、それは決めなきゃいけないよ、というふうにすれば、保守的な議員も黙るかな、と。それなのに、反対の声がおさまらず、今に至るわけです。

 法制審は非常に権威があります。その権威が出した民放改正案要項が通らなかったんです。法制審が審議したのに塩漬けされたほぼ唯一の法案が、選択的夫婦別氏を導入するこの法案だとか。
今更ながら強い怨念を感じますよね。


■実はなかった? 夫婦同氏の目的とは?

 民法はどちらの姓を選んでもいいようになっている。ところが現実は、100%が男性の姓を名乗るわけです。たまたま毎年100%ぐらいなのかなって…、わけないだろ(笑)

 どうして夫婦同氏をしなければいけないのか?
 江戸時代まで、氏は武士などの特権だったのですよね。身分によって、氏を名乗ることもなかったわけですよね。
 明治時代になって、中央集権的に管理する必要性があったから、必ず名字を名乗りなさいよ、と氏制度がはじまった。それでも明治民法でも夫婦の氏の規定はなかったんです。当時、妻は夫の家に嫁として入る、という状況でした。結果として、夫の家の氏を称する事になるから、夫と妻は同じ氏だね、ということになる。
 日本国憲法になって、個人の尊厳、両性の本質的平等に反する、ということで家制度廃止されて、氏も家の呼称とかじゃないよとなったんだけども、「どうすんだっけ、夫婦どうすんだっけ?」というのりというか、特にその必要性を議論されたわけでもなく混乱のなかで、結果として夫婦同氏の規定ができた。

 私たちはずっと訴訟で国に対して、「夫婦同氏の目的は何ですか?」「立法目的はなんですか?」と聞いても、答えてくれませんでした。「ファミリーネームとして定着している」とかいうばかり。それ、目的でなく結果でしょ。結局、目的なんか、ないから、答えられない。
 夫婦同氏なんて、流れでなんとなく成立しただけなので、立法目的はない。特に立法目的もないようなものを、苦しんでいる人もいるのに、あえて残しておくこともないでしょ。でも「ファミリーネームとして定着している」としても、定着したのは法律があるからでしょ、それしかないからそうしているんでしょ、って。


■今さら始まったわけじゃない「選択的夫婦別姓」議論。いったいいつまで議論する気?

 50年代にも、夫婦同氏には関しては、たくさん議論があったんです。
 59年の6月15日、これは東京家裁審判が、離婚したい時に、自分の慣れ親しんだ姓を名乗りたい、また、社会的に面倒だから変えたくないと、という問題で争われたことがありました。その時に、裁判所はこういうこといってるんですよね。

 「1959年6月15日 東京家裁審判『婚姻に伴い氏を同じくするか別氏とするかの選択の余地のない夫婦同氏制は根本的に再考されなければならないであろう』」

 この審判は、戸籍法の大家であった裁判官が書いているんですが、このときからもう、女性の方が改姓に不利益を被っていると明記しているんです。婚姻とか家族にとって同氏なんて意味がない、根本的な問題じゃないという指摘です。

 76年には婚氏続称制度というのが出来ました。
 例えば、「夫の顔を二度とみたくない」など、DV被害を受けて苦しんでいる女性でも、離婚するときに、それまでの何年間か自分が社会生活を夫の氏でやってきた方だと、改姓したくないという人もいます。それについては早々に1976年に、不都合だったら離婚にあたっても続姓できるという制度ができたわけです。
 その時も法務省民事局長が、こう答弁しているんです。

 1976年 婚氏続称制度(民法767条2項)参議院法務委員会 
 香川保一法務省民事局長答弁 選択的夫婦別氏の導入について
 『国民の1割がそうしたいということになりますればこれはやっぱり無視できない』

 今、1割以上の人が、そうしたいって言っているのに無視してんじゃん!! 


■アベ政権で遠のいた選択的夫婦別姓への道。

 このように長い間、民法改正を求めた動きがありましたが、安倍政権になってたから、平成28年度の男女共同参画行動要綱に、「引き続き慎重な検討が必要である」と…「慎重な」っていう言葉が入っちゃったんです。これまで積み重ねてきた動きから、思いっきり遠のきました。 既に、何十年も検討しているんだけど、まだ「慎重に」検討する気?(笑) 唖然としました。

 この男女共同参画行動要綱には、再婚禁止期間については100日を超える部分は憲法に違反するとの判断を示したので、100日に短縮する事を提出した、というあたかも「ほめて下さい」と言わんばかりのことを書いてあります。これには国連の女性差別撤廃委員の人たちの目が点になって、「え?差別を残したってこと?100日でほめてっていわれてもね」ってびっくりしたでしょうね。結局は、残したわけなんで。

 では世論はどうなんでしょう? 平成24年度、ちょっと前のですけどね、内閣府が調査した意識調査があります。

utikosi20161212-3.jpg  平成18年のと比べて賛成が減った、反対が増えたって言って大騒ぎされたんです。産經新聞なんかはわざわざ「賛成が減った」とか書くんですけど、でもよく見ていただくとですね、「ん?ん?」と気づく訳ですよ。  それが実は、50代より下は賛成者が多んです。60代、70代になると反対が多くなる。

 近ごろの平均初婚年齢は男性30歳くらい、女性も30歳くらいです。すると、やっぱり婚姻当事者、婚姻して改姓するかどうかと悩むの当事者は、20代30代の女性なんですよ。意見を聴くんなら、当事者性が高いひとの意見を聞いてくれない? って思います。

 あと、家族の一体性ということがよく言われますが、平成24年のこの調査では、家族の一体感に影響はないんじゃないの、という人の方が6割近くいる。これは全ての世代共通です。国会議員よりも、合理的なことの考えをする人のほうが多い。

 通称使用の実情で、次16頁ですけど、旧姓をなんとか使用していると、いうことも多くなっている。若ければ若いほど、といろいろみんな苦労しているけど、そういう割合も増えている。まさか最高裁の男たちに「通称使用してるんだからいいんじゃない」とは、言われるとは全く思ってもいませんでしたけどね。

 また2015年4月の朝日デジタルですが、


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 こういうふうに女性のほうから見ても、こんなに夫婦別姓がいいって言う人がこんなにいる、男性もいいて言う人がいるけれど、大体投票する数がこんなにも違うっていうことからして、やはり女性の方がこういう問題に関心を持たざるを得ない、っている感じがしました。で、日経新聞でも、働く既婚女性に調査した結果をだしました。

 選択的夫婦別姓 賛成77% 反対23%
  年代別では40代の8割が賛成と最も高い。
  仕事で旧姓を使う女性に限ると賛成83%。
  通称使用する人の4割「2つの名前を使い分けるのは面倒」「給与・社会保険・税など…」

 この問題に関する社説は、地方紙も含めて集められるだけ集めて読みまくりましたが、社説で明確に反対してるのは、産經新聞だけでした。読売新聞も、じつはそういう議論があるくらいで、反対はしていない。日経新聞なんかも、ものすごく何回も出してて、賛成賛成と。


■夫婦別姓を認めていない国は・・・ニホンだけ!!!

 安倍政権が安保法案を通すとき、他の国と同じように日本も軍備整えなきゃね、ということを言っていた気がしますが、夫婦別姓を認めてない国なんて、殆どないんです。


  妻は結合氏…イタリア、アルゼンチン
  選択制:(同氏、結合氏)…フィリピン、オーストリア、スイス、トルコ/(同氏、別氏)…タイ、ラオス、フランス、デンマーク、ノルウェー、アルバニア、ウズベキスタン、セネガル、コンゴ共和国/(同氏、別氏、結合氏)…ドイツ(1993年改正)、オランダ、マルタ、スウェーデン、フィンランド、リトアニアポーランド、スロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、セルビア、ロシア、ウクライナ、イスラエル、ガボン、モーリシャス、ブラジル/ (別氏結合氏)…台湾、ポルトガル、ギリシャ、ペルー、ボリビア
  別氏制:中国、韓国、モンゴル、ベトナム、シンガポール、ベルギー、スペインレバノン(イスラム教徒)、モロッコ、コスタリカ、チリ
  父母の協議で自由(慣習法)…イギリス/妻は結合氏…イタリア、アルゼンチン/各州により別氏(+結合氏、同氏など)…アメリカ、カナダ、オーストラリア/姓がない…ミャンマー、アイスランド」

 と、ずらずらあげましたが、日本政府も、「現在把握している限りにおいては、(略)「法律で夫婦の姓を同姓とするように義務付けている国」は、我が国のほかには承知していない。」と認めているんですよ。


 安保の時は普通の国になりたいって言うかと思えば、夫婦別氏に関しては日本は我が国伝統の〜って言いだしたりね。理解出来ない、ってかんじですよね。


■なぜ、夫婦同氏は、問題なのか!?

 ここからは法律的な話しをします。夫婦同氏がなぜ、憲法で問題なのか、です。

  憲法13条が保障する氏名権ないし「氏の変更を強制されない自由」
  憲法13条・同24条2項が保障する「個人としての尊重」及び「個人の尊厳」
  憲法24条1項・同13条が保障する「婚姻の自由」
  憲法14条1項・同24条2項が保障する平等権(上告審より追加)
  女性差別撤廃条約16条1項(b)の規定が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項及び(g)の規定が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」

 やっぱり、自分の「打越さく良」っていう名前で、ずーと友だち付き合いもしてきた訳だし、じぶんがいろんなことをしてきたって言うことと、打越さく良というものと、きっても切り離せない、わけですよね。だからやっぱり人格に密接に結びつくと。これは13条に基づく人格権の一内容です。

 婚姻に関するものが制度であったとしても、憲法のベースとしては「個人としての尊厳」がベースにある。

 憲法の巨人の芦部信喜先生の教え子である高橋和之先生という方に、最高裁を前にお話を伺ったんです。高橋先生は、自分が高橋という名前であること、それが大切だってあることをこれまで意識してなかったと、意識してなかったけど、いわれてみれば、変えろということになったら凄く個人の尊厳がゆらぐっていう女性たちの気持ちっていうのがわかる、なるほどと思ったと仰った。
 なかには「結婚して姓変わったの私♡」と喜ぶ人もいるだろうけど、でも、そういうことで、自分のアイデンティティが損なわれる、そういう喪失感に打ちひしがれる人もいるんです。多様な生き方、価値観を有する個人が多様なままで尊重するような制度でなければいけない、ということを受けとめたうえで、高橋先生は最高裁に提出する意見書を書いてくださいました。

 そして、憲法14条ですね。民法750条の文言上「夫又は妻の氏」と形式的に平等になっている以上、14条では難しいんじゃないかっていう、そういう意見が学者に聞いても多かったんです。でも、やっぱり100%近くが夫の氏を選ぶというのは、おかしいでしょう、というのがある。「妻が氏を変えるでしょ、ふつう」という思いこみの根底には、結婚によって妻が夫の「家」に入るという家意識がまだ根強いことがあるのではないか。日本はまだまだ、男女の賃金格差は他の先進諸国に比べて大きく、夫に経済的に依存せざるを得ない妻もいる。そんな状況で、女性が男性と対等な立場で協議をすることなんて、ほとんど無理ですよね。一見中立的なルールが、ほぼ女性にのみ氏の変更を強いる結果になっている、というのは間接差別です。
 今の時代、直接的な差別よりも間接差別が問題なのに、14条が間接差別を禁止していないなんてことないだろう!この際に14条がいう平等に反すると言おう、言いたいことは全部言おう! となりました。
 24条に違反するとも主張しましたが、これは後述します。

 日本は女性差別撤廃条約に批准してるんです。女性差別撤廃条約では「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」とか、「夫及妻の同一の個人的権利、姓を選択する権利を含む」とすごーくわかりやすく書いてあるんですね。だからそれに反するだろって主張しました。
 訴訟のスタイルとしては、立法不作為による損害の賠償、国家賠償請求とうかたちをとりました。日本では憲法に反することの確認訴訟みたいなことはできないんです。何か個人的な確実な損害があって、それを請求しますよ、とい形じゃないとだめです。その上、、民法を改正していないという立法不作為を問うにはものすごくハードルが高いんです。「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合 」や「国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず」国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受ける…。とんでもなくハードルが高い。

 単に違憲だけじゃダメなんですよね。だから私たちも、憲法制定時から違憲で民法を改正する義務は明らかだし、あるいは女性差別撤廃条約の批准が明らかだし、あるいはもう法制審答申から明らかだし、もうこんなに時間が経っているでしょ、ということを言いました。

 ところが、昨年の6月、自民党の女性活躍推進本部は民法改正案要綱にあった婚姻適齢が男は18で女は16だけを取り上げ、婚姻適齢を平等化する提言だけしたんですよ。民法改正案要綱では、選択的夫婦別性や再婚禁止期間の短縮化と婚姻適齢はセットになっていたのに、婚姻適齢だけ取り上げた。また8月にもですね、女性活躍推進法の具体的な施策対象から夫婦別性は外しています。いかにも国がやる気がないってことが明らかという宣言をしています。


■ここはまるで宮内庁? 最高裁の「舞台」で。

 最高裁は2015年11月にあったんですが、私がトップバッターでした。
 厳かな空間なんですよね、大法廷って。15人の裁判官たちが、中央の、扉がこう自動の様にひゅ〜っと開くんですよ(笑)。ファ〜って静かに開いて、皆さんがですね、右と左に分かれていくんですね。中央から入ってきてこう一人ずつ分かれていく。で、順々に座っていって、最後に寺田長官が座る、みたいな。
 知人の記者にこの話をしたら、宮内庁みたいですね、って言われましたが、本当に何から何までが儀式のように決められていました。「はじめに打越が5分担当します」とか「この人は7分担当します」と事前に提出しなくてはいけないんですが、電話で書記官に「あ、このパート6分でなく5分程度にします」とか言ったら「全部書き直しなさい」と言われるんです。1分単位なんてわかんないですよ、と思うんだけど。あと、ここに座る人とかここに座る人、とか席順まで最初に決めなくてはいけない。それでも私たちとしては、喜々としてやっていたわけですよ。しかも、マイクもいいんですよ。ホールに響き渡るんですよ、自分の声が。傍聴席もこの日を待ち望んで行列してくれた人たちの中で抽選で入ってくれ来たひとたちで、みんながこう固唾をのんで見守っているって感じで、応援してくれるみなさんの熱意をひしひしと背中に受け、奮い立っていましたよ。
 一方、検察はやる気なかったですね。15分とか言ってたくせに5分くらいで終わっちゃって。そうなると私たちとしては、弁論の力強さで勝ったぞ!負けるわけがない!という勢いでしたね。


■衝撃の判決。いったい何故? 裁判官のジェンダー観とは?

 ところが結果的には、違憲判決はでなかった。その判決を出した10人の裁判官は、全員男でした。3人の女性裁判官は全員とあと2人の弁護士出身の男性は裁判官が違憲と言ってくれた。

 大法廷で聞いていて「今何を言いました?」ってびっくりしたのは、「家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。そして、夫婦が同一の氏を称することは、家族という一つの集団を構成することを、対外的に公示し、識別する機能を有している」とか、「嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられる」、このくだりです。

 これまで私たちが国に何度も何度も立法目的は何ですか?って言っても実質的な答えは返ってこなかったのに、ここで最高裁の10人の男性裁判官たちが特に文献もないのに勝手に作っちゃった訳です。民法750条の意味っていうのを。「家族は社会の自然かつ基礎的な単位」って、今の憲法にはなく、自民党の改憲草案24条1項にあるフレーズが飛び出すなんて、不気味じゃないですか。憲法にしっかり書いてある「個人の尊厳」「個人の尊重」を封じちゃうなんて。そして、「父母が婚姻しているかどうかによらず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきという考えが確立してきた」として2013年9月4日に婚外子の相続分差別規定(民法旧900条4号ただし書)を違憲とした同じ最高裁が「嫡出子であることを示すための意義」なんてフレーズを言い出すなんて、愕然としました。

 合憲とした少数意見のほうが説得的でした。木内裁判官という、男性の弁護士出身の裁判官は、問題は、夫婦同姓の合理性ではなく、夫婦同氏に例外を許さないことの合理性だ、と的確に夫婦同氏の合理性を説いた多数意見を的確に批判してくれました。

 岡部裁判官は、婚姻するのは自分の意思だけど、でも婚姻にあたって氏を変えるっていうのは夫婦同氏が強制されているからだ、と。最終的には妻の意思に基づくということであっても、結局は現実の不平等という力関係が作用している。憲法24条に反するでしょ、ということを言ってくれました。

 多数派の男性裁判官は、女性が婚姻改姓による不利益を被るのは女性が多いことまでは認めるんですが、まあそんな不利益は通称使用で何とかなるでしょとみたいなことを、言ったんですよね。でもね、おそらく誰も通称使用したことないんですよね、彼らのうち誰一人。通称使用でこんなに苦しんでますっていう陳述書をいっぱい出したのに、それいいますか? という感じでびっくりしました。
 違憲とした裁判官たちは、結局通称といっても結局それが認められるかなんて法制化されていない以上分からないとか、通称と戸籍姓の同一性という新たな問題を生むとか、ともかく、法制化もされてもいない通称使用が、夫婦同氏に例外を認めないことの合理性を裏付けることはない、と、「その通り!」と合点できることを言ってくれました。

 岡部判官の意見に同調した桜井裁判官は、厚生労働省の役人で、かつ研究者でもあって大学の先生になった時は旧姓で仕事をしていたんだけど、裁判官になるにあたって、「桜井」姓で仕事するようになったわけですよね。裁判所でで通称も認めてないくせに、10人の男性裁判官は良く言うなあ、ですよ。桜井裁判官が、通称使用は問題解決になりませんよって言っている意見に同調したわけです。その桜井裁判官の前で「別に通称使用で良いんじゃない」って良く言えるなって思いませんか。


■あんた本当に同一人物? 最高裁の人格変遷・・・

 最高裁はこれまでの判決と、本当に人が変わった・・・実際に変わったんですけれど・・・ようになっていました。

 例えば、結婚はしていないが、日本人の父親に認知された子どもが国籍を取れるかどうかという裁判で、個人の人権を尊重しなければならないと、2008年6月、旧国籍法を違憲としました。それから先ほど述べたように、2013年9月の婚外子相続分差別を違憲としてくれた。
 2013年のこの決定の時は、最高裁裁判官が一人抜けて14人全員一致で意見になったんです。この時に抜けたのが、今回、長官だった寺田逸郎裁判官です。寺田さんは、選択的夫婦別姓のほか婚外子相続分差別規定廃止を盛り込んだ民法改正案要綱が検討された当時の法務省の民事局にいたから、おそらくは関係者みたいなもんだからってことでしょうか、この判決の時は抜けたんですね。
 ところが、今回はさすがに長官だから抜けられないのかな・・・と思っていたら、なんと寺田長官が熱心に補足意見まで書いて民法750条を合憲に導いたような感じで、驚きました。


■女性差別撤廃条約、こんなに堂々と無視しちゃっていいの?

 女性差別撤廃条約を日本は批准しているわけですよね。そして国連の女性差別撤廃委員会は何度も日本に対して民法750条を問題だと指摘して改正するよう勧告してるんです。2009年には人権の問題なんだから世論を理由に反対しちゃいけないよ、と「世論」を言い訳にする日本政府をいさめてもいます。
 ところが、女性差別撤廃委員会の勧告を重んじないという気配すらしますね。

 今、女性差別撤廃委員会の委員長が東アジアで初めてでかつ女性である林陽子先生という弁護士が委員長になりました。
 それはとても名誉なことっていうか、もう日本礼賛本好きな人はここぞとばかりに礼賛してほしいと思いますけれども。なぜか右派には女性差別撤廃員会から「慰安婦」のことなどを勧告されたことと林先生を結びつけたがって批判している人もいます。国際機関では、委員が自分の国を担当しないということすら知らないのか気づかないふりをしているのか、とにかく基本的なことを無視して批判してくる。

 最高裁では、女性差別撤廃条約について、さすがにそれに違反しないとまでは言えなかったみたいなんです。踏み込まないで退けましたね。


■これはないでしょ、自民党改憲案

 5人の裁判官は13条、14条の違憲は認めませんでしたが、24条違憲を認めてくれました。
自民党の改憲草案ですね、今ネットでもありますけれども、改憲草案の24条がなかなかどうしたものかと。
 この24条の第一項に

 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。
 家族は、互いに助け合わなければならない。 

 これが、まず第一項にきちゃうんです。ということはどういうことなのかなって気になりますよね。
 24条1項を自民党改憲案は2項にずらして、
「婚姻は両性の合意にもとづいてのみ成立し」 
 として、の部分の「のみ」を消しちゃってるんですよね。1項の家族尊重条項には「うわ」と気になる護憲派の人でも、1項からずらされた2項の、「のみ」が消されているっていうことを気が付かない人もけっこういたりするんだよね。
 また、2項を3項にずらして、配偶者の選択とか住居の選定など個人が主体的に選択するものを消しちゃった上、「家族、扶養、後見」って、ひとかたまりの単位としての家族のありようを重視するような改変を加えてるんですよね。

 結局自民党改憲草案24条1項の「尊重される」って誰が尊重するのか明記しないでぼんやり書かれている。国や社会が多様な家族を尊重し、ひとり親その他が大変な思いをしないようにその基盤を支えるならいいけれども、どうも、そうではない。家族の中の構成員が個人であると主張しないでまず単位としての家族を尊重しなさいよって言っている。あるべきベクトルが真逆です。

 自民党の議論を見るとですね、家族のあるべき姿を、昔の明治民法の家制度的なものを想定している。三世代の「かたまり」としての序列がある家というか、脈々とある家というものとその上下関係で、上の人を敬えとかですね、その扶養って言っても家の子どもが親を支えろ、妻が夫にかしづけっていうようなことを、それが麗しい日本の家制度だっていっているとしか思えないような言説があるわけですよ。

 麗しいわけがない。家制度の中で、妻は「無能力」で、自分の財産ですら夫の許可がなければ契約などできなかった。そんなふうに妻を縛り家にとどめながら、家族を支えろ、子ども=お国を支える人を産み育てろ、というのが、改憲草案の24条1項のメッセージでしょう。
 そして、福祉に頼らず、家族の中でやれよという、社会保障切り捨てのロジックも感じます。

 「家族って大切だよね」って言われると、素直に「そうだよね」って思うじゃないですか。そういうものがごちゃ混ぜになって、家族は大切でしょ、だから大切にしましょう、とだから憲法変えましょう、と騙されそうになるじゃないですか。


■家族と国家がつながっている・・・って・・・妄想し過ぎでしょ

 自分の姓を名乗りたい人は人は名乗らせてくださいねっていうささやかなことをですね、本当にささやかなことを言っているだけだと思うんですけれども、それは右派の人にはものすごく挑戦的なことを言っているみたいなんですよね。

 彼らの頭の中では、家と大きな国とがつながっているわけなんですよね。家の中で家の構成員である妻が家を支えるということと、国民一人一人がなんていうかこう公である国を支えるっていうこととパラレルになっているわけですね。
 「今の日本国憲法はあまりにも個人を優先しすぎ、公というものがないがしろになってきている。」として、夫婦別姓の主張が出てくるなんて「大変情けないことです」とか自民党のある議員は発言しているんですが、「ええっ…!」みたいな。夫婦同姓が家族を大切にすることだ、そしてそれがひいては国を安泰に導くことだってすごく、そんな大きなことにつなげるんですか?! と驚くわけです。

 自民党や右派の方が想定されている家族って、サザエさんのような家族なんですよ。三世代同居が好きなんですよ。二世帯住居という言い方をしても三世帯住居っていう言い方をしなかったと思うんですけど。そういう言い方をしてサザエさんの様な三世代が住むのがいいよねと。でも私に言わせていただくと、サザエさんはね、家族の中で氏が違うわけですよね。氏が違っても一体性があっていいって言わないのか、っていう感じですがそこはなんか、触れてない(笑)。


■最高裁判決のその後・・・静まった世論

 最高裁が終わってから、ひゅーっと、取材が少なくなりました。世論を盛り立てるとかそういうことも、これから必要になると思います。
 最高裁、言ってませんでしたけど、夫婦別姓は合理的でないとまでは言ってないとは言っているんですよ。そういうものを採用するかどうかは立法政策の問題だから国会がやりなさいよ、というように言ってる。国会がやってくれないからここに来たんですけどーっていう感じなんだけれども、もうとにかく国会でやってくださいって言ってもらったので、国会でこれからロビーを続けていかなくてはいけない。でも、ロビーにいっても呆然って感じでね・・。保守的な男性議員がずらり、ですからね。
 やっぱり、女性たちの声が分かってくれる人たちをね、女性議員を増やさないとなっていう気はしているし、まぁちょっと今から女性の法曹を増やしてもね、最高裁まで行くには何十年かかるんだみたいな感じだけど、やっぱり法曹でも女が増えないとなっていう気がしています。

 ずっとこの問題で闘ってきました。最高裁を経て、今は、私たちは最前線で闘っているんだって気がついたんです。

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このお話は2016年7月にラブピースクラブ主催のワークショップでお話した内容をまとめました。
当日、打越さんのお話が終わった後、残った女性たちの話はいつまでも尽きることなく続きました。いらっしゃった女性たちは、皆「夫婦同氏」の制度にストレスを感じている女性たち。中には涙ながらに体験を語るかたもいました。
好きな人と共に生きていきたいだけなのに、なぜニホンの結婚制度は、ここまで硬直してしまっているのでしょう。訴える女たちの声は、なぜここまで無視されてきたのでしょう?

打越さんのお話を伺いながら、「結婚」という、個人と個人の生活の基盤を支える法律の背後に、「戸籍」という私たちが普段意識することのない強大な制度の存在が浮かび上がってくるのを感じました。未だに結婚することを「入籍」と表現する人は少なくありませんが、戦前の家父長的な戸籍制度の意識から生まれる「家族」(女の人権ほとんどゼロ)観をそのままに、女の自由や意見を押しつぶすような力が、やはり未だに強固にあるのかもしれません。
夫婦を越えていけ! と歌いながら踊る人々が大量発生している2016年末。私たちの結婚が、より個人の尊厳と自由を守り、尊ぶようなものであるように。そのために何をするべきか、していくべきか、考えさせられました。打越さく良さん、ありがとうございました! (LPC編集部)


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profile_uchikoshi.jpg【プロフィール】打越さく良 弁護士・第二東京弁護士会所属・日弁連両性の平等委員会委員日弁連家事法制委員会委員・日弁連子どもの権利委員会委員・日本司法支援センター調査室嘱託
得意分野は離婚、DV、親子など家族の問題、セクシュアルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野。DV等の被害を受け苦しんできた方たちの痛みに共感しつつ、前向きな一歩を踏み出せるようにお役に立ちたいと思います。 趣味は、読書、ヨガ、食べ歩き。嵐では櫻井君担当と言いながら、にのと大野くんもいいと悩み……今はにの担当とカミングアウト(笑)。


著書 「Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」日本加除出版、「司法におけるジェンダーバイアス[改訂版]」共著 明石書店、「よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて」共著 朝陽会、「今こそ変えよう!家族法〜婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える」共著 日本加除出版

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