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TALK ABOUT THIS WORLD フランス編 中絶の権利と女性国会議員

中島さおり2022.07.08

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今回は、フェミニズム関係の話題を二つ。一つ目は人工妊娠中絶の権利について。二つ目は、女性国会議員数が減少した件について。

フランスでは中絶の権利を憲法に書き込もうという動きが起こっている。アメリカの連邦最高裁判所が、「人工妊娠中絶は憲法で認められた女性の権利である」とした1973年のロー対ウェイド判決を覆した衝撃が、危機感をあおったのだ。

エリザベート・ボルヌ首相は事件の数日後に、フランス家族計画協会の本拠を訪れた際、中絶への権利が侵されないよう憲法に中絶の権利を基本的人権の一つとして記載することを望んでいると発言した。「共和国前進」改め「ルネッサンス」選出(マクロン大統領の党)の議員オーロール・ベルジェがすでに議員立法で提案しているが、FI(屈服しないフランス)選出の議員マチルド・パノーらは、法案としての検討を求めている。
政府提案のほうが手続きが早いからだ。この点について質問されたボルヌ首相は、検討すると答え、さらには欧州連合基本権憲章への記載も望むと発言した。欧州議会は今年1月にアンチ中絶派のロベルタ・メツォラを議長に選出しており、フランスは警戒している。
政治家だけではない。一般人も7月2日に各地でデモを行い、6500人ほどが、アメリカの女性たちに連帯し、中絶の権利をフランスの憲法に盛り込むよう呼びかけた。

フランスでは、1975年に中絶を合法化した。時の保健相シモーヌ・ヴェイユは今では英雄であり、死後はパンテオンに祀られたほどだし、「人工妊娠中絶は女性の権利」と徹底して周知されているので、まさか憲法に書き込んでおかないと覆される危険があるなどと、私は思いもしなかった。

しかし極右RN (国民連合)が、6月19日に第二回投票が行われた国民議会選挙で89議席という前代未聞の議席数を獲得しているので、心配する理由がないわけではないのだろう。RNの中には中絶反対の立場を明らかにしている者もあるし、党首マリーヌ・ルペンも、過去に、安易な中絶に対して否定的な意見を表明したことがある。
もっとも、ルペンは「誰も中絶の権利に待ったをかけようなどとはしない」と明言し、憲法に盛り込む提案にも賛成する方針を示唆している。父の代にそうであったようなキワモノ政党ではないと党のイメージを変えて来たルペンとしては、アメリカ最高裁の判断を受けて中絶禁止に乗り出そうなどして馬脚をあらわすようなことはしたくないだろう。私はRNの躍進には不安を抱いているけれども、こと人工妊娠中絶の権利に限っては心配していない。

ところで、中絶の権利を守る一方、フランスの中絶法はわりと厳しい。つい最近まで、中絶は妊娠12週までしか認められておらず、時機を逸したフランス女性が隣国ベルギーに行って中絶する例も絶えない。この3月にようやく、14ヶ月に延長したばかりである。

しかし1989年以来、妊娠7週目までであれば、内服薬による中絶が一般的であることもついでに付け加えておこう。2種の薬を32時間から48時間おいて服用する方法で、外科手術を必要としない。認可からおよそ30年ちかく、処方できるのは医師だけだったが、2016年からはこれを医師だけでなく助産師も処方することができるようになった。経口避妊薬は、日本では現在でも認められていないが、ようやく昨年、認可申請され、認可を待っている。

さて、二期目に入ったマクロン大統領が任命したボルヌ首相は、エディット・クレッソン以来30年ぶり二人目の女性首相だ。一方、大統領選後に行われた国民議会選挙では、1988年以来初めて、女性議員の数が後退した。

今回選出された女性議員は215人で、2017年に比べて9人少なかったのだ。全議員数に占める女性議員の割合は37.3%である。

もっとも、2017年には、それまでの26.9%から一気に38.8%に激増したのだった。その理由は、マクロン大統領の新党LREM(共和国前進)が大統領選の勢いを買って圧倒的な議席を占めたことだ。この新党は既成政治家の外から広く候補者を募集し、男女同数の候補を立てており、一方、圧倒的に男性候補の多い保守の共和党は大きく議席を失ったのだった。

だから、マクロン大統領の右派連合(Ensemble 245議席獲得)が過半数の289議席に届かず大きく議席を減らした今回、そのあおりで女性議員が減少した面もあるだろう。
フランスは男女の候補者を同数にするパリテ法を2000年に導入し、女性議員の増加を狙っているが、パリテ法には、その基準を満たさなくても厳しい罰則がなく、政党助成金が減るだけである。そのため、共和党のように、最初から罰金を払う方を選んで女性候補者の増加に積極的にならない政党もある。また、政党助成金を減らされないように候補は立てるものの、現職男性議員の既得権確保のため当選の確率の低い選挙区に立てるせいで、候補者の割合と現実の議席数の割合にギャップが出る。

今回で言えば、ジャン=リュック・メランション率いる左派連合(NUPES 131議席を獲得して野党筆頭グループ)とマクロン率いる与党グループEnsembleはパリテ法をクリアしているが、当選した議員に占める女性議員の割合は、それぞれ43.6%と 40.4%である。保守、極右政党はパリテ法をクリアしていない。当選者中の女性は、共和党は64人中19人(29%)、国民連合は89人中33人(37%)である。

日本では称賛の的になっているパリテ法だけれども、完璧に機能しているとは言えず、女性議員の数は理想のようには増えていないのである。

とは言っても、国会議員に占める女性の割合が9.9%の日本から見たら、フランスの数字は桁違いに多いには違いないのだが……。

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中島さおり

中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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