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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル(1) 映画「子猫をお願い」 20年経た猫と女性取り巻く変化

成川彩2022.12.21

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チョン・ジェウン監督の「子猫をお願い」が帰ってきた。韓国で最初に公開されたのは2001年。20周年を迎えた2021年、4 Kリマスター版として鮮明によみがえり、私もチョン監督や主演のペ・ドゥナ、イ・ヨウォン、オク・チヨンの舞台あいさつもあった回をソウルで見た。20年を経て、韓国の猫と女性を取り巻く変化が見えると共に、チョン監督の先見性に改めて驚かされた。

子猫をお願い4 K リマスター版
出演:ペ・ドゥナ『ベイビー・ブローカー』、イ・ヨウォン「グリーン・マザーズ・クラブ」、オク・チヨン『マイPSパートナー』 他
監督:チョン・ジェウン『猫たちのアパートメント』 Ⓒ2001 by IPictures and Masulpiri Pictures.
〈お問い合わせ〉㈱JAIHO 宣伝担当 徳嶋 tokushima@jaiho.jp TEL: 03-6416-1807(㈱ツイン内)


日本ではチョン監督の新作ドキュメンタリー「猫たちのアパートメント」公開に合わせ、2022年12月23日から全国で順次公開中だ。

「子猫をお願い」は女性が女性を描いた韓国映画としては記念碑的作品で、長く愛され続けている。映画は制服姿の5人の女の子が無邪気にたわむれる場面から始まる。子どもから大人へ。仁川の高校を卒業した5人がそれぞれ社会の壁にぶち当たり、もがきながら前へ進む様子が描かれた。

主な舞台は仁川だ。2001年にできたばかりの仁川国際空港も登場する。港町の仁川は外国人が多く、仲良し5人組の中には双子の華僑もいる。上昇志向が強いヘジュ(イ・ヨウォン)はソウルの証券会社に就職したが、ほかの4人は仁川に留まっている。世界中どこにでも行けそうな仁川で、ソウルすら遠い4人の対比が際立った。

4人の前では「先輩面」をするヘジュも、会社では「高卒女性社員」に対する差別待遇に人知れず涙する。5人は「ヨサン(女商)」出身だ。ヨサンとは女子商業高校の略語で、当時は大学に行かずヨサンを出て就職する女性も多かった。まわりに聞いてみると「女が大学に行ってどうする?」という雰囲気があったと言う。だが、時代は変わり始めていた。ヘジュは「仁川で一番いいヨサンを出たって、誰も知らない。少しでも隙を見せればバカにされるから、いつも緊張していないといけない」と、ぼやいていた。大卒の新入社員がていねいに教育を受けるそばで、ヘジュはお茶くみなどの雑用係として奔走する。

2020年に公開された映画「サムジンカンパニー1995」(イ・ジョンピル監督)は、まさにヘジュのような高卒女性社員が主人公の映画だった。1995年当時の高卒女性社員に対する露骨な差別が描かれ、ヘジュを思いだしたが、それだけでなく、地下鉄の駅で主人公たちが走るシーンも「子猫をお願い」とうり二つだった。イ・ジョンピル監督に聞くと、「『子猫をお願い』は私がとっても好きな映画で、オマージュとして地下鉄の駅を走るシーンを同じように撮った」と話していた。

「サムジンカンパニー1995」では高卒女性社員らが昇進のため英語を学ぶシーンがあったが、「子猫をお願い」のヘジュも、英語で電話を受け、上司にほめられるシーンがあった。能力はあるが学位のないヘジュは上司から夜間大学で学ぶことを勧められる。
現在は男性よりも女性のほうが大学進学率は高く、2021年の大学進学率は男性が76・8%、女性が81・6%と、5%も差が開いた。

「子猫をお願い」が改めて斬新だったと感じるのは、テヒ(ペ・ドゥナ)の描き方だ。テヒはマイペースな性格で、「女性はこうあるべき」という枠にとらわれない。その象徴のようにたびたび出てくるのが、タバコを吸うシーンだ。当時、タバコを人前で吸う女性は(特に男性に)嫌がられた。

女性がタバコを吸わなかったわけではなく、トイレで吸っていた。私が最初に韓国に留学した2002年、女子トイレはタバコのにおいが充満していることが多かった。男性の目につかないところで吸っていたのだ。たまに女性がタバコを吸っているのを見かけると「女のくせに」と不快な視線を向ける男性が身近にもよくいた。人目を気にせず外でタバコを吸うテヒの姿は見ていて気持ちが良かった。

テヒは5人の中では比較的恵まれた家庭環境だが、家族、特に父に不満を持っている。テヒの意見を尊重しないからだ。家族でレストランに行った時、何を食べようか考えているテヒからメニューを取り上げ、店員に「一番人気のメニューで」と頼んでしまう。そんな父に、テヒは黙っていない。「お父さん、殴るだけが暴力じゃない。こういうのも人権を無視した暴力よ」と、抗議した。

もう一つ私が好きなのは、テヒが家を出て行く時、家族写真の自分の部分だけ切り抜くシーンだ。自分の抜けた写真を飾り直して、出て行く。韓国ではたいていの家に大きな家族写真が飾ってある。家族や親戚の絆は日本に比べて強固で、テヒのようにそれを窮屈に感じる人もいるだろう。家族から精神的にも物理的にも独立しようとするテヒの姿に、改めてこの映画の魅力を感じた。

猫に対する視線もこの20年で大きく変わった。20年前は猫を不吉な動物のように嫌がる人が多かったが、若い世代を中心に猫好きが一気に増えた。忠誠心の強いイメージの犬よりも自由で気ままなイメージがある猫のほうが若い世代には合っているのだろう。チョン監督の新作「猫たちのアパートメント」は、ソウルの再開発に巻き込まれた猫たちを救出するプロジェクトを追った、猫と人間の共存がテーマのドキュメンタリーだ。

チョン監督が「子猫をお願い」の猫に込めた意味は、当時の女性だったという。「当時の韓国は犬の社会だったと思う」と述べている。犬は男性あるいは家父長制を指すようだ。男性中心の社会で、もっと猫(女性)がのびのび生きられることを願っていたのだろう。

猫への視線とともに女性を取り巻く社会は20年で大きく変わってきた。特に #MeToo 運動が広まった2018年以降は劇的に変化した。この連載では、映画やドラマに映る韓国女性たちのリアルを韓国在住ライターの目を通してお伝えする。

 

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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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