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第12回 マタハラから働き方を見直そう

打越さく良2015.02.05

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是非ご注目を!「NOマタハラ」通達
1月23日、厚労省が出した通達(雇児発0123第1号)に気がついた方はいるだろうか。一応報道はされたが、大きな扱いではなかったので、見逃した方も多いのでは?どんな通達か?マタニティ・ハラスメント(マタハラ)を防止するため、雇用機会均等法及び育児・介護休業法の趣旨及び取扱いの内容をより具体化し、企業への指導を厳格化するよう、全国の労働局に指示するもの。
おっと、興奮気味に先走ってしまったが、「マタハラって?」という人のためにおさらい。連合は、「妊娠・出産を理由とした解雇・雇止めをされること」、「妊娠・出産にあたって職場で受ける精神的肉体的なハラスメント」と定義している。それっていったいどれくらい起こっているのだろう?連合の「第2回マタニティ・ハラスメント(マタハラ)に関する意識調査」(2014年6月)によれば、なんと、妊娠出産の経験がある女性労働者の26.3%、4人に1人がマタハラの経験者。妊娠・出産がきっかけで、解雇や契約打ち切り、自主退職への誘導などをされた(出産告知後・産休中・産休明け1年以内)割合は、5.6%、減給された割合は2.2%。なんと悲しい数字…。巷では「女性の活躍」「少子化が問題」etc.というけれども、こんなことでは、子どもを産んでなおかつ「活躍」しろと言われても、無理。
そんな状況で、おお!通達をクリックして読んでみてください。どうですか!?画期的でしょう。え?わからない?通達を読み慣れていないと確かに「あー退屈なお役所的文章のひとつ」と思えるかもしれない。勿体ないので一緒に読み込みましょう。
「平成26年10月23日には、男女雇用機会均等法第9条第3項の適用に関しての最高裁判所の判決があったことなどを踏まえ」。この判決の意義は後で説明する。
「労働者からの相談、第三者からの情報、計画的事業場訪問等その端緒を問わず」。今まで女性たちは各地の労働局雇用均等室に赴き、マタハラについて相談してきた。しかし、適切に相手にしてもらっていたかというと…。この通知は、労働局に、労働者からの相談に真摯に対処しなさいと言っているだけではない。第三者からの情報、あるいは均等室が計画的事業場訪問をした際にマタハラを認識した場合には、「積極的に」事業主に対して報告を求め、又は助言、指導、勧告を実施するように、と言っている。単に、実施しなさい、だけではなく、「積極的に」という言葉も追加。「マタハラにNO!の徹底を」という厚労省の強い意思があわれている。今まで積極的とはとてもいえなかった均等室がビシッと変わり、そこに足を運んだ女性たちが涙をのむことがないようにと願う。


均等法解釈通達の改正の部分も読んでみよう。
その前に均等法9条3項を紹介しなければ。同項はこう書いてある。事業主は、女性労働者が妊娠出産、労働基準法65条1項の産前産後休暇をしたこと)その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由にして、女性労働者に対して解雇「その他不利益な取扱い」をしてはならない、と。「その他不利益な取扱い」とは、契約更新拒絶、更新回数の引き下げ、退職強要又は労働契約内容の変更の強要、降格、就業環境を害すること、不利益な自宅待機命令、減給・賞与等の不利益な算定、昇進・昇格の人事考課における不利益な評価、不利益な配置変更、派遣先による派遣労働者に係る役務提供拒否、である。「私が受けたあのことも、均等法上禁止される不利益取扱いなんだ!」とお気づきのかたもいるかもしれない。
でも、今まではハードルは高かった。妊娠・出産・産前産後休業「を理由とする」不利益取扱いだ、ということ、すなわち因果関係を立証する責任は、女性にあったからだ。
今回の通達は、この因果関係について、画期的な判断を示した。すなわち、婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等(均等法9条3項)について、「妊娠・出産等の事由を契機として不利益取扱いが行われた場合は、原則として妊娠・出産等を理由として不利益取扱いがなされたもと解されるものであること」と示した。例外といえるハードルを非常に高く設定している。例外としては、たとえば、その取扱いにより受ける有利な影響があり、かつ、労働者が取扱いに同意している場合で、その取扱いにより受ける有利な影響の内容や程度が不利な影響の内容や程度を上回り、事業者から労働者に対して適切な説明がなされる等、一般的な労働者であればその取扱いにより同意するような合理的な理由が「客観的に」存在するとき、であるという。相対的に弱い立場の労働者は、勤務先から同意を求められたら渋々表面的には同意しかねない。その事情も踏まえて、「客観的に」も同意が合理的といえるかどうかも確認すべきとしている(なお、ここは、あとで紹介する最高裁判決そのまま)。
そして、「例えば」とある例示も非常に意義がある。不利益取扱いの判断に際し、定期的に人事考課・昇給が行われている場合には、請求後から育児時間の取得満了後の直近の人事考課・昇給等の機会までの間に、不利益な評価が行われた場合には、「契機として」行われたものと判断すること、とある。実際、不利益取扱いだと主張しても、事業主が「いやそうではない。女性の能力不足、成績の低さのためだ」といえば、因果関係が否定される傾向にあった。むしろ原則は因果関係を認めるということも、女性にとってどんなに勇気づけられる内容であることか。


一見無味乾燥な文面だが、よく読めば、マタハラに苦しむ女性たちの力になる内容とわかっていただけたでしょうか。

 


闘ってくれた女性たちに拍手!+最高裁の意義
今回の通達の背景には、絶望的な状況にめげず、マタハラはおかしいと声をあげ、闘ってくれた女性がいる。
考えてみてほしい。解雇されたら、まだ、戦うぞと腹をくくりやすいかもしれない。しかし、降格や減給といったことだと、どうだろう。そこにいながら勤務先を訴えることが、かなり大変だと想像がつく。法律家としては、権利を主張するのは正当なこと、遠慮なくがんがん行こう、と言いたいところだが、労働者の権利を主張しようものなら、「空気を読めないやつ」とさらに冷たい視線を浴びることは予想が出来る。そして産前産後休暇など取っていると、他の同僚に現実的に「しわ寄せ」がいっている実感があり、ますます遠慮する。責任を感じるべきは、「しわ寄せ」が生じないように手配をしない勤務先であって、権利を行使している個人ではないのにね。こんなことでは、法律に権利が書かれている意味がない。実際に様々な軋轢にぶちあたりながらも諦めずに闘った女性たちの頑張りを思うと涙が出る。
最高裁第一小法廷平成26年10月23日判決は本当に素晴らしい判断だ。均等法9条3項は、同項に反する事業主による措置を禁止する強行法規(当事者が合意しても変更できないもの)として設けられたもののであるとし、「妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として、均等法9条3項の禁止する取扱いに当たると断じた。例外としてふたつを挙げたが、労働者が「自由な意思に基づいて降格を承諾したと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」ことを要する、などとても限定的なものにした。今まで因果関係を女性が立証しなければならなかったのが、事業主が極めて限定的な例にあたると立証しなければならなくなった。裁判をしたことがあるひとはわかると思うけれども、どちらが「立証責任」を負うかが勝敗を左右する。事実上立証責任を事業主に課した意義は大きい。
今回の厚労省通達には、産休・育休復帰後の賃金査定が人事権の濫用であるとした東京高裁平成23年12月27日判決も影響しているだろう。
最高裁判決にしても、東京高裁判決にしても、職場でおそらくは針のむしろ状態でも粘ってくれた原告たちに心から拍手したい。


働き方の見直しこそ
今回はいかにも法律家っぽくっていつもとのりが違うだろうか。それもそのはず、DV被害者の事件専門の私の知識と経験だけではとても書けない。マタハラネットで当事者とともに頑張っている労働事件に精通した圷由美子弁護士のレクを受けたから書いたもの。圷さん、有難う(文責は私だが)。
マタハラかあ。産む予定ないし、ま、関係ない…。と思ったそこのあなた、それは違う。マタハラ問題は今の日本の働き方一般の見直しを迫ってもいる。長時間労働ができなければ一人まではないような評価でいいのか。長時間労働でワークライフバランスは無理。男性が極端に長時間労働を強いられ、女性が育児介護を専ら担うという性別役割分業も、このままでいいのか。働き方を考え直す契機だ。
ん?一方で、残業代ゼロ法案の行方が気になる…。これも、「年収1075万円以上のひとだけの問題でしょう。関係ない」では済まない。佐々木亮弁護士が果敢に発信してくれているのでそちらをクリックしてほしい。
画期的な判決とそれを受けての通達でじーんとしている場合ではないようだ。まったく逆方向の動きもある。後ろ向きに進まないように、そして更なる前進のために、頑張りましょうね!

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打越さく良(うちこし・さくら)

弁護士・第二東京弁護士会所属・日弁連両性の平等委員会委員日弁連家事法制委員会委

得意分野は離婚、DV、親子など家族の問題、セクシュアルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野。DV等の被害を受け苦しんできた方たちの痛みに共感しつつ、前向きな一歩を踏み出せるようにお役に立ちたい!と熱い。
趣味は、読書、ヨガ、食べ歩き。嵐では櫻井君担当と言いながら、にのと大野くんもいいと悩み……今はにの担当とカミングアウト(笑)。

著書 「Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」日本加除出版、「よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて」共著 朝陽会、「今こそ変えよう!家族法~婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える」共著 日本加除出版

さかきばら法律事務所 http://sakakibara-law.com/index.html 
GALGender and Law(GAL) http://genderlaw.jp/index.html 
WAN(http://wan.or.jp/)で「離婚ガイド」連載中。

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