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いつの間にか「セックスワーク・イズ・ワーク」という言葉をよく耳にするようになりました。女性の人権がマシだという国でもセックスを労働として認め合法化している国があります。オーストラリアもその一つです。”女性は体を道具として使い金を稼ぐ、それは肉体労働と何も変わらない”  そう思われる方も大勢いるでしょう。しかしその論理には大きな穴があると私は考えます。

先ずその一。セックスが労働として成り立つためには、作業環境がしっかりと整ってなければなりません。

たとえば女性は子宮頸がんを含めた全ての性病や妊娠可能性から自由にならなければなりません。
でも、実際に性交をする以上、それは無理です。
無理ならば、雇い主は労働者(女性)の身に、いつ、どう表れるか知れないリスクについて常に保険を掛け、セックスが原因で生じた全ての後遺症について保証しなければなりません。HPVなんて、数十年の潜伏期を経ますし、そういうリスクの高い「仕事」ですから、労災としてしっかり認めて貰わないと、それはただの違法労働です。

また働く女性は常に男性より肉体的に強く、いつでも身の危険を感じる必要なく働けると言う前提が必要になります。精神衛生上、仕事の継続が厳しいと感じたり、不審に思ったらいつでもストップしてその場から離れられるのが労働者の基本的な権利です。要は女性がいつでも自由にセックスを中断出来る環境でないと、ワーク論は成立しないとのことです。でも、個室で見知らぬ男性と二人きりになった状態で、本当にそれは可能でしょうか?

その二。多くの場合、「困っている女性」がその道を選びます。

運よく有名になり経済的に余裕が出来たAV女優や風俗嬢は、振り向きもせずその仕事から離れることが殆どです。もちろん「成功する」前に精神的に苦しみ辞めてしまう方も多いのですが、普通「お金になる仕事」があるとしたら、人はその職から離れようとしません。しかし性産業では、余裕のある男性が集まり、余裕のある女性は離れていきます。それは女性にとってその世界が限られた選択の中から選んだものだからです。

オーストラリアではセックスが労働として認められていますが、それが良い例です。基本的な時給がとても高く、どんな仕事をしても生計を立てるのに全く困らないオーストラリアでは、性産業に入る女性が殆どいません。報酬が他の仕事に比べ10倍以上高いにも関わらずです。なのでオーストラリアで性産業に入る女性は多くが他の国から出稼ぎに来た女性たちです。

セックスが労働として成立しない、その三つめの理由。性産業に入る女性の多くがPTSDに苦しむ虐待の被害者だからです。

多くの性虐待の研究論文示しているのは、性産業に入る女性の8割以上が児童虐待の被害者であるという事実です。その中でも5割近くが性暴力の被害者だと言われています(注1)。虐待の被害者である女性たちが何故そういう選択を取るのでしょうか。

先ずは、世界に広まっている女性だけへの厳しい貞操観念。それからうまれる自暴自棄な気持ちです。そういう服を着て歩くから、お酒を飲んだから、夜中に歩いたから等々。性犯罪に遭った被害者(女性)を非難する視線は未だに存在します。性犯罪の責任を女性へ転嫁するこの悪質なガスライティングは、実際言われたことがないとしても、テレビや周りの事を聞きながら自然と心に染み込まれるでしょう。

そういうなかで、被害に遭った幼い女性たちは「自分は汚れてしまったから」または「どうせやることは同じだからお金でも稼ぐ」と自暴自棄な気持ちに流れてしまいます。被害に遭った事を自分のせいだと思うため、周りの人に助けを求める事すらできなくなり、自分を守る判断をするチャンスを逃してしまいます。

以前「被害者からサバイバーへと」で話題に出したコスプレチームの仲間の一人は、実の兄から持続的な強姦の被害に遭った被害者でした。彼女はある日、ふと援助交際をすることを決め5千円のお小遣いを貰って性売買をした事があると告げました。そしてそのお金で彼女は帰り道にパン屋により、好きだったパンを沢山買い、歩きながらやけ食いしまた全部吐いたと、その日の経験を明かしてくれました。

私は彼女のような被害者をもう一人知っています。私のブログの長年の読者であったSさんは、12歳の頃兄にセクハラされ、その後、親の再婚相手の息子(義理の兄)から強姦されました。トラウマで自尊感が低くなり、付き合う彼氏も度々DV癖のある男ばっかりだったと言います。彼氏から逃げるために会社も辞めざるを得なかったと。しかし帰る家もなかった彼女にとって生活費を稼ぐ事は切実であった。その結果、「どうせ強姦される運命ならお金でも貰って強姦される方がマシ」だと判断し、風俗店で働きだしたと告白しました。

彼女が働いた店は日本ではクラブのような場所でしたが、韓国ではちゃんとした境界線がなく、部屋の中でわいせつ行為が行われる事も多かったそうです。彼女はその辛さを忘れるため、21歳にアルコール依存症になりました。お酒を飲むと全ての感覚が麻痺し、客に強姦される日もお酒さえあれば楽しく過ごせたと。店側は彼女の飲酒癖で売り上げが上がったと喜び、そういう彼女を褒めていたらしいです。彼女は自分が初めて認められた気がして、「仕事」をもっと頑張ったと言いました。しかしそういう彼女は、ポジュ(業者/社長) に彼の妻の前の前で強姦されその衝撃で「この業界の異常さ」に気付き性産業から逃げるきっかけになったようです。彼の妻は旦那のそういう行動が日常事だったらしく、目の前で性犯罪が行われていても何とも思ってないようだったと、彼女は振り返りました。

とても恐ろしいことですが、当時Sさんが働いてた店に勤めていた従業員は全員性虐待の被害者であり、「お金でも貰ったほうがいいと思ってここに来た」と口を揃えて言っていたと証言してくれました。韓国での風俗業は日本ほど表に出てないため、海外の研究―性産業に入る女性の8割は虐待被害者―よりも酷い割合を占めているのではないかとも思われます。

また、被害者の中には自衛のために性産業に入る女性もいます。強姦は人の尊厳を犯し、被害者は自分を責めることで、精神的に深い傷つきを得ます。そのため脳の「自衛プロセス」が二つに分かれて働くと言われています。

一つ目は嘘との妥協。自分を虐待した男と結婚したり、関係を持ち続けたりとする、ストックホルムシンドロームのような行動を取ることです。被害に遭った年齢が幼いほど、虐待者からのグルーミングに騙されやすくなると言うのもありますが、例え成人した後に起きたことだとしても、現実から目を逸らす事で脳を騙すと言う被害者の行動は珍しくありません。韓国にはレイプ犯と結婚した事例が実際にも多く存在します。つい十年前までも、そう言った風潮がテレビと日常でで笑い話として流されてましたし、先日亡くなったソ・セウォン(元タレントで実業家)も自分が加害した女性と結婚した一人でした。

二つ目は「自分は元々そういう女だから男とのセックス(強姦された事)なんて大したことない」と離人症を起し、自分の体を他者化することです。一部の被害者たちの脳は彼女たちを守るために、本能的に「レイプされた被害者」と認識させるよりは、「そもそもが軽い女だからそんなのたいしたことない」と思った方が良いと判断します。その本人の元の人格がどうであったかは関係ありません。解離症の一種である離人症は人の感情と現実感覚を麻痺させ、たまにはその人が元々持っていた価値観すら180度に変えたりもします。そうすることで被害者たちがちゃんと事実を受け入れられるまでの時間を稼ぎ、精神的なショックを分割払い出来るように待っててくれてるのかも知れません。私が中学留学時出会ったあの女の子もきっと、このタイプの被害者だったと思います(注2)。

しかし女性たちがこうやって現実から逃げ続けるとしても、「真実」に直面する日はいずれ訪ねてきます。その真実は大体心の病―鬱、自殺願望、自虐願望、依存症等として現れます。なので虐待者たちに囲まれ、利用される事は決して被害者女性のためとは言えません。

最後に、自傷の一種として性売買を選ぶ女性たちがいることを知ってほしいです。ある研究により、精神を病ませている人の中、女性の方が男性よりも多く自傷に走る傾向があることが分かりました。参考にした研究のサンプルによると自虐をする男性は11.97%しかいないのに対し、女性は88.03%もあったそうです(注3)。それは多くの精神的トラウマの原因である虐待の被害者が女性だからなのかもしれません。しかし性別の傾向を見ると、男性は他人を壊す方向へ、女性は自分を壊す方向へと溜まった怒りの方向性を向けている事も事実です。だから、一部の被害者たちは虐待に遭った怒りを、加害者への怒りとも気づかず、「他者から繰り返される暴力―性売買」を自虐の一種としてを選んでいるのです。

これは、私のとても身近な人―私のオヨメが経験してきたパターンなので、より確実に言えます。彼女は(さとみと言います)性産業にいる間は身体を傷つける自傷を辞められたと言ってました。それは性売買自体が自虐の一環であったからだそうです。さとみは私と出会ってから性売買をしたり、知らない男と簡単に関係を持ったりすることはなくなりましたが、まだ離人症と自傷癖だけは残っていて、未だに彼女だけの戦いを続けています。PTSDって、簡単に消えるものではありませんからね。彼女が経験してきた事はMeTooとして動画(90年生まれ、日本女性として生きることhttps://youtu.be/GjBMMeouUf0)も載せているので、宜しければ是非ご覧ください。

被害者が性売買を選んでしまう理由として色んな原因を述べましたが、どっちの理由にしろ、生き残るためにその道に進む女性に私はたくさん出会ってきました。虐待のトラウマから心と体をちゃんと癒す間も与えられずしてしまった選択は、どこまで自己決定と言えるでしょうか。虐待で苦しむ女性たちに対する搾取を、「ビジネス」といえるのでしょうか。

「売春」

春を売る。
私はこの言葉が全てを表していると思います。
若い女性たちが輝くべき人生の春が売られる社会。
「セックスワーク・イズ・ワーク」は一瞬の洗脳(バックラッシュ)であり、長年続いてきた女性虐待の歴史そのものなのではないでしょうか。

(注1)https://www.hopeforthefuture.at/en/prostitution-as-a-result-of-child-abuse/
(注2)https://www.lovepiececlub.com/column/19601.html
(注3)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5845831/ 

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JayooByul

JayooByul(じゃゆびょる)

JayooByul (ジャヨビョル)日本のお嫁さんとオーストラリアで仲良くコアラ暮らしをしています。堂々なるDV・性犯罪生存者。気づいたらフェミニストと呼ばれていました。毒娘で幸せです。

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