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トランプ新大統領にショックを受ける余裕はない

打越さく良2017.02.06

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アメリカへのナイーブな信頼が打ち砕かれた
 トランプが米国大統領になってまだ2週間程度。ショックなことばかりが続くせいか、とてつもなく長く感じる。そもそも11月8日の選挙結果には愕然とした。愕然としただって?英国のEU脱退を決めた国民投票を始め、世界のポピュリズム的潮流の中の一つの現象にすぎないのではないか?アメリカの現実をどれだけ知っているのか?自由と平等を謳うアメリカが、その額面通りの国だとナイーブに信じていたのか?レイシズムもセクシズムもとうに克服した国だとでも思っていたのか?いわゆるラスト・ベルト(衰退製造業地帯)のプア・ホワイト労働者層の状況を知っていたのか?ヒラリー・クリントンは女性ではあるが、既に体制の枠内にいるエスタブリッシュメントであった(だからこそ女性初の大統領候補者になった)。新自由主義を推進してきたヒラリーが大統領になったら、バラ色の未来があったとでも?
 自分に続々と問いをぶつけて落ち着こうとしても、ショックは和らがない。建て前に過ぎないと分かっていても、アメリカはまだ政治的正しさ(Political Correctness=PC)を尊重するものと信頼していたのである。外国人嫌悪感を露わにし、移民排除を唱え、「女性の性器を触ってやる」と女性蔑視発言をしたビデオが流出し、性暴力被害を女性たちに告発されたトランプを、差別克服と平等の実現を希求する(はずの)アメリカの人々が選ぶことなどない、と。ナイーブに過ぎる。そう自分でも叱咤しつつ…。

 バーニー・サンダースは言っている。「トランプに投票した多くの人々は、彼の人種差別的な発言、移民や女性に対する発言に投票したのではありません。」彼らはこう言っているのだ、「私には仕事が必要だ。子どもは大学に行く必要がある。トランプ氏はそれを約束してくれている。おそらく彼は、その人種差別的で性差別的な政策をやり通さないだろう。よし、経済問題で一票入れてやろう」と(エマ・プロックス/中窪啓介訳「バーニー・サンダース、スパイク・リーと会う」『現代思想』45巻1号・52頁ないし53頁)。サンダースは多数の白人労働者階級の有権者を差別主義者と見なすことには否定的なのだ。サンダースが正しいのかもしれない。そう思いたい。

ヘイトクライムの広がり、予想以上の政策
 しかし、安心できない。国のリーダーが自由や人権の価値観を崩すことにより、確実に、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムは助長される。ヘイトスピーチ、ヘイトクライムはトランプ以前にもあった。しかし、全米で選挙後10日のうちに900件近いヘイトクライムが報告されているといい、差別が正当化されたことの悪影響が懸念される(山口智美「「赤い州」モンタナから見た米大統領選」『現代思想』45巻1号・132頁、ハフィントン・ポスト「トランプ氏勝利後、数え切れないほどのヘイトクライムが全米に広がる」2016年11月13日19時01分更新)。
 そして、サンダースが擁護する、差別主義者ではないトランプに投票した有権者の「おそらく彼は、やり通さないだろう」というのは楽観的で無責任な予測だったことは、もう明らかだ。
 予想通りというか予想以上(以下)の政策が続々打ち出されているのだから。
 1月23日、世界各国で人工妊娠中絶を支援するNGOへの助成を禁じる大統領令に署名。
 1月25日、メキシコ国境に壁を建設する大統領令に署名。
 1月27日、シリア難民の入国を禁止し、4ヶ月の難民受け入れプログラムを停止し、中東やアフリカのイスラム圏7ヶ国からの入国者のビザ発給を90日間停止する大統領令に署名。
 2月3日、政権内で、宗教的信条に基づいた個人、組織、雇用者の法的保護の範囲を大幅に拡大する草案がまとめられ、回覧されていると報じられた(「信仰によりLGBTへの福祉拒否も 米大統領令草案をWSJが確認」ウオールストリートジャーナル2017年2月3日10時21分)。信教の自由が保障されることはいいことだ、と一瞬思うかもしれない。しかし、それが組織、雇用者にも保障されることに注目してほしい。これが実現したら、信仰を理由に性的少数者への福祉が除外されたり、雇用者が従業員の避妊への医療保険適用を拒否したりすることが容認されうる、ということなのだ。

抗議するたくさんの人々、しかし…
 トランプ大統領就任の翌日の1月21日、危機感を抱く人々が世界で500万人超の大行進をした。マドンナら著名人のスピーチ手作りのプラカードの数々に熱くなる。ウィメンズ・マーチ、とはいえ、女性だけでなく男性も多数参加、多種多様な人々が結集した。女性蔑視の発言を繰り返すトランプへの対抗から、女性性器の隠語「子猫ちゃん」にかけたピンクの猫耳帽子をかぶった人たちの連帯に、じーんとする。
 しかし、そうは楽観できないこともわかっている。「女ならば、トランプの女性蔑視を許さない」わけでもない。トランプ当選には予想を超えた幅広い女性たちの支持があったという。それも、必ずしも保守的なジェンダー規範にとらわれて、トランプに盲従しているのではないのだと。人々への公権力の介入を極小化しようというリバタリアニズムを志向することと、自己決定に対する侵害を批判するフェミニズムの一面は、親和性がある、との指摘がある(追ってよく考えたい…)。

日本でこそ闘わなくては
 しかし、日本にいる私たちは、アメリカはいったいどうなる、と心配する余裕もないのだった。
トランプ政権の人工妊娠中絶等への姿勢には、キリスト教右派が影響しているというが(歴代で初めて中絶反対集会に出席したペンス副大統領はキリスト教右派として知られている。時事ドットコム2017年1月28日8時44分)、日本では、宗教的情念ともつ人々により政権が支えられ、選択的夫婦別姓の実現が阻止されているではないか。自己堕胎罪は依然として残っている(刑法212条)。DVの被害から避難している女性が中絶できない場合が生じるのに、人工妊娠中絶には夫の同意が必要とされている(母体保護法3条)。
 トランプ新大統領が「タフな米国を取り戻す」と掲げる前に、自由民主党と安倍首相は「日本を、取り戻す」とスローガンを掲げていた。取り戻すも何も、ここは日本だ。不思議ではないか。あえてこのスローガンを掲げるのは、なぜか。「日本を、取り戻す」とは、田母神俊雄氏のブログの解説通り、「戦前の日本を取り戻す」「戦後レジームからの脱却」ということではないだろうか。個人を尊重せず、女性を家制度の中に押し込め、差別した戦前の日本に戻されてはかなわない。
 ビザ発給停止等の政策に各国の首脳が批判する中、「コメントを差し控えたい」との安倍首相のコメントは注目を浴びた。日本の平成27年の難民認定数は27人にとどまっている…。これでは、確かに批判したら、「いったいどの口が」と言われるだろう。
 性的少数者の権利保障もまだまだだ。文科省などが性的少数者である子どもへの配慮を求める通知を出してる等、前進があるかのように思える。企業の中でも、積極的な取り組みを始めているところが報じられている。確かにきめ細やかな配慮がなされるのは、前進ではある。しかし、「社会にとって良いこと」というニュアンスを感じる「ダイバーシティ」も、悪くはないが、何か、個人個人の人権問題であることが、曖昧になったままだ。単に、理解を、配慮を、ではなく、人権問題として、社会保障等(寡婦控除、生活保護の特別加算金etc)の面で取り組むことは多々ある。何より性同一性障害特例法(3条1項)で、性別変更の審判の要件として、生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること、他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていることも定めていることは、痛ましい。手術を受けたい人はもちろん受ければいいが、身体にメスを入れたくない人に、何という負担をかける要件だろうか。

 政治的正しさ(Political Correctness=PC)を嘲笑するトランプ流の言説も、自由や平等の提唱をサヨクだの何だのと嘲笑するネトウヨ的なものと似通っていて、ここ日本でも既に珍しくない。

 それで、どうする。正直、ぼう然としそうになる。自由や平等という普遍的価値はまだまだ実現していないのに、嘲笑される現状に。しかし、やはり、何度でも、抗議するしかない。嘲笑される「猫耳」を帽子にかぶって逆に得意げなポーズを取る人々の行進を、やはり見習い、諦めず、明るく前向きに、連帯を求めて。

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打越さく良

打越さく良(うちこし・さくら)

弁護士・第二東京弁護士会所属・日弁連両性の平等委員会委員日弁連家事法制委員会委

得意分野は離婚、DV、親子など家族の問題、セクシュアルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野。DV等の被害を受け苦しんできた方たちの痛みに共感しつつ、前向きな一歩を踏み出せるようにお役に立ちたい!と熱い。
趣味は、読書、ヨガ、食べ歩き。嵐では櫻井君担当と言いながら、にのと大野くんもいいと悩み……今はにの担当とカミングアウト(笑)。

著書 「Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」日本加除出版、「よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて」共著 朝陽会、「今こそ変えよう!家族法~婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える」共著 日本加除出版

さかきばら法律事務所 http://sakakibara-law.com/index.html 
GALGender and Law(GAL) http://genderlaw.jp/index.html 
WAN(http://wan.or.jp/)で「離婚ガイド」連載中。

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