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支援という名目で介入?統制?-家庭教育支援法案への懸念

打越さく良2017.03.07

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個人より家族を「基礎」?
 家庭教育支援法案が今国会に提出されようとしている。自民党が今国会で制定を目指す法案だ。
 Webで検索しても法案自体はヒットしない。自民党のwebページでも、2017年2月14日に法案審査をしたという記述だけしかヒットしない。成立させたいほど意義のある法案ならば、成立前に公表して世に知らしめてほしいものだ。なお、2016年10月20日の段階の法案は、24条変えさせないキャンペーン家庭教育支援法案(仮称)」未定稿(2016年10月20日)に掲載されている。その後、報道によれば、「社会の基礎的な集団である家族」、「国家及び社会の形成者として必要な資質」といったフレーズは削除されたという(朝日新聞2017年2月14日水沢健一記者)。

 前者は、自民党の改憲草案24条1項の前段「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される」を先取りするものかとぎょっとさせる。社会の自然かつ基礎的な単位は個人である。そこをすっとばしていきなり家族…。自民党の改憲草案は、日本国憲法13条前段の「すべて国民は個人として尊重される」を「全て国民は人として尊重される」と変えるという。「個」というたった一文字ではあるが、これを取り除くことは重大な意味がある。個人の尊重とは、性別や人種、宗教などを超えて、一人ひとりを大切にするという意味だ。個人のための国家であり、国家のための個人ではない。全体主義ではなく、個人主義という重要な考えである。なお、個人主義について、すぐに「利己主義」「自分勝手」とdisる人々がいる。SEALDSについて「「戦争に行きたくない」は自分中心で極端に利己的な考えかた」との武藤貴也議員のツイートは炎上したが、この手のdisりは枚挙に暇が無い。

 近代立憲主義は、中世までの身分制秩序から個人を解放し、個人の人権保障を目的とする考えだが、「個人」から「個」を除く改変は、この立憲主義の根本を切り崩してしまう。個人より家族を優先して尊重する、という考えは、個人より国を優先して尊重する、という考えに一直線につながっている。「人として」、動物とか物とかでないくらいには尊重してやってもいいよ、という重大な変更を見逃さないでほしい(この点、伊藤真著『赤ペンチェック自民党憲法改正草案』大月書店清水雅彦著『憲法を変えて「戦争のボタン」を押しますか?「自民党改憲草案」の問題点』高文研がわかりやすい)。

 「国家及び社会の形成者として必要な資質」というのも、個人を個人として尊重するより、国家や社会において必要な役割を果たすことを求めているようだ。お国のために役に立つよう、子どもを育てよと一見無害に響くが、「進テ公益ヲ広メ世務ヲ開キ」(広く世の人々や社会のためになる仕事に励みましょう)と一見無害なフレーズが並びながら、最後には「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」と、お国に危機が迫ったならば国のために力を尽くし、永遠の皇国を支えましょうと怖すぎるフレーズで締めくくる教育勅語を思い出さずにはいられない。

 これらのフレーズを引っ込めたからといって、安心はできない。個人より家庭、ひいては国を尊重する自民党改憲草案の先取りかっという報道が続々出て、「ギラギラした狙いがばれるフレーズはひとまず引っ込めよう」と言うことに過ぎないだろうから。

支援といいながら保護者に責任
 でも、支援してくれるならいいんじゃないの?
 と思うかもしれない。
 ところが、法案は家庭教育の責任は第一義には保護者にあるとする。ちょっと待った。国がすべきは、保護者ら個人に責任を負わせることではない。現実には、貧困や、改善しない労働環境などを背景に、育児を担うことが難しい家庭もある。国は、保育所を整備したり、労働環境を改善したり、賃金格差を解消したり、自らの責任を担うべきである。

 若尾典子教授は、保護者の第一義的責任について、「旧来の家父長制から脱しようとしていた女性を、自己責任論で再び家庭の役割に結びつけるのが安倍政権の狙いだ」と指摘している(2017年3月4日付東京新聞朝刊)。改憲草案24条をめぐる自民党議員たちの発言を詳述するにはスペースが足りないが、確かに彼らの発言は、家庭が大切といいながら、男性たちで頑張ろうとは決して言わず、女性の役割を強調するのだ。母の役割を果たせと強調されることは間違いない。
 既に、教育基本法は第一次安倍政権下で、教育基本法が改悪され、家庭教育について10条が盛り込まれ、「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有する(略)」との10条が盛り込まれてしまった。家庭教育支援法案を取りまとめた自民党内のPTの事務局長を務める上野通子参院議員(元文科政務官)は「家庭教育ができていない親は責任を負っておらず、明らかに法律(教育基本法)違反。支援法で改めて正す必要がある」と語ったとか(毎日新聞2016年11月2日「憲法公布70年 「24条改正への布石ではないか」批判も」中川聡子記者、遠藤拓記者)。

 なるほど。なんだか見逃してしまった教育基本法改悪なのがじわじわ効果をだしているということか。
 その上、なんと、現時点の法案は、10月の法案から、「家庭教育の自主性」というフレーズを省いてしまったという。

 自主性にすらゆだねず、お国がこうあるべしと型にはめた家庭教育を押しつける、ということか。
 戦時下、家庭が「皇国民錬成」の場と目され総力戦体制の一環であった家庭教育政策を連想してしまう(斉藤利彦「『家』と家庭教育」寺崎昌彦・戦時下教育研究会『総力戦体制と教育—皇国民「錬成」の理念と実践-』東京大学出版会を読み直そう)。

 今国会も巷も騒然となっている学校法人森友学園問題。この問題にも今回詳細には触れられないが、幼稚園児に教育勅語を暗唱させたりするとは。運動会で安倍首相を賞賛する動画も衝撃的であった。しかし、どこかのキモい幼稚園で済ませてはいけない。お国がこうあるべしと定める教育の過去のゾンビではなく、近未来像かもしれないのだから。なんといっても、見学までした安倍昭恵内閣総理大臣夫人はこの肩書きで学校法人森友学園が開設する予定の小学校の名誉校長を務め、「瑞穂の國記念小學院は、優れた道徳教育を基として、日本人としての誇りを持つ、芯の通った子どもを育てます。 そこで備わった「やる気」や「達成感」、「プライド」や「勇気」が、子ども達の未来で大きく花開き、其々が日本のリーダーとして国際社会で活躍してくれることを期待しております」と賞賛する挨拶文まで公開していたのだから(今は削除され、名誉校長も辞任)。首相公邸からファーストレディとして「安倍昭恵チャンネル」を発信している安倍昭恵氏が一私人であるはずがない。首相夫人が一時期であっても賞賛に値するとし、安倍首相も「素晴らしいと聞いた」といったんは評価した教育につき、「キモい、ありえない」との評価が国会議員に共通しているか、不安である。家庭教育のありかただって、こんなものが想定されているのではないか…。

 取材を受けることも増え、法案への懸念が高まっていると感じる。しかし、国会における与党の圧倒的多数ぶりに、数の力でこれまた通ってしまうのかと愕然とする。どうか、地元の議員事務所に反対の意思表示をするなど、出来ることをしてほしい。切実に願う。

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打越さく良

打越さく良(うちこし・さくら)

弁護士・第二東京弁護士会所属・日弁連両性の平等委員会委員日弁連家事法制委員会委

得意分野は離婚、DV、親子など家族の問題、セクシュアルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野。DV等の被害を受け苦しんできた方たちの痛みに共感しつつ、前向きな一歩を踏み出せるようにお役に立ちたい!と熱い。
趣味は、読書、ヨガ、食べ歩き。嵐では櫻井君担当と言いながら、にのと大野くんもいいと悩み……今はにの担当とカミングアウト(笑)。

著書 「Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」日本加除出版、「よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて」共著 朝陽会、「今こそ変えよう!家族法~婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える」共著 日本加除出版

さかきばら法律事務所 http://sakakibara-law.com/index.html 
GALGender and Law(GAL) http://genderlaw.jp/index.html 
WAN(http://wan.or.jp/)で「離婚ガイド」連載中。

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