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〈寄稿〉瀧波ユカリさん 「最悪のセックス・最高のセックス」

瀧波ユカリ2014.06.16

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 「最悪のセックス、最高のセックス」。このコラムへの寄稿を依頼された時、実は私はちょっとげんなりした気持ちになった。こんなセックスがいいとか、悪いとか、そういうのもういいよ!「彼氏の◯◯を◯◯して気持ち良くさせちゃおう!」って雑誌の記事を真に受けて普段やらないことをやって男にドン引きされたり、女友達とセックスの話をしたら「えっ、前戯ってもっと長くしてもらうものじゃないのぉ?」なんて言われて落ち込んだり、その手の黒歴史には事欠かない私はセックスの話なんてもうたくさんで、とにかくこれ以上人と比べたくないし、過去のセックスを「あれ最悪、あれ最高」とか分類したくないし、今から何かの基準に従って最高のセックスを探求しようなんて毛頭思わないんだよ、と。
 尽くせる手は尽くした。思えばいろいろやってきた。普通の体位も変わった体位も試した。仰々しい名前が付いているアホみたいな形の体位は疲れるだけで、正常位と後背位と騎乗位と座位、あとはそれぞれをちょっとアレンジした体位で十分だってことはセックスを生活に取り入れて1年もすればわかった。同年代も年下も年上も試した。年齢は関係なくて、良い悪いは個人の資質と相性だとわかった。外国人とも付き合ってみた。大好きな人とも、好きじゃない人とも、出会ってまもない人ともした。思いつく限りの合法的な場所で挑んだ。ちょっとした道具も使った。芝居がかった手法も試した。で、どんなのが最高でどんなのが最悪だったかというと、それって思い出す時の状況次第で、昔は最高だと思ってたあの人とのあの日のセックスが、数年後には「あれ、微妙だったな」って感想に変わっていたりする。すごい良いセックスしたな、と思った翌日に友達に「でも愛がないんでしょ」とか「あんなオッサンと?」などと一蹴されればまたたく間に昨日のセックスが黒歴史になる。そんなもんだ。いちいち良い悪いを決めるから、振り回される。
 そもそも基準がいろいろありすぎる。気持ちいいかどうか。愛があるかどうか。イケメンかどうか。セックスに至るまで時間やお金をかけてもらったかどうか。こういうのを全部引っくるめると、一途で誠意ある金持ちのイケメンと相思相愛になって熱烈に求められて丁寧に愛撫されて何度もイカされるというのが最高のセックスということになりそうだ。それ何の少女漫画?貧乏人のブサ男と遊びで雑なセックスをしたら最悪か。いやでも寂しい夜にはそんな雑なセックスがけっこう良かったりもするんだよ、と女子会なんかで言ったら「かわいそうな女」だと認定されて笑われそうだ。私は本当にそういうセックスも好きなのに。どうでもいい男でも「はいどうぞ」とよく受け入れていたあの頃の自分だって好きなのに。最高でも最悪でもないけれど、どうでもいい男との雑なセックスは夜中に食べるカップラーメンみたいにおいしいのに。
 そんなふうに、セックスに最高や最悪という捉え方を持ち込むことに対して激しく反発しながらも、もしかしたら自分も納得がいく基準があるんじゃないだろうかと考え続けていたら、思わぬところで答えを拾った。日本AV男優協会のサイトの「性活相談」というコンテンツ内に、子宮の摘出を予定している女性からの相談があり、複数の男優達からの回答が寄せられている。男性は子宮を全摘出している女性とのセックスに引いてしまうものなのかという質問に対し、男優の田淵正浩さんは「セックスの良し悪しを決めるのは挿入時の快感ではなくその人の雰囲気や精神の魅力である」とした上で「キス・前戯・愛撫・フェラの上手い人になって下さい」「セックスは突き詰めると心と頭の中とのぶつけ合い、せめぎ合い、さらけ出し合いです」と語っている。森林原人さんは「重要なのは本気で感じられているか、求め合えているか、受け止め合えているか」「何回もセックスしたいと思う女性は相手にさらけ出すのも委ねるのも出来る人」と答えている。全9件の回答を読み終わって、私はあることに気がついた。誰一人、「愛があればいい」とか「あなたのことを好きな相手なら大丈夫」みたいなことを言っていない。セックスと愛を徹底して切り離して考えている。彼らにとってのセックスとは、自分が気持ち良くなり、相手を気持ち良くさせるためにお互いが自分の全てを使い合う行為、ということなのだろう。もしそれがとてもうまくいったら、それは「最高のセックス」だろうか?そう考えた時、私の心の中に異論は一切浮かばなかった。大好きな人とも遊びの人とも、そんなセックスをしたことが私はある。愛とか好きとか関係なく、もっともっと気持ち良くなりたい、そしてもっともっと気持ち良くさせたいと願い、相手も同じように願っているのを全身で感じながらもつれ合った。そのひとつひとつを思い出して、ああ幸せなことだ、と思った。
 気持ち良くなりたい、気持ち良くさせたい、という気持ちを少しでも持っていて合意の上で臨んだのであれば、どんな相手・どんなセックスでも最悪ということはないし、恋愛感情をどちらかが持っていない、もしくは互いに持っていない場合でもモチベーション次第で最高のセックスになり得る。そのためには一人よがりにならないこと、相手の体を知ろうとすること、自分の全てを見せること。そういうことなのだと今は思っている。日本AV男優協会のおかげさまです。

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瀧波ユカリ

瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)

漫画家。1980年札幌市生まれ。2004年、投稿作『臨死!!江古田ちゃん』が月刊アフタヌーン「冬の四季賞」の大賞を受賞しデビュー。連載中の同作(既刊7巻)の他、エッセイ『女もたけなわ』(幻冬舎)、『偏愛的育児エッセイ はるまき日記』(文藝春秋)、『女は笑顔で殴りあう マウンティング女子の実態』(犬山紙子氏との対談本・ちくま書房)がある。 

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