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女性作家を読まなくても大学には行けるか?

中島さおり2015.06.26

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 6月はフランスの高校生にとって試練の月。今年も、およそ100万人の高校生が、17日から24日まで、2週にまたがり6日間に及ぶバカロレアを受験した。バカロレアは、これを通過しないと上級学校に上がれないという高卒資格の国家免状試験だ。
 そのバカロレアの文系、フランス文学の試験のプログラムに、少なくとも過去13年間、女性作家がまったく含まれていないと、あるブロガーが指摘し、ちょっと前に話題になった(このブログはイラストつきで、フランス語が分からなくても楽しめるので、リンク先を貼っておく。http://diglee.com/femmes-de-lettres-je-vous-aime/)。
 「文系、フランス文学のプログラム」と言っても、日本の読者にはピンと来ないかもしれないので、少々詳しく説明しよう。
 文系の受験科目には、高校2年生の終了時点で受験する「フランス語」の他に、3年生修了時に受験する「文学」があり、高校3年の1年間は、特定の作家の特定の作品を重点的に学んで試験準備をする。例えば2014–2015年度のプログラムに取り上げられたのは、写真家マン・レイが描いたデッサンにポール・エリュアールが詩をつけた『自由な手』とフローベールの『ボヴァリー夫人』だった。
 作品のみならず、研究書や論文にも目を通し、日本なら大学教養課程から文学部の専門課程にならないとやらないような勉強をして筆記試験に臨む。試験はもちろん論述式(バカロレアはすべて長文の論述式で、通常、2問くらいの出題に、試験時間は3時間から4時間)だ。
 さて、漫画家・イラストレーターのモーリーン・ウィングローヴは、ある日、ネットで公開されている2001年から2014年までのバカロレアの「文学」のプログラムを全部調べてみようと思い立った。レイモン・クノー、アルフレッド・ミュッセ、ホメロス、シャルル・ド・ゴール、サミュエル・ベケット、ドニ・ディドロ、シャルル・ペロー、ジャン・ジオノ…、時代とジャンルは多岐にわたっていたが、なんと男性作家35人に対し、女性作家が1人もいないことに気がついた。
 そもそも彼女がこんなことを調べようと思いついたのは、文系でバカロレアを受験し、本をたくさん読んできたはずの自分が、学校時代を通じて読んだ女性作家がたったの4人ということに愕然としたからだという。ちなみにその4人とは、ジョルジュ・サンド、ナタリー・サロート、マルグリット・ユルスナール、そして英文学の授業で読んだトニ・モリスン。フランスでは中学校の時から、教科書を使わず、文学作品を複数読ませて授業をするが、そういう「課題図書」に、女性作家がほとんど取り上げられていなかったことに思い至ったのだ。
 女性の作曲家や画家が少ないことからも分かるように、女性は長い間、創造活動から遠ざけられてきた。しかしそれでも文学の領域はもう少し開かれていて、メジャーといえる女性作家を数えるのに苦労はしない。ちょっと思いつくだけでも、マルグリット・ド・ナヴァール、セヴィニエ侯爵夫人、ラファイエット夫人、スタール夫人、サンド、20世紀ではコレット、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、マルグリット・デュラス、ユルスナール、サロート… 女性作家が省かれているのは理由があるのだろうかと疑ってしまうところだ。
 もし日本でこんな試験のプログラムを組むとしたら、どうなるだろう。日本文学といえば、紫式部、清少納言、和泉式部に式子内親王、近代では何と言っても与謝野晶子…メジャーと言う以上に女性なしには語れないような気がする。
 ちなみにフランスのバカロレアにはインターナショナル・オプションというのがあり、受験する生徒はごく少数だが、文学試験の日本版が用意されている(正確には、第一外国語の代わりに受ける試験だが)から、これをちょっと見てみよう。セレクションされている作家は、野坂昭如『火垂るの墓』、中島敦『山月記』、夏目漱石『私の個人主義』、志賀直哉『城崎にて』、川端康成『伊豆の踊り子』、松尾芭蕉『奥の細道』、吉田兼好『徒然草』…。おやおや、みごとに男性作家ばかりだ。
 文系バカロレアは、主に人文社会科学系の高等教育に道を開くコース。フランスでは、人文社会科学系の専門家は、女性作家を読まなくても特に構わないと考えられているのだろうか???
 プログラムは2年毎に変わる。こんな事実も暴露されてしまったことだし、来年こそは、女性作家が選ばれることを期待しよう。

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中島さおり

中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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