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クレール・シャザルの花道

中島さおり2015.09.25

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 この9月、クレール・シャザルがTF1、日曜8時のニュースを降板した。女性ニュースキャスターといえばどこの国でも花形だが、フランス民放ナンバー1の人気局、TF1の、ウィークエンドのニュースの顔を、24年にわたって務めて来た女性である。歌姫の引退のような、一時代が終わるような感があると言ったら言い過ぎだろうか?

 1987年にフランスに学生として来た私にとっては個人的な感慨もある。ある日、自分より少しだけ年上の、金髪の美人キャスターがテレビに現れた。ちょうどフランス滞在が4年にもなった頃で、最初は聴き取れず、次には聞こえてもよく分らなかったニュースの内容が、分るようになり始めた頃だったこともあって、ニュースが急に身近なものに感じられた。そのときクレール・シャザルは34歳!

 日本ではアナウンサーやキャスターは基本的に用意された原稿を読むが、フランスでは自分で原稿を書く。クレール・シャザル1997年からは、自分の担当するニュースの編集長でもあり、2006年からはニュース番組を統括する部の副部長を努め、ルポルタージュも担当した。革命記念日の恒例の大統領インタビューは、国営放送フランス2と民放筆頭局TF1のジャーナリストが2名で行うが、クレール・シャザルは2012年にニコラ・サルコジ、2013年にはフランソワ・オランドのインタビューをしている。テレビのジャーナリストとして登りつめたともいえよう。
 知的でプロフェッショナルな女性ジャーナリストは彼女一人ではないけれど、どこかアイドルっぽい要素も残していて、仕事はできるけれど親しみやすい、絶大な人気を誇った人だった。視聴率は20年以上、30%を維持し、7百万人以上の視聴者を集めることもよくあった。

 女子アナのプライベートといえば週刊誌の格好のネタだが、彼女もよくメディアを賑わした。テレビの顔になって数年後には、父親の名を秘したまま一児の母となり話題になった。10年後に、TF1の先輩で、これも国民的人気の男性キャスターパトリック=ポワーヴル・アドヴェール(PPDAと略して呼ばれる)が父親であると告白した。その時にはもう、TF1の副社長との短い結婚も破綻し、俳優のフィリップ・トレトンと同棲していたが、それも4年足らずで終わり、ここ8年くらいは年下の男性モデルと同棲しているということだが、最近、終わったとか… そんな話のあるたびに、いや特別なことがなくても、Paris Matchの表紙の常連だった。

 クレール・シャザルとほぼ同世代の私としては、テレビの彼女の風貌に時の移り変わりを感じてきた。ふと、彼女が以前よりいっそう美しくなっていると感じたり、堂々として貫禄がでてきたなあと感じたり、ちょっと疲れた感じがするなと思ったりすることがあった。最近の彼女はさすがに年齢が顔立ちに刻まれて、私も我が身を振り返ったりした。

 日本よりずっと女性キャスターの生命の長いように感じられるフランスだが、それでも58歳となったクレール・シャザルを、新しい若々しい顔と取り替えて局のイメージを刷新したいという気持ちがTF1の幹部には動いたらしい。「ル・モンド」によれば、昨年まで鉄壁だった視聴率も、この1年で30万人減少し、8月末には400万人を切ったという。彼女のせいばかりではなかった。TF1自体が、1987年に始まって以来の低視聴率を記録したのだから。けれどクレール・シャザルは、この不運のツケを払わされることになってしまった。バカンス中の代打に立った39歳のアンヌ=クレール・クードレが480万人の視聴者を集めるなど好成績を収めたこともTF1幹部の気持ちを固めさせたのかもしれない。

 それにしても、クレール・シャザルは9月初め、いつものように番組に復帰した直後に、突然、降板を告げられたのだった。そのやり方には多くの人がショックを受けた。夏休みの間にきちんと話し合い、本人も納得の上で配置換えを決めたのであれば問題はなかったろうに。
 しかしクレール・シャザルは、最後の日(9月13日)、番組の終わりに共に番組を作って来た同僚と支えてくれた視聴者に感謝して、局に対する恨みのようなことは一切言わず、最後までエレガントに24年のキャリアを去った。

 「20時の女王が去るとともに、ひとつの時代が終わった」と書いた週刊誌「ル・ポワン」によれば、終わったのは情報以上にキャスターに光が当たるスターの時代なのだそうである。 

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中島さおり

中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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