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私は結婚しているけれども、姓は日本でもフランスでも「中島」のままである。5月はたまたま私の結婚記念日があったので、この機会にフランスの「夫婦別姓」の扱いについて書いてみようと思う。

まず日本側の話をしよう。いつまで経っても夫婦別姓が認められない日本だが、国際結婚をした場合には、とっくの昔から基本的に結婚前の姓のままであるということは知られているだろうか。

私はパスポートの切り替え時期が、結婚の直前に当たったため、大使館に行ってその旨を伝え「すぐ変えなければならないかもしれないので5年有効のものにしておきましょうか」と相談したら、「基本的に、姓は変わらないんで、大丈夫じゃないですか。どうしてもダンナさんの姓に変えたいっていうなら別ですが」と言われて拍子抜けした。

自分の姓は変えず、夫の姓を括弧付きで挿入することもできるそうだが、義務でもなんでもないのだと言う。入れたい人が入れているだけで日本政府としてはどうでもいいそうだ。

日本人と結婚した場合は、泣いても脅しても何十年抗議してもままならないことが、外国人と結婚しただけで簡単に通るとは、不思議なものである。私はこれをラッキーと感じているが、カラクリを見れば必ずしも優遇の結果とは言えない。
外国人は日本の「戸籍筆頭者」になれないので、自動的に日本人妻の姓が採用されるということらしい。夫のことは「婚姻」欄に記述されるだけだ。

そう考えるとフランスのほうが、外国人配偶者の扱いは平等なように思う。フランスでは「戸籍」というものはないのだが、夫婦と子どもが単位の「家族手帳(livret de famille)」という、結婚を機会にもらえる手帳があり、これが内容的には戸籍に似ている。子どもが生まれるたびに新たな記載がされ、子どもの学校登録や出生証明書や夫婦の結婚証明書を申請するのに使われる。

現代のフランスでは、結婚よりも第一子出生のほうが早いのが普通なので、結婚していなくても子どもが生まれた時点で家族手帳は発行される。離婚して別の人と子どもを持てば、それは全く別に新しい家族手帳が発行される。
手帳は各家庭で保管している。家族手帳に「筆頭者」というものはなく、一方が外国人であろうが双方が平等に記載されている。

ただし私は、子どもを産んだ時点でまだ結婚していない外国人だったので、例外的に家族手帳が夫一人の名前で発行された。私は子どもの母親ということで付記されただけだった。その後、結婚すると、私の名前が正式に記載された家族手帳が新たに発行された。

つまり、日本の戸籍は、結婚した外国人に対しても、結婚していない外国人に対するのと同じような扱いしかしていないような気がする。

しかし、日本の外国人配偶者に対する差別的扱いの怪我の功名であるにせよ、国際結婚のおかげで夫婦別姓が享受できたのはやはりラッキーだった。ちなみに同姓にしたい場合は、手続きを踏めば外国人配偶者の姓に改名することも可能なので、実質的に選択の自由がある。夫婦別姓は、日本人同士の婚姻でも早く可能になると良いと思う。
  
さて、フランス側はどうか。正式にNAKAJIMAのままだと言うと「さすが、フランスは進んでいる。夫婦別姓なんですね~」と言う感想が返ってくるのではないかと思う。

しかし、それはちょっと誤解でないこともない。まあ、法律上、姓が変わらないのは事実なのだが、実態としてはそうでもないのだ。

というのは、このように法に定められたのはフランス革命中の1794年のことで、フランスには結婚したら夫姓に変わらなくてはならないなどという規定は元から存在しなかったのだ。それにもかかわらず、当然変えるものと誰もが思っていて、フランスの女性たちは結婚すると夫の姓を名乗って来たのである。今でもほとんどの女性が「通称」として夫の姓を名乗るので、社会的には日本とあまり変わらない。

つまり、フランスでは夫婦別姓の問題は「正式」の姓にあるのではなくて、「通称」のほうにある。「通称として夫の姓を名乗って良い」ということになっており、この「通称」というものの社会的な重みが大きいのだ。どこの書類にも書き込むようになっていて、インターネットのフォーマットなどだと、ここを書き込まないと次のページに飛んでくれないというようなことも起こる。

「通称」が、必ずしも夫の姓でなくてもよく、自分の正式の姓に夫の姓を繋いだものにすることもできるようになったのが1974年である。つまりNAKAJIMA - OUZIELのように書き入れることも可能になったのだ。こうした表記は名刺などでわりと目にすることがあり、医者や弁護士やジャーナリストのように自分の名前で仕事をしている人はよくこの選択肢を選ぶ。
実質上は、フランスの夫婦別姓とは、「正式」よりもこの「通称」上で、二つの名前を併記することができるという点にあるように思われる。

もう一点不公平だったことを付け加えると、1974年時点では、女性は自分の姓を捨てて夫の姓だけを通称とできるとされたのに対し、男性は自分の姓に妻の姓を併記して使うことが許されただけで、すっかり妻の姓だけを名乗ることは許されなかった。その点では、夫婦の姓はどちらを選んでも良いとされている日本のほうが「進んでいる」とも言えたのである。

夫が通称として妻の姓を名乗ることが可能になるには2013年、ゲイの結婚も可能になる法律の改正を待たなければならなかった。同性同士の結婚が、男女の不平等を是正してくれたわけだ。

現在、どれだけの既婚女性が両姓併記の通称を使っているか、通称なしでもともとの姓を使っているかは、調査資料がないためわからない。最も新しい調査で1995年時点では、現状を反映しているとはとても言えないだろう。ともかくこの時点では、親からもらった姓を使い通す人はわずか2 %。ハイフンで繋いで二つの複合姓を使う人が7%だった。圧倒的多数の91%は結婚後、「通称」として夫の姓を名乗っていた。ただし、両姓併記のほうが「望ましい」と答えた人は40%に上っていたし、実際、経験的に複合姓を目にすることは多いので、今ではかなり増えているのではないかと思う。
そもそも、かつては結婚することが、女性にとっては親からの独立を意味し、「大人になった」とみなされる機会だったから、mademoiselleからmadameへの転換は大切なことでもあった。それが今では仕事をして自立しているから結婚はそうした重要性を失った。最近はmademoiselleという敬称は使わないということにもなったなど、時代の流れとしては夫の姓に変わる女性の割合は減っていると思う。

とは言うものの、夫姓に変えることが人々の意識の中でデフォルトになっているのは変わらないので、結婚すると世間が勝手に女性の姓を変えてしまうこともある。私は銀行に行って「結婚したけれども名前は変えないで」とわざわざ頼んだにもかかわらず、いつの間にか口座名義人の姓が夫のものに変わっていた。抗議すると、小切手帳やカードの名前は元に戻してくれたが、大元の口座名義人の名前は変更が難しいとかでしてくれなかった。 

私などは外国人なので、フランス人としては仲間に入れてあげようという好意で夫姓で呼ぼうとするのかもしれない。実際、フランス人と結婚した日本女性の中には、もちろん夫の姓を名乗っている人もある。「Yumiko DUPONTデュポンゆみ子」みたいな具合に。
だから何をそんなにこだわって日本姓で通しているかと言われると、少々答えに詰まる。ただ、夫と結婚はしたけれども、結婚したのが遅くてすでに子どももあって、全ての生活が成り立っていたので、一切の名義を全て新しいものにかえるのが面倒臭かったということはある。
これはフランス人でも同じのようで、結婚するのが遅いほど、昔の名前を保持する傾向があるようだ。

ちゃんとした通称登録はしていないのだが、私も時には NAKAJIMA - OUZIELと書くことがある。「結婚している」ということを特に知らせたい場合である。子どもが学校でOUZIEL姓を使うので、母親であることを印象付けたい場合などがそうだ。実は彼らも正式には「OUZIEL-NAKAJIMA」なのだけれども、そんな長たらしい苗字は嫌だと言ってなるべく簡略にすませてしまうものだから、私のほうで合わせているのである。

くだらない話を思われるかもしれないが、実はフランス女性たちが結婚後に夫の姓を選択するいちばんの理由は、子どもと同じ姓を名乗りたいというものなのだ。夫の家に嫁に行ったという感覚はないが、夫婦と子どもで作る家族は同じ姓で一体感を持ちたいという感覚なのだろうし、それは私もよく理解できる。
一方、子どもの姓は、フランスではずっと父親姓を名乗るものと決められていた。ナポレオン法典以来の父権の強さが反映された民法の規定が根強く残っていて、これが改正され、父母両方の姓を繋げて名乗ってもよいということになったのたのは、ごく最近の2005年である。私の子どもたちは1999年と2002年に生まれているので、生まれたときは当然のこととしてOUZIEL姓だった。
しかし法律改正に伴い、改正前に生まれた子どもにも遡って適用されることになったので、夫がわざわざ書類を揃えて申請してくれて、NAKAJIMAも後から入れてもらったのだ。

私は、子どもたちはフランスではOUZIEL姓でも日本の戸籍では中島姓だからバランスが取れていると思っていたので、こちらから頼んだわけではない。それなのに面倒な手続きをしてくれた夫は、非常に配慮があると私は感謝している。
ところが、いかんせん、子どもたちはちっともありがたいと思っていないらしく、余計なことをしてくれたと言わんばかりだ。
実際、複合姓を持つ子どもたち自身が結婚して、その子どもに姓を継がせるときには、父母双方の姓のうち一方しか継がせることができない(そうでないとそのうち限りなく姓が長くなって、姓の寿限無寿限無になってしまい兼ねない)ので、子どもの複合姓というのも一代限りの満足である。

ともあれ、子どもに複合姓をつけるのは多数派ではなく、2012年の調査によれば、子どもの姓は父と同じが83%、両方を複合させたものが9%、母と同じが7%だった。しかしこうしたことは、時間とともにじわじわと人々の意識を変えて行くから、結論するのはまだ早いかもしれない。というのは、2012年の時点では、「両親が揃って願いを出さない限りは父親の姓になる」という規定が生きていた。これが2013年に同性婚が認められたのに伴い、「先に認知した親の姓」に改められたのである。ゲイの結婚がどれほど結婚を変え、男女間の不平等を是正したか、こうしてみると驚いてしまう。
フランスは夫婦別姓に関して、欧州でも遅れた国のひとつなのだが、やはりこうしてみると、日本よりは進んでいると言えるようだ。
 



ちなみにこの「通称」は日本でも国際結婚の場合に制度化されている。外国人配偶者のほうが日本人配偶者の姓を日常的に使うためには「改名」でなく(日本に戸籍がないのだから「改名」はできない)「通称」の登録をするように定められている。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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