
暑いですね…
タバコを吸いにベランダに出ただけで噴き出す汗、午後の陽ざしが降り注ぐ場所です。
でも今年はウンベラータが強い陽ざしを受け止めてくれています。観葉植物のウンベラータ、ご存じでしょうか。買った当初は30センチくらいでしたが、3年で部屋の天井に突き当たり、くねっと曲がってしまいました。それが二鉢。
剪定のやり方をネットで調べて、「どこを切っても、何なら坊主にしてもすぐに葉が出てきますよ、ただし時期を間違えないで」という回答を得て、ドキドキしながら五月の連休に大胆に幹をカットし、枝を切り払い、土も植え替え、切った枝も土に挿して、ベランダに放置していたら、なんと一か月でみな芽吹き、今では大元の二本はベランダの表面を覆うほどの大きな葉をたくさん付けるまでになりました。直径10センチから20センチほどの葉が次々に生まれ、茎を形成しながら伸びていきます。ひと夏で30センチから50センチほど茎を伸ばすのです。
すごい生命力、その下で泳ぐメダカたちにとっても日陰ができてよかった。たださすがに連日の日光が強すぎるのか、ところどころ葉に穴が空いてしまっています。
本来なら、広告で見るような広いリビングの窓際や、天井の高いカフェの軒先などが設置場所として理想的だと思いますが、ごめんなさい、我が家ではただの日除けとして機能しています。語源も日除けという意味だそうです。
そんな週末の午後、午前中に一週間分の洗濯をすませて、エアコンの効いた部屋でテレビでも流しながらダラダラ過ごしたいところ、私は出社する準備を始めます。
なぜ? 外気温が最高潮に達する時間帯に、熱中症警戒アラートが出ているというのに、自転車で炎天下を20分かけて出かけようとするのか。無謀だし理不尽だし、生命体としてもあり得ない活動です。
春先に書店を閉めたので、もう店にいる必要もありません。出版社として会社を継続していますが、基本的に土日は商品が動かないので、休みにしているところが多い。
ウチも休みにしていますが、土日に必ずやってくる人がいます。
この会社を作った私の父です。今は母の介護もあり、毎日出社することはなくなりましたが、創業以来一日も休んだことがない、経営者というものはそういうもので、特にウチみたいな零細企業は、常に経営者が仕事をしていないと立ち行かなくなる、というのが彼の持論です。
彼が本屋に就職したのは、そのとき紹介されたからの偶然で、その後、仲間と独立してからこの仕事が面白くなってきて、そこから60年近く一日たりとも休んだことがない、ということのようです。
ただしそれは、独立前に同じ職場だった母と結婚し、のちに子どもが三人生まれても家のことは専業主婦になった母に任せっぱなしだったことと裏表です。
そして勤勉な両親は運よく財を成すことができました。その結果、母は家の管理に固執し、父はワーカーホリックになったようにも見えます。
まあ、いいや。
母はいま、一人にしておくと心配な状態で、実家にいる姉が出勤する日は(別の会社です)父が家にいて、その逆の週末は父が会社に出てくるわけです。
父は数年前に会長となり会社の実権を握ったまま、私を後継者として指導しているという立場です。
自分がしてきたように、息子が会社の経営に前のめりになり、休みという概念が吹っ飛ぶほど、24時間365日、会社のことを考え続けていく人間になるかどうかを見極めようとしている感じ、がビリビリと伝わるため(というか、似たようなことはすでに言われている)、猛暑の土日に、しゃあないな、顔見せとくか…といった気分で私は出社するのです。消極的選択です。
実際の出社風景は、小さくなった新しい事務所で、少し離れた机にそれぞれ座り、父は新聞とネットをチェックして何かの動画を見始める。私もほぼ変わらない…。
家やん! ほな、家にいたらいいやん!
むしろ80代の彼は、熱中症警戒アラートの中を外出するより、実家にいたほうが安全ではないか。私は、自分ん家のエアコン代が半日浮くことをこっそり思っているだけです。
まあ、多少はその週にし残した仕事などもするし、父も何やら資料を作っていたりもします。
それでも仕事をしにわざわざ出てきているというわけでもない。
とにかく経営者は常に会社にいるべき、という精神論なのか、それとも習慣病か…
ただ、私が経営者として適格かという問題は横に置いて棚にも上げておくとして、両親の高齢化という視点で見ると、無理して来なくても…という見方はひっくり返ります。
80歳を超えてから、父は体の不調を事細かく伝えるようになりました。ある音域が聞こえなくなっている、痛くて歯を噛みしめることができない、腰の痛みがひどいのでストレッチを止めている…中でも一番の不安は、歩けなくなることだ、と言います。
習慣病でも精神論でもかまわない。家から電車を乗り継いで出勤することが、まず必要なのです。その先には誰にも気兼ねせずに、何時間でもいることのできる居場所があります。しかもそこには人が常にいて、他人(社員さん)には言えない話を聞いてくれる息子もいる。家にずっといたことのなかった父にとって、そのような場所が継続してあるということは、今では救いなのかもしれません。
私には、実家で姉がひとりで両親の面倒を見ていることへの申し訳なさもあります。
二人とも自分で食事とお風呂やトイレもできる状態なので、そこまで人の手を必要とする状況ではありませんが、家のことは隅々まで把握しておかないと気が済まない母との同居はストレスもたまるだろうし、父くらいは時々外出するほうが、姉にとっても少しは気が楽かもしれません。
とは言え、会社で時折、かつての強権的だった経営者ぶりがランダムに現れ、その一声で社員さんたちを右往左往させてしまうのを見ると、どうしたものかと悩みます。否定すると事が大きくなって長引くので、ソフトランディングさせることが目下の仕事になっています。
それでも社員の皆様が私と父の話をそれぞれ聞いてくださるおかげで、「あんなやつ、もう死んじゃえばいいのに」と、ついタレントYOUのものまね口調で思ってしまう段階からは抜け出せそうです。