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n番部屋と日本のAV、ポルノのジャパナイゼーション

北原みのり2020.03.29

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デジタル性暴力という言葉を知ったのは4年前、韓国の大学で行われたシンポジウムでだった。オンラインで繰り広げられる性搾取、性暴力について韓国のフェミニストたちは当時から積極的に取り組んでいて、若い研究者等が、デジタル性暴力の構造について講義したのだ。
印象に残ったのは、デジタル性暴力が決して「新しい性暴力」ではないという主張だった。デジタルによって人類史上ない勢いで性暴力加害の勢いは深まってはいるが、その構造はこれまでと同じもの。女性をモノ化し、その情報を男たちが共有し、そのことで連帯するミソジニーが背景にある。デジタルであろうが、リアルな社会であろうが同じで、連れ添って性産業に行く類の”文化”と地続きである、という話だった。
日本のAVが韓国に与えている影響についても語られた。AV産業がない韓国では、男性たちが日本のAVにかなりの影響を受けている。例えばAVで使われる「いや、いや」とか「あへ顔」という日本語は、韓国の男性ならば誰もが知っているものだという。
また当時、ネット上で盗撮映像を監視していた女性団体が警察に通報した映像が、日本のAVだったことがあると言っていた。調査をした警察から「これは日本では合法的に流通している映像作品です」として説明を受けて衝撃を受けたという(いわゆる「盗撮ファンタジーAV」)。
その時から、ポルノのジャパナイゼーションについて考えるようになった。「ポルノ」というものがそもそも「日本のAV基準」になっている影響を、日韓のフェミで考えていきたいと思ったのだ。

韓国のn番部屋事件のニュースを読んで、ああこれがポルノのジャパナイゼーションの一面なのだと思った。n番部屋事件の雛形は日本のAVのように、私にはみえる。
もちろん日本のAVは合法であり、被害者はいないことになっているし、プロフェッショナルが演技を提供する「作品」、とされているのは私も知っている。
それでも2015年に発覚したAV出演強要事件から、私が関わるAV被害者支援団体(PAPS)には、毎日のように怯えた声が届く。公表されることのないそれらの無数の#MeTooは、驚くほど同じことを悲鳴のようにこう伝えてくる。
「眠れない。自分の映像をネットから消してほしい」
断れなかったし、自分もばかだったし、嫌だと言ってもどうせ聞いてもらえないし、違約金を払わなくちゃいけないって言われたから・・・と、「自分も悪いのだけど」と遠慮がちに「消してほしい」と叫ぶ声だ。
彼女たちは決して「強要された」とは言わない。自分にも責任があると、言う。そして多くの女性たちはこうも言う。「演技なんてしていない。セックスを撮られただけ」。
彼女たちの重い沈黙と、絞り出すように出す助けを求める声とその苦痛は、n番部屋の被害者たちと、全く同じだ。

n番部屋では、虐待や暴行映像も流れていたという。女性がもがき苦しむ姿を観て楽しむ残酷さには言葉を失うが、そこで映される残虐さは日本のAVと変わらないと断言できる。
女性を真空パックに入れて窒息寸前でもがく姿を楽しむAV
女性のお腹を拳で殴りつけ苦しむ姿を楽しむAV
女性を血が出るまでぼこぼこに殴り、数十人の男がその顔に向かって射精するAV
そういう映像がこの国には普通に売られていて、ネットで誰もが閲覧できる。数年前、東大生数人による性暴力事件では、男たちがカップラーメンの汁を女性の顔にかけたことが報道されたが、女性を虐待することが一つの「欲望」として、商品として大量に流通するような国で、複数の男たちが一人の女性をよってたかって虐待するのは、彼らからしてみたら「犯罪」という意識もない「遊び」だったのだろう。そのくらい気軽に、女たちの虐待は、男たちの「欲望の種類の一つ」として、この国ではカテゴライズされている。

日本のAVは合法だ! そんな声がきこえてくる。でも。合法か、非合法か。男が決めたその法律に、いったい何の意味が? 女として生きていると、そんな風に思う。過激ですか。
合法とされるAVで、本気で殴られ本物の血を流し実際に苦しんでいる姿が「これは演技」「これはビジネス」とパッケージされ、誰も痛みを感じることなく、気軽に観られる社会。被害者はいない、彼女たちも楽しんでいるんだ、金もらっているんだ、なんなら女はこんな仕事で金もらえて羨ましいくらいだよ、と安心して性暴力表現を楽しんで観られる社会だ。
n番部屋はその「勧誘方法」も問題になったが、人を騙すのに暴力が必要なことなど殆どないのは世界共通だ。優しく声をかけ甘い言葉で味方を装いつつ、特には励ましながら、性搾取は始まる。グルーミング(性搾取の手段。とても優しく、世話をするように、味方のように振る舞いながら強烈に搾取する)という言葉は国際的に認識されているが、AVでも「契約」時点で暴力を振るわれるケースなどは聞かない。きれいだね、かわいいね、有名になれるよ、たくさんお金稼げるよ、何でも僕たちに相談してね、社会は敵ばかり、本当の味方はぼくたち、本当の君を知っているのも僕たちだ・・・。そんな風に多くの被害者は徹底的にグルーミングされ、信頼関係があるかのように振る舞われて性搾取が始まる。だからこそ被害者が「これは性暴力である」と気がつくのも、そして訴えるのも非常に難しい。

今年に入って、カナダを拠点とするポルノハブの閉鎖に向ける署名運動がはじまっている。ポルノ映像をカードゲームのように所持し、ブツブツ交換するなどして、男たちが女性をモノ化することで連帯する場所だ。日本語サイトも巨大で、その映像再生回数をみるといかに多くの人がこのサイトを訪れ、まるで中毒のようにポルノが消費されていることがわかる。このようなサイトに、国際的に抗議の声があがることは一つの希望と思いたい。
今の時代、ポルノがあるのが当たり前の世界に私たちは生きている。「当たり前にある」=問題ではない、ではない。今まで問題にならなかったことが問題なのだ、という声が今#MeToo,#WithYouの声であがりはじめているのだと思う。
巨大なポルノ文化で消費されているものが何なのか。日本のAVビジネスと性搾取問題について、一度立ち止まり考えなければ、第二第三のn番事件みたいなのはきっと次々に出てくるだろう。誰もが気軽に「業者」になれ、テクノロジーにより、搾取が一層簡単になった時代だからこそ。

一応最後にこう言っておこう。AV批判をすると必ず「潔癖症のフェミニストの表現狩り」みたいなことを言われるのがここ100年間変わらずにフェミニストに向けられる定型の批判だが、これは表現の話ではなく、性暴力と性差別の話であることを。被害者がいる現実を直視するかしないかの話であることを。そして、女性虐待を「フェティッシュな欲望の一つ」として肯定し、ホワイトビジネスの顔をしたn番部屋を無数抱えている日本のミソジニーへの抵抗であることを。

<お知らせ>
ジャーナリストであり元衆議院議員であり、東京医大問題で一緒に声をあげている井戸まさえさんと「一揆番組」はじめました。TOKYO IKKI 2020。オリンピックのない今年、一緒に一揆しましょう。声をあげ変えていくために。

よかったらぜひ観て下さい。

https://youtu.be/8CkjIxBUw8I

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北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めて、女性だけで経営するセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を始める。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)など。佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・最新刊は香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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